借金を絶対に背負いたくない!相続放棄のポイントを弁護士が解説

相続

「故人が抱えていた多額の借金を相続したくない」とお悩みでしょうか?
亡くなった近親者の借金を引き継ぎたくなければ、相続放棄という選択肢があります。
もっとも、相続放棄には、プラスの財産を引き継げなくなる、他の相続人に迷惑がかかるなど気をつけるべき点が多数存在します。
後悔することのないよう、相続放棄のポイントを知っておきましょう。
この記事では、
●借金を相続放棄するデメリット
●借金を相続放棄できないケース
●相続放棄に関する手続きの流れ
などについて解説しています。
借金を抱えて亡くなった方のご遺族が知っておくべき内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

相続放棄をすれば借金を相続せずに済む


相続放棄とは、プラス・マイナスを問わず、故人の財産すべてを相続しないことです。
相続放棄の効力については、民法939条に規定があります。

民法939条
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続放棄をすると元から相続人でなかったことになるため、借金を含めて故人から一切の財産を相続せずに済みます。相続放棄をしたい場合には、家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。

借金を相続放棄するデメリットと対処法


相続放棄をすれば借金を引き継がずに済みますが、デメリットも存在します。
借金を相続放棄するデメリットと対処法をご紹介します。

プラスの財産を引き継げない

相続放棄をすると相続人としての地位を失うため、プラスの財産も引き継げなくなってしまいます。たとえ故人所有の自宅に同居していた場合でも、相続放棄をすれば手放さなければなりません。
「借金はあるがプラスの財産は引き継ぎたい」というケースでは「限定承認」という方法も考えられます。
限定承認とは、プラスマイナス問わず財産を引き継いだうえで、借金については得たプラスの財産の範囲で責任を負うとする方法です(民法922条)。たとえば、プラスの財産が2000万円、マイナスの財産が3000万円であれば、2000万円の弁済で済みます。
限定承認は、どうしても欲しい遺産があるケースや、遺産の価値がトータルでプラスかマイナスかが不明なケースで有効です。
もっとも、限定承認は相続人全員の合意で行わなければなりません(民法923条)。また、短期間で相続人において財産漏れの無い正確な財産目録を作成する必要があるなど、手続きが面倒などの理由でハードルが高く、限定承認はあまり利用されていないのが実情です。

他の相続人が取り立てを受けるおそれ

相続人のひとりが借金を相続放棄すると、他の相続人が借金を背負います。さらに相続人全員が相続放棄をした場合には、相続権が次順位の親族に移ります。次順位の相続人が相続放棄をせずにいると、借金の取り立てを受けるリスクがあります。

相続人の範囲についてのルールは以下の通りです。

●配偶者(夫や妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫)
2.両親(死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

たとえば、父に先立たれた状態で母が亡くなり、相続人が長男・次男の2人だったとしましょう。
母が多額の借金を抱えていたために長男が相続放棄をすると、次男が全財産を相続します。さらに次男も相続放棄し、母の両親もすでに亡くなっていれば、相続人になるのは母の兄弟姉妹です。兄弟姉妹が自分に相続権が移った事実を知らずにいると、借金を相続してしまい、債権者から取り立てを受ける可能性があります。
こうした事態を防ぐためには、相続放棄をする際に、他の相続人や次順位の相続人に事情を説明しておくのが賢明です。知らせを受けた人は、自分も相続放棄すべきかを判断できます。借金が多額であれば、全員で相続放棄をするのがよいでしょう。
思わぬ取り立てを受けて親族間にトラブルが発生しないよう、疎遠であっても連絡をとって相続放棄の事実を伝えるようにしてください。

なお、すべての相続人が相続放棄をしたケースでは、債権者などの請求により「相続財産管理人」が選任され、プラスの財産から支払いがなされる可能性が考えられます。また、借金に連帯保証人がいた場合、その人の返済義務は相続放棄に関係なく残ります。
相続財産管理人については以下の記事を参照してください。
相続財産管理人とは?選任すべきケースや手続きを弁護士が解説

撤回は不可

一度相続放棄をすると、基本的に撤回はできません(民法919条1項)。多額の資産が判明して「相続しておけばよかった」と思っても後の祭りです。
相続放棄をする前に、十分に財産調査を行ったうえで相続方法を検討するようにしてください。

借金を相続放棄できないケース


民法921条に定められたケースに該当すると相続放棄ができません。

民法921条
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

1号から3号に規定されたいずれかの場合にあてはまると「単純承認」をしたものとみなされてしまいます。単純承認とは、プラス・マイナス問わずすべての財産を相続することです。したがって、借金も全額相続しなければなりません。
以下で、民法921条により単純承認になるケースを1号から順に紹介します。あてはまらないように注意してください。

先に財産に手をつけた

1号は相続財産を「処分」したケースです。
「処分」とは、財産の現状を変える行為を意味し、簡単にいうと「遺産に手をつけた」ことをいいます。
たとえば以下のケースが「処分」に該当します。
●土地を売却した
●建物を解体した
●預貯金を引き出して自分の生活費にあてた
特に注意して欲しいのが、借金の取り立てを受けて故人の財産から支払いをしても、単純承認になり得る点です。請求された際には、事情を説明して待ってもらう、自分の財産から支払うなどで対応し、故人の財産から返済することがないようにしてください。
なお、遺産に手を加えても、「保存」に該当する場合には単純承認とはなりません。
たとえば、以下のケースです。
●壊れそうな屋根やブロック塀を補修した
●腐敗した食品を廃棄した
現実には「処分」なのか「保存」なのか判断が難しいケースもあります。遺産に手を加える際には慎重に行い、必要に応じて専門家に相談してください。

