信託で登記は必要?記載内容や必要な場面、注意点を解説

信託

不動産を民事信託(家族信託)の対象にするときには、登記が必要です。登記を怠ると法律に反するだけでなく、トラブルの元になります。
信託を開始する際には所有権移転登記と信託登記をするなど、必要な登記や内容に関しては細かいルールがあります。登記の際には登録免許税が課される点も頭に入れておきましょう。
この記事では、
●信託で登記が必要なケース・不要なケース
●信託で登記が必要になる場面
●信託の登記における注意点
などについて解説しています。
不動産を民事信託の対象にしようと考えている方にとって参考となる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。

民事信託(家族信託)で登記が必要なケース・不要なケース


民事信託(家族信託)では、対象財産によって登記が必要なケースと不要なケースにわかれます。

不動産があれば登記が義務

信託財産の中に不動産が含まれる場合には、登記が不可欠です。
不動産には登記制度があります。信託をすると名義が委託者から受託者に移りますが、登記をしないと不動産が信託財産であると第三者に主張できません(信託法14条)。
第三者から見て信託財産になっているとわからないと、トラブルの元です。たとえば、委託者の債権者に差押えをされる事態も想定されるでしょう。
また、法律上、信託財産と受託者自身の財産を分けて管理するように求められています(信託法34条1項)。
登記が可能な財産である不動産を信託財産にするときには、登記が義務づけられています(信託法34条1項1号)。この義務を信託契約によって免除することはできません(信託法34条2項)。
したがって、不動産を信託する際には登記が必須です。

預金・株式だけなら不要

信託財産に不動産がないときには、登記は不要です。
不動産以外によく信託される財産としては、金銭や株式が挙げられます。金銭や株式は、不動産と異なり登記ができません。不動産が信託財産に含まれず、金銭や株式だけを信託するのであれば登記は不要になります。
ただし、登記ができない財産であっても、信託財産と受託者自身の財産とは分けて管理しなければなりません(信託法34条1項2号)。可能であれば信託口口座を開設して、明確に区別するのが望ましいです。

預金を信託する方法について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:預金を信託財産にする方法|メリットや注意点を弁護士が解説

信託した不動産にする登記の種類


不動産を信託する際には、開始時に「所有権移転登記」と「信託登記」の2種類の登記をします。

所有権移転登記

信託においては、不動産の所有権が委託者から受託者へと形式的に移転します。信託を原因として所有権が移転した事実が誰にでもわかるように、登記簿に記載しなければなりません。
登記簿には、登記原因を「〇年〇月〇日信託」として、受託者の氏名・住所が記載されます。所有権移転登記は、委託者と受託者が共同でしなければなりません(不動産登記法60条)。
通常、所有権移転登記には登録免許税がかかりますが、信託を原因とする場合には不要です(登録免許税法7条1項1号)。

信託登記

所有権移転登記の他に、信託登記もしなければなりません。
信託登記により、不動産が信託財産であると明らかになります。信託内容については「信託目録」に記載されます。
信託登記において記載すべき事項は法律に定められています(不動産登記法97条1項)。
民事信託においては、以下が主な登記事項です。
●委託者・受託者・受益者の氏名・住所(1号)
●受益者代理人がいるときの氏名・住所(4号)
●信託の目的(8号)
●信託財産の管理方法(9号)
●信託の終了事由(10号)
●その他の信託条項(11号)
信託登記は、信託を原因とする所有権移転登記と同時にしなければなりません(不動産登記法98条1項)。申請は受託者が単独でできます(不動産登記法98条2項)。
信託登記の登録免許税は以下の通りです。
●土地:固定資産税評価額の0.3%(租税特別措置法72条1項2号
●建物:固定資産税評価額の0.4%(登録免許税法9条、別表第一1号(十)イ)

信託で登記が必要になる場面


信託では、開始時だけでなく、当事者の変更があったときや終了したときなどにも登記が必要です。信託において登記が必要になる場面を解説します。

開始時

信託を開始する際には、上述の通り「所有権移転登記」と「信託登記」が必要になります。
所有権移転登記では、委託者から受託者へ信託を原因として所有権が移転した事実を第三者に示します。

当事者が変わったとき

民事信託の当事者が変わった際にも登記が必要です。
死亡などにより受益者が変わったときには、信託目録の記載事項を変更するために、受益者変更の登記を行います。登録免許税は不動産1個につき1,000円です(登録免許税法9条、別表第一1号(十四))。
辞任や死亡で受託者が変わったときには、所有者が変わるため所有権移転登記を行います。登録免許税は非課税です(登録免許税法7条1項3号)。死亡の場合には新受託者が単独で申請できますが、辞任の際には旧受託者との共同申請になる点に注意してください。詳しくは後述します。

