遺産分割調停調書の効力について

相続・遺言

 遺産分割調停が申し立てられた場合、家庭裁判所において、調停委員や裁判官を交えて、遺産分割の内容や方法についての紛争を解決するための話し合いが行われることとなります。手続の内容をお知りになりたい場合にはこちらの「遺言による分割・協議による分割・調停による分割・審判による分割」を御確認ください。
 そして、話し合いがまとまった場合には、「調停調書」という書面を作成することになります。このページでは、この「調停調書」という書面がどのような書面で、どのような内容が記載されるべきなのかについて解説させていただきます。

1.調停調書の効力

(1)家事事件手続法の定め

 調停調書とはどのような書面なのでしょうか。遺産分割などの家庭裁判所で行う手続は、家事事件手続法で定められていますから、その内容をまずは確認しましょう。

家事事件手続法

(調停の成立及び効力)
第268条
1項調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決…と同一の効力を有する。
2項家事調停事件の一部について当事者間に合意が成立したときは、その一部について調停を成立させることができる。手続の併合を命じた数個の家事調停事件中その一について合意が成立したときも、同様とする。
(調書の作成)
第253条
裁判所書記官は、家事調停の手続の期日について、調書を作成しなければならない。ただし、裁判長においてその必要がないと認めるときは、この限りでない。
(記録の閲覧等)
第254条
1項当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事調停事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事調停事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
4項次に掲げる書面については、当事者は、第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所の許可を得ずに、裁判所書記官に対し、その交付を請求することができる。
2号調停において成立した合意を記載し、又は調停をしないものとして、若しくは調停が成立しないものとして事件が終了した旨を記載した調書の正本、謄本又は抄本

 法律の内容だけからすると、調停調書とは、調停期日の内容を記載したもので、調停において成立した合意についても当然に記載されているものになります。

(2)確定判決と同一の効力

 そして、家事事件手続法によると、調停調書には確定判決と同一の効力が認められるようですが、この効力とはどのようなものなのでしょうか。

民事執行法

(債務名義)
第22条
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
1号確定判決
7号確定判決と同一の効力を有するもの

 民事執行法第22条は、「確定判決と同一の効力を有するもの」を「債務名義」として扱い、強制執行を可能とする旨を定めています。
強制執行とは、裁判で判決が下されたにもかかわらず、その判決が命じている金銭の支払いなどが行われない場合に、強制的にその判決で命じた内容を達成させる手段のことをいいます。
 具体的には、債務者の不動産を競売にかけた上で、その代金を債権者に配当するような手続です。
ですから、調停調書の中で合意された内容については、強制的にその合意内容を実現させることが可能となるのです(強制執行の対象となり得る財産がなかった場合には実現することはできませんが…)。

2.調停調書に記載すべき内容

(1)調停条項の性質

 以上のように、調停調書には非常に強力な効力が認められます。とはいえ、調停調書の中に必要な内容が記載されていなければ、そのような効力に期待することができませんから、調停調書の中にどのような内容を記載する必要があるのか、すなわち、どのような調停条項を定めるのかという点が非常に大切になってきます。
 調停条項には、主として、

  • ①給付条項
  • ②確認条項
  • ③形成条項
  • ④付款条項
  • ⑤清算条項
  • ⑥道義的条項

 に分けられるものと理解されています。
 それぞれの内容について考えてみましょう。

(2)給付条項

 給付条項とは、金銭の支払や物の引渡し等を行う義務について定められた条項のことをいいます。遺産分割協議は、遺産をどのように分けるのかを決めるために行われる訳ですから、調停条項の中で最も重要な内容といえます。
 共同相続登記がなされている不動産が問題となっている場合であれば「○○は、別紙遺産目録記載の不動産を取得する」等の条項に加えて、「○○を除く当事者全員は、○○に対して、別紙遺産目録記載の不動産について、遺産分割を原因とする持分移転登記手続をする」等の条項を定めることが考えられます。このような条項は、既に不動産が相続人名義で登記されているのか、被相続人名義のままなのかによって、定めるべき内容が変わることになります。
 上述した強制執行を行うためには、このような給付条項が適切に定められている必要がありますから、調停条項の中でも最も注意して定める必要がある条項といえそうです。

