生命保険金は相続財産に含まれる?受け取れる人や相続税について解説

相続

「生命保険金は相続財産になるのか」「相続税はかかるのか」と疑問をお持ちでしょうか?
死亡時の生命保険金は、基本的に遺産分割の対象にはなりません。したがって、受取人に指定されていた人が、相続とは別に保険金を受け取ることが可能です。
他方で、生命保険金は相続税の課税対象となっています。非課税枠はあるものの、生命保険金を受け取れば相続税を支払う可能性があります。
この記事では、
●生命保険金が相続財産に含まれるか?
●生命保険金を請求できる人
●生命保険金と相続税の関係
などについて解説しています。
相続時の生命保険金の扱いについて疑問をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。

生命保険金は相続財産に含まれる?


故人が亡くなって遺言書を残していないときには、相続人全員による遺産分割協議で遺産の分配を決めなければなりません。また、遺産の額によっては相続税の申告が必要な可能性もあります。
死亡時の生命保険金が相続財産に含まれるかどうかは、相続人同士の遺産分割の場面か、相続税の計算の場面かで異なります。

遺産分割の対象にはならない

故人の死亡により生じた生命保険金は、基本的に遺産分割の対象になりません。生命保険金の請求権は受取人が固有の権利として取得し、故人の遺産には含まれないためです。

たとえば、妻子を残して亡くなった人が妻を受取人として生命保険を契約していれば、妻が死亡保険金を自分の財産として取得できます。妻と子は、生命保険金を除く他の財産(不動産、預貯金など)を対象にして遺産分割協議を行い、分配を決めることになります。
したがって、生命保険金を遺産分割協議書に記載する必要はありません。また、遺産とは別に扱われるため、相続放棄した相続人であっても生命保険金を受け取れます。

後述する例外はありますが、まずは「遺産分割の場面では、生命保険金は原則として相続財産に含まれない」と頭に入れておきましょう。

相続税の課税対象にはなる

他方で、相続税の計算をする場面では、死亡時の生命保険金は「みなし相続財産」として扱われています(相続税法3条1項1号)。故人が生前に保険料を支払った結果として受取人に保険金が支払われる以上、財産の移転とみなして相続税の対象とするのが公平と考えられているためです。
一定の非課税枠はあるものの、高額の生命保険金を受け取れば相続税が課税されます。相続人同士の遺産分割協議における扱いとは異なるため、注意してください。

例外的に生命保険金が特別受益になるケース


遺産分割の場面では死亡時の生命保険金は受取人の財産として扱われ、基本的に相続財産ではありません。もっとも、金額が大きいと、例外的に遺産分割において「特別受益」(民法903条)として考慮されるケースがあります。

特別受益であれば持ち戻す

特別受益は、特定の相続人が故人から受けた利益をいいます。複数の子のうちひとりだけが、自宅の購入費用を親の生前に肩代わりしてもらったケースが典型例です。
特別受益は遺産に持ち戻され、相続財産とみなされます。特別受益分も含めて遺産分割をするため、先に特別受益を受けていた相続人の遺産分割時の取り分は減少します。

たとえば、相続人が子3人であったケースで、死亡時の財産が2000万円、生前に子の1人だけに住宅購入資金として1000万円を提供していた場合を考えましょう。
このとき、特別受益にあたる1000万円は遺産に持ち戻されるため、遺産分割の対象となるのは3000万円です。
したがって、子3人は1000万ずつ相続する形になり、既に1000万円の特別受益を受け取っていた子は、死亡時には追加で遺産を受け取れません。他の2人が、死亡時の財産2000万円を1000万円ずつ受け取ります。

