一人っ子が相続するときの注意点|流れや対策を弁護士が解説

相続

一人っ子の方は、ご両親が亡くなった際の相続についてどのようにお考えでしょうか?
「兄弟がいないから争いがなくて安心」「自分だけで進めるのは不安」など、様々な感情をお持ちかもしれません。
たしかに、一人っ子の相続では、トラブルが生じるリスクが低いというメリットがあります。
他方で、基礎控除額が少ないため相続税は高額になりやすいです。より事前対策が重要になるといえるでしょう。
この記事では、
●一人っ子の相続の特徴や注意点
●一人っ子の相続手続きの流れ
●一人っ子がとるべき相続対策
などについて解説しています。
ご自身あるいはお子さまが一人っ子の方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

一人っ子の相続の特徴


一人っ子が両親を相続する際の特徴としては、以下の点が挙げられます。

トラブルになる可能性が低い

一人っ子が相続するときには、トラブルになる可能性は低いです。相続人が一人っ子だけ、あるいは母(父)と子の2人だけになるため、兄弟がいる場合に比べると争いが生じにくいといえます。
また、遺産分割協議や各種名義変更手続きも、相続人が多い場合に比べて楽になります。
トラブルになりづらく、相続手続きにおけるストレス要因が少ない点は、一人っ子が相続する際のメリットです。

相続税が高額になりやすい

他方で、一人っ子が相続する際には相続税が課税されやすいといえます。相続税は遺産総額が基礎控除額を超えるときに課税され、基礎控除額は法定相続人が少ないと減少するためです。
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」で計算されます。
たとえば遺産総額が4500万円のとき、法定相続人のパターンによって基礎控除額と課税対象額は以下のようになります。

【遺産総額4500万円のときの基礎控除額と課税対象額】

 

法定相続人 基礎控除額 課税対象額(※)
一人っ子のみ 3600万円 900万円
一人っ子+配偶者(計2人) 4200万円 300万円
子2人+配偶者(計3人) 4800万円 0円(非課税)

※基礎控除以外の控除を考慮しないケース

遺産総額が4500万円であれば、子2人と配偶者が相続人になるケースでは基礎控除の範囲に収まり、相続税は課税されません。
しかし、同じ4500万円でも相続人が一人っ子のみ、あるいは一人っ子と配偶者だけのときには基礎控除額を超え、課税対象です。一人っ子だけのときには、基礎控除が少ない分だけ課税対象額が大きくなり、税額が増加します。
相続税が高くなりやすいことは、一人っ子の相続におけるデメリットです。

一人っ子が相続するパターンと注意点


一人っ子による相続として考えられるパターンと注意点を解説します。

唯一の相続人になる

まずは、一人っ子が唯一の相続人になるパターンがあります。両親のうち一方が亡くなっている状態でもう片方が亡くなった場合です。たとえば、一人息子がいる夫婦で、夫が亡くなった後で妻も亡くなった際には、相続人は息子だけになります。
相続人が1人である以上、すべての遺産を引き継ぐため、分け方をめぐるトラブルは生じません。遺産分割協議も不要です。

もっとも、協力してくれる相続人もいないため、自分だけで相続手続きを進めなければなりません。基礎控除額が少ないため相続税が発生しやすい点もデメリットです。

母(父)と共同相続人になる

一人っ子が母あるいは父と共同相続人になるケースもよくあります。両親がともに存命であった状態から、先に父が亡くなって、母と子が相続人になるようなパターンです。
配偶者と子の法定相続分は1/2ずつです(民法900条1号)。遺言書がなければ、遺産の具体的な分け方を決めるために遺産分割協議が必要になります。親子の仲が良好であれば大きな問題は生じづらいですが、疎遠であればトラブルになるケースもあるでしょう。

相続の際には、二次相続も頭に入れなければなりません。
両親のうち残された方も、近い将来に亡くなるケースが多いです。その際には再び相続が生じ、相続税も課税されます。二次相続の際の税負担も考慮して、遺産の分け方を決めてください。

異母・異父兄弟がいる

気をつけなければならないのは、一人っ子であっても異母・異父兄弟がいるケースです。
夫婦間の子どもが一人であっても、前妻・前夫との子がいる場合や、愛人との間の子を認知している場合があります。子である以上相続権があるため、異母・異父兄弟も相続人です。
異母・異父兄弟とは、関係が希薄であるケースも多いでしょう。連絡がとれなかったり、遺産分割協議がまとまらなかったりして、トラブルが生じるリスクが高いです。注意すべきパターンといえます。

一人っ子の相続手続きの流れ


一人っ子が相続するときには、一般的に以下の流れで手続きが進みます。

遺言書の有無を確認する

亡くなった親が遺言書を残していたか否かは、必ず確認しなければなりません。遺言書で法定相続分と異なる分け方を定めていたときには、遺言書の内容が優先されるためです。
自宅の金庫や引き出しなどを確認するとともに、公正証書遺言を作成していないかもチェックしてください。近年創設された、自筆証書遺言の保管制度を利用している可能性もあります。
参考記事:遺言書保管制度とは?公正証書遺言との違いも解説

遺言書の存在によって、相続の行方は大きく変わります。遺言書の有無を確認したうえで、法務局に保管されていなかった自筆証書遺言については、検認手続きを経なければなりません。
参考記事:遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説

相続人を確定させる

並行して、相続人が誰かを確定させなければなりません。「自分だけだ」と思っていても、異母・異父兄弟がいる可能性もあります。戸籍を早めに取り寄せて、相続人の範囲を確かめてください。

