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信託財産には独立性があるといわれています。信託財産の独立性は、「倒産隔離機能」とも呼ばれています。
これはどういうことなのかといいますと、委託者が破産したとしても、信託財産は受託者の所有に移っているため委託者の破産の影響を受けませんし、他方で、受託者が破産したとしても、受託者の債権者は、法律で信託財産に強制執行をすることができないことになっているため(信託法25条1項)、委託者の債権者も受託者の債権者も信託財産には手を出すことが出来ないということになります。
このように、信託財産には独立性がありますが、このことは、信託に関係のない第三者に影響を及ぼすため、信託財産であることを公示しておく必要があります。
信託法14条は、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。」と定めています。
不動産は、登記をしなければ第三者に対抗することが出来ない財産である、ということになりますので、信託に関する登記をしなければ、第三者に対して「これは信託財産ですよ」ということを言えなくなってしまうため、登記する必要があるということです。
信託を設定し、その信託財産の中に不動産が含まれている場合には、「信託を原因とする権利移転登記」と「信託に関する登記」の2種類の登記をする必要があります。
まず、「信託を原因とする権利移転登記」の典型例は、信託を原因とする所有権移転登記です。信託では、委託者の所有する不動産を受託者の所有に移しますので、所有権移転の登記を必要とします。この所有権移転が生じた原因が信託である、ということです。
売買や相続を原因とする所有権移転登記などと同じように、信託を原因とする所有権移転登記も必要だということです。
次に、「信託に関する登記」の典型例は、「信託の登記」といわれるものです。
この信託の登記とは、「どのような信託契約に基づいて、当該不動産が信託財産となっているのか」を公に示すために、信託契約条項の概要を登記するものです。
この信託の登記により、信託契約書のダイジェスト版のようなものが公示されることになります。
ここで余談ですが、信託は親族間で争いごとがある場合において遺言類似の機能を持つものとして作成されることも少なくないため、争いになる可能性のある親族や第三者に信託の内容を知られたくないという人もいます。このような人の中には、信託の登記において「信託契約公正証書第●条に記載の通り」などと記載して、信託条項を援用する形を取り、信託の登記に具体的な信託条項の内容を記載しない例もありました。
これまではそのような記載であっても、登記官は形式的審査しかしないため、登記自体は出来ていたようです。しかし、登記の公示機能に照らすと、このような登記が今後も許容され続けるかどうかは疑問があり、昨今ではこの疑問を呈する専門家が増えてきました。
今後は、「信託契約公正証書第●条に記載のとおり」のような援用形式は、法務局・登記官によっては登記を拒まれる可能性がありますし、仮に一度登記できたとしても、後続の登記の際に信託目録の更正が必要という扱いになる可能性があるため注意が必要です。
次に、信託財産の現金の保管方法ですが、一般に、信託財産の現金は信託口口座と呼ばれる受託者名義で開設した信託専門の口座で管理されることが多いといえます。
法律上、信託口口座を開くことは要求されておらず、受託者がきちんと固有財産と区別して管理できていればそれで良いとされています(この固有財産と信託財産を区別する受託者の義務を分別管理義務といいます)。しかし、先に述べた倒産隔離機能がきちんと機能する信託財産として預金を管理するためには、信託口口座を開設することが必要ですし、金融機関から受託者が融資を受ける場合(信託内融資)には、信託口口座の開設が必須です。
銀行や信用金庫によって、信託口口座を作れるのかどうかの運用は異なっています。
全ての銀行や信用金庫が信託口口座開設に対応しているわけではないので、まずは希望する金融機関が信託口口座作成に対応しているかどうかの問い合わせから行う必要があります。
次に、信託口口座を開設した場合、金融機関としてはトラブルに巻き込まれないために信託契約書のチェックを行うのが通常です。
金融機関によって、信託口口座開設にあたってのチェックポイントが異なっていますので、信託口口座の開設を予定する金融機関において、信託契約書のドラフト段階のものをチェックを受ける必要があります。
公正証書化した後に金融機関に持ち込んで、チェックに引っかかってしまい信託契約書の変更が必要となった場合には、信託の変更で余計な経費と時間がかかってしまいますので、注意が必要です。
まず、信託を設定して効力が発生した際に、受託者は、受益者別の、「信託に関する受益者別調書」と「信託に関する受益者別調書合計表」 を、受託者の所在地の所轄税務署長に、各事由が生じた日の属する月の翌月末日までに提出しなければならないとされています(相続税法59条)。
ただし、設計時に委託者と受益者が同一の自益信託の場合等一定の場合には提出が不要とされておりますので、民事信託の場合、設計時にこの書類の提出が必要となることは稀でしょう(相続税法施行規則30条7項)。
次に、受託者は「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」を、受託者の所在地の所轄税務署長に毎年翌年の1月31日までに提出しなければなりません(所得税法227条)。
ただし、その信託の収入の合計額が3万円(計算期間が1年に満たない場合は1万5000円)以下の場合は、信託の計算書を作成する必要がありません。
したがって、賃貸物件のように収益を一定程度生み出すような信託財産がある場合には提出が必要となる一方、自宅不動産のように収益を生まない不動産のみが信託財産の場合には提出が要求されません。
受託者は、受益者に対して、信託事務に関する計算と信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにする必要があります。
信託財産に係る帳簿等を作成し、毎年一回、信託契約で定めた一定の時期に、貸借対照表・損益計算書を作成しなければなりません(信託法37条1項~3項)。
この受託者から報告を受けた受益者は、受託者から受領した貸借対照表と損益計算書を元に、所得税の確定申告を行う必要があります。
通常、信託の計算期間を受益者個人の所得税の確定申告の計算期間と合わせることで、受託者の計算事務を簡略化するために、「本信託の計算期間は毎年1月1日から同年12月31日までとする。」などとすることが多いといえます。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。