遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説

相続

遺言により他の人に故人の財産が引き継がれたとしても、相続人は遺留分を最低限の保障として受け取れます。
しかし、遺留分の計算方法は複雑です。
「自分は遺留分を請求できるのかわからない」
「受け取れる遺留分はいくらなのか知りたい」
などとお悩みの方も多いでしょう。
この記事では
●そもそも遺留分とは?
●遺留分の計算方法
●遺留分の請求方法
などについて解説しています。
遺留分の計算方法を知りたい方にとって役に立つ内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。

そもそも遺留分とは?

遺留分を計算する前提として、そもそも遺留分がどういった制度かについて解説します。

最低限の相続を保障する制度

遺留分とは、故人の遺産について、相続人が受け取れる最低限の割合を保障する制度です。
たとえば、妻子ある男性が「愛人に全財産を遺贈する」との遺言を残して亡くなったとします。
遺言にしたがって愛人に全財産が引き継がれると、男性の妻や子どもは一切遺産を受け取れなくなります。男性が生計を支えていた場合には、残された妻子は今後の生活に困ってしまうでしょう。
しかし、妻や子どもには法律上遺留分が認められているため、愛人への請求により遺産の一定割合の金銭を取得できます。

遺留分制度の目的

遺留分制度の目的は、故人の財産処分の自由と相続人保護のバランスをとる点にあります。
一般的に自分の財産をどう使うかは自由であり、死亡時にも自由に財産を処分できます。遺言により、特定の人に全財産を取得させることも可能です。
しかし、勝手に遺産が処分されることで、残された遺族が生活に困ってしまう可能性が否定できません。また、遺族が故人の財産形成に貢献していたとしても一切考慮されないのは不公平です。
そこで、原則としては財産の自由な処分を認めつつも、残された相続人に一定の保護を与えるために、遺留分という制度が設けられています。

遺留分の権利を持つ人

遺留分の権利を有するのは、法定相続人のうち
●配偶者(夫や妻)
●子(死亡しているときは孫、孫も死亡していればひ孫)
●両親(死亡しているときは祖父母、祖父母も死亡していれば曾祖父母)
です。
これらの相続人は故人との関係が深いため、一定の遺留分を与えるとされています。
ただし、遺留分が認められるのは相続人である場合に限られます。子がいる場合には両親は相続人とはならないため、存命であっても両親には遺留分は認められません。

また、子や両親がいない場合には兄弟姉妹が相続人となるものの、遺留分は認められていません。兄弟姉妹は配偶者・子・両親と比べて故人との関係が一般的に薄いためです。
たとえば「配偶者に全財産を相続させる」旨の遺言があれば、遺留分のない兄弟姉妹は一切遺産を受け取れません。

遺留分を計算する流れ


では、ここから遺留分を計算する方法を解説します。
大まかな流れは次のとおりです。

1. 遺留分計算の対象になる財産を確定する
2. 遺留分の割合を算出する
3. 1と2をかけあわせる

以下で詳しく解説します。

遺留分計算の対象になる財産

まずは、遺留分計算の元になる遺産の金額を確定させる必要があります。

遺留分の対象財産の計算式

遺留分計算の対象となる財産の計算式は次のとおりです(民法1043条1項)。

遺留分計算の対象となる財産=相続開始時の積極財産+生前贈与ー債務

したがって、遺留分計算の対象となる財産を計算するには、
●積極財産
●生前贈与
●債務
の金額をそれぞれ把握しなければなりません。

積極財産を確定する

積極財産とは、簡単にいうとプラスの財産のことです。
被相続人(亡くなった人)が相続開始時(死亡時)に持っていたプラスの財産を調査し、価値を確定させる必要があります。故人が有していた不動産、預貯金、有価証券などについて、死亡した時点における価値を調査してください。
預貯金については通帳や残高証明書から明らかです。不動産の評価方法は様々あるため争いになりやすく、必要に応じて不動産業者に査定を依頼するケースもあります。
なお、遺言によって譲った財産も死亡時の積極財産に含めます。

生前贈与を加える

故人が生前にした贈与のうち、以下は遺留分計算の対象となる財産に含まれます(民法1044条)。
●死亡前1年以内に第三者にした贈与
亡くなった時からさかのぼって1年以内に、第三者に対してした贈与は対象財産に含まれます。
●遺留分権利者に損害を加えると知ってした贈与
1年より前であっても、贈与の当事者双方が「相続人の遺留分を侵害する」と知ってした贈与は対象財産に含まれます。遺留分の権利を侵害する贈与であることを認識していればよく、「損害を与えよう」という加害の意図までは要求されません。
●死亡前10年以内の相続人の特別受益
相続人のひとりに対してなされた贈与は、以下の条件をいずれも満たす場合に限り、遺留分計算の対象となる財産に含まれます。例としては、子どもの自宅建設費用として金銭を渡していたケースです。
●「婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として」なされた
●死亡前10年以内になされ、特別受益といえる

