受託者の義務|権限や責任、就任する際の注意点も解説

信託

民事信託(家族信託)で受託者になる予定の方は「どんな義務があるのか」「責任が重そう」などと不安を抱えているかもしれません。
受託者には信託財産に関する大きな権限が与えられている反面、財産管理において数多くの義務を負っています。信託の目的を果たすために、義務内容について知っておかなければなりません。
この記事では、

などについて解説しています。
既に受託者に就任している方や、今後受託者になる予定の方にとって参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

民事信託(家族信託)における受託者の役割


弁護士
野俣 智裕
受託者は、信託された財産の管理・処分を担う人です。委託者のお子さまはもちろん、基本的には誰でも受託者になれます。

 

そもそも民事信託における受託者とは、信託契約等の定めにしたがって、信託財産の管理・処分や信託の目的達成のために必要な行為をする義務を負う人です(信託法2条5項)。委託者の財産を預かり、受益者のために管理・処分する役割を担います。
受託者になるのに特別な資格は要求されず、未成年でなければ就任できます(信託法7条)。一般的には、委託者の子ども、甥・姪などの親族がなるケースが多いです。家族以外の個人や一般社団法人を受託者にする場合もあります。
受託者になれる人や選び方については、以下の記事で詳しく解説しています。
参考記事:民事信託(家族信託)の受託者に資格は必要?なれる人や選び方を解説

受託者の権限


弁護士
野俣 智裕
受託者は強い権限を有しています。信託契約によって権限を制限することも可能です。

受託者は、信託財産の管理・処分や信託目的達成のために必要な行為をする権限を有しています(信託法26条本文)。
権限の及ぶ範囲は広く、受益者のために、たとえば以下の行為が可能です。
●生活費・医療費として、口座内の金銭を引き出す
●収益用不動産の価値を保つために、外壁の修繕を行う
●介護施設への入居資金を捻出するために、自宅不動産を売却する
受託者の権限は契約によって制限できます信託法26条ただし書)。たとえば、不動産を次世代に引き継ぐことを目的にする信託であれば、受託者による勝手な処分を制限するべきです。

受託者の義務


弁護士
野俣 智裕
受託者には、次の義務が課されています。
●信託の目的に沿って業務をする
●他人の財産を預かる者として注意深く管理する
●受益者の利益に反する行為をしない
●すべての受益者のため公平に業務にあたる
●信託財産と自分自身の財産をはっきり分ける
●業務を第三者に委託しても任せきりにしない
●業務内容について報告する
数が多くて大変ですが、ひとつずつ見ていきましょう。

信託事務遂行義務

受託者は、信託の目的に沿って業務をしなければなりません信託法29条1項)。
たしかに受託者は信託財産に関して強大な権限を有しています。しかし、受託者の権限は、委託者が信託をした意図に沿うように行使されなければなりません。契約書の定めに従うのはもちろん、個々の判断は信託目的を果たすためにくだす必要があります。
具体的な業務としては、たとえば以下が挙げられます。
●信託口口座を開設し、必要に応じて受益者の生活費や医療費を引き出す
●自宅不動産を修繕する、建て替える、売却する
●収益用不動産の賃借人とのやりとりをする
実際に行う事務内容はケースバイケースです。契約内容や信託目的に従って業務を遂行してください。

善管注意義務

受託者が業務を行う際には、善良な管理者として要求される注意を払わなければなりません信託法29条2項)。
善管注意義務は、その職業や地位にある者として通常要求される程度の注意義務です。受託者として他人の財産を預かっている以上、自分の財産を管理する場合以上に気をつけて管理する必要があります。
とはいえ、民事信託の受託者は多くのケースで家族であり、専門家ではありません。財産管理において専門家ほどのレベルを求めるのは酷であり、あくまで受託者の職業や地位を考慮して要求される水準が定まります
また、契約によって善管注意義務の程度を重くしたり軽くしたりすることは可能です。たとえば、自分の財産と同程度の注意義務に軽減できます。もっとも、注意義務を完全に免除することはできません

忠実義務

受託者は、受益者のために忠実に信託事務の処理などをしなければなりません信託法30条)。信託は受益者のために存在している以上、受託者自身のためではなく、受益者の利益になるように行動する必要があります。
忠実義務の典型的な内容が、利益相反行為や競合行為の制限です。

利益相反行為

利益相反行為は、受託者と受益者の利益が相反する行為です。受託者が利益を得る反面で受益者が損害を被れば、受益者のために行動する義務を果たせていないため、原則として禁止されています。
利益相反行為の例としては、以下が挙げられます(信託法31条1項)。

