遺言書を実現する遺言執行者の役割|必要なケースや業務の流れを解説

相続

遺言書の内容をたしかに実現するために重要なのが遺言執行者の存在です。
遺言執行者を指定しておけば「遺言にしたがって手続きを進めてくれるか心配」という方も安心できます。
この記事では、
●遺言執行者とは?
●遺言執行者を指定するべきケース
●遺言執行者の業務の流れ
などについて解説しています。
遺言書を作成しようと考えている方にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

遺言執行者とは?


「遺言執行者」という言葉はあまり聞いたことがないかもしれません。
まずは、そもそも遺言執行者とはどういった存在なのかを解説します。

遺言の内容を実現する人

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを進める人です。
生前の意思を示すために遺言書を残していたとしても、その内容通りに確実に遺産相続が進むとは限りません。相続人が手続きを面倒だと感じて放置したり、相続人同士に争いがあってスムーズに進まなかったりする可能性が考えられます。
遺言執行者は相続を進めるのに絶対に必要な存在ではありません。しかし、あらかじめ遺言執行者を決めておけば、指定された人が責任を持って手続きを進めてくれるので、たしかに遺言の内容を実現できます。

遺言執行者になれる人

遺言執行者になるのに特別な資格は必要ありません。法律上、未成年者と破産者は就任できませんが、それ以外の人は誰でも遺言執行者になれます。
信頼できる知人・友人に任せるのはもちろん、相続人から選ぶことも可能です。複数人を選んだり、法人に依頼したりしても構いません。
もっとも、遺言執行のためには必要な手続きが多く、選ばれた人の負担は大きいです。手続きが苦手な人や相続に関する知識がない人が遺言執行者となると、かえって円滑に進まない可能性があります。
確実に遺言内容を実現したいのであれば、弁護士などの専門家に依頼するのがおすすめです。専門家に任せれば相続人の納得も得やすく、スムーズな手続きの進行が期待できます。

決め方

遺言執行者は以下の3つの方法で決まります。

遺言書で指定する

遺言書で遺言執行者を指定できます。自分が任せたい人を選べるので最も確実な方法です。
ただし、事前の相談なしに指定すると選ばれた方も困ってしまうかもしれません。遺言執行者への就任は拒否できるため、断られる可能性もあります。事前にお願いして承諾を得ておくとよいでしょう。

第三者に指定してもらう

遺言書で「第三者に誰を遺言執行者にするか決めてもらう」旨を定めることも可能です。遺言者が亡くなった際に、委託された第三者が状況に応じて適切な人を選ぶ形になります。

裁判所に選任される

遺言書で指定していないものの遺言執行者が必要な場合や、指定された人が拒否・死亡などで職務をできない場合には、裁判所が選任します。相続人などの利害関係人が裁判所に申立てをして、裁判所が適任者を選ぶという流れです。

遺言書で遺言執行者を指定するメリット・デメリット


遺言書による遺言執行者の指名には、以下のメリット・デメリットがあります。

メリット

遺言執行者を決めておくメリットは、信頼できる人に確実に手続きを進めてもらえる点です。
遺言執行者を指定しない場合には、基本的には相続人同士が話し合って手続きを進めます。協力して進められればよいですが、面倒だと感じて押しつけあったり、トラブルが発生したりするリスクが否定できません。
遺言執行者を指定すれば、自分の意思を実現できるのはもちろん、知識と責任感を有している人であれば期限内に手続きを終わらせることが期待できます。

デメリット

デメリットは、指定を受けた人が対応できないリスクがある点です。
多くの方にとって相続は普段なじみのない手続きでしょう。事前の相談なしに指定した場合には、手続きに慣れておらず選ばれた人が負担に感じるかもしれません。方法がわからなかったり、相続人にクレームをつけられたりして、スムーズに手続きが進まない可能性もあります。
こういった問題は、特に相続人のひとりを遺言執行者に指定したケースで生じやすいです。リスクを回避するためには、専門家を遺言執行者に指定することをおすすめします。

