
遺産分割調停は、共同相続人の間で遺産の分割について協議が整わない場合、あるいは協議をすることができない場合に、家庭裁判所の仲介を得て解決を図る手続です。
家事事件手続法上、遺産分割は「別表第2審判事件」に分類されています。日本の法制度では「調停前置主義」が適用されており、直接審判を申し立てた場合でも、特段の事情がない限り裁判所の職権で調停に付されるのが実務の通例です。
調停に至る主な理由としては、感情的な対立で話し合いができない、一部の相続人が遺産を隠している・独占しようとしている、生前の介護に関する「特別寄与」の主張、生前贈与などの「特別受益」の有無、被相続人の預金の使途不明金をめぐる争いなどが挙げられます。
司法統計によると、家庭裁判所における遺産分割事件の新受件数は過去20年間で約1.7倍に増加し、令和6年度には15,379件に達しています。遺産額5,000万円以下の事件が全体の約77〜80%を占めており、「相続争いは富裕層だけの問題」という認識は過去のものとなっています。
調停を申し立てる前提として、相続人の範囲と遺産の範囲を特定する必要があります。まず被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得し、法定相続人を確定させます。遺言書の有無の確認は最優先事項であり、自筆証書遺言がある場合は検認手続(または遺言書保管事実証明書の取得)を先行させなければなりません。
一部の相続人と連絡が取れない、議論が平行線をたどっているなど、明確な拒絶の意思表示がなくても申立ては受理されます。
原則として「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」です。複数の相手方がいる場合はそのうち1人の住所地を管轄する裁判所を選択できます。
相続人が各地に分散している場合は、家事事件手続法第6条に基づく「合意管轄」の活用が有効です。相続人全員が特定の家庭裁判所で調停を行うことに合意すれば、その裁判所に申し立てることができます。
①申立て(申立書・目録・戸籍等の提出)→②受理・審査(書類の形式的審査)→③期日調整(申立人・相手方への日程確認)→④期日通知(呼出状の送付)→⑤第1回期日(申立てから1〜2ヶ月後)
遺産分割調停は、裁判官(家事審判官)1名と家事調停委員2名以上で構成される「調停委員会」によって行われます。実務上、多くの場合は民間から選任された有識者である調停委員が直接の聞き取りと説得にあたります。
1回の期日は通常2時間程度です。当事者同士が顔を合わせることは原則として避けられ、各自が別の待合室で待機し、調停委員が交互に呼び出す「交互面接方式」が採用されています。
1回あたり20〜30分程度、調停委員が当事者の主張や希望を聴取します。当事者が交代する際に、調停委員間で情報を共有し、裁判官と協議が行われます。次回期日は1〜1.5ヶ月後に設定され、次回までに提出すべき資料(預金明細の精査、不動産査定書の取得など)が指定されます。
調停委員は単なる伝言役ではなく、中立公正な立場から解決案を提示し、当事者の歩み寄りを促します。当事者の感情的な訴えを傾聴しつつ、それを「具体的相続分」や「寄与分」といった法的な構成へと整理し直す作業を行います。調停委員が提示する解決案は法的拘束力を持ちませんが、裁判官の意向を反映していることも多いです。
近年は電話会議システムやウェブ会議を活用した「非対面型」の調停運用も拡大しており、遠隔地の当事者や代理人の負担軽減に寄与しています。
司法統計によれば、令和5年度の遺産分割調停の平均審理期間は概ね7.6〜7.7ヶ月です。ただしこれは早期の取下げや和解を含む数値であり、争いがある案件に限定すれば1〜2年程度が実務上の相場です。
審理期間の内訳(令和5年度:全体約13,872件)は、6ヶ月以内が約22%、6ヶ月超〜1年以内が約33%、1年超〜2年以内が約23%、2年超〜3年以内が約6%、3年超が約4%となっています。
