遺言で実現できること・できないこと|民事信託で可能になることも解説

信託

相続対策として、遺言書の作成をお考えの方は多いでしょう。たしかに、遺言を利用すれば相続分の指定や遺贈など、多くの望みを叶えられます。
しかし、遺言も万能ではありません。離婚など多くの身分行為や、2代先の相続方法の指定など、遺言でも定められない事項があります。2代先の相続方法の指定は、民事信託(家族信託)で実現が可能です。
遺言書の作成だけが相続対策ではありません。遺言でできること、できないことを知ったうえで、他の方法も組み合わせてベストな備えをするようにしましょう。
この記事では、
●遺言で実現できること
●遺言でできないこと
●遺言でできないことを民事信託で可能にする方法
などについて解説しています。
希望通りに財産を引き継ぎたいとお考えの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

遺言で実現できること


遺言書に何を記載するかは自由ですが、書いたことがすべて法律上意味を持つわけではありません。遺言書の存在がかえってトラブルの原因とならないように、遺言で実現できる事項が法律上定められています。
遺言でできる主なことは、次の通りです。
●法定相続の修正(推定相続人の廃除、相続分の指定など)
●遺産の処分(遺贈など)
●身分上の事項(認知など)
●遺言の執行(遺言執行者の指定)
●その他(祭祀主宰者の指定など)
順に詳しく解説します。

法定相続の修正

遺言でできる代表的なことは、法定相続の修正です。
相続する人や相続割合は法律で規定されていますが、遺言によって変更できます。具体的には、次の行為が認められています。

推定相続人の廃除

遺言で推定相続人の廃除が可能です(民法893条)。推定相続人の廃除とは、相続人になる予定の親族について、相続権や遺留分をはく奪することをいいます。
廃除できるのは、親族が虐待・重大な侮辱やその他著しい非行をしていた場合に限られます(民法892条)。
相続人に最低限保障されるはずの遺留分すら奪う厳しい措置であるため、廃除するためには裁判所に許可を得なければなりません。遺言で廃除の意思表示をしたときには、遺言執行者が代わりに裁判所への請求を行います。裁判所が廃除を認めてくれないケースもよくあります。
生前にした廃除を、遺言により取り消すことも可能です(民法894条2項)。

相続分の指定

それぞれの法定相続人がどれだけの割合の遺産を受け取れるかは、法律で決まっています。
もっとも、遺言により相続分を指定すれば、法律上の原則の変更が可能です(民法902条)。遺言で実現できる典型的な事項のひとつといえます。
たとえば、本来であれば「妻1/2、子2人が1/4ずつ」のところを「全員1/3ずつ」と変えられます。「すべて妻に」としても構いませんが、子の遺留分を侵害してトラブルになるリスクに注意してください。
遺言者自身が割合を決めるだけでなく、割合の指定を第三者に委託することも可能です。

遺産分割方法の指定


遺言では、遺産分割の方法を指定できます(民法908条)。遺産分割方法の指定も、遺言によく記載される事項のひとつです。
遺言書がないと、具体的な遺産の分け方は相続人同士の遺産分割協議により決定されます。
遺言に定めれば「自宅は妻に。預貯金は子に」などと分け方の指定が可能です。
相続分の指定と同様に、第三者への委託もできます。

遺産分割の禁止

遺産分割の禁止を遺言で定めることも可能です(民法908条)。もっとも、禁止できる期間は最大で5年間に限られます。

相続人の担保責任の指定

特定の相続人が相続した財産に「面積が想定より狭かった」などの問題があったときには、他の相続人は損害賠償責任を負います。この責任が相続人の担保責任です。
相続人の担保責任は、相続分に応じて負うものとされています(民法911条)。もっとも、遺言によって異なる定めが可能です(民法914条)。

遺留分侵害額請求における負担割合の指定

遺贈や生前贈与が他の相続人の遺留分を侵害したときには、遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
受遺者が複数いる、または受贈者が複数いてタイミングが同時であったときには、受けた金額の割合に応じて、請求された遺留分侵害額を負担するのがルールです(民法1047条1項2号本文)。この負担割合は、遺言によって指定すれば変更できます(同号ただし書)。
参考記事:遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説

遺産の処分


遺産の処分についても遺言で定められます。
典型的なのは遺贈です(民法964条)。遺贈とは、遺言によって財産を譲ることをいいます。遺産分割方法の指定とは異なり、遺贈は相続人以外に対しても可能です。
「内縁の妻に自宅を遺贈する」「孫に財産の1/2を遺贈する」といった例があります。個人だけでなく、法人にも遺贈できます。

身分上の事項

身分を定める行為の一部も遺言でできます。

認知

遺言によって認知ができます(民法781条2項)。
認知とは、結婚してない男女間に生まれた子について、父が「自分の子である」と認める行為です。認知によって法律上の親子関係が生じ、認知された子には相続権が発生します。
ただし、認知される子が成人しているときには承諾が必要です(民法782条)。

未成年後見人の指定

未成年の子どもの親が亡くなって親権者が誰もいなくなるときには、親権者の代わりになる未成年後見人が選任されます。
未成年後見人は遺言で指定できます(民法839条1項)。未成年後見人の職務を監督する「未成年後見監督人」についても、遺言による指定が可能です(民法848条)。

