不動産を相続するには?手続きの流れや分割方法を弁護士が解説

相続

「遺産の中に不動産があるが、相続手続きはどうするのか」とお悩みでしょうか?
不動産の相続は、登記が必要で手続きが面倒です。分割方法や評価方法をめぐって、相続人の間でトラブルが生じるケースも少なくありません。
もっとも、面倒だからといって放置していると、さらに問題が深刻化するリスクがあります。少しずつでも前に進めるようにしましょう。
この記事では、
●不動産相続の流れ
●不動産を相続する際の分割方法
●不動産の相続における評価方法
などについて解説しています。
最後まで目を通せば、不動産を正しく相続するための基礎知識がわかります。遺産に不動産があるケースで相続人になった方は、ぜひお読みください。

不動産相続の流れ


始めに、不動産相続の流れを解説します。全体のおおまかなイメージをつかみましょう。

遺言の有無をチェックする

まずは、故人が遺言を残していたかをチェックしてください。遺言の有無によってその後の流れが大きく変わるためです。遺言の存在について生前に話がなかったとしても、金庫や引き出しなどを確認しましょう。
遺言があった場合には、基本的に遺言の内容に沿って相続手続きを進めます。相続人同士で遺産分割協議をする必要はありません。不動産の相続登記も、遺言によって行うことが可能です。
反対に遺言がなかったときには、相続人全員で遺産分割協議をして、不動産以外も含めて遺産の分け方を決めなければなりません。相続登記の際には、遺産分割協議書が必要です。

なお、遺言書が見つかったときには、裁判所で中身を確認する「検認」の手続きを忘れないでください。公正証書遺言や、法務局で保管していた自筆証書遺言については、検認が不要です。
参考記事:遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説

相続人を確認する


相続の際には、相続人が誰なのかを必ず調査しなければなりません。
相続人を調査するには、戸籍謄本を収集します。遠方の役所から取り寄せる場合など、時間を要するケースもあるため、早めに行ってください。

法定相続人の範囲は、以下のルールで決まります。

●配偶者(夫・妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫、孫も死亡していればひ孫)
2.両親(死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

遺産分割協議は、相続人全員が参加していないと無効です。「相続人はわかりきっている」と思っていても、前妻との子など、思わぬ相続人が発覚するケースもあります。後から面倒な事態にならないように、確実に調査しておきましょう。集めた書類は、相続登記の際にも使用します。

遺産に関する情報を集める


相続人の確認と並行して、遺産の中身を把握する必要があります。預貯金、株式などとともに、不動産の情報も収集してください。
自宅などは明らかですが、相続人でも存在を知らない不動産を所有しているケースもあります。権利証、固定資産税納付通知書、名寄帳などで確認しましょう。

遺産分割協議をする

相続人と遺産の範囲がわかったら、分け方を決定する遺産分割協議に進みます。
遺産分割協議は、必ず相続人全員の合意によらなければなりません。1人でも参加していないと無効です。
合意ができたら、遺産分割協議書を作成し、全員分の署名と実印の押印を行ってください。遺産分割協議書は、登記の際にも必要になります。

相続登記を申請する

分け方が決まった不動産については、法務局で登記をしなければなりません。登記をしていないと、権利の移転を第三者に対抗できなくなってしまいます。
相続登記の必要書類は後述します。

相続税を納付する

遺産が多い場合には、相続税の納付が必要になる可能性があります。目安は、遺産の総額が基礎控除の「3000万円+法定相続人の数×600万円」を超えているか否かです。
相続税が発生するケースでは「相続の開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告してください。期限を過ぎると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課せられてしまいます。
10ヶ月という期間は、思いのほか早く過ぎてしまうものです。早めに手続きを進めるようにしましょう。

不動産を相続する際の分割方法


不動産を相続する際の分け方には、いくつかのバリエーションがあります。不動産相続時の分割方法と各方法のメリット・デメリットについて解説します。

現物分割

現物分割とは、財産をそのままの状態で分割することです。例としては、元の土地を分筆して各相続人が取得するケースが挙げられます。「長男は不動産、次男は預貯金」といったケースも、現物分割の一例です。
現物分割は基本的な分割方法であり、不動産をそのままの状態にしておけるメリットがあります。たとえば、分けやすい広大な土地を相続するときには有力な選択肢です。
他方で、建物や狭い土地は、分割するのが困難であったり、分割により価値が低下したりします。こうした不動産が遺産の大半を占めるときには、公平に現物分割するのは難しいです。

