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相続税は、生前の準備次第で大きく節税できる可能性のある税金です。
残された家族の負担を考えて、相続に備えた対策を生前に取っておくことは大切なことです。
現金や土地がある人は、そのアパート・マンションを建築し、評価額を下げることで相続税対策を行うことが考えられます。
ただし、人が自分の亡くなった後の事、つまり相続のことを考え始めるときには、既に相当高齢になっていて、新たに不動産の建築や購入を考えられないような状態にある場合もあります。新たに金融機関から借入を行うことも難しいことが想定されます。
このような場合に、将来の相続人である子が受託者となり、高齢の親に代わって、受託者として金融機関から借入をしたり、不動産建築をしたりして、将来の相続に備えて相続税対策を行うことが考えられます。
相続対策でアパート・マンションを建てると次のような効果があります。
相続税計算において、土地の利用状況等の個別の事情に応じて評価減を受けることができます。そして、アパート・マンション建築がなされた土地は「貸家建付地」として、「自用地」と比べて評価額を下げることができます。
具体的には、借地権割合に借家権割合を乗じた金額分を差し引くことができます。
アパートやマンションのような貸家は、相続税において借家権(30%)の評価額を差し引いて計算します。したがって、固定資産税評価額からさらに3割程度評価が下がります。
不動産を建築する際に金融機関から借入を行うことで、借入金を債務として控除することができます。
信託を用いた相続税対策の具体例を挙げます。
親が保有している土地を信託し、子が受託者として建築資金の借入を行い、建物を建築して、建築後の建物の管理を行うスキームが考えられます。
このように、子が親に代わって借入から建物建築まで行うことで、親の資産の評価減となり、相続税の負担が下げられると考えられます。
ここで、民事信託を利用して、受託者が借り入れを行う場合の債務控除に関して重要な注意点があります。信託契約の条項の規定の仕方によって、債務控除が受けられなくなるかもしれない、といった議論があるからです。
相続税法9条の2第6項には、受益者連続信託の場合等に、受益権を取得した第二次受益者以降の者は、当該信託財産に属する資産及び「負債」を取得し、又は承継したものとみなされると規定されています。この規定の適用があればこそ、負債も取得したものとみなされ、債務控除が受けられると考えられています。
この債務控除について定める相続税法9条の2第6項は、同4項すなわち委託者兼受益者である高齢者が死亡した場合に即時に終了する一代限りの信託について定めている規定を適用範囲から除外しています。
このことに起因して、委託者兼受益者の死亡を終了原因として即座に終了する信託契約では、債務控除を受けられないのではないか、という問題提起がされており、これについては未だ決着がついていません。
このような疑義を生じないようにするために、信託に詳しい弁護士及び税理士に相談しながら契約を締結して、しっかりとした相続税対策を行っていけるようにすることが大切です。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。