民事信託の税務の基本

民事信託(家族信託)

信託における課税の基本

 信託の基本的な仕組みでも説明しましたように、信託をすると、信託をした財産の所有権は、委託者から受託者に移ります。
 信託(家族信託)の仕組みに関してはこちらをご覧ください。
 しかし、税務上は受託者が財産を所有しているとは考えず、受託者は単なる「預かっている人」だと考え、実質的に財産を所有しているのは「受益者」だと考えます。
 したがって、信託財産からの収入や費用は受益者が確定申告をすることになります(法人税法12条1項、所得税法13条1項、消費税法14条1項)。
 以上が信託の課税関係の原則です。一部特殊な信託の場合には例外もありますが、民事信託では、原則通りの課税関係があることを念頭に置いておけば結構です。

2 信託設定時及び信託期間中の課税関係

1 委託者と受益者が同一の者(自益信託)の場合

⑴ 信託設定時

 上で述べた通り、信託においては、課税上、受益者が信託財産を所有しているものと考えます。そこで、委託者と受益者が同一の者である場合(自益信託の場合)には、信託の設定時において、委託者、受託者、受益者のいずれにも所得税や贈与税等の課税関係は生じません。

⑵ 信託期間中

 受益者が信託財産に属する「資産及び負債」を有する者とみなし、そこから発生する「収益及び費用」を受益者の収益及び費用とみなします(所得税法13条1項)。
 委託者と受益者が同一の者の場合、委託者兼受益者が、信託設定前に引き続き、信託期間中も信託財産からの収益及び費用に関して確定申告を行うことになります。
 ただし、信託財産中に不動産が含まれている場合において、登記簿上の所有者は受託者に移るところ、固定資産税は登記簿上の所有名義人である受託者に対して請求がなされますので、受託者は信託財産から固定資産税を支払うことになるでしょう。

2 委託者と受益者が違う人(他益信託)の場合

⑴ 信託設定時

 委託者と受益者が違う人の場合、信託設定時に課税が生じます。
 たとえば、委託者が祖父、受託者が父、受益者が孫の場合、委託者である祖父から受益者である孫に対して、信託の効力発生時に信託財産の贈与があったとみなされて、贈与税が課されます(相続税法9条の2第1項)。
 信託設定時において孫が得るのは信託財産ではなく受益権ですが、受益権の評価については、信託された財産の価額により評価することとされています(財産評価基本通達202⑴)ので、信託財産の価額を基礎とした贈与税が課されることになります。

⑵ 信託期間中

 先の例でいえば、受益者である孫が信託財産に属する「資産及び負債」を有するものとみなし、かつ、そこから発生する「収益及び費用」も受益者である孫のものであるとみなします。したがって、信託の効力発生前は祖父が確定申告を行っていた場合でも、信託設定後は孫が行うことになります。
 ただし、先に述べた通り、不動産に係る固定資産税は形式的な所有名義人である受託者の父に対して請求があることになります。

3 信託終了時の課税関係

 信託が終了する場合の課税関係は、財産が実質的に移転しているかどうかで判断することになります。信託期間中の財産の実質的な所有者は受益者です。したがって、信託終了時の受益者がそのまま信託財産を受け取るのか、又は受益者とは別の人が受け取るのかによって、課税関係が異なってきます。

1 信託終了時の受益者と帰属権利者(残余財産受益者)が同じ人の場合

 この場合、信託の終了によって、財産が実質的に移転しているとはいえません。
 したがって、この場合には贈与税や所得税等の課税関係は生じません。

2 信託終了時の受益者と帰属権利者(残余財産受益者)が違う人の場合

 この場合、信託の終了によって、信託終了時の受益者から帰属権利者(残余財産受益者)に対して贈与等の実質的な財産移転があったものといえます。
 したがって、この場合には贈与税(死亡に基因して信託が終了している場合には遺贈とみなして相続税(相続税法9条の2第4項)が発生します。

4 登録免許税と不動産取得税について

1 信託設定時

 信託の場合、信託設定時には、信託に基づく所有権移転登記に係る登録免許税及び不動産取得税は課税されません(登録免許税法7条1項1号、地方税法73条の7第3号)。
 ただし、信託財産に不動産がある場合には、信託に基づく所有権移転登記の他にもう1つ信託の登記と呼ばれる登記を行うことが必要になります。
 この信託の登記については、設定時に0.4%の登録免許税が課税されます(登録免許税法9条、同法別表第一の1号(十))。

2 受益権移転時

 信託行為で受益権の譲渡を禁止しなければ、原則として受益権は譲渡可能です(信託法93条1項)。
 受益権の移転時には、原則として旧受益者から新受益者に不動産が移転したものとみなされて贈与税等の課税関係が生じます。
 登録免許税については、受益者は信託目録に記載されるところ、信託目録の変更に関する登録免許税は、不動産1個につき1000円です(登録免許税法9条、同法別表第一の1号(十四))。
 また、受益権の移転は、債権の移転に過ぎないため、このタイミングでは不動産取得税は課税されません。

3 受託者変更時

 受託者の変更の登記にかかる登録免許税は課税されません(登録免許税法7条1項3号)。また、不動産取得税についても同様に課税されません(地方税法73条の7第5号)。

4 信託終了時

 信託終了時における登録免許税や不動産取得税については信託行為における定め方によって、課税関係が変わってくる可能性があるため注意が必要です。
 不動産の信託が終了した場合、所有権は委託者から帰属権利者(残余財産受益者)に移転します。この際、所有権移転登記が必要で、同時に信託登記を抹消しなければなりません。
 所有権の移転登記については、原則として2%の登録免許税が課税され(登録免許税法9条、同法別表第一の1号(二)ハ)、不動産取得税は原則として4%課税されます(地方税法73条の15)。
 しかし、信託設定時の委託者が受益者であり、信託が終了するときまで受益者に変更がない場合には、実質的な財産移転がないため、信託終了時において登録免許税も不動産取得税も非課税となります(登録免許税法7条1項2号、地方税法73条の7第4号)。
 問題は、信託終了時に、委託者の相続人が不動産を取得する場合です。
 通常、相続登記の場合、登録免許税は2%ではなく、0.4%とされています(登録免許税法9条、別表第一の1号(二)イ)。
 そこで、信託でも、信託終了時に委託者の地位を承継した相続人に不動産の権利が移転するような場合には、相続登記の場合と同様に登録免許税を0.4%にとどめる形で法定されています(登録免許税法7条2項)。

5 その他の問題

 信託と債務控除や損益通算の問題については、「受託者が金融機関から融資を受ける場合の注意点」の、「2-2 税務上の注意点」」を参照してください。
 以上のように、課税関係は複雑ですので、信託に精通した弁護士に組成を依頼し、場合によっては税理士にアドバイスを受けるのが良いでしょう。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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