遺言と民事信託(家族信託)の関係について

民事信託(家族信託)

1 民事信託と遺言の関係

 民事信託は財産管理と財産承継のための制度です。
 他方、遺言は財産承継のための制度です。
 民事信託は、財産承継のために利用できるという面で遺言と重なり合いますので、民事信託を遺言の代わりに利用することができます。

1 民事信託と遺言の特徴

⑴ 効力の発生時期

 遺言は、遺言をのこした人(遺言者といいます。)が亡くなった時に効力が生じます(民法985条1項)。
 ですから、遺言に書かれた通りに遺産を分ける作業は、遺言者の死後ということになります。
 他方、信託契約によって設定された民事信託は、信託契約締結の時に効力が発生します(信託法4条1項)。したがって、契約締結後すぐに信託契約にしたがって、財産の名義を受託者に移す作業などを行う必要があります。
 なお、遺言による信託や自己信託については、信託の効力発生時点については信託契約とは異なりますが、現在世間一般で設定されている民事信託のほとんどが信託契約ですから、ここでは信託契約で設定される民事信託についてご説明します。

⑵ 財産の承継方法

 遺言では、遺言者が死亡してその効力が生じると、遺言書に掲げられた全財産が、遺言書で指定された通りに一括して承継されます。
 他方、民事信託では、信託契約の内容次第で、①委託者が生きている間に財産を承継させることも、②委託者が死亡した時点で財産を承継させることも、③委託者が亡くなった後に財産を承継させることもできます。
 また、民事信託では、信託財産を一括して承継させることも、分割して承継させることもできます。

2 民事信託と遺言の比較

民事信託と遺言の比較表

 遺言信託
いつ効力が発生するか本人(遺言者)の死亡の時遺言による信託:本人(委託者)の死亡の時
信託契約:委託者と受託者の合意の時
財産を継承する方法本人(遺言者)の財産を一括して承継信託行為(信託契約、遺言による信託)の定めにより、
①財産を一括して承継することも
②分割して承継することもできる。
財産の継承が生じるタイミング本人(遺言者)の死亡した時点信託行為(信託契約、遺言による信託)の定めにより、
①本人の生前
②本人の死亡した時点
③本人の死亡後

2 民事信託と遺言の併用

1 併用のニーズ

 民事信託の特徴として、その時に存在する財産を信託財産とすることができ、名義が受託者に移転することになります。
 したがって、財産承継を考えている人が、まだ自分の財産の名義を全て他人名義に変えてしまうことに躊躇を覚えているような場合や、現時点では存在していないけれども将来入ってくる予定の財産の承継先を決めておきたいという希望がある場合には、民事信託と遺言を併用することが考えられます。

2 それぞれの制度の特徴

 民事信託では、遺言で実現することができないと言われている「後継ぎ遺贈」と同様の結果を実現できると言われています。これを、後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。これについては、後述します。
 他方、遺言であれば、信託財産とすることができない農地等の処分ができます。
 また、上で述べた通り、将来獲得予定の財産についても、対象とすることができます。

3 後継ぎ遺贈型の受益者連続信託

 後継ぎ遺贈とは、まず遺言者Aさんが遺言によって自分の財産をBさんに渡し(第一次遺贈)、その後、Bさんも死亡したときには、Aさんの財産を、Aさんがあらかじめ選んだCさんに渡す(第二次遺贈)というものです。
 このように、Aさんが後継ぎ遺贈をしたいと希望して、「自分の遺産はすべてBさんに渡し、Bさんが死亡したらCさんに渡す」というような遺言を作成した場合の効力について、現在民法上は無効とする見解が有力であるとされています。
 しかしながら、民事信託を利用すれば、この民法上無効と考えられていた後継ぎ遺贈と同様の効果を生じさせることができるとされています。
 これを、後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。
 この仕組みがどういうものか、解説します。
 信託では、信託財産から生じる利益を受けるひとのことを受益者といいます。また、その受益者が持つ権利のことを受益権といいます。受益権の中身は、信託財産の種類によって、例えばお金の給付を受ける権利であったり、不動産に住む権利であったりします。
 受益権を持つ受益者が、あたかも信託財産を所有しているかのように、信託財産からの利益を受けられるということになっています。
 そして、信託契約において、「最初はAさんが受益者、Aさんが死亡したらBさんが受益者になり、Bさんも死亡したらCさんが受益者になる」、というように連続して複数人の受益者を設定することができます。
 これが、受益者連続信託の「連続」の意味です。
 先に遺言では達成できないと述べた後継ぎ遺贈についても、民事信託を設定し、「最初はAさんが受益者、Aさんが死亡したらBさんが受益者になり、Bさんも死亡したらCさんが受益者になる」というような内容の信託を設定しておけば、信託財産から利益を受ける人がAさん、Bさん、Cさんの順で交代するような状況を作り出すことができます。
 これが、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と呼ばれる仕組みです。
 以上のように、民事信託は、財産承継の仕組みとして、柔軟に利用することが可能ですから、財産承継を考えるときには、遺言とともに選択肢として検討することが望ましいでしょう。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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