遺言書で遺言執行者を指定すべきケース


具体的にはいかなるケースで遺言執行者が必要なのでしょうか?
遺言書で遺言執行者を指定しておくべきケースをご紹介します。

認知をする

遺言書で認知をする場合には、遺言執行者を指定してください。法律上、遺言で認知をするには遺言執行者が必要なためです。
認知とは、結婚してない男女間に生まれた子について、父が「自分の子である」と認める行為です。認知によって法律上の父子関係が生じるため、認知された子には相続権が発生します。ただし、子が成人している場合には、子の同意がなければ認知の効力は生じません。
認知は生前はもちろん、遺言によってすることも可能です。遺言により認知した場合には遺言執行者が届出を行います。
遺言によって子を認知し、相続権を発生させたいと考えている場合には、必ず遺言執行者を指定しましょう。

相続人の廃除をする

遺言書で相続人の廃除をする場合にも、遺言執行者を指定してください。認知と同様に、遺言で相続人の廃除をするには遺言執行者が必要です。
相続人の廃除とは、相続人になる予定の親族について、相続権や遺留分をはく奪することをいいます。法律上遺留分を有していない兄弟姉妹は廃除の対象になりません。
廃除が可能なのは、相続人になる予定の親族が虐待・重大な侮辱や著しい非行をしていた場合に限られます。最低限保障されるはずの遺留分すら奪う厳しい措置であるため、裁判所への請求が必要です。裁判所が廃除を認めてくれないケースも多い点には注意してください。
相続人の廃除は、生前の手続きだけでなく遺言によっても可能です。遺言により廃除の意思表示をした場合には、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求を行います。また、生前にした廃除を遺言により取り消す場合にも遺言執行者が請求します。
ひどい虐待を受けたなどの理由で遺産を一切与えたくない相続人がいる場合には、廃除の請求のために遺言執行者を指定しましょう。

相続人に任せるのが不安

絶対に遺言執行者が必要なのは、認知や相続人の廃除をしたいケースに限られます。
もっとも、相続人に手続きを任せるのに不安がある場合には、遺言執行者を指定しておくのがベストです。
相続人が多忙である、遠隔地に住んでいる、仲が良くないなどの事情があると、遺言に沿ってスムーズに手続きを進めてくれない可能性があります。リスクを避けて確実に遺言を実現するためには、あらかじめ専門家を遺言執行者にしておくのがよいでしょう。

遺言執行者の業務の流れ


遺言執行者を指定するにあたって、具体的な活動内容を知っておいた方がイメージがわきやすいでしょう。
実際には多少異なるケースもありますが、遺言執行者の業務は大まかに以下の流れで進みます。

遺言書の検認を請求

遺言執行者になる予定の人が遺言書の保管を任されているケースも多いでしょう。その場合、遺言者が亡くなった後に遺言書の検認手続きをしなければなりません。
検認とは、裁判所で遺言書の中身を確認する手続きです。検認手続きにより、遺言書の状態を記録し、その後の偽造や変造を防止します。ただし、あくまで実施日の状態を記録するだけであり、遺言書が法律的に有効であることまでは証明できません。
検認の申立ては、遺言書を保管していた人や発見した相続人が行います。
検認手続きは、遺言の執行をする前提として必要です。ただし、公正証書遺言や法務局で保管している自筆証書遺言については、偽造・変造のリスクがないため検認する必要はありません。
遺言書の検認について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説

相続人への就任報告と遺言書の送付

遺言書で遺言執行者として指定を受けた人は、就任するか否かをを判断します。承諾した際には、就任する事実を相続人に対して書面で通知します。任務を開始する際には遺言書の内容を相続人に伝えなければならないため、同時に遺言書のコピーの送付も必要です。
指定を受けた人が受諾するかは自由であるため、事前の調整が不十分だと拒否される可能性も否定できません。