特別受益は、優遇された相続人の遺産の取り分を調整する制度といえます。

生命保険金の割合が大きいと特別受益に

生命保険金は受取人の固有財産であり、遺産ではありません。したがって、特定の相続人を生命保険の受取人にしても、特別受益にはあたらないのが原則です。

しかし、高額な生命保険金であっても常に特別受益にならないとすると、他の相続人との間で不公平が生じます。
そこで判例上「不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用によ り、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」とされています(最高裁平成16年10月29日決定)。
簡単にいうと「場合によっては生命保険金が特別受益になる可能性がある」ということです。
特別受益になるか否かを判断するにあたっては、遺産総額と生命保険金の比率等が重視されています。たとえば、生命保険金の比率が遺産総額の約61%にのぼったケースにおいて、特別受益に準じて持ち戻しの対象になると判断されました(名古屋高裁平成18年3月27日決定)。

原則として生命保険金は特別受益にならないものの、保険金の額を遺産総額と比べたときの割合が非常に大きい場合等、個別具体的な事情を検討して例外的に特別受益に準ずる扱いをすることがあります。

【ケース別】生命保険金を請求できる人


生命保険金を請求できる人は、保険の契約内容によって決まります。
生命保険の契約では、
●契約者(保険料を支払う人)
●被保険者(保険の対象となっている人)
●受取人(保険金を受け取る人)
が存在します。
契約上の「受取人」の定め方によって保険金を請求できる人が変わるため、契約内容をよく確認してください。
以下に挙げる4つのケースでは、契約者と被保険者はいずれも被相続人(故人)で、受取人だけが変わっています。

受取人が特定の相続人である

受取人が特定の相続人になっているケースでは、その相続人が存命であれば保険金を受け取れます。生命保険金は受取人に指定されていた相続人の固有の財産になるため、遺産分割の対象にはなりません(最高裁昭和40年2月2日判決)。
たとえば、夫が亡くなったときに妻が生命保険の受取人に指定されていれば、妻が全額を請求できます。
なお、保険金が相続財産にあたらない以上、相続放棄をしたとしても保険金の受領が可能です。

受取人が「相続人」となっている

受取人が単に「相続人」となっていた場合には、相続人全員が受け取る権利を有します。相続人が複数いれば、法定相続分に応じて権利を分割して取得します。保険金請求権は相続財産には含まれず、遺産分割の対象になりません(最高裁昭和40年2月2日判決最高裁平成6年7月18日判決)。
たとえば、妻と子2人を残して亡くなった男性にかけられていた生命保険金の受取人が「相続人」となっていれば、妻が1/2、子が1/4ずつの割合で保険金請求権を取得します。相続放棄をした相続人も保険金を受け取ることができます。

受取人の指定がない

現実には、故人が受取人を指定しないケースも考えられます。その場合、保険の約款によって決定されます。
約款に受取人の順位が定められていれば、上位の人が権利者です。約款に順位の指定がなく「相続人に支払う」とだけ規定されていたときは、故人が受取人を「相続人」とした上記のケースと同じと扱われます(最高裁昭和48年6月29日判決)。

指定された受取人が先に死亡していた

受取人に指定されていた人が先に死亡する可能性も考えられます。その場合にも、約款の規定に従います。
約款上「受取人の法定相続人」が権利を有するときは、「受取人の」法定相続人が権利者です。約款に規定がないときでも、法律上「受取人の法定相続人」が権利を取得します(保険法46条)。
「受取人の法定相続人」が権利を持つときに気をつけて欲しいのが、権利の割合は法定相続分通りではなく、民法427条により頭数で均等に割る点です(最高裁平成5年9月7日判決)。
受取人の相続人が配偶者と子2人であったケースでは、1/3ずつ権利を有します。法定相続分の配偶者1/2、子1/4ずつとは異なる点に注意してください。

生命保険金と相続税の関係


相続税との関係では、生命保険金は遺産分割の場面とは異なる扱いを受けます。

みなし相続財産にあたる

生命保険金は遺産分割の際には相続財産とは扱われませんが、税法においては「みなし相続財産」です(相続税法3条1項1号)。したがって、故人の死亡により受け取る生命保険金は、相続税の計算の対象になります。

