不動産を信託するときに作成されるのが「信託目録」です。信託目録には、当事者に関する情報など信託契約の内容が記載されます。
もっとも、信託目録は誰でも閲覧できるため、信託の内容を親族や赤の他人に見られてしまうおそれがあります。内容を知られないようにするには、公正証書の条項を引用するなど、何らかの対策が必要です。
この記事では、
●信託目録とは?
●信託目録の記載事項
●信託内容を知られないための対策
などについて解説しています。
不動産の信託を考えている方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
「信託目録」という言葉を聞き慣れない方は多いでしょう。まずは、信託目録の意味を解説します。
信託目録とは、その名の通り、信託の内容を記載した目録です。信託の登記がなされると、登記の末尾につけられます。
信託目録に記載されるのは、当事者の情報や信託条項などです。申請すれば誰でも内容を確認できます。
信託目録が作成されるのは、不動産が信託財産になるときです。
法令上、信託目録は信託の登記をする際に作成すると定められています(不動産登記法97条3項、不動産登記規則176条)。信託の登記が必要になるのは不動産を信託するときであるため、信託目録は不動産を信託する場合に作成されます。
信託目録の作成が義務付けられているのは、当該不動産が信託財産になった事実や信託の内容が誰にでもわかるようにするためです。不動産に関係する人が信託目録を確認すれば、信託の事実や内容が明らかになるため、取引をしてよいかなどを判断できます。
信託目録と似た言葉に「信託財産目録」があります。もっとも、両者はまったくの別物です。
信託財産目録は、信託財産を一覧にした書面です。何が信託の対象になったかを特定するために、信託契約書に添付されます。不動産以外にも、信託財産となった金銭や株式に関する情報が記載されています。
対して信託目録は、不動産の登記簿に載っているものです。法令の定めにしたがって、契約書の内容のうち一部が記載されています。信託された金銭や株式に関する細かい情報は記載されていません。誰もが閲覧できる点も信託財産目録と異なります。
信託目録に記載すべき事項は、不動産登記法97条1項に定められています。
民事信託(家族信託)の場合に関係する事項は以下の通りです。
●委託者・受託者・受益者の氏名・住所(1号)
●受益者の指定に関する条件・方法(2号)
●受益者代理人がいるときの氏名・住所(4号)
●信託の目的(8号)
●信託財産の管理方法(9号)
●信託の終了事由(10号)
●その他の信託条項(11号)
実際の信託目録では、以下の項目に分けて記載されています。記載した内容に変更があった際には、変更登記などが必要です。
信託目録の最上部には、目録番号や受付年月日・受付番号が記載されています。これらは、登記を申請した際に付け加えられる事務的な記載事項です。
目録番号は、登記簿の所有権について書かれた部分にある、信託登記の欄に記載された番号と対応しています。
委託者に関する欄には、委託者の氏名・住所が記載されます。
信託における委託者とは、財産を他人に預ける人です。
民事信託では、高齢の親が委託者になるケースが多いです。親が不動産を有していて信託の対象にしたときには、信託目録の委託者の欄に親の氏名・住所が記載されます。
受託者に関する欄にも、同様に受託者の氏名・住所が記載されます。
信託における受託者とは、財産を預かって管理する人です。信託をした際には、委託者が有していた財産の所有権が、形式的に受託者へと移転します。受託者が名義人となって、次に説明する受益者のために不動産を管理・処分します。
民事信託では、委託者の子が受託者になるケースが多いです。その場合には、子の氏名・住所が信託目録の受託者の欄に記載されます。
同様に、受益者に関する欄には受益者の氏名・住所が記載されます。
信託における受益者は、信託財産から生じる利益を受ける人です。受益者が受ける利益の例としては、収益用不動産を信託したときの賃料収入が挙げられます。
民事信託では、開始当初は委託者である親自身が受益者になるケースが多いです。「委託者=受益者」とすれば、設定時に贈与税が課税されるのを回避できます。親が受益者となった場合には、信託目録の受益者の欄にも親の氏名・住所が記載されます。
信託では、受益者が死亡した際の「第2受益者」も定められます。第2受益者以降の氏名は、明示しなくても構いません。詳しくは後述します。
また、受益者代理人がいる場合には、受益者の氏名・住所の登記は義務ではありません(不動産登記法97条2項)。
信託条項の欄には、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了事由などを記載します。したがって、信託目録を見れば大まかな信託の内容がわかってしまいます。
