遺留分の計算

相続・遺言

 遺留分制度の内容や基本的な考え方についてはこちらのページ「遺留分制度について」で解説させていただきました。
 このページでは、遺留分侵害額がいくらになるのかについて、具体的な計算方法を説明させていただきます。
 具体的な計算方法についてイメージをし易いように、次のような事案を前提にしたいと思います。
被相続人:父 相続人:母、長男、長女
遺産:800万円相当の不動産

 また、計算を容易にするために、遺産の全てが第三者に遺贈されているケースを念頭においていただければと思います。
 なお、遺留分侵害額の請求に関する具体的な行使方法については、こちらのページ「遺留分侵害額請求権の具体的行使方法」をご確認ください。

1.個別的遺留分額

 まずは、各相続人の遺留分を確認しましょう。

民法

(遺留分の帰属及びその割合)
第1042条
1項 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
1号 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
2号 前号に掲げる場合以外の場合   2分の1
2項 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

 冒頭で御紹介した家族構成による場合、法定相続分は配偶者である母親が2分の1で、子供たちが4分の1ずつということになります。
そして、直系尊属のみが相続人である場合ではありませんから、第1042条1項2号が適用され、遺留分は母親が4分の1、子供たちがそれぞれ8分の1ずつということになります。
したがって、遺留分額は母親が200万円で子供たちが100万円ずつということになります。この金額を個別的遺留分額といいます。

2.個別的遺留分額から控除される金額

(1)条文

 個別的遺留分額について、常に支払いを受けられる訳ではありません。当該金額から加除される金額が存在します。
この点も、従前は法律で定められている訳ではありませんでしたが、法改正によって法律で定められることになりました。

民法

(遺留分侵害額の請求)
第1046条
1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2項 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
1号 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
2号 第900条から第902条まで、第903条及び904条の規定に より算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
3号 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 条文だけでは計算式を直ちにイメージしにくいと思いますので、項目ごとに御説明いたします。
 まずは、遺留分権利者の特別受益の金額と遺留分権利者が相続によって取得する積極財産の金額が控除される点について説明します。

(2)特別受益の金額

 遺留分権利者が被相続人から贈与等を受けている場合には、その分の金額については、遺留分が侵害されたと評価する必要がありません。
 例えば、本件において、父が100万円を母親に100万円を贈与していた場合には、母親の個別的遺留分額から100万円を控除することになるのです。
 この時に注意したいのは、この100万円については遺産に算入されることになりますから、母親だけでなく子供の計算式にも影響を及ぼすということです。
 つまり、遺産が800万円ではなく900万円になる訳ですから、子供たちの個別遺留分額は100万円でなく112万5000円ということになるのです。

(3)相続によって取得する積極財産の金額

 また、事前に贈与等を受けていた場合だけでなく、遺産の一部を相続によって取得することができるのであれば、その金額についても遺留分が侵害されたと評価する必要はありません。
 例えば、父親が他に400万円の財産を有しており、当該財産についての遺言等がなければ、その財産については、母親が200万円、子供達が100万円ずつを相続することになります。
そうすると、個別遺留分額については、1200万円の財産(800万円+400万円)の内、母親は4分の1の300万円、子供たちが8分の1の150万円ずつということになりますし、母親は300万円から200万円、子供たちは150万円から100万円を控除して、遺留分侵害額を計算することになります。

3.個別的遺留分額に加える金額

 上で御紹介させていただいた条文を引続き御確認ください。
 上述したように、相続によって積極財産を得られた場合に、その金額を個別遺留分額から控除するのであれば、相続によって消極財産を負担することになった場合には、その分を遺留分額に加える必要があります。
 例えば、先程とは異なり、父親が400万円の借金を有している場合で、各相続人が相続を放棄しなかった場合、母親が200万円、子供たちが各100万円の債務を負担することになります。
 この場合、個別遺留分額については、400万円(800万円―400万円)の内、母親は4分の1の100万円、子供たちが8分の1の50万円ずつということになりますし、母親は100万円に200万円を、子供たちは50万円から100万円を加えて、遺留分侵害額を計算することになります。

4.まとめ

 以上のとおり、遺留分侵害額の計算についての考え方はシンプルなものと言えます。しかしながら、考え方はシンプルであっても、実際にどのような数字を入れるべきなのかについて悩まれる方は多いように思います。
 弊所では相続や信託全体についてHP上で解説させていただいておりますので、御相談いただければと思います。

この記事を書いた弁護士

岡本裕明
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 岡本 裕明

  • ■東京弁護士会 ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法研究部

  • 主に刑事事件への対応を通じた交渉・訴訟の経験を豊富に有し、粘り強い交渉や緻密な書面で当事者間の対立が鋭い相続案件を解決してきた実績があります。所属する東京弁護士会では、信託業務を推進する信託PTや信託法研究部に所属し、日々の研鑽を通じて民事信託に関する豊富な知識を有しております。

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