相続放棄しても管理義務がある!対処法や法改正について解説

相続

相続放棄をしたからといって、故人の遺産について一切の責任を免れるわけではありません。
相続放棄後に不動産を引き継ぐ人がいない場合には、管理義務が残ります。管理義務を怠って他人に迷惑をかければ、損害賠償を請求される可能性もあります。
想定外の事態が生じるリスクを避けるためには、相続放棄をした後にすべきことを知っておかなければなりません。
この記事では、
●相続放棄をした後の管理義務
●相続放棄をした後にどうすべきか
●管理義務に関する法改正
などについて解説しています。
近親者の遺産を相続放棄した、または今後相続放棄しようと考えている人にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

そもそも相続放棄とは?


まずは、相続放棄の制度について基礎知識を確認しておきます。

遺産を一切相続せずに済む

相続放棄とは、故人の遺産についてプラス・マイナスを問わず一切相続しないことです。
もし遺産の中に
●借金
●使う予定のない空き家
●管理の難しい広大な山林
などが含まれていれば、相続したくないと考える方も多いでしょう。
しかし一般的な相続(「単純承認」といいます。)では、受け取りたくないものも含めて引き継がなければなりません。
どうしても受け取りたくない財産がある場合には、家庭裁判所に申告して相続放棄が可能です。相続放棄をすれば最初から相続人ではなかったことになり、引き継ぎたくない財産を相続せずに済みます。

相続放棄するときの注意点


相続放棄をお考えの方は、一般的に以下の点に注意してください。

欲しい財産も受け取れない

相続放棄すると、遺産の中で欲しい財産があっても一切受け取れません。相続放棄とは、価値のあるものも含めて、すべての遺産を相続しない制度であるためです。
したがって、
●預貯金
●価値の高い不動産
●高価な宝石
などを受け取りたいのであれば、別の方法をとる必要があります。
遺産分割協議に参加して欲しい財産を要求するなどが考えられますが、相続人間で話し合いがつかないことも多く、思い通りにいくとは限りません。

遺産を処分してはいけない

相続放棄を考えている場合には、遺産を勝手に使ってはいけません。遺産を「処分」すると、法律上「単純承認」であるとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます(民法921条1号)。
たとえば、
●預貯金を引き出して自分の生活費にする
●空き家を解体する
●土地を売却する
などの行為をすれば「処分」に該当し、その後の相続放棄ができなくなるリスクがあります。遺産に手をつけることのないように注意してください。

申告期限がある

相続放棄には申告期限があります。申告期限を過ぎると「単純承認」をしたとみなされて相続放棄ができません(民法921条2号)。
期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」です(民法915条1項本文)。基本的には、亡くなった時から3ヶ月が期限になります。
近親者が亡くなって様々なことに追われていると、3ヶ月は思いのほか早く過ぎてしまうものです。書類の用意も必要なため、早めに準備して家庭裁判所に申告しましょう。
相続放棄をするかの決断が難しければ、申請により期限の延長も可能です。期限を過ぎてしまえば相続放棄ができません。十分注意してください。

撤回できない

一度相続放棄を申告すると、後から撤回することはできません(民法919条1項)。
したがって、「借金が多いから」「不動産の管理が面倒だから」などと考えて相続放棄をした後には、思いのほか遺産が多いことが判明しても相続は認められません。事前に十分に遺産の範囲と価値を調査したうえで、相続放棄するかを判断するようにしてください。

相続放棄しても管理義務は残る


相続放棄をしたからといって、すべての責任を免れるとは限りません。
財産を管理する人がいなくなる事態を防ぐために、民法940条1項に次の定めが置かれています。

民法940条1項
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

相続放棄した人も、別の人が管理を始めるまでは遺産の管理を継続する必要があります。
以下で、相続放棄後の管理責任について解説します。

管理義務が残るケース

別の相続人が管理できるのであれば、相続放棄をした後に管理義務を負い続けることはありません。管理義務が残るケースとして考えられるのは以下の2つです。

相続人がひとりしかいない

そもそも相続人になれる人がひとりしかいなければ、相続放棄をした後にも管理を続けなければなりません。
法律上、相続人に関するルールは次の通り定められています。

●配偶者(夫や妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫)
2.直系尊属(両親。死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

たとえば、妻に先立たれた男性にひとり息子がいるケースでは、まず相続権を持つのは息子です。息子が相続放棄をすると、相続権は次順位の直系尊属(両親や祖父母)、直系尊属も亡くなっていれば兄弟姉妹に移ります。兄弟姉妹もいないと、相続できる人がいなくなってしまいます。
このように他に相続人になれる人がいないケースでは、民法940条1項にいう「放棄によって相続人となった者」が存在しません。したがって、唯一の相続人は相続放棄後も管理義務を負い続けます。
管理義務から解放されるためには、後述する「相続財産管理人」の選任を裁判所に請求しなければなりません。

