葬儀費用を誰が負担するかについては、相続人の間で争いが生じやすいです。
実は、葬儀費用の負担者は法律上明確になっていません。
喪主が負担すべきとの考えが有力な一方で、実際には法定相続分に応じて負担したり、相続財産から支払われたりする場合も多いです。ケースバイケースといってよいでしょう。
この記事では、
●葬儀費用の範囲や位置づけ
●葬儀費用の負担者
●葬儀費用の負担について争う方法、争いを防ぐ方法
などについて解説しています。
葬儀費用の負担についてお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、そもそも葬儀費用とは何かを知るために、範囲や相続における位置づけを解説します。
葬儀に関係して発生する支出には様々なものがあります。遺産相続に際してどこまで「葬儀費用」と考えるかについて、明確な答えはありません。
ひとつの参考になるのは、相続税における扱いです。相続税を計算する際には、以下の費用は控除できるとされています。
●葬儀会社に支払う費用(会場利用料など)
●通夜・告別式に関係する飲食費
●火葬費用、納骨費用
●遺体・遺骨の運搬費用
●寺に支払うお布施、読経料、戒名料
●葬式の手伝いをした人への心づけ
反対に、以下の費用は相続税の計算で控除できません。
●香典返し
●墓地・墓石や仏壇の購入費用
●法事の費用
ただし、上記はあくまで相続税の計算における扱いです。遺産相続においてどこまで考慮するか、誰が費用を負担すべきかという問題は別に残ります。
葬儀費用は、原則として相続財産にはあたりません。
相続財産とは、故人の「死亡時」の財産をいいます。葬儀費用は一般的に「死亡した後」に発生するため、「死亡時」の財産とはいえないのです。
相続財産にはあたらない以上、「法定相続分にしたがって相続人全員で負担するのが当然」との結論にはなりません。実際に葬儀費用を誰が負担するかは、ケースバイケースです。
葬儀費用の負担者に関しては、法律上の定めはなく、判例も明確に固まってはいません。
以下の通り、様々な考えが主張されています。
1.喪主が負担する
2.相続人全員が法定相続分に応じて負担する
3.遺産から支払う
4.慣習・条理により決まる
ここでは、1〜3について詳しく見ていきます。
近年の裁判例において有力になっているのは、葬儀費用は喪主が負担すべきとの考えです。この考えによると、喪主は他の相続人に対して、葬儀費用の支払いを求められません。
喪主が負担する根拠としては、葬儀を実施するか否かや、実施する場合の規模や費用について、喪主が決定権限を持つ点が挙げられます(参考:名古屋高裁平成24年9月29日判決)。
喪主に金銭的負担がかかってしまいますが、受け取った香典は喪主のものとするのが一般的な考えです。香典で葬儀費用をある程度まかなえるときには、喪主の実質的な負担も少ないといえます。
特に、喪主が他の相続人に一切相談せずに葬儀の段取りを進めていた場合には、喪主が費用を負担するのが妥当といえるでしょう。
もっとも、他に喪主のなり手がおらず仕方なく引き受けた場合には、心理的な負担に加えて金銭的負担もかかってしまい、不満が残るかもしれません。
相続人全員で法定相続分に応じて分担すべきとの考えもあります。この考えによると、喪主は相続人に対して法定相続分に応じた葬儀費用の支払いを請求できます。
たとえば、実際の葬儀の進め方を全員で決めていて香典も受け取っていなかったケースでは、全員が費用を分担するのが公平でしょう。
葬儀費用の負担者に明確なルールがない以上、相続人同士の話し合いで「全員で分担する」と決めても何ら問題はありません。全員が納得して決定するのは理想的といえます。
遺産から支出されるとの考えも存在します。
法律上、負債は法定相続分にしたがって相続するのがルールです。したがって、遺産から葬儀費用を支払えば、相続人全員で負担するのと同様の結果になります。
遺産から支払うのは「相続財産は故人の死亡時の財産である」との原則には沿いません。
とはいえ、遺言書で指定されていた、生前に葬儀会社との契約で定めていたなど、遺産から支出するケースはあります。
葬儀費用の負担者については明確なルールがなく、感情的な対立も生じやすいため、トラブルになるケースが少なくありません。
葬儀費用の負担に関するトラブルは、最終的にどのように争われるのでしょうか?