相続人の調査

遺言執行者に就任したら、相続人の調査を行わなければなりません。戸籍を取り寄せて、法定相続人の範囲を確定します。愛人との間に隠し子がいた場合など、想定外に相続人の範囲が広がるケースもあります。
手続きに慣れていない人であれば、相続人の調査だけでも大変に感じるかもしれません。

相続財産の調査と財産目録の作成・交付

相続人の調査と同時に、相続財産の調査も必要です。不動産や預貯金をはじめ、持っていた財産をすべて調べなければなりません。借金などマイナスの財産も調査します。
相続財産がわかったら財産目録を作成し、相続人に交付します。
相続財産の調査は、遺産が多い場合には大変な作業です。遺言を作成する方が、わかっている範囲で事前に財産の内容を遺言執行者に伝えておくと、手続きがスムーズに進むでしょう。

遺言の執行

財産を把握したら、実際に遺言書の内容に沿って手続きを進めます。必要な手続きはケースバイケースです。
たとえば以下が考えられます。
●不動産登記移転
●預貯金の解約・名義変更
●株式の名義変更
●認知、相続人の廃除
必要な手続きは膨大であり、十分な知識と経験がなければ滞りなく進めるのは困難でしょう。

完了報告

手続きがすべて終わったら、業務の完了を相続人に報告します。ようやく遺言執行者の業務が終了となります。

遺言書で指定した遺言執行者が業務をできない場合は?


遺言書で業務執行者が指定されても、就任を拒否したり、先に亡くなっていたりするケースもあります。
念のため、指定された人が業務ができないケースの流れも簡単に知っておきましょう。

家庭裁判所による選任が必要

遺言執行者として指定された人が業務をできない場合には、関係者が家庭裁判所に申立てをして選任してもらわなければなりません。
たとえば、指定を受けた人が
●就任を拒否した
●死亡した
●業務を進められず解任された
といったケースでは、選任手続きが必要です。

選任手続きの流れ


家庭裁判所における選任手続きの流れは以下の通りです。

申立てをする人

申立てを行うのは「利害関係人」です。
具体的には、
●相続人
●遺贈を受けた人
などが利害関係人に該当します。

申立て先

申立て先は、遺言をした人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄は裁判所のホームページから確認できます。たとえば、遺言者が亡くなったのが東京23区であれば、東京家庭裁判所(本庁)が管轄になります。

必要書類

必要書類は以下の通りです。
●申立書(書式・記入例は裁判所のホームページを参照)
●申立人の戸籍謄本(親族が申立人の場合)
●利害関係を証明する資料(親族以外が申立人の場合)
●遺言者の戸籍謄本
●遺言執行者候補者の住民票
●遺言書の写し

費用

申立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙 遺言書1通につき800円分
●郵便切手    裁判所が定める額(東京家庭裁判所は84円10枚、10円10枚)

選任審判

申立てを受けた裁判所は候補者の意見を聴き、問題がなければ選任審判をします。選任されると業務が始まります。

遺言書で遺言執行者を指定する場合は弁護士に相談を


ここまで、遺言執行者について、役割や選任すべきケース、業務の流れなどを解説してきました。
遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために重要な存在です。もっとも、事前の調整なく相続人のひとりを遺言執行者に指定すると、かえって手続きがスムーズに進まないリスクがあります。
遺言書の作成を検討している場合は、弁護士への相談が有効です。遺言書の内容や作成に関するアドバイスを受けられるのはもちろん、遺言執行者として弁護士を指定することも可能です。弁護士を遺言執行者にすれば、安心して死後の手続きを任せられます。
「遺言書の内容の実現を専門家に任せたい」「遺言で認知や相続人の廃除をしたい」「相続人が遺言に沿って手続きを進められるか不安」といった方は、ぜひダーウィン法律事務所までご相談ください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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