信託財産を追加(追加信託)する方法|必要なケースや注意点も解説

信託

「民事信託(家族信託)の信託財産を後から追加できるのか」と疑問をお持ちでしょうか?
信託の途中で信託財産を追加することは可能です。委託者と受託者の合意があれば、追加信託ができます。ただし、自由に信託財産を追加できるわけではありません。
この記事では、
●信託財産の追加が必要になるケース
●信託財産を追加する方法
●信託財産を追加する際の注意点
などについて解説しています。
金銭や不動産を信託財産に後から追加したいとお考えの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

信託財産の追加が必要になるケース


信託財産を追加したいと考えるケースとしては、以下が想定されます。

予想外にお金が必要になった

まず考えられるのが、信託を始めた後に、思っていた以上にお金が必要になるケースです。
民事信託では、たとえば高齢の親が「委託者兼受益者」、子が受託者となって、収益用不動産と管理のための金銭を信託するケースがあります。このケースで、信託を開始した後に、不動産に大規模な修繕が必要とわかったとします。いくら家族とはいえ、受託者が自分の財産を使うのはためらわれるはずです。「信託財産に委託者のお金を追加したい」と望むでしょう。
他にも、委託者が事故に遭って突然介護費用が増加した場合など、予想外にお金が必要になってしまうケースはたびたびあります。

契約後に得た金銭を新たに信託したい

信託契約後に委託者が得た財産を、新たに信託したいケースも想定されます。
信託財産以外から、委託者が収入を得る場合はよくあります。たとえば、信託後に入ってきた月々の年金や、信託の対象になっていない不動産から得た賃料収入などです。
委託者が高齢で金銭を管理するのが難しいのであれば、後から取得した財産についても、追加で信託の対象にしたいと考えるでしょう。

当初は少額で始めた

設定当初は少額の金銭しか信託していなかったものの、後から財産を追加したいと考える場合もあるでしょう。
民事信託では、財産の名義が委託者から受託者へと移転します。委託者が名義を移すのに抵抗があったり、受託者を信頼しきれなかったりするケースも少なくありません。そのため、対象を委託者の理解が得られる範囲にとどめ、少しの財産しか信託しない場合もあります。
信託に基づく財産の管理が始まると、委託者が恩恵を実感するとともに、受託者を信頼できるようになる可能性があります。「預ける金銭を増やしたい」「不動産も管理してもらいたい」などと、信託財産の追加を望むかもしれません。

信託財産を追加できる?


信託財産を追加したいニーズは数多くあります。では、信託財産の追加はできるのでしょうか?

信託できる財産であれば追加が可能

信託財産の追加に関して、信託法に明確な定めはありません。もっとも、追加は可能とされ、実務上も行われています。
信託できる財産であれば、追加ができます。よく追加されるのは、金銭や不動産です。反対に、マイナスの財産や農地など、そもそも信託できない財産については追加もできません。

信託できる財産とできない財産について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説

自由に追加できるわけではない

信託が可能な財産であるからといって、自由に信託財産に追加できるわけではありません。
追加の際には、契約書に追加に関する規定があることを確認したうえで、委託者と受託者の合意により行います。
また、そもそも信託契約の契約目的に反する財産は追加できません。たとえば、金銭管理のみを目的とする信託であれば、そのままでは不動産の追加はできないと考えられます。
信託財産を追加する方法について詳しくは、次の項目を参照してください。

信託財産を追加する方法


信託財産の追加は可能です。追加する際には、以下の方法で行います。

契約書に最初から追加を想定した規定を置く

信託法上は追加について明確な規定はありませんが、契約書に当初から追加を想定した規定があれば、スムーズに信託財産を追加できます。したがって、最初の契約締結の段階で、追加に関して定めておくのが望ましいです。
特に設定時点で追加が想定されている場合には、必ず追加に関する条項を規定してください。既に契約をしていて追加に関する定めがなかった場合には、契約内容を変更する必要があります。

追加の際に委託者と受託者で合意する

実際に追加する際には、基本的に委託者と受託者との間で合意が必要です。
特に不動産を追加する場合には、委託者と受託者の意思を確認して登記まで行うため、手続きが厳格です。
金銭については実務上、あらかじめ契約書に「委託者による振り込みにより、合意があったとみなす」旨の規定をおき、対応している場合もあります。もっとも、委託者の一方的な行為により受託者の責任が増す形になってしまいます。受託者の同意を必要とするのが望ましいでしょう。

信託財産を追加する際の注意点


信託財産を追加する際には、以下の点に注意してください。

委託者の判断能力が必要

追加する時点において、委託者の法的判断能力が必要です。
信託を追加する行為は、委託者から受託者への財産移転を伴います。委託者の意思に基づくものでなければならず、受託者だけで勝手に財産を追加することはできません。
委託者が認知症になった後は追加ができないので注意してください。

遺留分を侵害しないようにする

信託財産を追加した結果、相続人が有する遺留分を侵害しないようにしてください。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が有する、最低限の遺産の取り分です。遺留分を侵害された相続人は、多くの遺産を受け取った人に対して遺留分侵害額請求ができます。
民事信託では、財産の管理だけでなく承継についても定められますが、遺留分を侵害する内容であればトラブルの元です。当初の信託財産だけでは問題がなくても、追加により問題が生じる可能性もあります。財産の大半が特定の人に引き継がれる結果とならないか気をつけてください。

遺留分について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説

自己信託では公正証書の作成が必須

自己信託(信託宣言)の場合には、追加する際に公正証書を作成しなければなりません。
自己信託とは、委託者自身が受託者ともなる形態の信託です(信託法3条3号)。自己信託は財産隠しや執行逃れに利用されるおそれがあるため、公正証書を作成して行います。
信託の追加の際にも財産隠しや執行逃れとなるおそれがある以上、いつ何を信託財産としたのかを示すために、公正証書の作成が必要です。

自己信託について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:自己信託(信託宣言)とは?メリットや活用例を弁護士が解説

信託財産の追加(追加信託)を検討している方は弁護士にご相談を


ここまで、信託財産の追加について、必要なケース、方法、注意点などについて解説してきました。
契約後に得た金銭を信託したいケースや、最初は少額から始めたケースなどでは、信託財産の追加が必要になります。金銭や不動産など、信託できる財産であれば追加が可能です。信託契約に追加に関する定めを置いておき、委託者と受託者の合意に基づいて追加するようにしてください。追加時に委託者の法的判断能力も必要です。

信託財産の追加を考えている方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度が比較的新しく、仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が限られています。弁護士であっても対応できない場合が少なくありません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。これから信託契約を結ぶ方はもちろん、既に信託を始めている方に対しても、問題なく信託財産の追加ができるようにサポートいたします。
「信託財産が足りない」「別の財産も追加したい」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

  • 所属弁護士・事務所詳細はこちら

  • 電話相談・オンライン相談・来所相談 弁護士への初回相談は無料

    相続・信託に特化したサービスで、相続・信託に関するお悩み問題を解決いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
    ※最初の30分まで無料。以後30分ごとに追加費用がかかります。
    ※電話受付時間外のお問合せは、メールフォームからお問合せください。
    お電話受付:9時〜21時(土日祝も受付)
    0120-061-057