申告期限を過ぎた

民法921条2号により単純承認とされるのは、相続放棄を期限内にしなかったケースです。相続放棄の期限は、民法915条1項に定められています。

民法915条1項
相続の承認又は放棄をすべき期間
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

条文の「自己のために相続の開始があることを知った時」とは、一般的には死亡した時です。亡くなってから3ヶ月以内に裁判所に申述しないと、単純承認したとみなされて、相続放棄ができなくなってしまいます。3ヶ月という期間は思いのほか短いので、早めに手続きをしてください。
財産の全容が判明しないなど、期限内に相続放棄をするかの判断が難しい場合には、期限の延長を申請できます。迷ったらとりあえず延長を申請した方がよいでしょう。延長される期間は3ヶ月程度のケースが多いです。
期限を過ぎて単純承認とみなされないために、相続放棄を考えている場合にはすぐに行動してください。

申請後に財産を隠した・消費した

民法921条3号に定められているのは、相続放棄をした後に隠したり消費したりしたケースです。
たとえば、
●高価な遺品を持ち帰った
●故人のタンス預金を使い込んだ
といった場合が該当します。
経済的価値がない物を「形見分け」として受け取る分には構わないと考えられます。
相続放棄の手続きが終わった後であっても、単純承認とみなされる行為をしないよう注意してください。

相続放棄に関する手続きの流れ


では、相続放棄は実際にどのように進めればよいのでしょうか?
相続放棄に関する手続きの流れを解説します。

財産を調査する

まずは、遺産の内容を調査して価値を把握しなければなりません。遺産の中身がわからなければ、相続放棄すべきかを判断できないためです。
具体的には、
●預金通帳
●保険証書
●納税通知書
●貸し借りの契約書
●故人宛の郵便物
などから、プラス・マイナス双方の財産の存在・金銭的価値を調査します。負債については、信用情報機関への問い合わせも有効です。

相続方法を決める

遺産を把握したら相続方法を検討します。
相続方法は以下の3つです。

相続方法 プラスの財産 マイナスの財産 適したケース
単純承認 相続する 相続する プラスが大きい
限定承認 相続する プラスの財産の限度で相続する ・どちらが多いか不明
・欲しい遺産がある
相続放棄 相続しない 相続しない マイナスが大きい

限定承認は便利な制度にも思えますが、相続人全員の合意が必要で手続きも面倒であるため、あまり利用されていません。プラスが大きい場合には単純承認、マイナスが大きい場合には相続放棄を選ぶのが一般的です。
単純承認には裁判所での特別な手続きは要求されません。そのまま相続人同士の遺産分割協議に進んでください。

必要書類を集める

相続放棄や限定承認を選択した際には、裁判所への申述手続きをしなければなりません。手続きに必要な書類を収集・作成しましょう。
相続放棄の場合、必要書類は以下の通りです。
●相続放棄の申述書(書式・記載例は裁判所サイトに掲載)
●故人の住民除票または戸籍附票
●相続放棄する人の戸籍謄本
●故人等の戸籍謄本(相続放棄する人との関係により必要なものが変わる)
戸籍謄本類は手元に届くまで時間がかかるケースもあるため、早めに取り寄せるようにしましょう。

また、申立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙800円分
●連絡用郵便切手(裁判所により異なる。東京家庭裁判所の場合、84円4枚、10円4枚の合計376円分)
場合によって追加書類の提出を求められるケースもあります。裁判所に確認して指示に従ってください。

裁判所に申告する

必要書類が揃ったら、家庭裁判所に提出します。
提出先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。相続放棄をする人の居場所に関係なく、故人の住所により決まります。管轄がわからなければ裁判所のサイトから確認してください。たとえば、故人の最後の住所が東京23区であれば、東京家庭裁判所(本庁)が管轄です。
相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」という期間制限があります。亡くなってから3ヶ月以内に手続きをするようにしてください。
3ヶ月で判断が難しい場合には、期間の延長を裁判所に申請しましょう。

債権者・他の相続人に知らせる

書類が提出された後は、裁判所から書面で質問があり、回答する流れになるのが一般的です。問題がなければ相続放棄が受理され、通知書が届きます。
受理されたら、相続放棄をした事実を債権者や他の相続人に伝えてください。債権者から自分への取り立てを回避し、取り立てが向かいかねない他の相続人に相続放棄のきっかけを与えるためです。家庭裁判所に申請すれば相続放棄受理証明書を発行してもらえるため、相続放棄の事実を債権者に対して証明できます。

借金を相続放棄したい方は弁護士にご相談を


ここまで、故人に借金がある場合の相続放棄について、デメリット、できないケース、手続きの流れなどを解説してきました。
故人が借金を多く抱えていても、相続放棄をすれば負担せずに済みます。3ヶ月の期間制限があるので、早めに行動してください。くれぐれも遺産には不用意に手をつけないように注意しましょう。
相続放棄に関してお悩みの方は、弁護士にご相談ください。弁護士は、財産調査、放棄すべきかの判断、裁判所での手続きまでサポートいたします。もちろん、どうしても欲しい財産があり限定承認をお考えの方でも対応可能です。
「借金は背負いたくないがどう進めればよいかわからない」とお悩みであれば、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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