民事信託(家族信託)の受託者に資格は必要?なれる人や選び方を解説

信託

民事信託(家族信託)における受託者は、委託者の財産を預かって、受益者のために管理する人です。
民事信託の受託者になるのに、特別な資格は必要ありません。家族はもちろん、他の親戚や友人であっても受託者になれます。複数人や法人でも受託者への就任が可能です。もっとも、未成年者や専門家などは受託者になれません。
受託者は財産を管理する役割を担い、民事信託において重要なポジションです。信頼できるか、長期間務められるかなどを検討し、慎重に選ぶ必要があります。
この記事では、
●民事信託の受託者になるのに資格は必要か?
●民事信託で受託者になれるケース・なれないケース
●民事信託の受託者の選び方
などについて解説しています。
民事信託で受託者を誰にすればよいかお悩みの方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

そもそも民事信託における受託者とは?


弁護士
野俣 智裕
民事信託における受託者についてご説明します。

民事信託における受託者とは、契約等の定めにしたがって、委託者の財産を管理・処分などする義務を負っている人です信託法2条5項)。
民事信託では、委託者の財産が信託財産となり、受託者が管理します。契約等の定めに応じて、受託者はたとえば以下の権限を有しています。
●口座内の金銭を管理する
●収益用不動産を修繕する
●自宅不動産を売却する
受託者は強大な権限を有する反面、多くの義務を負っています。たとえば以下の義務です。
●信託事務遂行義務(信託法29条1項
●善管注意義務(信託法29条2項
●忠実義務(信託法30条
●信託財産の分別管理義務(信託法34条
●帳簿等の作成・報告・保存義務(信託法37条
受託者は形式的に所有権を有し強大な権限を持っていますが、受益者のために信託財産を管理・処分するように義務づけられています。信託財産から勝手に利益を享受することはできません(信託法8条)。
財産管理を任されている受託者は、民事信託において重要な存在といえます。

民事信託の受託者になるのに資格は必要?


弁護士
野俣 智裕
民事信託において受託者は重要な存在ですが、受託者になるのに資格は必要なのでしょうか?

特別な資格は不要

民事信託で受託者になるのに、特別な資格は必要ありません。事業として行うのでなければ、基本的に誰でも受託者になれます。
多くのケースで、委託者の子などの家族が受託者に就任します。法律上は家族に限られておらず、他の親戚や友人、あるいは法人でも構いません。

未成年者はなれない

受託者になるのに特別な資格は不要ですが、未成年者は受託者になれません信託法7条)。
18歳未満の未成年者は、未熟であり法的な判断能力が不十分です。親権者(法定代理人)の同意を得たとしても、法律上受託者への就任が認められていません。
かつては、後見人や保佐人がついた人(被後見人、被保佐人)も法律上受託者になれないとされていました。不当な差別を防止するために法改正がなされ、現在は被後見人や被保佐人が受託者に就任するのを禁止する文言は削除されています。
未成年でなければ、特別な資格がなくても受託者への就任が可能です。

民事信託で受託者になれるケース


弁護士
野俣 智裕
具体的に民事信託で受託者になれる人としては、以下が挙げられます。

家族

典型的なのは、家族が受託者になるケースです。多くのケースで家族が受託者になるため、民事信託は「家族信託」とも呼ばれています。
特に多いのが、委託者の子が受託者になるケースです。高齢の親のために、子が金銭や不動産などを管理します。
もちろん、子以外の配偶者や兄弟姉妹でも受託者になれます。ただし、委託者と同世代だと、受託者が先に亡くなる可能性が否定できません。後継受託者を指定しておくなどの対策が必要です。

家族以外の個人

家族以外でも受託者になれます。「家族信託」との名称から誤解されている方もいますが、受託者に「〇親等以内」などの制限はありません。
甥・姪、孫などの親族はもちろん、親族でない友人などであっても、受託者への就任が可能です。任せられる家族がいない場合でも、他に適任者がいれば信託を始められます。

複数人

受託者は1名には限られていません。複数の人が受託者になるのも可能です。
たとえば、長男と次男の2名を受託者にできます。受託者が複数だと負担を分散できる、話し合って決められる、互いに監督ができるといったメリットがあります。
もっとも、基本的に複数人が受託者になるのはオススメできません。
受託者が2人以上のときは過半数の同意によって信託事務の処理について決めますが(信託法80条1項)、意見が合わずに決定できないリスクがあります。たとえば、兄弟の意見が合わずに不動産を売却できないケースです。
他にも、信託口口座を作成できないおそれがあります。スムーズに進まないと、せっかく信託をした意味がなくなってしまいます。
複数の家族を信託に関与させたいときには、以下の方法も選択肢です。

複数人が受託者になるのは法律上可能ですが、問題が生じないかを慎重に検討してください。

一般社団法人

受託者は個人に限られません。法人であっても受託者への就任が可能です。
実務上、家族で一般社団法人を設立し、受託者とするケースがあります。死亡や認知症によって受託者が不在となるリスクを避けられる、都度の名義変更手続きが不要になるなど、メリットは大きいです。
ただし、費用が増加する、運営について対立が生じるリスクがあるなど、デメリットも存在します。
信託が長期間になるケースでは、一般社団法人を受託者にするのを検討してみるとよいでしょう。
民事信託で法人を受託者にするケースについて詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:民事信託(家族信託)で法人を受託者にするメリットや事例

委託者自身が受託者(自己信託)