信託契約で許されている、受益者の承認を得たなどの要件を満たさない限り、利益相反行為をしてはなりません。

競合行為

ある行為について受託者と受益者の利益が競合する場合には、受託者個人としてその行為をしてはなりません信託法32条1項)。
たとえば、値上がりが確実な不動産があったとしましょう。信託において不動産の購入権限があるとき、理屈上、信託の受託者として受益者のために購入することも、受託者個人として自分のために購入することも可能です。このとき、不動産の購入をめぐって競合が生じています。
受託者が自分の利益を優先して個人として不動産を購入すると、信託のために購入できなくなり、受益者の利益は損なわれてしまいます。競合行為が禁止されている以上、受託者は個人としての購入はできません。
利益相反行為と同様に、信託契約で許されている、受益者の承認を得たといった要件を満たさない限り、競合行為は禁止されています。

公平義務

受益者が複数いる信託では、受託者はすべての受益者のために公平に職務を行わなければなりません信託法33条)。
たとえば、共有不動産を信託財産にし、共有者全員を受益者としたケースでは、受益者が複数になります。受益権の内容が同じであるのに、特定の受益者を優遇してはなりません。
参考記事:共有不動産を信託するメリット・注意点や事例を弁護士が解説

分別管理義務

信託財産と受託者自身の財産は分けて管理しなければなりません信託法34条1項)。
具体的には、信託財産の種類によって以下の通り管理してください。
●不動産:信託登記をする
●金銭:信託のための専用口座(信託口口座など)で管理するのが民事信託では一般的
信託財産と受託者個人の財産が混ざってしまうと、万が一受託者が破産した際に信託財産が適切に保護されなくなってしまいます。必ず明確に分けて管理しましょう。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
預金を信託財産にする方法|メリットや注意点を弁護士が解説
信託で登記は必要?記載内容や必要な場面、注意点を解説

委託時の監督義務

受託者は、信託事務の処理を第三者に委託することが可能です(信託法28条)。契約で定めがある場合のほか、信託の目的に照らして相当なケースなどで委託ができます。
もっとも、第三者に委託する際には、適切な人を選んだうえで、監督をしなければなりません信託法35条1項、2項)。委託をしたからといって、放っておいてはいけないということです。
なお、すべての信託事務を第三者に委託するのは認められていません。

情報提供義務

委託者または受益者から求められた際には、信託事務の処理状況について報告しなければなりません信託法36条)。
また、信託帳簿の作成、報告、保存の義務もあります(信託法37条)。毎年1回、貸借対照表、損益計算書などの書類を作成したうえで受益者に報告し、10年間保存しなければなりません。閲覧を請求された際には応じる必要があります(信託法38条)。

受託者の責任


弁護士
野俣 智裕
受託者が負う責任としては「損失てん補責任」があります。

受託者が任務を怠ったために信託財産に損失が生じた場合には、受益者は損失をてん補するよう請求できます。信託財産の状態が変わったときには、元の状態にするよう求められます。受託者は、損失のてん補や原状回復に応じなければなりません信託法40条1項)。
たとえば、管理がずさんで信託財産の金銭をなくしたときには、失われた分を受託者が補てんする必要があります。

受託者になる際の注意点


弁護士
野俣 智裕
受託者は負担が大きいです。困ったときには専門家の力を借りましょう。

受託者になる際の注意点としては、以下が挙げられます。

義務・責任は重い

これまで解説してきた通り、受託者には数多くの義務・責任が課されています。
生活費の引き出し、不動産の修繕、帳簿の作成など、業務内容は多岐にわたります。慣れていないと大変な負担になるはずです。しかも、管理が十分にできず信託財産に損害が生じれば、自分の財産で補てんする事態に直面するリスクもあります。
受託者になるご家族は、法律に詳しくなく、手続きには慣れていない方が大半でしょう。「親を助けるため」などと気軽な気持ちで応じると、後悔するおそれがあります。受託者の職務内容を十分に理解したうえで引き受けるようにしてください

専門家の助けを借りる

困ったことがあれば、弁護士をはじめとする専門家の助けを借りましょう
民事信託は難しい制度であり、受託者になる方が理解できていない点があるのは当たり前です。始めるときはもちろん、実際に信託が動き出してからも継続的にサポートを受けられます。
「こんなことを聞いていいのかわからない」と気にする必要はありません。ひとりで悩まずにご相談ください。

受託者になる際の不安は弁護士にご相談ください


弁護士
野俣 智裕
受託者になるのが不安なのは当たり前です。遠慮せずに何でもご相談ください。

ここまで、民事信託における受託者の義務を中心に解説してきました。
受託者には、善管注意義務、忠実義務、分別管理義務など様々な義務が課されています。事前に把握しておくとともに、困ったときには専門家のサポートを受けましょう。

民事信託の利用を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みが複雑であるため、精通した専門家が少ないのが実情です。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。信託契約締結後も、継続的なリーガルアドバイスの提供が可能です。
「民事信託を検討しているが受託者になるのが不安」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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