二次相続に民事信託(家族信託)で備える方法を弁護士が解説

信託

「二次相続が不安」とお悩みではないですか?
夫の後に妻が亡くなるなど、最初の相続における相続人が死亡した際には、二次相続が発生します。両親がいなくなって子ども同士で争いになるケースをはじめとして、二次相続ではトラブルが発生しやすいです。対策しようとしても、遺言では最初の相続についてしか定められません。
そこで有効なのが、民事信託(家族信託)によって備える方法です。民事信託では先々の財産承継についても決めておけるため、確実に二次相続の対策ができます。
この記事では、
●二次相続とは?
●二次相続で民事信託を活用する事例
●二次相続のために民事信託を利用するときの注意点
などについて解説しています。
先々の相続について不安を抱えている方は、ぜひ最後までお読みください。

そもそも二次相続とは?


まずは、二次相続について、意味や問題点といった基本的な事項を解説します。

相続人が亡くなったときに生じる2回目の相続

二次相続は、最初の相続における相続人が亡くなったときに生じる相続です。
たとえば、家族が夫婦と子2人であるケースで考えます。
仮に夫が先に亡くなったとすれば、相続人は妻と子2人です。この1回目の相続を一次相続と呼びます。
その後に、一次相続で相続人となった妻が亡くなれば、再度相続が発生します。妻が亡くなって生じる2回目の相続が二次相続です。このケースでは、二次相続の相続人は子2人となります。

二次相続の問題点


二次相続では、比較的問題が発生しやすいです。問題になる点としては、以下が挙げられます。

トラブルが生じやすい

二次相続では、相続人が対立してトラブルに発展しやすいです。
例として、先ほどと同様に、両親と子2人の家族を考えます。
父が死亡して母と子が相続する際には、子同士の仲が悪いとしても、高齢の母を思いやって穏便にすませようと考え、問題が表面化しないケースも多いです。
しかし、続いて母も死亡して二次相続が発生した際には、親の歯止めはありません。結果として仲の悪い子が各々意見を強く主張し、まとまらない可能性が高くなります。
次の世代になると前の世代の意向が反映されづらくなり、二次相続ではトラブルが発生しやすいと考えられます。

相続税が高くなる

二次相続では、相続税が高くなりやすいです。
同様に両親と子の家族を想定すると、一次相続に比べて二次相続は以下の要因で相続税が高額になる傾向にあります。
●法定相続人が減り基礎控除が減少する
●配偶者控除が使えない
●配偶者が元から有していた財産も課税対象になる
●小規模宅地等の特例が利用しづらい
二次相続で相続税の負担が大きくなると想定されるケースでは、一次相続の段階で対策を取っておくのが重要になります。

希望しない人に財産が渡る可能性がある

二次相続では、事前に思い描いた通りに財産が引き継がれない可能性があります。
たとえば、父が「先祖代々の自宅土地は、自分が死んだとき妻に渡し、妻も亡くなったら長男に引き継ぎたい」と考えていたとします。
一次相続で予定通り妻が相続したとしても、二次相続の際にどうなるかはわかりません。父の意向に反して、次男が相続する場合もあります。
十分な対策をしていないと、大切な財産が二次相続で思わぬ人に渡ってしまう可能性があるのです。

二次相続対策として遺言は不十分


「相続対策といえば遺言だ」とお考えの方も多いでしょう。しかし、遺言では確実な二次相続対策はできません。

遺言は一次相続しか指定できない

遺言では、遺言者の死亡により発生する一次相続までしか指定できません。二次相続まで指定するのは不可能だと解されています。
「自宅は妻に相続させる」との遺言はできても、「妻が亡くなった後は長男に引き継がせる」とまでは決められないのです。
したがって、遺言を残したとしても二次相続の対策として十分ではありません。

死後に思い通りに相続人が遺言を残すとは限らない

「妻にも遺言を書いてもらえばいい」とお考えになるかもしれません。たしかに、妻が「自宅は長男に」との遺言を残せば、結果的に夫の意向は実現可能です。
しかし、思い通りに遺言を書いてくれる保証はありません。夫の生前に妻が遺言を書いたとしても、後で撤回できます(民法1022条)。
たとえ約束していたとしても、遺言だけでは二次相続を完全にはコントロールできないのです。

二次相続には民事信託(家族信託)で備えられる


確実に二次相続に備えたいのであれば、民事信託(家族信託)を利用する方法があります。

民事信託とは?

民事信託とは、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、以下の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分する仕組みです。死亡後の権利者も定められるため、財産の引き継ぎにも利用できます。

民事信託の基礎知識について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説

二次相続も指定できる

民事信託は、一次相続だけでなく、二次相続についても指定が可能です。条文上、受益者が死亡した際に、順次新たな受益者が現れることが想定されています(信託法91条)。
したがって、民事信託を活用すれば「自分の死後、自宅は妻に、妻の死後は長男に」という願いも実現できます。

認知症対策にもなる

民事信託は、死後の財産承継だけでなく、生前の認知症対策にも有用です。
認知症になって法的判断能力が失われると、口座が凍結される、不動産を処分できなくなるなど、家族であっても財産を利用できなくなってしまいます。
認知症になった後は、成年後見制度(法定後見)を利用せざるを得ません。しかし、法定後見制度は、財産の用途が限定されるなど使い勝手が悪いです。専門家が後見人に就任するケースも多く、毎月の報酬が亡くなるまで発生し続けるデメリットもあります。
事前に民事信託契約を結んでおけば、認知症になった後でも家族が管理でき、定め方によって柔軟に財産を活用できます。
認知症対策は、民事信託を利用する典型的な理由のひとつです。詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説

