寄与分は介護をすれば必ずもらえる?要件や計算方法を弁護士が解説

相続

「介護したのだから遺産を多く受け取りたい」とお考えでしょうか?
介護などで故人の財産の維持・増加に貢献した場合には、「寄与分」という制度により、相続の際に遺産の取り分が増える可能性があります。
もっとも、寄与分が認められるハードルは思いのほか高く、主張するには入念な準備が必要です。
この記事では、
●介護で寄与分が認められる要件
●介護で寄与分が認められるためのポイント
●介護による寄与分の計算方法
などについて解説しています。
献身的に介護をされた方が知っておきたい内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

そもそも寄与分とは?


まずは、そもそも寄与分がどういった制度なのかを解説します。

故人に特別な貢献をした人が遺産を多く受け取れる制度

寄与分とは、故人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人について、遺産を多く受け取れるとする制度です。
寄与分の制度目的は、相続人の間の公平を図る点にあります。
例として、亡くなった女性の相続人が息子2人だったケースを考えます。
息子2人のうち、長男が母と同居して寝たきりになった母の介護を行い、生活費も全額支出していたとしましょう。相続のルールによると、次男が疎遠になっていて母の世話を一切していなかったとしても、遺産は長男と次男が半分ずつ分けあうのが原則です。
しかし、長男が介護や生活の面倒を見たおかげで、介護費や生活費を母が自分で支払う必要がなくなっています。結果として長男が母の財産の減少を防いでいるにもかかわらず、遺産の取り分が次男と同じなのは不公平でしょう。
この不公平を解消するための制度が寄与分です。遺産の維持に貢献した長男に寄与分を認めて取り分を多くすることにより、相続人間の不公平の解消につながるといえます。

寄与分が認められるケース

寄与分が認められる可能性がある例として、故人に以下の貢献をしたケースが挙げられます。
●家業の農業を無償で手伝っていた
●自宅の建築費用を肩代わりした
●仕事を辞めて介護に専念した
●毎月生活費の仕送りをしていた
●不動産の賃貸管理を代わりに担当した
貢献の仕方に応じて寄与分が認められるのかの判断基準は多少異なりますが、この記事では介護を念頭において解説します。

寄与分を主張できる人・できない人

故人の遺産の維持・増加に貢献したからといって、寄与分を誰もが主張できるわけではありません。
法律上、寄与分を主張できるのは相続人に限られます。
相続人の範囲に関するルールは以下の通りです。

●配偶者(夫や妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫)
2.両親(死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

したがって、相続人になれない以下の人は寄与分を主張できません。
●子がいるときの兄弟姉妹
●内縁の配偶者
●子の配偶者
たとえば、長男の妻が、長男の母の生前に介護をしていたとします。このとき、長男の妻は相続人にはなれないため寄与分は認められません。
ただし、妻の介護行為を相続人である長男の貢献に含めて評価し、長男に寄与分が認められる可能性はあります。
加えて、近年新設された「特別寄与料」という制度を利用すれば、相続人以外の親族が財産の維持・増加に貢献した場合にも金銭の請求が可能です。
寄与分を主張できるのは相続人に限られますが、自分が相続人に該当しなくても介護の貢献を認めてもらえる可能性はあります。すぐに諦めずに、できる方法を検討してみましょう。

介護で寄与分が認められる要件


介護をしていると、寄与分が認められて遺産の取り分が多くなる可能性があります。
しかし現実には、身の回りの世話をしたにもかかわらず寄与分が認められないケースも多いです。介護で寄与分が認められるための要件を解説します。

介護の必要があった

まず、故人が生前に介護が必要な状態であったことが要求されます。
介護に寄与分が認められる根拠は、介護をプロに任せたときに発生するはずの費用を削減し、財産の減少を防いでいる点にあります。介護が必要な状態でなければ、そもそも費用はかかりません。多少身の回りの世話をしている程度では、財産の減少を防いでいるとは言い難いです。
必要性の判断の目安としては、介護保険の「要介護2」以上の状態にあったことが挙げられます。要介護認定を受けていない場合でも、医療記録や介護日記などから状態を示せれば、介護の必要性が認められる可能性もあります。
なお、いくら状態が悪かったとしても、病院に入院していて家族による看護が必要なければ、寄与分は認められません。