債務を除く

故人にマイナスの財産があった場合には、その金額分だけ遺留分計算の対象となる財産は減額されます。借金はもちろん、税金や罰金も含まれます。

遺留分の割合


計算の対象になる財産が判明すれば、遺留分の割合を掛け合わせることで実際の遺留分の金額を算出できます。
「遺留分の割合」には次の2つの意味があります。
●遺産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)
●個々の相続人が有する遺留分の割合(個別的遺留分)
最終的に重要なのは「個別的遺留分」であるため、結論だけ知りたい方は「個別的遺留分」の方をご確認ください。

遺産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)

遺産全体のうち、遺留分権利者が全員合わせて有する遺留分の割合を「総体的遺留分」といいます。
総体的遺留分は以下のとおり定められています。
●相続人が両親(直系尊属)のみの場合 :1/3
●それ以外の場合 :1/2
基本的には、遺産全体のうち遺留分として法定相続人が請求できる割合は合計1/2です。たとえば、妻子ある男性が「愛人に全財産を遺贈する」との遺言を残していても、配偶者や子は合わせて1/2の遺留分を請求できます。
相続人が両親のみであるケースに限り、総体的遺留分は1/3になります。

個々の相続人が有する遺留分の割合(個別的遺留分)

遺留分権利者が複数人いる場合、法定相続分に応じて個々の相続人が有する遺留分の割合が決まります。個々の相続人が有する遺留分の割合を「個別的遺留分」と呼びます。
遺留分権利者がひとりのケースでは「総体的遺留分=個別的遺留分」です。

相続人のパターンに応じて、個別的遺留分は以下のとおりになります。

法定相続人総体的遺留分法定相続分個別的遺留分
配偶者のみ1/2配偶者:11/2(=1/2×1)
配偶者+子1/2配偶者:1/21/4(=1/2×1/2)
子:1/21/4(=1/2×1/2)※
配偶者+両親1/2配偶者:2/31/3(=1/2×2/3)
両親:1/31/6(=1/2×1/3)※
配偶者+兄弟姉妹1/2配偶者:3/41/2※※
兄弟姉妹:1/4なし
子のみ1/2子:11/2(=1/2×1)※
両親のみ1/3両親:11/3(=1/3×1)※
兄弟姉妹のみなし兄弟姉妹:1なし


※子や親が複数人いる場合には、人数に応じて均等に分けられます。
●例①遺留分権利者が配偶者と子3人
配偶者 :1/4(=1/2×1/2)
子A :1/12(=1/2×1/2×1/3)
子B :1/12(=1/2×1/2×1/3)
子C :1/12(=1/2×1/2×1/3)
●例②遺留分権利者が両親のみ
父 :1/6(=1/3×1/2)
母 :1/6(=1/3×1/2)
※※配偶者と兄弟姉妹が相続人のケースでは、遺留分権利者は配偶者のみであるため、配偶者が総体的遺留分を総取りします。

遺留分計算の具体例

ケース①第三者への遺贈があった場合

●被相続人(夫)が「愛人に全財産を遺贈する」との遺言を残して死亡した
●死亡時の財産:積極財産8000万円(生前贈与、負債はなし)
●相続人:妻と子2人
妻と子2人の遺留分が愛人への遺贈によって侵害されている事例です。
遺留分計算の対象になる財産は積極財産8000万円になります。
個別的遺留分は次の通りです。
妻 :1/4(=1/2×1/2)
子A :1/8(=1/2×1/2×1/2)
子B :1/8(=1/2×1/2×1/2)
したがって、個々の遺留分の金額は以下になります。
妻 :8000万円×1/4=2000万円
子A :8000万円×1/8=1000万円
子B :8000万円×1/8=1000万円
妻や2人の子は、それぞれ上記の金額を遺贈を受けた愛人に請求できます。

