自ら物事を判断できなくなった場合には、後見人を選任して、財産の支出や管理をお願いすることになります。もっとも、法律で要求された後見人は、本人の資産を守ることを第一の使命としているため、投資や機動的に財産を支出することができないなどデメリットがあります。
高齢化社会を迎えるにあたり、今後後見人の需要はますます増えるようになります。本コラムでは、このようなデメリットを避ける方法について解説をいたします。
目次
認知症や精神障害によって物事の判断が難しくなった場合に、その人が生活を行うに当たって必要となる財産の管理や各種契約を法律面で支援する制度を後見制度といいます。
そして、支援する人のことを「後見人」といい、支援される人のことを「被後見人」といいます。
このような後見制度には、法律で定められた場合には後見人に着任することが義務づけられている「法定後見」と、自分が判断できるうちに予め後見人を決めておくことが可能な「任意後見」の2種類があります。
法定後見には、さらに、支援される人の判断能力の程度に応じて、重い順から、後見、補佐、補助と3段階の制度が用意されています。本コラムでは、重い「後見」を前提に以下、解説いたします。
法定後見 | 任意後見 | 民事信託 | |
---|---|---|---|
法律 | 民法 | 任意後見契約に関する法律 (以下「任意後見法」) |
信託法 |
制度の目的 | 身上監護 財産管理 |
身上監護 財産管理 |
財産管理 財産承継 |
本人の能力 | ①後見 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条) ②保佐 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法11条) ③補助 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者(民法15条) |
契約締結時 任意後見契約を締結する能力 効力発生時 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者 (任意後見法4条) |
信託契約 信託契約を締結する能力 遺言による信託 遺言をする能力 ※信託契約、遺言による信託をした後、委託者が認知症になったとしても、信託契約、遺言による信託の効力には影響しない。 ※信託契約では、委託者が死亡したとしても、受託者と受益者の間だけで信託契約の効力を存続させることができる。 |
本人の同意 | 不要(補助は必要) | 必要 | 必要 |
当事者・ 関係者 |
・本人=被後見人等 ・後見人等 ・後見監督人等 |
・本人 ・任意後見人 ・任意後見監督人 |
・委託者(財産を預ける者) ・受託者(財産を管理する者) ・受益者(利益を受ける人) ・信託監督人受益者代理人 |
効力発生 | 家庭裁判所の審判 | 家庭裁判所の審判 (任意後見監督人の選任) |
信託契約の締結 遺言効力の発生 |
対象財産 | 全ての財産 | 任意に選択できる | 任意に選択できる |
財産の活用方法 | 限定的 | 限定的 | 柔軟 |
本人が死亡 | 終了 | 終了 | 存続しうる |
裁判所の関与の度合い | 強い | 一定程度 | ほぼなし |
いずれも後見という制度のみでは、柔軟に対応できないことも多いのが現状です。そこで、民事信託(家族信託)という制度を利用することで財産処分の自由度をあげることに近年関心が高まっております。
詳細は、こちらの「民事信託(家族信託)の活用方法」をご参照ください。
以上、法定後見と任意後見について解説いたしました。
相続・遺言メニューでも、同様に法定後見と任意後見について解説しております。
「成年後見と民事信託(家族信託)について」こちらも合わせてご覧ください。
法定後見人や任意後見人に就任し、財産の管理や支出の管理を行うこともあります。特に法定後見人に着任する場合には裁判所の関与の程度が強いため、裁判所と協議しながら進めることになります。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
荒川 香遥
■東京弁護士会
■宗教法制研究会
相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。