全員が相続放棄した

相続人になれる人が全員相続放棄をしたケースでも、相続放棄をした人に管理義務が残ります。相続して管理できる人が現れていない以上、相続人がひとりしかいないケースと状況は変わらないためです。
したがって、法律上相続人になれる、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹がすべて相続放棄をしたケースでは、遺産の管理義務が継続します。
管理義務を免れるためには、相続人がひとりの場合と同様に「相続財産管理人」の選任が必要です。

管理義務の内容


相続放棄をした人は「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって管理をしなければなりません。他人から管理を委託された財産に要求される水準よりは軽いものの、最低限の管理をする必要があります。
たとえば空き家については、
●ブロック塀が倒れないように補強する
●台風で壊れた屋根を修理する
●第三者が侵入できないように戸締まりをする
●害虫が発生しないよう手入れをする
といった管理が要求されるでしょう。

管理しないとどうなる?

管理義務を怠って第三者に損害が生じれば、損害賠償請求を受ける可能性があります。
たとえば、
●ブロック塀が崩れて通行人がケガをした
●倒木により隣家が損傷した
●火事が周囲に広がった
といった場合に、被害者から損害賠償請求をされるリスクが考えられます。
思いのほか高額の賠償が生じるケースもあるため、適切に管理しなければなりません。

相続放棄をした後にどうするべき?


では、相続放棄をした後はどういった行動をとるべきなのでしょうか?
相続放棄後に注意すべきことをまとめました。

隠したり使ったりしない

まず注意して欲しいのが、遺産を隠したり、勝手に使ったりしないことです。「単純承認」をしたとみなされて相続放棄の効力が生じなくなってしまいます(民法921条3号)。
したがって、
●発見したタンス預金を自分の物にする
●高価な宝石を「形見分け」として持ち出す
といった行為はしないようにしてください。
相続放棄をした後であっても、遺産を隠したり消費したりすれば、不要な財産も含めて相続しなければなりません。油断しないようにしましょう。

他の相続人がいれば早めに伝える

他に相続人になる人がいる場合には、自分が相続放棄をした事実を伝えてください。
元から相続人である人はもちろん、自分の相続放棄により新たに相続人になる人にも確実に連絡しましょう。たとえば、自分が相続放棄をすることで兄弟姉妹に相続権が移る場合には注意が必要です。
早めに連絡をとっておけば、他の相続人も期限までに相続放棄をするかを考えられます。他の相続人が管理できる場合には、管理を引き継ぐことが可能です。
「知らぬ間に不要な空き家を相続していた」とトラブルになるのを防ぐため、早めに連絡しましょう。

引き継ぐ人がいなければ相続財産管理人をつける

元々ひとりしか相続人がいない場合や、他の相続人がいても全員が相続を望まない場合には「相続財産管理人」の選任を検討してください。
相続財産管理人とは、引き継ぐ人がいない遺産を管理・清算する人です。相続財産管理人をつければ、相続放棄後の管理義務から解放されます。
相続財産管理人を選任するには、家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
申立ての際には、100万円程度の予納金が必要になる可能性があります。予納金は、管理にかかる費用や相続財産管理人の報酬に充てられます。遺産から費用をまかなえれば予納金は返還されますが、不足すれば申立てをした人が負担しなければなりません。
予納金を用意してまで相続財産管理人をつけるかをよく考え、申立てをするかを決定してください。

相続財産管理人について、詳しくは以下の記事を参照してください。
相続財産管理人とは?選任すべきケースや手続きを弁護士が解説

【2023年4月施行】民法改正により管理義務者が限定される!


相続放棄後の財産の管理義務については、法改正が予定されています。
改正後の規定は以下の通りです。

改正後の民法940条1項

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

改正後は、遺産の管理義務を負うのは「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限定されます。
たとえば、子が亡くなった親と同居していたようなケースでは、相続放棄をしても家の管理が必要です。反対に、相続人が故人と疎遠になっていた場合には、管理義務を負わないと考えられます。
改正法は2023年4月1日に施行される予定です。改正により相続放棄後の管理義務者が限定され、想定外の管理義務を課せられるリスクが減少するでしょう。

故人が残した不動産にお困りの方は弁護士にご相談を


ここまで、相続放棄後の管理義務について、内容や対処法などについて解説してきました。
相続放棄をした後にも、不動産の管理義務を課せられる可能性があります。価値の低い空き家や手入れが難しい山林の管理を突然任されても、周囲に被害をもたらすリスクを考えると割に合いません。相続財産管理人をつけるなどの対策が必要になります。
相続放棄後の管理義務についてお悩みの方は、弁護士にご相談ください。ご事情を伺い、相続放棄をした際の注意点、相続財産管理人を選任すべきかなどについてアドバイスいたします。ご依頼いただければ、相続放棄や相続財産管理人について裁判所での手続きのサポートも可能です。
「空き家を引き継ぎたくない」「遠隔地の不動産は管理できない」などとお考えの方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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