とはいえ、契約条項をすべて記載する必要まではありません。適宜必要な項目を抜粋して記載すればよいとされています。どの条項を記載するかが工夫のしどころです。
信託目録を含む登記事項証明書は、当事者でない第三者であっても取得できます。
信託目録を取得する際には、法務局で申請をします。申請書に必要事項を記載して提出すれば、取得が可能です。
信託目録だけの取得はできません。信託目録をつけてほしい旨を記載して、登記事項証明書を申請します。
申請の際には、所定の手数料が必要です。手数料を支払いさえすれば、誰でも取得できます。窓口に出向かなくても、オンライン・郵送で申請が可能です。
誰でも信託目録を取得できる以上、当事者以外にも信託内容を知られるおそれがあります。
そもそも不動産に登記制度があるのは、不動産に関する権利変動が誰にでも明らかになるようにするためです。登記がなければ権利関係がわからず、多くの人がおそれて不動産取引をしなくなり、経済活動が阻害されてしまいます。登記制度が存在する以上、誰でも確認できるのはある意味当たり前のことです。
とはいえ、他人に信託の内容を知られると弊害が生じ得ます。
たとえば、信託契約の内容を見て「自分に財産が引き継がれない」と知った親族との間でトラブルになるおそれがあります。親族としては、勝手に財産の行方が決められているのが許せないでしょう。
民事信託では、遺言と同様に財産承継について定められます。
信託の内容を知られないための対策としては、以下が考えられます。
まずは、公正証書により信託契約を締結し、信託目録では公正証書の番号や条項だけを示す方法です。
具体的な条文の中身は信託目録に記載されないため、契約内容は第三者に明らかになりません。たしかに法定記載事項は目録に載せざるを得ませんが、帰属権利者や第2受益者が誰であるかなど、記載義務がない項目は秘密にしておけます。
同じ公正証書は存在しないため、内容を特定できない事態も生じません。信託内容を知られないために公正証書を利用するのは有効な方法といえます。
ただし、昨今では、このような方法では法務局において登記を受け付けてもらえない場合がある事が知られており、必ずしもこの方法で対応できるとは限らない点に注意が必要です。
信託契約を公正証書ですべきことについては、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説
公正証書を利用して内容の一部を隠せたとしても、法定記載事項が定められている以上、完全には秘密にできません。不動産が信託の対象になっているとわかるだけでも、トラブルになるおそれがあります。
完全に隠しておきたいのであれば「遺言による信託」を利用する方法があります(信託法3条2号)。生きている間に信託契約を結ばなくても、遺言による信託の設定が可能です。遺言であるため亡くなるまでは効力が生じず、内容は第三者に判明しません。
もっとも、遺言による信託では認知症対策は不可能です。指定した受託者が引き受けてくれないおそれもあります。利用する際には十分な検討・準備が必要です。
遺言による信託について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
参考記事:遺言による信託(遺言信託)とは?メリット、注意点や活用例を解説
信託内容を第三者に知られるのが不安な方は、信託に詳しい専門家に相談・依頼しましょう。
民事信託は制度の歴史が比較的浅く仕組みが複雑であるため、法律の専門家であっても詳しいとは限りません。経験の乏しい専門家に依頼すると、スムーズに進まないばかりか、トラブルが発生するリスクがあります。
信託の取扱い経験が豊富な専門家であれば、法律の範囲内で信託目録に記載する内容を工夫できます。信託に精通した専門家を探して依頼するようにしましょう。
ここまで、信託目録について、記載事項や信託内容を知られないための対策などについて解説してきました。
信託目録は不動産を信託する際に作成し、信託のおおまかな内容が記載されています。誰でも取得できてしまうため、親族などに内容を知られないための対策が必要です。
不動産の信託を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況をお聞きしたうえで、法的リスクを避けつつ希望を実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。信託目録についても、詳しい司法書士と連携をとって内容を工夫できます。
「不動産を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。