特別な貢献をした

寄与分が認められるためには、特別な貢献をしていなければなりません。
相続人になるほど近しい関係の親族には、互いに助けあう義務があります。たとえば民法上、夫婦間には協力扶助義務、親子間では扶養義務・互助義務が定められており、一定程度の貢献はもとから織り込まれています。民法上の義務の範囲内に留まるのであれば、特別な貢献をしたとはいえず、寄与分は認められません。
たとえば、通院に毎回付き添っていたとしても、家族として当然の行為と判断されるため、それだけで寄与分を要求するのは難しいです。
また、関係の近さによって、同じ行為をしていても寄与分にあたるかの判断が分かれる可能性もあります。夫婦の協力扶助義務は求められるレベルが高く、夫や妻の世話をしても、子がする場合に比べて寄与分が認められにくいと考えられます。
特別な貢献をしたといえるか否かは、相続人間で感情的な対立が発生して争いになりやすく、重要なポイントです。

無償でした

寄与分の判断においては、介護が無償であったかも重要です。
寄与分が認められる根拠は、故人の財産の減少を防いだ点にあります。介護の対価を受け取っているのであれば、結局は故人の財産を減少させているため、寄与分が認定される対象になりません。
ただし、報酬がゼロである必要まではありません。介護をプロに任せた場合の報酬と比べてはるかに少ない対価しか受け取っていないのであれば、財産の減少を防げており寄与分が認められる余地があります。

継続して行った


介護が継続して行われていなければ、寄与分は認められません。
数日介護を手伝っただけでは、遺産の取り分を増やすほどの特別な貢献があったとは言い難いです。明確な期間の条件は定められていませんが、一般的には年単位で介護を継続していた必要があります。

負担が大きかった

介護による負担がある程度大きかったことも必要です。
もちろん、仕事を辞めて介護に専念しなければならないほどであれば、負担が大きいと認められます。仕事を辞めていなくても、片手間ではできないレベルであれば寄与分の対象になります。

財産の維持につながった

介護が財産の維持につながっていなければなりません。
介護行為に寄与分が認められるのは、プロに支払うはずの費用を削減し、遺産の減少を防いだといえるためです。その点が証明できなければ、寄与分の対象外です。
仮に、故人が生前に「世話をしてもらって精神的にも助けられた」と感じていたとしても、費用の減少につながらなければ、寄与分としては評価できません。

介護で寄与分が認められるためのポイント


では、どうすれば寄与分が認められやすくなるのでしょうか?
介護で寄与分が認められるためのポイントをご紹介します。

要件を満たしているか確認する

まず、前述した寄与分の要件を自分の場合にあてはめて、満たしているかを確認してください。
特に注意する必要があるのが、特別な貢献といえるかです。通院に付き添った、通常の家事をしていたという程度では、親族として当然の行為と判断され、寄与分は認められません。
現実には、介護で寄与分が認められるハードルは、多くの方が考えるよりも高いです。主張するのは自由ですが、あまりに無理な要求をすると話し合いがまとまらないおそれがあるので注意してください。

証拠を揃える

介護で十分な貢献をしていても、他の相続人が認めない場合には証拠を用意しなければなりません。特に裁判所での調停や審判になったときには、証拠が必須といえます。
介護の証拠になりうるものとしては、たとえば以下が挙げられます。
●要介護の認定資料
●医師の診断書、カルテ
●介護サービスの利用記録
●介護日記
●家計簿、領収書
要介護の認定資料や医師の診断書などは、介護が必要であったことの客観的な証拠となります。
介護の事実そのものについては、なかなか記録に残りにくいです。自分で書いた介護日記も有力な証拠になりますので、生前から記録をつけておくのがベストです。他には、金銭負担をした事実がわかる領収書も寄与分の証拠になります。

介護による寄与分の計算方法


介護が特別な寄与に該当する行為であった場合は、寄与分の金銭的な評価や、具体的に相続分を取り決める際の扱いが問題になります。

寄与分はどう評価する?

