信託財産目録とは?記載例や信託目録との違いを解説

信託

民事信託(家族信託)をする際には、対象とする財産を一覧にした「信託財産目録」を作成し、契約書に添付するのが一般的です。信託財産目録によって、何が信託財産であるかを特定できます。
信託財産目録に記載されるのは、金銭や不動産などです。預金そのものは信託財産にできないので、口座番号だけを書かないよう注意しましょう。
なお、信託財産目録は、登記簿に記載される「信託目録」とは別物です。
この記事では、

などについて解説しています。
信託の利用を検討していて、信託財産目録の作成方法を知りたい方はぜひ最後までお読みください。

信託財産目録とは?


弁護士
野俣 智裕
まずは、信託財産目録とは何かを解説します。

信託の対象財産をまとめた書面

信託財産目録とは、信託の対象財産を一覧にした書面です。
民事信託をする際には、委託者の有している財産の中から、信託の対象にする財産を選びます。信託の対象にする金銭、不動産などをまとめ、一目でわかるようにしたのが信託財産目録です。
作成した信託財産目録は、別紙として信託契約書に添付されます。

作成する目的

信託財産目録を作成する主な目的は、信託財産を明確に特定することです。
信託財産になれば、所有権が形式的に委託者から受託者へと移転するものの、受託者自身の財産とは別に扱われます。受託者に対して債権を有している人であっても、原則として信託財産に対して強制執行はできません(信託法23条1項)。受託者が破産しても、信託財産は無関係です(信託法25条1項)。
信託財産は、委託者や受託者の経済状況が悪化しても影響を受けません。信託財産目録を作成するのは、信託財産を一目でわかるよう特定して、委託者や受託者の固有財産とは別に扱えるようにするためです。
信託財産目録は、信託契約書に別紙として添付します。信託財産目録で財産に番号をつけておけば、信託契約書の文言がすっきりして読みやすくなる点もメリットです。たとえば「信託財産目録1記載の建物は・・・」といった形で契約書の条項に利用できます。

記載する財産

信託財産目録に記載するのは、信託の対象にする財産すべてです。すべてを記載しておかないと、作成する意味がなくなってしまいます。
信託財産目録に記載される財産としては、金銭、不動産、株式などが代表的です。プラスの財産については、ほとんどが信託の対象になり得ます。もっとも、預金については直接は信託財産にできません。詳しくは後述します。
信託できる財産・できない財産について詳しくは、以下の記事も参照してください。
参考記事:信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説

信託財産目録の記載例


弁護士
野俣 智裕
信託財産目録には、財産の内容を正確に記載しなければなりません。
代表的な信託財産である金銭と不動産について、信託財産目録への記載例をご紹介します。

金銭

金銭を信託する際には、信託財産目録に「金 〇〇万円」のように金額を記載します。実際に信託する際には、金銭を委託者から受託者に引き渡し、信託口口座など信託専用の口座に移す必要があります。

預金を信託財産にしたいときには、口座をそのまま記載しないように注意してください。
信託するからといって、預金の口座名義を受託者に変更することはできません。また、預金を引き出す権利(預金債権)の譲渡は禁止されています。預金はそのままでは信託財産にできないのです。
したがって「〇〇銀行××支店 普通△△△△△△△」のように、口座番号をそのまま信託財産目録に記載するのは避けてください。預金口座そのものや預金債権を信託財産にしていると捉えられ、信託口口座を開設できないなどの弊害が生じるおそれがあります。

問題が生じないようにするには、「金 〇〇万円」と記載するようにしてください。
金額を特定できないときには「信託開始日における委託者名義の〇〇銀行××支店普通預金(口座番号△△△△△△△)内の残高相当額の金銭」などとするのが望ましいです。預金ではなく、金銭を信託財産にしたと明らかになります。
信託開始後は、口座内の金銭を委託者から受託者に引き渡し、信託口口座など信託専用の口座で管理します。

預金を信託財産にする方法について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:預金を信託財産にする方法|メリットや注意点を弁護士が解説

