農地の相続はどうする?手続きや農業をしないときの対処法を解説

相続

「遺産の中に農地があるが、自分は農業をするつもりはない。手続きや処分はどうすればよいのか」とお悩みでしょうか?
農地を相続した際には農業委員会への届出が必要になり、相続後の活用や売却には制限が生じます。相続人全員が農業をするつもりがなく、処分に困り果ててしまう方も多いです。農地の相続をめぐってトラブルが発生するケースも少なくありません。
この記事では、
●農地を相続するメリット・デメリット
●農地の相続に必要な手続き
●農業をしないときの対処法
などについて解説しています。
遺産の中に農地があってお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

農地を相続するメリット


場合によっては、農地を相続するメリットが大きいケースもあります。

農業ができる

現在農業に従事している、あるいは今後従事しようと考えている場合には、農地を相続するメリットが大きいです。うまくいけば、収穫した農作物が大きな収入源になる可能性があります。
「もともと手伝っていた」「親が亡くなったら継ごうと思っていた」といったケースでは、農地を相続するのに障害は少ないでしょう。

農家に貸し出せる

自分で農業をするつもりがなくても、他の農家に貸し出せば定期的な収入を得られます。土地が無駄にならず、有効な方法のひとつです。
もっとも、相手がいなければ貸し出しはできません。借り手がいるかを事前に確認しておきましょう。また、農地を貸し出すには農業委員会の許可が必要になります(農地法3条)。

転用して活用できるケースもある

農地として利用する人がいないときには、他の用途に転用して活用する方法があります。宅地にすれば、収益用不動産を建設したり、駐車場にしたりして収入を得られます。
もっとも、用途を変更するには許可が必要です(農地法4条)。結局農地としてしか利用できない可能性もあるため、注意してください。

農地を相続するデメリット


状況によってはメリットが想定されるものの、現実には、農地の相続により生じるデメリットが大きいケースもあります。

管理が面倒

農地は宅地と比べて管理が面倒です。雑草の処理や害虫対策など、農地には日常的なメンテナンスが欠かせません。
自ら農業を営むならともかく、農業をするつもりがないのに費用や手間だけかかってしまうのであれば、農地を相続するデメリットが大きいといえます。

うまく活用できない

農地として自分で利用するつもりがなければ、賃貸や転用など他の活用方法を考えるでしょう。
しかし、条件が悪く借り手が見つからなければ、貸し出しはできません。転用して他の利用方法を探ろうとしても、手続きが面倒であったり、許可がおりなかったりする問題があります。
相続した農地をうまく活用できずにお困りの方は、少なくないでしょう。

簡単に手放せない

活用が難しいのであれば、売却を検討するはずです。
しかし、農地の売却には農業委員会の許可が必要であり(農地法3条)、手続きに手間がかかります。周囲に農家がいないなど、そもそも買い手が見つからない可能性もあります。
簡単に売却できないのは、農地を相続する大きなデメリットです。

農地の相続に必要な手続き


農地を相続する際には、法務局での相続登記の後に、農業委員会への届出をしてください。

相続登記

他の不動産を相続した場合と同様に、農地を相続した際には、相続登記をしなければなりません。登記は法務局で行います。
遺産分割協議を経て相続する場合、必要書類は以下の通りです。
●故人の出生から死亡までの戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●相続人全員の戸籍謄本
●農地を取得する人の住民票
●遺産分割協議書
●相続人全員の印鑑証明書
●農地の固定資産評価証明書
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)
書類の準備や遺産分割協議をしたうえで、法務局に申請してください。

遺言にしたがって相続する際には、手続きに遺言書(検認を要する遺言書は検認済みのもの)が必要です。
なお、法定相続人以外の人が特定遺贈により農地を取得する場合には、相続登記の前に、農業委員会による許可を得なければなりません(農地法3条)。受贈者が農家でない場合などには、許可がおりません。包括遺贈や法定相続人への特定遺贈の場合には、事前の許可は不要です(農地法3条16号農地法施行規則15条5号)。

