成年後見人が含まれる相続手続きの流れ|必要なケースや注意点を解説

相続

相続人の中に認知症などで判断能力がない方がいるケースでは、相続手続きのために成年後見人を必要とする可能性があります。
成年後見人をつけずに手続きを進めても無効になるリスクがあるため、必要なケースや注意点をあらかじめ知っておきましょう。
この記事では、
●そもそも成年後見人とは?
●成年後見人が相続手続きに必要なケース
●成年後見人が選任されるまでの流れ
●成年後見人により相続手続きをする際の注意点
などについて解説しています。
相続人の中に認知症の方がいる場合には必ず知っておくべき内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

そもそも成年後見人とは?


まずは、成年後見人とはどのような制度かを解説します。

判断能力を欠く人の財産を守る

成年後見人は、病気や障害の影響で判断能力を欠く人(以下、「本人」と呼びます。)を保護するための存在です。
認知症や知的障害などにより判断能力がないと、自分の財産を適切に管理できません。必要がないのに高額な物を買ったり、内容を理解せずに遺産分割に応じたりするリスクがあります。
そうした人を保護するために用意されているのが、成年後見制度です。成年後見人は本人に代わって契約などを行う権限を付与されており、適切に本人の財産を維持管理をする義務を負っています。

成年後見人の役割

成年後見人の役割は以下になります。

財産管理

成年後見人の役割として重要なのが本人の財産管理です。
たとえば、本人に代わって次の行為を行います。
預貯金の出し入れ、解約
保有不動産の管理
税金・家賃・公共料金などの支払い
遺産分割協議

身上保護

身上保護も役割として挙げられます。
身上保護とは、本人の生活や療養のために必要な環境を整えることです。具体的には、老人ホームの入所契約や介護サービスの申込みが挙げられます。
成年後見人の役割は環境を整える点にあり、介護行為そのものは業務の範囲に含まれません。

成年後見制度の種類


成年後見制度には、大きく分けて「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。

任意後見

任意後見とは、本人の判断能力が十分あるうちに後見人と契約を結んでおく制度です。実際に判断能力が失われた後で後見人がつく形になります。
本人が自分の意思で後見人を選ぶことができ、事前に判断能力がなくなる場合に備えられる点が特徴です。
判断能力を失った後は任意後見を利用できません。相続手続きのために急に後見人が必要になったケースでは、次の法定後見を利用します。

法定後見

法定後見とは、本人の判断能力がなくなった時点で裁判所に申立てをして後見人をつける制度です。
法定後見は「後見」「保佐」「補助」の3種類に分かれます。判断能力がまったくない場合には「後見」が利用され、症状が軽いケースでは「保佐」や「補助」となります。それぞれ「後見人」「保佐人」「補助人」がつき、権限の内容が異なります。
医師の判断を元にどの制度を利用するかを決めますが、実態として多いのは「後見」です。本記事は法定後見のうち「後見」を想定した内容となっています。

成年後見人になれる人

成年後見人になるのに特別な資格は必要ありません。親族を候補者として申立てることが可能で、実際に親族が成年後見人につくケースもあります。
ただし、判断するのは家庭裁判所であり、希望通りになるとは限りません。現実には、親族以外の専門家(弁護士、司法書士など)が選任される場合が多いです。特に相続手続きが始まっているケースでは、本人とともに相続人になっている親族は成年後見人になれないとお考えください。

成年後見人の報酬

主に専門家が選任された場合には、成年後見人に対して報酬を支払わなければなりません。支払いは本人の財産からなされます。
報酬額は法律では定められていませんが、裁判所が示す目安では月額2万円です。ただし、財産が多い場合には3〜6万円に増額されます。また、遺産分割協議などの対応をした場合には報酬が付加される可能性もあります(参考:成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所)。

成年後見人が相続手続きに必要なケース


相続人の中に認知症などで判断能力を欠く方がいる場合、成年後見人をつけないと相続手続きが進められない可能性があります。ここでは、成年後見人が相続手続きに必要なケース、不要なケースをご紹介します。

遺産分割協議をする場合には必須

遺産分割協議をする場合には成年後見人が必要です。
遺産分割協議には法定相続人全員が参加しなければならず、認知症だからといって除外することはできません。また、判断能力のない人が遺産分割協議書に署名押印をしても無効になってしまいます。
遺産分割協議には成年後見人が本人に代わって参加します。まずは家庭裁判所に成年後見人の選任申立てをしてください。

遺言書通りに相続するなら不要

故人が遺言書を残していれば、遺産分割協議をせずに相続が可能です。したがって、遺言書に沿って相続する場合には成年後見人をつけなくても構いません。

遺言書がなくても不要なケースは?

遺言書がなくても、法定相続分に従って不動産の登記をするだけであれば相続人ひとりでもできるため、成年後見人を選ばずとも可能です。もっとも、相続人の共有となった不動産は全員の合意がないと売却できません。判断能力がない人は同意すらできないため、相続後の処分がしづらくなります。
また、預貯金については、遺産分割協議をしないと一部しか払戻しができません。
現実的には、遺言書がないケースでは何らかの不都合が生じ、結局成年後見人が必要になる可能性も高いといえます。

成年後見人が選任されるまでの流れ


遺産分割協議をするために成年後見人が必要な場合、家庭裁判所に選任申立てをしなければなりません。成年後見人が選任されるまでの手続きの流れを解説します。
なお、裁判所によって必要書類や手続きの進め方などが異なる可能性もあります。以下では東京家庭裁判所の場合を念頭に説明しますが、詳細は申立て先の裁判所に確認するとより正確です。
参考:申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助)|東京家庭裁判所後見センター