不動産

不動産を信託財産にするときには、登記簿(登記事項証明書)に記載されている情報で特定するようにしてください。一般的に用いられる住所とは異なるので注意しましょう。
土地の場合には、所在、地番、地目、地積で特定します。

 

建物については、所在、家屋番号、種類、構造、床面積で特定します。

 

信託財産目録の記載が不正確だと、スムーズに不動産の信託登記ができないおそれがあります。確実に特定できるように、間違いなく記載するようにしてください。

信託財産目録と信託目録との違い


弁護士
野俣 智裕
信託財産目録と似た言葉に「信託目録」があります。文字面は似ていますが、両者は異なるものです。

信託財産目録は契約書に添付する

これまで解説してきた通り、信託財産目録は、信託の対象になった財産を一覧にしたものです。信託は契約で設定する場合がほとんどですが、信託財産目録は契約書に別紙として添付されます。

信託目録は登記簿に載る

信託目録は、信託の内容を記載した目録で、信託の登記がなされた際に登記の末尾につけられます。
信託目録には、当事者の情報や信託条項などが記載されます。信託目録が作成されるのは、不動産が信託財産になった事実や信託の内容が第三者でもわかるようにするためです。信託目録は登記簿に載っているため、信託財産目録とは異なり誰でも内容を確認できます。
信託目録が作成されるのは、不動産が信託財産になり、信託登記が必要になるときだけです。信託財産が金銭や株式だけのときには作成されません。

信託財産目録を作成する際のポイント


弁護士
野俣 智裕
信託財産目録を作成する際には、以下のポイントに気をつけましょう。

対象財産を特定する

信託財産を特定できるように記載するのは重要です。特定できないと、強制執行を受ける、登記がスムーズにできないといった問題が生じるおそれがあります。
特に不動産の特定には注意が必要です。登記簿通りに正確に記載するようにしましょう。共有不動産であれば、共有持分も記載するようにしてください。

債務があれば債務目録も作成する

債務自体は信託財産にできません。ただし、ローン付き不動産でも、受託者が委託者から債務引受をした場合には信託できます。
その際、受託者が引き受けた債務(ローン)を信託契約の中で「信託財産責任負担債務」に定めなければなりません。
信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産をもって返済する責任を負う債務です(信託法2条9号)。信託財産責任負担債務になれば、ローンの支払いが滞ったときに、金融機関が信託財産からお金を回収できます。
契約書に信託財産責任負担債務に関する定めを置いたときには、どの債務かを明確にするために「債務目録」を作成しましょう。債務目録には、債務の発生日、債権者、当初の債務額、残債務額など、特定するために必要な情報を記載します。
委託者の債務を受託者が負担したときには、どの債務が対象なのかを債務目録で明確化するようにしてください。

専門家に相談する

信託財産目録の記載方法を含めて、信託契約をする際には弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。専門家に任せれば、希望を間違いなく叶えられるように、契約書の作成等の手続きを進めてもらえます。
たしかに、世に出回っているひな形を利用すれば、信託財産目録を含めて自分達だけで信託契約書を作成することもできます。しかし、不正確な内容になる、信託口口座を作成できないなど、現実には問題が生じる可能性が高いです。
民事信託の仕組みは複雑であり、制度の歴史が浅いため、専門家であっても十分に理解できていない場合があります。取り扱い経験が豊富で、信託に精通した専門家を探して相談・依頼するようにしましょう。

信託の利用を検討している方は弁護士にご相談を


弁護士
野俣 智裕
当事務所までお気軽にご相談ください。

ここまで、信託財産目録に関して、意味や記載例、信託目録との違いなどについて解説してきました。
信託財産目録は、信託の対象財産を一覧にした書面で、信託契約書に添付されます。登記簿に載る信託目録とは別物です。確実に信託財産を特定できるように、間違いなく作成しなければなりません。

信託の利用を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況をお聞きしたうえで、法的リスクを避けつつ希望を実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。もちろん、信託財産目録についても間違いがないように作成いたします。
「信託契約を任せたい」という方はもちろん、「自分の希望が信託で実現できるか知りたい」という方も、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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