二次相続で民事信託(家族信託)を活用する事例


二次相続対策として民事信託を活用する事例を2つご紹介します。

長男に引き継がせたいケース

1つ目は、二次相続で長男に財産を引き継がせたいケースです。

●関係者:夫A(80歳)、妻B(75歳)、長男C(50歳)、次男D(45歳)
●Aの希望:先祖代々の自宅不動産を、自分の死後は妻Bに、Bの死後は長男Cに引き継がせたい。次男Dには絶対に渡したくない。

二次相続で確実に長男が取得するために、自宅について以下のスキームで信託契約を結ぶ方法が考えられます。
●委託者 :夫A
●受託者 :長男C
●第1受益者 :夫A
●第2受益者 :妻B
●帰属権利者 :長男C
まずは、受益者をA自身、受託者を長男Cとして信託を開始します。Aは委託者と受益者を兼ねています。民事信託では、設定時に贈与税を課税されないために、当初は「委託者=受益者」とするケースが多いです。
Aが死亡した際には、妻Bが受益者となり、自宅を利用できます。
Bも死亡すると、最終的な帰属権利者であるCが自宅の権利を得ます。したがって、次男Dに先祖代々の不動産が渡る事態は生じません。

孫に引き継がせたいケース


2つ目は、孫に財産を引き継がせたいケースです。

●関係者:父A(80歳)、長男B(55歳)、長男の妻C(50歳)、次男D(45歳)、次男の子E(20歳)
●Aの妻は既に他界
●長男夫婦に子はいない
●Aの希望:先祖代々の自宅不動産を、自分の死後は長男Bに、Bの死後は孫であるEに引き継ぎたい。長男の妻Cやその親族には絶対に渡したくない。

二次相続で自分の家系である孫Eに自宅不動産を引き継ぐには、以下のスキームで信託契約を結ぶ方法が考えられます。
●委託者 :父A
●受託者 :次男D
●第1受益者 :父A
●第2受益者 :長男B
●帰属権利者 :孫E
ここでは次男Dを受託者としました。先ほどのケースと同様に、設定時に贈与税を課税されないために、当初はAを「委託者兼受益者」としています。
Aが死亡すると、第2受益者である長男Bが自宅を引き継ぎます。
Bの死亡時には、帰属権利者とした孫Eが権利を取得するため、長男の妻Cに自宅が渡る心配はありません。Aの希望通り、自分の家系の後継者となる孫Eに、先祖代々の自宅不動産を引き継げます。

二次相続のために民事信託(家族信託)を利用するときの注意点


信託は二次相続のために有効ですが、完璧な仕組みではありません。利用する際には、以下の点に注意してください。

あまりに先の相続まで備えられるわけではない

民事信託では先々の財産承継を決められますが、限度はあります。
理論上は、二次相続だけでなく、ひ孫や玄孫の代まで定めることは可能です。
しかし、死亡により順次受益者が変わる信託においても、信託開始から30年を経過した後は、受益権の承継は1度しか認められません(信託法91条)。「30年経過時において受益者だった人」が亡くなったときには受益権が引き継がれますが、それで最後です。
実際問題として、現在生きている人が、あまりに先の代の財産承継まで決めてしまうのは不適切でしょう。民事信託を利用しても、定められるのは目が届く範囲の相続に限られます。

受託者を誰にするかを十分に検討する


受託者を誰にするかは、問題になりやすいです。
財産を預ける以上、受託者は信頼できる者でなければなりません。
加えて、先々の相続まで定めるときには期間が長期となり、受託者が最後まで職務を全うできるかという問題も生じます。受託者が早期に死亡する事態を想定して「第2受託者」を指定しておく、始めから法人を受託者にするといった方法も検討してください。
信託には、受託者の存在が欠かせません。誰に任せるかはよく考えましょう。

相続税対策にはならない

二次相続における問題として、相続税が高額になりやすい点が挙げられます。
しかし、民事信託は直接の相続税対策にはなりません。相続税を節税したいのであれば、生前贈与や生命保険など、別の方法を検討する必要があります。
「信託で節税できる」と勘違いされている方もいるので、注意してください。

制度の歴史が浅い

民事信託は比較的新しい制度であり、歴史が浅いです。
一般的な認知度も高くないため、利用したくてもなかなか家族に理解してもらえないケースがあります。
また、対応できる専門家が少ない点も問題です。弁護士であっても、信託には詳しくない場合が少なくありません。
希望を確実に実現するには、信託に精通した弁護士のサポートを受けるのが重要です。

二次相続に民事信託(家族信託)で備える際は弁護士にご相談を


ここまで、二次相続で信託を活用する方法について解説してきました。
相続対策として有名な遺言でも、二次相続までは定められません。民事信託を活用すれば、先々の相続まで指定できます。利用を検討するとよいでしょう。

二次相続に民事信託で備えたい方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況やご希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドで提案可能です。場合によっては遺言も併用するなど、最適な相続対策をサポートします。
「死亡時の一次相続だけでなく、先に控える二次相続も心配」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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