遺言の執行


遺言を残したとしても、相続人同士にトラブルが生じるなどして、内容に沿ってスムーズに遺産を引き継げないケースがあります。遺言の中身を確実に実現するには、遺言執行者を指定するのが有効な方法です。
遺言執行者は、遺言により指定できます(民法1006条1項)。「遺言執行者を指定する人」を定めておくことも可能です。
参考記事:遺言を実現する遺言執行者の役割|必要なケースや業務の流れを解説

その他

他にも、遺言で以下の定めができます。

祭祀主宰者の指定

遺言で祭祀主宰者を指定できます。
祭祀主宰者とは、家系図、仏壇、墓石などの祭祀財産を管理する人です(民法897条)。
法律には明記されていませんが、解釈上遺言による祭祀主宰者の指定が認められています。

特別受益の持戻し免除

遺言では、特別受益の持戻し免除も可能です。
特別受益とは、一部の相続人が故人から遺贈や生前贈与により受け取った利益です。特別受益があった場合には、相続の際に取り分が調整されます。
もっとも、故人が「持戻し免除の意思表示」をすれば、特別受益は考慮されません(民法903条3項)。法律上明記はされていませんが、持戻し免除の意思表示は遺言でできるとされています。
参考記事:特別受益が認められるケースは?計算方法や遺産分割の流れも解説

生命保険金の受取人の指定

相続対策として生命保険金を利用されている方もいらっしゃるでしょう。生命保険金の受取人は、遺言によって変更できます(保険法44条1項)。
参考記事:生命保険金は相続財産に含まれる?受け取れる人や相続税について解説

遺言でできないこと


紹介した通り、遺言では多くのことが実現可能です。もっとも、書いたとしても法的に意味のない事項もあります。
以下のことは、遺言ではできません。

相続人の指定

遺言によっても、相続人の範囲を勝手に決めることはできません。相続人になれる人の範囲は法律で決まっています。
たとえば「内縁の配偶者を相続人とする」と定めても無意味です。遺贈によって財産を渡したからといって、相続人になるわけではありません。

二次相続の指定

遺言では、自分の死亡時の相続についてしか定められません。財産を引き継いだ相続人が死亡した際の事項を定めたとしても無効です。
たとえば「自宅は長男に。長男の死後は次男に。長男の嫁には渡さない」と考えていても、自分の遺言では指定できません。長男が別途遺言を残す必要があります。

借金の負担方法の指定

借金があるときに、遺言で負担者を外部的に指定することはできません。返済能力がない相続人に負債を集中させても、債権者との関係では無効です。
したがって、「借金は長男が全額負担する」と定めたとしても、債権者は各相続人に法定相続分に応じて返済を請求できます。

大半の身分行為

身分に関する事項は、認知や未成年後見人の指定を除いて、遺言ではできません。遺言は単独でできる行為であり、双方の意思が必要となる身分行為には適さないためです。
結婚、離婚、養子縁組、離縁などは、遺言ではできません。

連名による遺言

1つの遺言書で、2人以上が遺言することはできません(民法975条)。
夫婦連名による遺言をしたとしても無効です。別々に遺言書を用意してください。

付言事項の実現

遺言書には「付言事項」として家族へのメッセージなどを記載できます。もっとも、あくまで思いを伝えるだけであり、法律上は効力を有しません。
「遺留分侵害額請求はしないで欲しい」「仲良くしてもらいたい」「葬儀は簡素で構わない」といった記載は、生前の意思を伝えるためには意味があります。しかし法的拘束力はなく、内容通りに実現するとは限りません。

遺言でできないことでも民事信託(家族信託)で可能になる!


遺言は思い通りの財産承継のために有効な方法ではありますが、万能ではありません。柔軟に財産を引き継ぐためには、民事信託(家族信託)の利用も有力な選択肢となります。

民事信託(家族信託)とは?

民事信託とは、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる制度です。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託において、一般的に以下の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分します。設定時に贈与税が課税されるのを防ぐために、最初は「委託者=受益者」となっている場合が多いです。
典型的な民事信託の利用例は、認知症対策です。高齢の親を「委託者兼受益者」、子を「受託者」として、子が親のために財産管理を行うケースがあります。
民事信託には財産管理だけでなく財産承継の機能があるため、遺言の代わりに利用が可能です。

民事信託は先の相続についても定められる

民事信託は、先々の財産承継についても定められる点が大きなメリットです。
たとえば、離婚経験のある人が「財産は自分の死亡時は後妻に、後妻の死亡後には前妻との子に」と考えていても、遺言では実現できません。民事信託を活用すれば、この希望も叶えられます。
他にも民事信託には、生前の財産管理も任せられる、承継タイミングを選べるといった、遺言にはないメリットがあります。うまく活用すれば、非常に有効な方法です。
参考記事:民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説

財産の引き継ぎにお悩みの方は弁護士までご相談を


ここまで、遺言で実現できること・できないこと、民事信託で可能になることについて解説してきました。
遺言で様々な定めができますが、限界もあります。民事信託の活用も視野に入れると、思い通りの財産承継が実現しやすくなります。

財産の引継ぎについてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
遺言と民事信託は併用も可能です。状況によって最適な方法は異なるため、ご希望に合った方法を知るために弁護士へ相談するとよいでしょう。
民事信託は制度の歴史が浅く仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が十分にいないのが実情です。当事務所では民事信託を積極的に取り扱っており、多くの実務経験がございます。状況やご希望をお伺いして、個々のニーズに応じたオーダーメイドの制度設計をいたします。
「思い通りに財産を引き継がせたい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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