農業委員会への届出

農地を相続する場合には、法務局への相続登記のほかに、市町村の農業委員会への届出をしなければなりません(農地法3条の3)。審査を要する許可とは異なり、届出は必要書類を提出すれば完了します。
必要書類は以下の通りです。
●届出書(農業委員会指定の様式)
●登記事項証明書
登記事項証明書には、相続登記の情報が記載されている必要があります。先に相続登記をすませてから、農業委員会への届出を行ってください。

届出は「相続開始(故人の死亡)を知ってから10か月以内」にしなければなりません。届出を怠ると「10万円以下の過料」というペナルティの可能性があります(農地法69条)。

農地にかかる相続税


農地を相続すると、相続税が課される可能性があります。

遺産総額が基礎控除を超えると課税される

相続税が課され得るのは、遺産総額が基礎控除額を超えたケースです。
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」です。たとえば法定相続人が2人のときは「3000万円+ 2×600万円=4200万円」になり、遺産総額が4200万円を超えていれば相続税が課される可能性があります。

相続税の有無や金額は、農地単独ではなく、遺産全体から判断されます。農地の価値が低いとしても、他の遺産の価値が高ければ相続税が課されるので注意してください。

相続税が発生するケースでは「相続の開始(故人の死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告しましょう。期限を過ぎると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課されてしまいます。

農地の評価方法


相続税を計算する際には、農地の評価額を確定しなければなりません。
相続税評価における農地の区分や評価方法は、以下の通りです(参考:農地の評価|国税庁)。一般的には、表の下に行くほど評価額は高くなります。

農地の区分 評価
純農地 農用地区域内の農地
甲種農地
第1種農地
倍率方式(※1)
中間農地 第2種農地 倍率方式(※1)
市街地周辺農地 第3種農地 市街地農地だった場合の80%
市街地農地 転用許可を受けた農地
市街化区域内の農地
転用許可を要しないと指定された農地
倍率方式(※1)
または
宅地比準方式(※2)

※1 「固定資産税評価額×倍率」
※2 「(宅地とした場合の1㎡あたりの価額-1㎡あたりの造成費)×地積」

農業を続けるなら納税が猶予される

相続人が引き続き農業をする場合には、一定の相続税の納税が猶予される特例があります。相続後も死亡するまで農業を続けていれば、猶予されていた相続税が免除されます。
特例の適用を受けるには、条件を満たしたうえで、所定の手続きをしなければなりません(参考:農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例|国税庁)。

特例を利用すれば、相続税の負担を抑えられます。もっとも、相続人が農業をやめると、猶予されていた相続税のほかに、利子税も課されてしまいます。特例を利用するか否かは、慎重に検討してください。

農業をしないときの対処法


遺産に農地が含まれていても、「遠くに住んでいる」「会社員で農業経験がない」といった理由で、相続人は農業をする気がないケースも多いでしょう。
自分で農業をする予定がないときの対処法としては、以下が考えられます。

農地のまま売却・貸し出しをする

まずは、農地のままいったん相続したうえで、売却や貸し出しをする方法があります。
農業に適した土地を有効活用できるうえ、相続人も金銭を得られる点がメリットです。
もっとも、農地の売却や賃貸借をする際には、農業委員会の許可を受けなければなりません(農地法3条)。農家でなければならないなど制約があるため、相手が見つからない可能性もあります。事前に農業委員会に相談するなどして、売却・貸し出し先があるのかを調べておくとよいでしょう。

宅地に転用する

農地を宅地に転用するのも選択肢のひとつです。宅地にすれば売却がしやすいだけでなく、自分で建物を建てる、駐車場にするなどして活用する道もあります。
もっとも、農地を転用する際には許可が必要です(農地法4条)。許可を受けられない農地の場合には、他の方法を検討せざるを得ません。転用できるとしても、実際に有効に活用できるかは慎重に吟味しておきましょう。