(3)確認条項

 相続についての争いごとの中には、遺産をどのように分割すべきかという点だけではなく、そもそも問題となっている財産が遺産の一部なのかという点が争点となることも少なくありません。
 そこで、そのような問題を解決するための調停条項の中には、「〇〇は、別紙遺産目録記載の不動産が△△の遺産であることを確認する」等の確認条項を定めることも必要です。遺産の範囲が問題となっている場合には、給付条項だけでなく確認条項を定めることも極めて重要になります。

(4)形成条項

 一見、給付条項と似たような条項なのですが、「○○は、別紙遺産目録記載の不動産を取得する」等の条項は、他の相続人に何らかの手続を行わせる必要がありません。
 例えば、被相続人名義のままとなっている不動産については、他の相続人の登記手続を経ることなく、上述したような条項が定められた調停調書が存在すれば、自ら自己名義の登記をすることができます。
 このように一定の権利を発生させる条項を形成条項といいます。

(5)付款条項

 遺産を分割する際に、不動産を相続した相続人から、他の相続人に対して不動産の代償金を支払うことを条件とすることも考えられます。
 この時に、「○○は、△△に対し××円を支払う。」という定めは先程説明した給付条項にあたります。
 しかし、このような条項では、代償金をいつ、どのような形で支払ってもらえるかがハッキリしませんから、せっかく調停がまとめられたにもかかわらず、支払時期等についての争いが残ってしまいます。
 そこで、給付内容について、いつ、どのような形で給付させるのかを定める必要があり、そのような定めを付款条項といいます。
 調停がまとめられた以上、多くの場合は相続の問題について早急な解決が望まれる一方で、代償金の支払等を直ちに行うことが困難な場合もあり得ますから、付款条項も重要な調停事項の1つといえます。

(6)清算条項

 ほとんどの調停調書には、「この調停により遺産に関する一切の紛争を解決したものとし、○○は、ほかに債権債務のないことを相互に確認する。」などといった条項が定められています。
 遺産分割についての争いを終わらせるための調停になりますから、調停が終わった後に遺産の問題が再燃することがないように定める条項になります。
 一方で、調停が成立した場合であっても、事後的に調停の内容に不満を抱く方は一定数いらっしゃいます。調停が無駄になることがないように、清算条項を適切に定めることに加え、清算条項が適切に機能するように、清算条項によって解決済とされる対象となる財産について、確認条項等を適切に定めておくことが求められます。

(7)道義的条項

 道義的条項とは、これまでの条項とは異なり、法的な意味を有さない条項になります。遺産分割等の家族間の紛争は、関係者の感情的な問題の解消が最大の問題点となることも珍しくありません。
 ですから、法的な意味を有さない条項であっても、調停事項として定めることが少なくないのです。
 

3.まとめ

 以上のとおり、調停調書は成立した調停内容を記載した書面となります。強制執行が可能になるなど、強力な効力を有するものです。
 ですから、調停調書が成立した後は、遺産分割の方法等について争うことが困難となることが多く、調停事項等については慎重に検討する必要があるのです。

この記事を書いた弁護士

岡本裕明
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 岡本 裕明

  • ■東京弁護士会 ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法研究部

  • 主に刑事事件への対応を通じた交渉・訴訟の経験を豊富に有し、粘り強い交渉や緻密な書面で当事者間の対立が鋭い相続案件を解決してきた実績があります。所属する東京弁護士会では、信託業務を推進する信託PTや信託法研究部に所属し、日々の研鑽を通じて民事信託に関する豊富な知識を有しております。

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