目次
不動産オーナーの方は、不動産の管理、リフォーム・修繕、建替え等の事務を行う必要がありますが、高齢になれば、そのような事務負担が重いと感じることがあると思います。
しかし、不動産の所有名義人以外の方が、リフォーム・修繕、建替え等の契約を行うことはできません。
年齢を重ねるにつれて、このような事務負担を重く感じ、将来相続させる子の世代に生前から事務を任せたいと感じる場合もあるでしょう。
また、不動産オーナーが認知症や大病を患ったり、事故に遭ったりして意思表示が出来ない状況に陥った場合には、不動産の売却、建替え等が出来なくなってしまいますし、それ以降の相続税対策等の税務対策もできなくなってしまいます。
このような不動産オーナーの方の悩みを解決する手段として、民事信託が活用できます。
具体的には、信頼できる子を受託者として、不動産を信託し、その子がリフォーム・修繕、建替え等を行っていくというものです。
信託された不動産が土地の場合、受託者である子が受託者として金融機関から建物建築の借入を行い、建物を建築することも出来ます。このようなことが出来れば、土地が貸家建付地として評価減を受けられる可能性が出てくるなど、相続税対策にもなり得ます。建設後の建物の管理も受託者において行うことができます。
また、信託された不動産が土地建物の場合、建物のリフォーム・修繕や、賃貸不動産であれば入居者の募集等も受託者において行うことができます。
このように、信頼できる次世代に不動産の管理等を任せ、不動産オーナーの事務負担の軽減と、スムーズな相続の実現のために、信託を利用することが考えられます。
共有不動産の円滑な管理のためにも、信託が利用されることがあります。
共有不動産の建て替えや売却は、共有者全員の同意が必要となります。したがって、将来的に共有者間で見解が相違した場合に、老朽化した建物の建替えに踏み切れない等、適時に適切な管理が出来ない場合があります。
民事信託を利用することで、共有者は受益者として不動産から収益を得る権利を確保しつつ、管理については受託者に一手にゆだねることで、共有不動産の管理をシンプルに行うことが可能となります。
相続後、兄弟間で共有不動産となる可能性があるような不動産があれば、信託を利用することで相続対策を行い、共有不動産のデメリットを回避することが可能となります。
また、既に共有状態にある不動産がある場合でも、共有者の誰かが反対したり、認知症になってしまったりして、将来的に建替え等がスムーズにできない状況を回避するために、信託を利用しておくことが望ましい場合があります。
夫婦の間に子どもがいない場合に相続が発生すると、配偶者が遺産を相続することになります。
その後、配偶者が亡くなり相続が発生すると、その財産は配偶者の親族が取得することになります。
このような問題が顕著で民事信託が利用される典型的な場面として、後妻と実施との間の利益調整の場面があります。
具体的には、例えば不動産オーナーの方と先妻との間に子どもがいて、後妻との間に子どもがいない場合に、後妻の方が生きている間は不動産から得られる利益をもって後妻の生活を守り、後妻が亡くなった後は、自分の直系の先妻との間の子に不動産を全て相続させたいという望みを、遺言では叶えることが難しいのですが、信託を利用すれば叶えることができます。
このように、信託を利用することで、遺言だけでは対応することが難しかった細かい相続のニーズに対応することができます。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。