ケース②第三者への生前贈与があった場合

●被相続人(夫)は死亡の6ヶ月前に友人に3000万円を生前贈与した。
●死亡時の財産:積極財産2000万円(負債はなし)
●相続人:妻のみ
妻の遺留分が友人への生前贈与によって侵害されている事例です。
遺留分計算の対象になる財産は、積極財産2000万円+生前贈与3000万円=5000万円になります。
妻の個別的遺留分は、5000万円×1/2=2500万円です。
もっとも、妻は積極財産の2000万円を相続により受け取れるため、友人に請求できる金額は2500万円ー2000万円=500万円です。

ケース③相続人への生前贈与があった場合

●被相続人(夫)は死亡の5年前に住宅資金(特別受益にあたる)として長男に1000万円を渡した
●被相続人(夫)は「妻に全財産を相続させる」との遺言を残して死亡した
●死亡時の財産:積極財産7000万円(負債はなし)
●相続人:妻と子2人(長男・長女)
子の遺留分が「妻に全財産を相続させる」との遺言により侵害されている事例です。
遺留分計算の対象になる財産は積極財産7000万円+生前贈与1000万円=8000万円になります。
個別的遺留分は次の通りです。
長男 :1/8(=1/2×1/2×1/2)
長女 :1/8(=1/2×1/2×1/2)
したがって、個々の遺留分の金額は以下になります。
長男 :8000万円×1/8=1000万円
長女 :8000万円×1/8=1000万円
長女は侵害された遺留分1000万円を妻(長女から見ると母)へと請求できます。
これに対して、長男は遺留分と同額の1000万円の特別受益があるため、侵害されている遺留分はなく請求できません。

遺留分の請求方法


侵害されている遺留分がある場合には、どのように請求すればよいのでしょうか。
遺留分の請求方法を解説します。

遺留分は請求しないともらえない

まず知っておいて欲しいのが、遺留分の権利があっても自動的に金銭を受け取れるわけではない点です。
遺留分の権利を行使するか否かは個々の相続人に任されています。権利を有していても、請求しなければ遺留分の割合にしたがって金銭を受け取ることはできません。
後述のとおり遺留分には時効があるため、何もせずに時間が経過すると権利が消滅してしまいます。

遺留分侵害請求の流れ

遺留分を侵害されている場合には「遺留分侵害請求」が必要です。
遺留分侵害請求は一般的に以下の流れで行います。

内容証明郵便を送る

まずは「遺留分侵害請求をする」という意思を、遺贈や生前贈与を受けた人に対して、内容証明郵便を送付して示します。
意思表示そのものは内容証明郵便以外でも可能です。しかし、後に証明する必要が生じる可能性も考えられるため、確実に記録が残る内容証明郵便を用いてください。

交渉

意思表示に相手が反応したら、まずは当事者間で交渉をするのが一般的です。交渉でまとまれば、裁判所で面倒な手続きをする手間が省けます。
交渉では、受け渡す金額や支払い時期を話し合ってください。
もっとも、当事者間に事実関係や遺産額に関する争いがあったり、感情的なわだかまりがあったりすれば交渉でまとめるのは難しいでしょう。

調停

交渉でまとまらなければ、家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」を申立てます。
調停とは、裁判所でする話し合いです。調停委員が間に入って双方の話を聞きながら進めてくれるので、当事者だけでは話し合いが難しいケースでも問題解決が可能になります。

訴訟

調停でもまとまらなければ、訴訟になります。最終的には裁判官が判決を下すため、結論を出すことができます。もっとも、訴訟までいけば多大な時間や手間がかかることは覚悟しなければなりません。

遺留分には時効がある

遺留分侵害額請求権は、1年間行使しないと時効にかかり、権利が消滅します。
時効期間のカウントが始まるのは「相続の開始(被相続人の死亡)」と「遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと」の両方を知った時です。
また、相続開始から10年が経過すると、何も知らなかったとしても遺留分侵害額請求権は行使できなくなります。
時効期間が1年と非常に短いため、遺留分の侵害が疑われる場合には直ちに権利行使の意思表示をしてください。

遺留分の計算や請求でお困りの方は弁護士へ相談を


ここまで、遺留分の計算方法や請求方法などを解説してきました。
遺留分の計算方法は複雑であり、自分が請求できるかを判断するのが難しいケースもあります。また、請求するにしても相手との話し合いがうまく進むとは限りません。
弁護士に遺留分の請求を依頼すれば、金額計算はもちろん、相手とのやりとりや裁判所での手続きをすべて任せることが可能です。金銭面だけでなく、精神的なストレスが軽減できるメリットも期待できます。
遺留分の計算や請求にお困りの方は、ぜひダーウィン法律事務所までご相談ください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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