通常は、委託者と受託者は別人です。しかし、委託者自身が受託者になる信託も認められています(信託法3条3号)。
「委託者=受託者」の信託を自己信託(信託宣言)と呼びます。受託者が見つからないケースでも、自分で財産を管理する形で信託が可能です。
自己信託が利用される例としては、病気の家族のために財産を確保しておきたいケースが挙げられます。自分の財産の一部を信託財産として別扱いにすることで、万が一経済状況が悪化しても信託財産は守られます。
自己信託は財産隠しや執行逃れに悪用されるおそれがあるため、公正証書の作成など法律上の要件を満たさないと設定できません。
自己信託について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:自己信託(信託宣言)とは?メリットや活用例を弁護士が解説

民事信託で受託者になれないケース


弁護士
野俣 智裕
民事信託で受託者になれない場合としては、以下が挙げられます。

民事信託で受託者になれない場合としては、以下が挙げられます。

未成年者

前述した通り、未成年者は信託法上受託者になれません。
孫を受託者にしようとしている場合には、18歳未満の未成年でないかに注意してください。

株式会社

株式会社や合同会社も通常は受託者になれません。
会社の定款には事業目的を記載する必要があり、目的の範囲外の行為をしたときには無効になるおそれがあります。かといって定款に信託の引受けを目的として記載すると、事業として行うことになって信託業に該当し、免許や登録が必要です(信託業法3条7条1項)。免許や登録のハードルは高く、現実的ではありません。
したがって、株式会社を受託者にするのは困難です。法人を受託者にしたいのであれば、一般社団法人を利用するようにしましょう。

弁護士など専門家

周囲に適任者がいないと、弁護士、司法書士など法律の専門家に受託者になってもらいたいと考えるかもしれません。しかし、一般的に専門家は受託者になれないと考えられています。
専門家が受託者になる際には、営利目的であり、繰り返し行うと想定されます。すると信託業に該当し、免許や登録が必要です。法律の専門家は信託業の許可を得ていない以上、親族に頼まれて受託者になるケースを除いて、受託者にはなれません。
専門家に信託の当事者になってもらうのであれば、信託監督人や受益者代理人を検討するとよいでしょう。

受益者と受託者が同一人物

受益者が受託者になるのは、基本的に許されていません。受託者が自分自身(受益者)のために財産を管理する形になってしまい、信託の趣旨にそぐわないためです。
法律上は「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき」には、信託は終了するとされています(信託法163条2号)。1年間続けられるとはいえ、基本的に「受託者=受益者」となる信託は認められていません。
ただし、複数の受益者がいるときに、受益者のひとりが受託者を兼ねるのは可能です。

信託監督人・受益者代理人との兼任

信託監督人や受益者代理人が受託者を兼任するのは認められていません(信託法137条144条124条2号)。
信託監督人は、受託者の監督を通じて、受益者の利益を保護する役割を担う人です。受益者代理人は、受益者が有する権利を代わりに行使する人です。
いずれも受託者が権限を濫用するのを防ぎ、受益者の利益を守るために存在しています。受託者をチェックするはずの信託監督人・受益者代理人が受託者になると、監督機能が働きません。したがって、信託監督人・受益者代理人と受託者の兼任は禁じられています。

民事信託の受託者の選び方


弁護士
野俣 智裕
民事信託で受託者を選ぶ際には、以下がポイントです。

信頼できる人にする

委託者にとって信頼できる人を受託者にするようにしましょう。
受託者は信託財産を管理・処分する役割を担い、強い権限を有しています。権限を濫用しないのはもちろん、最低限の事務処理能力も求められます。適任でない人を選ぶと、思った通りに信託を進めてくれないリスクが高いです。
委託者の願いを実現し、受益者の利益を守るためには、責任感があり信頼できる人物でなければなりません。

長期にわたって続けられるかに注意

信託が長期間続くと想定されるケースでは、受託者が職務をまっとうできるかにも注意が必要です。
民事信託は、何世代にもわたるなど、存続年数が長い場合があります。受託者が配偶者、兄弟姉妹などの同世代だと、早くに亡くなってしまうリスクが高いです。受託者がいない状態が1年以上継続すると、信託が終了してしまいます(信託法163条3号)。
途中で死亡するリスクを抑えるには、子や甥・姪といった若い親族を受託者にするのがよいでしょう。他にも、あらかじめ後継受託者を指定しておく、一般社団法人を受託者にするといった方法があります。
受託者が亡くなる事態を想定して対策をとるのが望ましいです。

専門家を信託監督人・受益者代理人にする

状況によっては、十分に信頼できない人を受託者にせざるを得ないケースもあるでしょう。その場合には、専門家を信託監督人や受益者代理人にする方法が有効です。
前述の通り弁護士などの専門家は受託者になれませんが、信託監督人や受益者代理人には就任できます。専門家が受託者をチェックすれば、権限の濫用を防げます。

民事信託の受託者でお困りであれば弁護士にご相談を


弁護士
野俣 智裕
お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

ここまで、民事信託の受託者について、なれる人・なれない人や選び方などについて解説してきました。
信託財産を管理する受託者になるのに、特別な資格は要求されません。家族・親族はもちろん、友人などでも受託者に就任できます。とりわけ、委託者より若く信頼できる人が適任でしょう。専門家は受託者になれませんが、信託監督人・受益者代理人への就任は可能です。

民事信託の受託者についてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みが複雑であるため、精通した専門家が少ないのが実情です。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。信託監督人や受益者代理人への就任も可能です。
「民事信託の受益者を誰にすればよいかわからない」などとお困りの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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