代償分割


代償分割とは、一部の相続人が財産を取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払って調整する方法です。例としては、長男が遺産の不動産をすべて取得し、他の相続人に代償金を支払う場合が挙げられます。
代償分割は、不動産を分割・処分したくない場合に、公平な相続を実現する有効な方法です。
もっとも、財産を取得する相続人に十分な資産がないと、代償金を捻出できません。資金がないときには、他の方法を検討します。

換価分割

換価分割とは、遺産を売却して換金したうえで、代金を分割する方法です。
換価分割であれば、不動産が現金化されるため、分けやすいメリットがあります。不動産を利用する予定がないケースでは、有効な方法です。
もっとも、不動産を簡単に売却できない場合があり、価格もぶれやすい点がデメリットになります。不動産に愛着があり、どうしても残したい場合にも適していません。

共有分割

共有分割とは、遺産を相続人同士の共有状態にする方法です。相続人間で合意が難しい場合などに利用されます。
もっとも、不動産の売却などの重要な処分には共有者全員の同意が必要であり、相続後に問題が先送りになる懸念があります。特に相続人同士の関係が悪い場合には、トラブルの元です。相続人の中で亡くなる方がいると、さらに関係者が増えて収集がつかなくなる可能性も否定できません。
共有分割はデメリットが大きいため、できるだけ避けるべきです。

不動産の相続における評価方法


不動産相続においては、評価方法をめぐって対立が生じるケースもあります。特に代償分割の際には、不動産の評価額を把握しなければなりません。
以下で、代表的な不動産の評価方法・基準をご紹介します。

公示価格

公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が公表している土地の価格です。都市計画区域内で標準地として指定された土地についてのみ、毎年3月下旬頃に公表されています。
実際の取引価格に近いとされるものの、限られた土地しか公表されていない点がデメリットです。

基準地価格

基準値価格は、都道府県知事が公表している土地の価格です。基準地に指定された土地についてのみ、毎年9月下旬頃に公表されています。
都市計画区域外についても公表されており、山林の評価の参考にもなります。金額は公示価格と同程度です。

相続税評価額(路線価)

相続税評価額とは、相続税の計算の際に利用される土地価格です。国税庁が公表しており、路線価とも呼ばれます。金額は公示価格の8割程度です。
相続税評価額は毎年公表されており、全国で算出できる点がメリットです。実勢価格と離れているため、相続人の一部が受け入れられないケースがあります。

固定資産税評価額


固定資産税評価額とは、固定資産税の計算のための評価額です。金額は公示価格の7割程度です。
固定資産税評価額を利用すると、土地・建物ごとに簡単に評価がわかるメリットがあります。他方で、実勢価格とは離れた金額である点がデメリットです。

鑑定

争いが深刻な場合には、不動産鑑定士による鑑定で評価を決定するケースもあります。信頼性は高いものの、鑑定費用が高額な点がデメリットです。
費用を抑えるためには、不動産業者に簡易的な鑑定を求めるのが一般的です。もっとも、依頼者の意向によって金額が変わってしまう可能性が否めません。

不動産相続登記の必要書類


不動産を相続したときには、法務局で登記手続きをしなければなりません。
相続登記の必要書類は、ケース別に以下の通りです。

遺言があるとき

故人が遺言を作成していたときには、以下の書類で登記を行います。
●遺言書(検認が必要な遺言書は検認済みのもの)
●故人の死亡の事実が記載された戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●不動産を取得する人の戸籍謄本
●不動産を取得する人の住民票
●固定資産評価証明書
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)

遺産分割をしたとき

遺言がなく、遺産分割協議をしたケースでは、以下の書類が必要です。
●故人の出生から死亡までの戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●相続人全員の戸籍謄本
●不動産を取得する人の住民票
●遺産分割協議書
●相続人全員の印鑑証明書
●固定資産評価証明書
●相続関係説明図
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)