プロに依頼したときにかかる報酬の支払いを免れている点が、寄与分の根拠です。したがって、基本的な考えとしては、介護のプロに支払う報酬を寄与分の評価のベースにします。
一般的には、介護による寄与分は次の式を用いて金銭的に評価されます。

介護による寄与分額
=報酬相当額(日当)×日数×裁量的割合

「報酬相当額」は介護保険における「介護報酬基準」をもとに計算されるケースが多いです。
「日数」は、実際に相続人が特別な貢献にあたる介護を行った日数をカウントします。
「裁量的割合」をかけるのは、介護報酬基準はプロに支払う報酬であり、親族が受け取るべき金銭は多少低いはずと考えられるためです。裁量的割合の数値は様々な事情を考慮して決定されます。
具体例として、以下のケースを考えましょう。
●報酬相当額(日当) 7000円
●日数 500日
●裁量的割合 0.7
このときの寄与分の評価額は、
7000円×500日×0.7=245万円
と計算できます。

相続分の計算方法


寄与分を金銭的に評価できたら、個々の相続人の具体的な取り分を計算します。
計算式は次の通りです。

寄与分権利者の受け取り金額
=(死亡時の遺産総額ー寄与分の評価額)×法定相続分+寄与分の評価額
寄与分権利者以外の受取金額
=(死亡時の遺産総額ー寄与分の評価額)×法定相続分

具体的に以下の例で計算します。
●相続人 妻、子2人(長男、次男)
●相続財産 2000万円
●寄与分 次男に400万円
この場合、遺産の取り分は次の通りです。
●妻 (2000万円ー400万円)×1/2=800万円
●長男 (2000万円ー400万円)×1/4=400万円
●次男 (2000万円ー400万円)×1/4+400万円=800万円
寄与分がなければ妻1000万円、長男次男がそれぞれ500万円ずつになります。
寄与分により次男の取り分が増え、妻や長男の取り分が減ったとおわかりいただけるでしょう。

寄与分を主張する場面


では、寄与分を受け取るための手続きの流れはどうなるのでしょうか?
寄与分を主張する場面として想定されるものをご紹介します。

遺産分割協議

まずは、相続人間で遺産分割協議が行われるのが一般的です。協議においては相続人がそれぞれ言い分を伝えますが、自分に寄与分があると考えていれば早めに主張してください。
遺産分割協議では、相続人間の合意によって自由に遺産の分配を決定できます。介護による貢献について他の相続人が認めてくれれば、寄与分を反映させることが可能です。証拠があると納得を得やすいでしょう。
寄与分の金額も、前述した計算式に縛られずに決められます。また、法律上は寄与分と評価できない行為についても、全員が納得するのであれば分割内容に反映させて構いません。
合意して分割内容が決まったら、遺産分割協議書を作成してください。
もっとも、寄与分を主張しても他の相続人が認めてくれるとは限りません。「当然のことをしたまでだろ」「介護してくれたのはありがたいけど取り分が増えるかは別」などと相手にしてくれないケースも多いです。
遺産分割の場面では感情的な対立も生じやすく、証拠を見せたとしても寄与分を決められない可能性があります。

調停

相続人だけの話し合いで結論が出ない場合には、裁判所の調停の利用が考えられます。
簡単にいえば、調停とは裁判所で行う話し合いです。調停委員が間に入って、それぞれの主張を聞きながら合意形成を目指します。
調停においては、寄与分に関する証拠を提出してください。適切な証拠があれば、調停委員が他の相続人を説得してくれることが期待できます。
話し合いがまとまれば、法的拘束力のある調停調書が作成されます。

審判

調停は裁判所における手続きですが、あくまで話し合いです。全員が納得できなければ調停は不成立となり、審判手続きに移ります。
審判では裁判所が最終的な結論を出すため、納得しない相続人の合意を取り付ける必要はありません。法的に有効な証拠を示せているかが特に重要になります。

介護について寄与分を主張したい方は弁護士にご相談を


ここまで、介護をした場合の寄与分について、要件や計算方法などを解説してきました。
介護による寄与分は簡単には認められません。寄与分を認めてもらいたい方は弁護士にご相談ください。
弁護士に依頼すれば、介護が寄与分と評価されそうかがわかり、証拠の収集にも協力してもらえます。争いが激しく裁判所での調停・審判になっても、手続きを任せられるので安心です。
「自分のした介護が寄与分にあたるのか知りたい」「他の相続人が寄与分を認めてくれない」などとお悩みの方は、ぜひお気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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