申立て

成年後見人については、申立てまでにかかる手間が多いです。以下の事項を頭に入れておきましょう。

申立人

成年後見の申立てができる主な人は次の通りです。
●本人
●配偶者
●4親等内の親族
●市区町村長
「4親等内の親族」には、親・子・兄弟姉妹・孫・甥姪などが含まれます。本人と共同で相続人になる関係であれば該当する場合がほとんどです。
市区町村長が申立人となるのは、本人に身寄りがない、あるいは協力してくれないケースです。

申立て先

申立て先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄は裁判所のサイトから確認できます。本人が東京23区に住んでいれば東京家庭裁判所になります。

必要書類

必要書類は以下の通りです。詳細は地域により異なるため、申立て先の裁判所にご確認ください。
●申立書
裁判所の書式を利用して申立てに至る事情などを記載します。親族関係図、本人の財産目録、相続財産目録、収支予定表などと、その参考資料のコピーも提出します。後見人の候補者を立てる場合にはその事情説明書も必要です。
●診断書
後見・保佐・補助のいずれに該当するかの判断材料となります。事前に主治医に作成を依頼しましょう。裁判所の書式を利用してください。
●本人の戸籍謄本
本人の本籍地の自治体から取得してください。
●本人の住民票または戸籍附票
後見人候補者を立てる場合には、候補者のものも必要です。
●本人が登記されていないことの証明書
法務局で取得します。

費用

申立てには、東京家庭裁判所への後見申立ての場合、以下の費用がかかります。
●申立手数料 収入印紙800円分
●登記手数料 収入印紙2600円分
●郵送料 郵便切手3270円分
この他に、家庭裁判所が必要と判断したケースでは、本人の判断能力の判定に鑑定費用10〜20万円程度が追加でかかります。

審理

申立てがなされると、家庭裁判所が後見が必要か否か、誰を後見人に選出すべきかなどを審理します。
書類審査だけでなく、必要に応じて
●申立人・候補者との面接
●親族への意向照会
●医師による鑑定
●本人への調査
なども実施されます。

審判

審理が終了すると審判がくだされます。成年後見が必要とされれば後見開始が決定し、後見人も選ばれます。後見人に加えて後見監督人が選ばれるケースもあります。

誰が選ばれる?

誰が選ばれるかはケースバイケースであり、候補者が選ばれるとは限りません。遺産分割協議が必要な場合には、弁護士などの専門家が選ばれる可能性が高いです。
共同相続人となっている親族は、後見人に選ばれないとお考えください。なぜなら、遺産分割協議において共同相続人と本人は同じ遺産を分け合う関係にあり、利害が対立するためです。共同相続人が後見人として本人を代理すると、本人に不利益な判断をするリスクが高いといえます。
なお、相続が始まった時点ですでに共同相続人が成年後見人についていた場合には、遺産分割協議のための特別代理人を別途選任してもらう必要があります。後見監督人が事前に選ばれていれば、特別代理人をたてなくて構いません。

期間はどれぐらいかかる?

場合によりますが、2ヶ月以内に終わるケースが7割以上を占めます。鑑定が必要な場合などには長引く可能性がありますが、9割以上が4ヶ月以内に終了しています(参考:成年後見事件の概況|最高裁判所)。
いずれにせよ、迅速に相続手続きを進めたいのであれば早めに申立てるのが望ましいでしょう。

成年後見人により相続手続きをする際の注意点


成年後見人をつけて相続手続きする際にはデメリットもあります。以下の点は事前に知っておいてください。

法定相続分は確保する必要がある

成年後見人がついた場合には、原則として本人に法定相続分以上の財産を確保する形になります。成年後見人は本人を保護する役割を担い、法定相続分よりも少ない財産しか取得できないと後見人としての義務を果たしていないことになるためです。
本人の取り分を少なくした方が後に他の相続人にとって都合がいいとしても、思い通りにはいきません。成年後見はあくまで本人の財産を保護するための制度であるため、法定相続分は与える必要がある点は頭に入れておきましょう。

相続が終わった後も続く

相続が終わった後も、成年後見人がついている状態は継続します。現在の法制度では成年後見人は正当な理由がなければ辞任できず、本人が死亡するまで続くとされるためです。したがって、専門家が選任されていた場合には報酬を支払い続けなければなりません。
遺産分割協議のためだけに選んだとしても、生涯報酬の支払いが必要な点には注意してください。

相続税対策ができない

成年後見人がついていると、本人が亡くなる場合に備えた相続税対策も難しくなります。
成年後見人は本人のために財産管理をしているのであり、相続税対策は本人の財産にとってプラスになるわけではありません。親族が「生前贈与などで死亡時の相続税を減らしたい」と考えても、後見人は自由に財産を処分できないのです。また、親族の生活のために本人の財産を利用するのも難しくなります。
財産利用の自由度が下がってしまうのは、成年後見人をつけるデメリットといえます。

成年後見人をつけて相続を進めるには弁護士にご相談を


ここまで、成年後見人をつける場合の相続手続きの流れについて解説してきました。
判断能力がない人が法定相続人となっているケースでは、遺産分割協議をするために成年後見を裁判所に申立てる必要があります。法定後見のデメリットも理解した上で手続きを進めてください。
自分で申立てるのが難しい場合には、弁護士に手続きを依頼できます。手続きを任せれば、仕事やプライベートの時間を確保できるだけでなく、安心して精神的にも楽になるでしょう。
なお、法定後見のデメリットを回避するために、判断能力があるうちに対策をしておく場合にも、様々なご提案が可能です。
「成年後見人が必要かわからない」「必要書類を集めるのが大変そう」「今のうちから認知症対策をしておきたい」などとお悩みの方は、ぜひダーウィン法律事務所までご相談ください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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