法定相続のとき

遺産分割協議がまとまらないときには、法定相続分に応じて登記することも可能です。
その場合は以下の書類が必要になります。
●故人の出生から死亡までの戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●相続人全員の戸籍謄本
●相続人全員の住民票
●固定資産評価証明書
●相続関係説明図
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)

不動産を相続したときにかかる費用


不動産を相続した際にかかる主な税金や費用をまとめました。

相続税

遺産の総額が基礎控除額を超えていると、相続税が発生する可能性があります。
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」です。たとえば法定相続人が2人のときは「3000万円+ 2×600万円=4200万円」になります。
不動産以外の財産も含めて遺産総額が基礎控除を超えている際には、相続税の申告・納付を忘れないようにしてください。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の登記をする際にかかる税金です。
金額は、相続登記の場合には「不動産の固定資産税評価額×0.4%」で求められます。贈与や売買で名義が変更する場合の登録免許税率と比べて低い税率とされています。

書類収集費用

不動産相続のためには、戸籍謄本、住民票などの取得費用や郵送費用がかかります。書類の量にもよりますが、少なくとも数千円は要します。

専門家の報酬

不動産相続のための手続きは複雑であり、専門家に依頼するケースも少なくありません。
登記申請を司法書士、相続税申告を税理士といった形で依頼すれば、報酬の支払いが必要になります。

不動産の相続手続きをしないリスク


面倒だからといって、不動産の相続手続きを放置してはなりません。手続きをしないと以下のリスクがあります。

第三者に権利を主張できない

遺産分割で不動産を法定相続分を超えて取得したとしても、登記をしないと第三者には対抗できません。
たとえば、他の相続人が法定相続分に相当する持分を勝手に売却して登記を済ませた場合には、自分が法定相続分を超えて取得したことを登記していないと、売却相手に権利を主張できません。登記手続きを怠っていると、手に入れた権利を失ってしまうリスクがあります。

利用・処分に制限がある

遺産に含まれる不動産は、遺産分割協議を経て分け方を決めるまでは、相続人全員で共有している状態になります。共有状態だと単独でできることに制限があり、たとえば売却は全員の同意がなければできません。
「家族仲がいいから大丈夫」という方も注意が必要です。時間の経過によって相続人のひとりが認知症になって判断能力を失うと、成年後見人の選任が必要となり、さらに面倒な事態になります。
参考記事:成年後見人が含まれる相続手続きの流れ|必要なケースや注意点を解説

関係者が増える

放置している間に相続人の誰かが亡くなれば、その子などが相続権を得ます。遺産分割協議は、新たに権利を得た人も含めて行わなければなりません。したがって、時間の経過とともに関係者が増えてしまい、合意形成や手続きが困難になってしまうのです。
子や孫の代まで持ち越さないために、不動産の相続手続きは早めに進めてください。

【2024年4月から】相続登記が義務になる

現在は相続登記は義務ではなく、放置していても罰則はありません。
しかし、2024年4月1日から施行される改正法により、3年以内の相続登記が義務化されます(改正不動産登記法76条の2)。改正前に開始した相続についても、さかのぼって適用されます。
義務を怠っていると「10万円以下の過料」というペナルティがあります。今後は相続登記の放置が許されなくなるのです。

不動産相続でお悩みの方は弁護士にご相談を


ここまで、不動産の相続について、流れ、分割方法、評価方法などについて解説してきました。
不動産は預貯金や株式に比べて分けるのが面倒であり、手続きを進められずにいる方もいらっしゃるでしょう。しかし、放置していると様々なリスクがあります。

不動産の相続でお悩みの方は、弁護士までご相談ください。不動産の評価を踏まえた分割方法の提案など、必要なアドバイスをいたします。
また、相続人の間で、不動産の分け方や評価方法について争いが生じるケースは珍しくありません。弁護士であれば交渉・調停などをお任せいただけるため、トラブルを解決に導くことが可能です。
「不動産をどう相続すればいいかわからない」「不動産の分け方をめぐってトラブルになっている」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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