非課税枠がある

もっとも生命保険金には、相続税の計算において「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が存在します(相続税法12条1項5号)。法定相続人が配偶者と子2人であれば「500万円×3=1500万円」までの生命保険金は非課税です。
生命保険金は相続税の計算において相続財産と扱われるものの、一定程度優遇されているといえます。

契約内容によって別の税金になる可能性がある

上述した通り、生命保険の契約では、
●契約者(保険料を支払う人)
●被保険者(保険の対象となっている人)
●受取人(保険金を受け取る人)
が存在します。
生命保険金が相続税の対象になるのは、死亡した故人(被相続人)が契約者かつ被保険者で、受取人が相続人であるケースです。
故人を被保険者としつつも、契約者が別の人であれば、相続税以外の税金が課される可能性があります。
たとえば、夫を被保険者として妻が契約者かつ受取人であった場合には、相続税ではなく所得税が課されます。また、夫が被保険者で妻が契約者、子(第三者)が受取人であれば、課されるのは贈与税です。

以上をまとめると以下の通りです(死亡したのが夫のケース)。

契約者被保険者受取人税金
相続人(妻など)相続税
所得税
贈与税

生命保険金を相続対策に活用する方法


事前に適切に準備すれば、生命保険金で以下の相続対策が可能です。
もっとも、相続に関する法令は複雑であり、対策が機能しない可能性もあります。実行する際には専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

相続税を節税できる

生命保険により相続税の節税が可能です。保険料の支払いにより課税対象となる資産そのものが減少するうえ、前述の通り「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が存在するためです。
生命保険の活用は、生前贈与などと並んで、有力な相続税対策のひとつといえます。

納税資金になる

遺産の価値が高く相続税の課税が避けられない場合には、生命保険金を相続税の納税資金にする方法があります。
よくあるのが、遺産の大半が不動産であるケースです。対策をしていないと、相続税の納税のための現金が不足し、不動産の売却を強いられる可能性があります。
相続人が生命保険金を受け取れるようにしておけば、納税資金になり、不動産をそのまま利用できるメリットがあります。

代償分割がしやすくなる

生命保険金があれば、代償分割が容易になります。代償分割とは、分割の難しい高価な遺産を受け取った相続人が、代わりに他の相続人に金銭を支払って調整する方法です。
代償分割が必要になるのは、主に自宅や事業用の不動産が遺産の大半であるケースです。引き継がせたい相続人を生命保険の受取人に指定しておけば、保険金を代償分割の資金として活用できます。

渡したい人に財産を残せる

財産を多く渡したい相続人がいる場合には、生命保険の活用により確実に財産を残せます。生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象とはならないためです。遺産ではない以上、遺留分侵害額請求の対象にもなりません。
もっとも、前述の通り、遺産と比べて割合が大きければ特別受益と扱われるリスクがあります。生命保険金が多額になりすぎないように注意してください。

生命保険金と相続についてお困りの方は弁護士にご相談を


ここまで、生命保険金(死亡保険金)の相続における扱いについて、遺産分割や相続税との関係で解説してきました。
生命保険金は受取人固有の財産であるため、原則として遺産分割の対象にはなりません。ただし、多額の生命保険金は特別受益と判断される可能性もあります。
相続税との関係では、生命保険金はみなし相続財産です。可能であれば生前にできる対策を考えるとよいでしょう。

生命保険金と相続についてお悩みであれば、弁護士にご相談ください。特別受益になるかなど死後に争いが実際に発生している場合はもちろん、生前の対策として生命保険の活用を考えている方もサポートできます。
相続に関する法令は複雑であり、理解するのは容易ではありません。「生命保険金をめぐってトラブルになっている」という方、「死後の相続対策に生命保険を使いたい」とお考えの方あるいは、生命保険を取り扱われているプロの方でお客様がお困りの方も、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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