理論上は、裁判所での訴訟で争われることになります。葬儀費用は相続財産ではなく、本来は遺産分割調停でなく訴訟で決するものと考えられるためです。
もっとも、実際に訴訟になるケースは多くありません。
現実には、遺産分割調停の場で話し合われるケースが多いでしょう。調停とは、第三者の調停委員が間に入って、裁判所においてする話し合いです。
葬儀費用の分担は遺産分割と密接に関わっており、調停の場でまとめて解決するのが都合がいいと考えられます。原則として相続財産に含まれないとはいえ、相続人の合意により葬儀費用を遺産分割の対象としても構いません。
実際には、葬儀費用の他に相続人間で争いがあるケースも多いでしょう。相続に関連する問題は調停でまとめて話し合い、解決を目指すのが効率的といえます。
争いが深刻化すると、解決まで長い時間を要し、相続人同士の関係修復も難しくなってしまいます。
葬儀費用についてトラブルになる前に、未然に防ぐのがベストです。
争いを防止する方法としては、以下が考えられます。
生前の対策は有効です。
事前に規模、費用などについて葬儀会社と契約を結び、「費用は相続財産から支払う」と定めておけば、トラブルを防止できます。
葬儀会社との契約の他にも、遺言書に「葬儀費用は相続財産から支払う」と記載する方法も考えられるでしょう。遺言書を作成しておけば、他の相続財産の分け方を細かく定めることも可能です。
相続人に負担をかけないための「終活」の一環として、葬儀についても生前に決めておくとよいでしょう。
生前の対策がなされていなかった場合には、相続人同士の話し合いが重要です。話し合いで合意できれば、負担者を自由に決められます。相続人全員で負担するときの割合も自由であり、法定相続分通りにしなくても構いません。
葬儀の前によく話し合うべきなのは、規模や費用です。全員で決めていれば「なんで豪華な葬式にしたんだ」といった不満が出るのを防げます。負担者についてもあわせて決定しておきましょう。
全員で分担するときには、葬儀会社への支払いなど、かかった費用の領収書を残しておくべきです。「本当に払ったのか」といった疑念が生じないようにしましょう。
相続人同士でよく話し合う習慣をつけていれば、葬儀費用以外に関するトラブルも起きにくくなるはずです。
葬儀費用と相続に関するよくある疑問をまとめました。
死亡により預貯金口座が凍結されてしまい、葬儀費用の支払いに困ってしまうケースがあります。遺産の分け方が決まるまでは、凍結を解除できません。
葬儀費用の支払いに必要な資金が手元にないときは「預貯金仮払い制度」の利用が考えられます。預貯金仮払い制度を利用すれば、故人名義の口座にある預金の一部を、金融機関に直接請求して引き出せます(民法909条の2)。
引き出しには上限額が定められており、1つの金融機関につき、以下のうち低い金額しか引き出せません。
●預貯金額×1/3×請求する相続人の法定相続分
●150万円
複数の金融機関に預金がある場合には、合計150万円を超える引き出しが可能です。
預貯金仮払い制度について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
遺産相続における預貯金仮払い制度とは?上限額や払戻し方法を解説
受け取った香典は、一般的に喪主の財産になります。香典は、葬儀費用の一部をまかなうために喪主に渡される性質の金銭だからです。
もっとも、相続人同士で合意できれば、香典の金額を考慮して遺産の分け方を決めても構いません。葬儀費用と香典をトータルで考えて、全員が納得できる公平な遺産分割ができると理想的です。
相続税の計算においては、葬儀費用のうち以下は控除できます。
●葬儀会社に支払う費用(会場利用料など)
●通夜・告別式に関係する飲食費
●火葬費用、納骨費用
●遺体・遺骨の運搬費用
●寺に支払うお布施、読経料、戒名料
●葬式の手伝いをした人への心づけ
対して、以下の費用は相続税の計算で控除できません。
●香典返し
●墓地・墓石、仏壇の購入費用
●法事の費用
遺産分割の場面とは異なり、相続税を計算する場面では、自由に相続財産の範囲を決められません。法令にしたがって、納税の有無や金額を計算してください。
ここまで、葬儀費用について、相続における扱い、負担者、争い方、対策などについて解説してきました。
葬儀費用の負担者について明確なルールはありません。喪主負担が有力な考えですが、相続人同士でよく話し合うのが重要といえます。可能であれば生前の対策がベストです。
相続対策をお考えの方や相続問題でお悩みの方は、弁護士までご相談ください。トラブルが生じているケースはもちろん、生前対策についてのアドバイスもいたします。
「葬儀費用を遺産から支出できるように事前に対策しておきたい」「葬儀費用等の相続問題について相続人と話し合うのが億劫だ」などとお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。