※重要:2023年4月施行の改正民法(民法904条の3)により、相続開始から10年が経過した後は原則として「特別受益」や「寄与分」を考慮した具体的相続分での分割ができなくなりました。寄与分や特別受益を主張したい方は、相続開始から10年以内に調停を申し立てることが権利を守るための絶対条件です。
調停において合意の見込みがないと裁判所が判断した場合、調停は「不成立」として打ち切られ、手続は自動的に「遺産分割審判」へと移行します(家事事件手続法上の別表第2審判事件の特性)。新たな申立ては不要で、調停で提出された主張や証拠はそのまま審判手続に引き継がれます。
調停は「当事者の合意」を基礎とするのに対し、審判は「裁判官の公権的な判断」を基礎とします。裁判所は法と証拠に基づき分割方法を一方的に決定する法的拘束力のある「審判書」を発します。
審判では、①遺産の評価確定、②特別受益・寄与分を考慮した具体的相続分の確定、③各相続人の年齢・職業・生活状況等を考慮した分割方法(現物分割、代償分割、換価分割のいずれか)の決定が行われます。
ほぼ合意が成立しているが一部の当事者が心理的に署名を拒んでいる場合など、裁判所の職権で「調停に代わる審判」が出されることがあります。告知から2週間以内に異議がなければ確定し調停成立と同一の効力を持ちますが、1人でも異議を申し立てると通常の審判へ移行します。
●被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本一式
●相続人全員の戸籍謄本・住民票
●遺産目録(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金残高証明書等)
【特別受益の立証証拠】
●現金・預貯金の贈与:銀行振込履歴、通帳の写し、贈与契約書
●不動産:登記事項証明書(登記原因が贈与)、当時の評価額資料
●学費・生活費:振込明細、大学の授業料納付済証明
●結婚費用:挙式費用の請求書、結納金の記録
●療養看護型:介護認定記録、医師の診断書、ケアプラン、介護日誌
●家業従事型:確定申告書、タイムカード、業務日報
●金銭出資型:住宅リフォームの工事請負契約書、支払振込票
遺産分割調停における弁護士の役割は単なる手続の代行に留まりません。
「介護を一番していた」「兄が不公平だ」といった感情的な主張の中から、寄与分として構成可能な事実や特別受益として評価すべき事象を抽出し、裁判所が判断しやすい形式(主張書面)に再構成します。これにより調停委員からの信頼を獲得し、議論の主導権を握ることができます。
弁護士法23条の2に基づく「弁護士会照会」を利用することで、個人では開示に応じない金融機関からの詳細な取引履歴の取得や、病院からのカルテ開示が可能になります。隠された遺産の発見や使途不明金の解明に大きな力を発揮します。
弁護士は代理人として期日に出頭できます。仕事や健康上の理由で裁判所に行けない場合でも弁護士が単独で出席して主張を行えます。また、対立の激しい相続人と直接交渉する必要がなくなるため、冷静な話し合いが可能となり感情的な爆発による手続の空転を防げます。
調停成立時に作成される「調停調書」は確定判決と同一の執行力を持ちます。弁護士は将来的に相手方が支払いを拒否した場合に備え、強制執行が容易な文言で条項を作成します。
●収入印紙:被相続人1人につき1,200円分
●郵便切手:数千円分(裁判所が当事者への通知に使用)
●不動産鑑定費用:20万〜100万円程度(鑑定が必要な場合は相続人間で折半が通常)
着手金と報酬金(成功報酬)の二段階で発生するのが通常です。弁護士費用は遺産の規模によって決まります。ダーウィン法律事務所でも多くの事務所が現在も採用する旧日弁連基準を参考にしています。詳しくは弁護士費用のページをご確認ください。
遺産額の多寡に関わらず、一度こじれた親族関係を修復し公平な分割を実現するためには、調停手続の全容を熟知した専門家の介入が不可欠です。早めのご相談をお勧めします。
遺産分割調停についてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。