契約内容を変更したとき

当事者のほかにも、信託契約の内容が変わり、登記事項に変更があった場合には変更登記を行います。登録免許税は不動産1個につき1,000円です。

不動産を売却したとき

資金を得るためなどの理由で、信託財産の不動産を売却する場合もあります。不動産の売却により所有者が変わるため、所有権移転登記が必要です。信託の対象から外れるため、信託登記の抹消登記も行います。
登録免許税は、所有権移転については、土地が固定資産税評価額の1.5%(租税特別措置法72条1項1号)、建物が固定資産税評価額の2%(登録免許税法9条、別表第一1号(二)ハ)です。信託登記抹消については、不動産1個につき1,000円です。
なお、反対に信託財産である金銭で新たに不動産を取得した場合には、所有権移転登記と信託登記を行います。

終了時

信託が終了した際にも登記が必要です。受託者から帰属権利者への所有権移転登記と、信託登記の抹消登記を行います。
登録免許税は、所有権移転について固定資産税評価額の2%です。ただし、一定の条件を満たせば0.4%となります(登録免許税7条2項)。信託登記抹消については、不動産1個につき1,000円です。
受託者と帰属権利者が同一人物であっても、登記をしなければならない点に注意してください。

信託の登記における注意点


不動産を信託し登記が必要になる際には、以下の点に注意しましょう。

登録免許税がかかる

これまでも解説してきた通り、信託に関係する登記には登録免許税がかかります。
金額は以下の通りです。

 

場面 登記の種類 登録免許税の金額
信託設定時 所有権移転登記 非課税
信託登記 ・土地:固定資産税評価額の0.3%
・建物:固定資産税評価額の0.4%
受益者変更 変更登記 不動産1個につき1,000円
受託者変更 所有権移転登記 非課税
契約内容変更 変更登記 不動産1個につき1,000円
不動産売却 所有権移転登記 ・土地:固定資産税評価額の1.5%
・建物:固定資産税評価額の2%
信託登記抹消登記 不動産1個につき1,000円
信託終了時 所有権移転登記 固定資産税評価額の2%
※0.4%になる場合あり
信託登記抹消登記 不動産1個につき1,000円

不動産の価値によっては、登録免許税の金額が思いのほか大きくなる可能性があります。事前に確認するようにしましょう。

どこまで記載するかをよく検討する

登記に記載すべき事項は法律で決まっていますが、契約内容すべてを記載する必要はありません。登記内容は誰でも確認できるため、知られると困る情報については記載に配慮を要します。
たとえば、信託の全容が他の親族に判明すると、財産を取得できないと知った親族が反発し、委託者が存命のうちにトラブルに発展する可能性があります。
対策としては、公正証書の条項を記載して、内容を登記上に明示しない方法が考えられます。法律には従いつつも、知られたくない事項を隠せるように検討するとよいでしょう。

信託契約を公正証書ですべきことについては、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説

受託者の変更は単独でできない場合がある

受託者の変更については、登記に注意が必要な場合があります。
受託者が死亡した場合や後見等が開始した場合などでは、新受託者が単独で所有権移転登記を申請できます(不動産登記法100条1項)。
しかし、辞任で受託者が変わるときには、新旧の受託者が共同で申請しなければなりません。旧受託者が協力してくれないと、登記の変更ができなくなってしまうのです。旧受託者が認知症になったものの後見が開始されていない場合にも、問題が生じます。
特に受託者が高齢のケースでは、登記の変更ができなくなるリスクが高いといえます。

詳しい専門家に依頼する

信託の登記には、何を記載するかなど悩ましい点があり、専門知識が不可欠です。もっとも、民事信託の制度の歴史が浅いため、法律の専門家であっても詳しくない場合があります。
頼む専門家を間違えると、第三者に知られたくない情報が公開されてしまうなど、思わぬ落とし穴にはまるリスクがあります。信託の取扱い経験が豊富で、実務に精通した専門家を探して依頼するようにしましょう。

不動産の信託を検討している方は弁護士にご相談を


ここまで、信託の登記に関して、記載内容、必要になる場面、注意点などについて解説してきました。
不動産を信託するときには、登記が不可欠です。開始時には所有権移転登記と信託登記など、登記を要する場面は多くあります。費用や記載内容に注意して進めるようにしてください。

不動産の信託を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況をお聞きしたうえで、法的リスクを避けつつ希望を実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。登記についても、信託に詳しい司法書士と連携をとってスムーズに進められます。
「不動産を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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