相続放棄する


売却や転用が難しいときには、相続放棄も考えられます。相続放棄とは、プラスマイナス問わず、すべての遺産を相続しないことです。相続放棄をすれば、農地を相続せずにすみます。
ただし、相続放棄は遺産全体に対してなされるため、「農地だけを相続放棄する」ことはできません。取得したい遺産がある場合には、適さない方法です。

相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」という期間制限があります(民法915条)。基本的に、亡くなってから3ヶ月以内に裁判所で手続きをしなければなりません。3ヶ月で判断が難しい場合には、期間の延長も可能です。

参考記事:借金を絶対に背負いたくない!相続放棄のポイントを弁護士が解説

最低限の管理だけする

上記の方法が難しいときには、相続したうえで最低限の管理だけする方法もあります。管理をせずに放置すると周囲に迷惑がかかり、最悪の場合損害賠償請求を受けるリスクもゼロとはいえません。害虫の駆除など、最低限の管理は必要です。
固定資産税がかかり続けるうえに土地が無駄になってしまいますが、他に方法がなければやむを得ません。

【2023年4月から】国に引き取ってもらえる制度がスタート

2023年4月27日に相続土地国家帰属法が施行され、「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました(参考:相続土地国庫帰属制度について|法務省)。この制度では、土地を相続した人が法務局に申請して認められれば、土地を国に引き取ってもらえます。
引き取ってもらう場合には、10年分の管理費相当額を負担しなければなりません。建物がある場合など、そもそも引き取ってもらえない土地もあります。
農地であっても相続土地国庫帰属制度の対象になるため、扱いに困った場合には、制度の活用を検討するのもひとつの方法です。

農地の相続でよくあるトラブル


遺産に農地が含まれていたせいで、相続においてトラブルが発生するケースがあります。
典型的なトラブルとしては、以下が挙げられます。

遺産分割協議がまとまらない

故人が遺言書を残していなかったときには、相続人全員で遺産分割協議をして、遺産の分け方を決めなければなりません。
一般的に、農地は評価額が低いため、農地を取得する相続人が他の財産も要求する可能性があります。そこで他の相続人が「農地をもらえるなら他はいいだろう」と主張し、対立が生じてしまうのです。
自分たちだけで遺産分割協議がまとまらなければ、調停など裁判所を利用した手続きが必要になります。

農業を引き継ぐ相続人がいない

よくあるのが、農地を取得して農業を引き継ぐ相続人がいないケースです。遠隔地に住んでいて農業経験がない相続人ばかりだと、農地を誰も取得したがらないでしょう。
第三者に売却できそうならまだしも、処分の見通しが立たなければ、話し合いが停滞してしまいます。結果的に、誰にも管理されず荒れ地になってしまうケースも多いです。

手続きがわからない

農地の扱いは他の不動産と比べて難しいといえます。売却や転用には許可が必要であり、手続きも面倒です。農地の相続に慣れておらず、どうすればよいかわからずに困ってしまうケースも少なくありません。
手続きの押し付け合いになってしまい、農地の相続が進まない事態も想定されます。

農地の相続でお悩みの方は弁護士にご相談を


ここまで、農地の相続について、メリット・デメリット、必要な手続き、農業をしないときの対処法、典型的なトラブルなどについて解説してきました。
農地に関する各種手続きは面倒であり、特に農業をする予定がない相続人の方にとっては、扱いが面倒に感じられるでしょう。

農地の相続に関してお悩みの方は、弁護士にご相談ください。
弁護士は、農地の相続に必要な手続きや最適な分割方法に関するアドバイスをいたします。
すでにトラブルが生じている場合には、調停など裁判所での手続きもお任せいただけます。
「農地の相続が面倒」「遺産の農地をどうすればよいのかわからない」といった方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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