相続財産を調査する

また、相続財産の調査も進める必要があります。不動産(土地・建物)、預貯金、株式など、すべての財産に関する情報を収集してください。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産についても調査しなければなりません。借金が多ければ、相続放棄も選択肢になります。
参考記事:借金を絶対に背負いたくない!相続放棄のポイントを弁護士が解説

相続人が複数いれば遺産分割協議をする


遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、相続財産の分け方を決めるために遺産分割協議を行います。
遺産分割協議には、法定相続人が全員参加しなければなりません。異母・異父兄弟で普段関わりがなかったとしても、連絡をとる必要があります。
また、残された親が認知症で法的判断能力がないときには、基本的に成年後見人を選任しなければなりません。
参考記事:成年後見人が含まれる相続手続きの流れ|必要なケースや注意点を解説

話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員分の署名と実印による押印をとりつけてください。遺産分割協議書は、各種手続きの際に必要になります。
なお、相続人が一人っ子だけのときには、遺産分割協議は不要です。

相続登記・各種名義変更をする

分け方が決まった遺産については、名義変更手続きを行ってください。
不動産は、法務局で相続登記をしなければなりません。預貯金については、金融機関で手続きを進めましょう。

遺産が多ければ相続税の申告手続きを済ませる

遺産が多い場合には、相続税の申告手続きも必要です。遺産総額が基礎控除額の「3000万円+法定相続人の数×600万円」を超えているか否かがひとつの目安になります。一人っ子が相続する際には、税申告を要する可能性が高まります。
相続税が発生するケースでは「相続の開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告してください。期限を過ぎると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課されます。早めに手続きを進めるようにしましょう。

一人っ子がとるべき相続対策


一人っ子が相続する際には相続税が高額になりやすく、対策が必要です。具体的には、以下の方法が考えられます。

生前贈与を受ける

まずは、親が健在なうちに少しずつ贈与を受けておく方法があります。
年間110万円までの贈与には、贈与税がかかりません。亡くなるまでに時間的余裕があると想定されるときには、計画的に生前贈与をしておけば、死亡時の相続税を減らすことが可能です。
もっとも、贈与してから3年以内に亡くなったときには、生前贈与した分にも相続税が課税されてしまいます。加えて、今後は課税対象が死亡する7年前までに拡大される予定です。早めの対策が不可欠といえます。

生命保険金で納税資金を確保する

生命保険によって対策する方法も有効です。相続税の計算において、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。
生命保険金は、相続税の納税資金になる点もメリットです。活用を検討してみてください。
参考記事:生命保険金は相続財産に含まれる?受け取れる人や相続税について解説

二次相続まで見すえる

相続税で利用できる控除として、配偶者控除があります。配偶者には、相続した財産が1億6000万円まで、あるいは法定相続分の範囲内であれば、相続税が課税されない制度です。配偶者控除を利用して、父が死亡した際の母の相続税負担を軽減しようと考えている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、母が死亡した際に生じる二次相続においては、配偶者控除は使えません。基礎控除も少ないため、結果的に一人っ子が負担する相続税額が大きくなる可能性があります。
子の負担が増えないようにするには、二次相続までみすえて計画を立てなければなりません。

一人っ子に相続人がいないときはどうなる?


ここまでは、一人っ子が相続人になる場面について解説してきました。では、一人っ子自身が亡くなって相続人がいなかった場合はどうなるのでしょうか?

国に財産が帰属する

法律上相続人になるのは、
●配偶者
●子(死亡していれば孫、ひ孫)
●直系尊属(両親や祖父母)
●兄弟姉妹(死亡していれば甥、姪)
に限られます。
一人っ子が結婚していたり子がいたりすれば、配偶者や子が相続人となります。
配偶者や子がいないときには、両親など直系尊属が相続権を得ますが、通常は先に亡くなっているはずです。一人っ子であれば兄弟姉妹も存在しません。したがって、相続人が存在しないケースもよくあります。
相続人がいない財産は、最終的には国に帰属します(民法959条)。特に対策をしていないと、相続人がいない一人っ子の遺産は国のものになってしまうのです。
国のものになるのを防ぐには、遺言書を残してください。遺言書を利用すれば、お世話になった人や団体などに財産を渡せます。

特別縁故者が分配を受けられるケースもある

相続人がいない人が遺言書を残さずに亡くなったときには、最終的には国に遺産が帰属します。もっともその前に、債権者や受遺者が、権利に応じて遺産から分配を受けることが可能です。
それでも残った財産があれば「特別縁故者」に該当する人が財産の分与を受けられるケースもあります(民法958条の2)。特別縁故者とは、内縁の配偶者など、故人と特別な関係にあった人です。
特別縁故者に該当する人は、裁判所に申立てをして認められれば、残った財産の全部または一部を受け取れます。
参考記事:特別縁故者の要件や手続き|献身的に介護した人が相続するには?

一人っ子の相続は弁護士にご相談を


ここまで、一人っ子の相続について、注意点、流れ、事前対策などについて解説してきました。
一人っ子が相続人になるときには、トラブルが生じる可能性は低いです。ただし、相続人が少ないため基礎控除が少なくなり、相続税の負担が大きいケースもあります。したがって、生前贈与、生命保険などによる事前対策が重要です。
もっとも、相続税の仕組みは複雑であり、自分に最適な対策を施すのは容易ではありません。

相続にお悩みの一人っ子の方やそのご両親は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
「弁護士はトラブルが生じたときに頼るもの」とお考えかもしれません。しかし、生じ得る問題を知っているからこそ、弁護士は事前に対策を練るのも得意です。
当事務所は相続に注力しており、豊富な経験を有しています。皆様の個々の状況に応じて、最適な対策をオーダーメイドで提案いたします。
「一人っ子で相続に漠然とした不安がある」「何をすればいいかわからない」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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