
寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合に、その貢献を相続分に反映させるための制度です(民法904条の2)。
民法904条の2第1項は、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」相続人に対して寄与分を認めると規定しています。
寄与分は遺産分割協議において他の相続人との話し合いで決めますが、協議がまとまらない場合は家庭裁判所に審判を申し立てることができます。ただし、法は寄与分よりも遺言(遺贈)を優先する扱いをとっており(民法904条の2第3項)、遺言によって全財産が指定されている場合には、寄与分の主張は原則として認められません。
介護による「療養看護型寄与分」が認められるためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。裁判所はこれらの要件を厳格に審査します。
被相続人が客観的に看護・介護を必要とする状態にあったことが前提です。単なる高齢や軽度の身体機能低下では不十分です。
実務上は、介護保険制度上の要介護2以上、特に要介護3以上の状態であった場合に認められやすい傾向があります。認知症による徘徊・不潔行為など常時見守りが必要な状態であれば高く評価されます。
主治医の診断書、要介護認定時の認定調査票、介護保険のケアプランなどが客観的証拠となります。
民法877条1項は親族間の扶養義務を定めており、民法752条は夫婦間の協力義務を定めています。これらの義務の範囲内での援助は「特別の寄与」とは認められません。
仕事を辞めて介護に専念した、自身の生活を犠牲にするレベルの献身が求められます。週に数回の買い物や通院の付き添い、たまの家事手伝い程度では「通常期待される範囲内」として否定されます。
介護の対価として、被相続人から報酬や生活費の援助を受けていた場合は無償性が否定されます。被相続人の所有不動産に無償同居しながら生活費もほぼ負担してもらっていた場合は、その便益が考慮されて寄与分が大幅に減額または否定されることがあります。
一般的には1年以上の継続が目安とされます。仕事の合間に行う断続的な介護では専従性が認められにくく、介護のためにキャリアを中断した事情があると有利です。
フルタイムで働きながら週末だけ手伝う程度では認められにくく、少なくとも本業を制限してでも介護に注力していたことが求められます。
介護に従事したことで、本来外部のヘルパーや施設に支払うべき費用を支出せずに済んだという経済的因果関係が不可欠です(消極的増加)。
精神的な支えや最期の看取りという情愛的な側面だけでは、法的な寄与分の根拠にはなりません。経済的に評価できる事実を主張することが必要です。
療養看護型寄与分の計算式は以下のとおりです。
寄与分額 = 報酬相当額(日当)× 療養看護日数 × 裁量割合
介護保険法の介護報酬基準額を参考に、地域・要介護度に応じて概ね以下の範囲で設定されます。
●要介護2:5,000円〜6,500円程度
●要介護3:6,000円〜7,000円程度
●要介護4:7,000円〜8,000円程度
●要介護5:8,000円〜9,000円程度
実務では、交通事故賠償における近親者付添費(日額6,500円前後)が参照されることもあります。
相続人はプロの有資格者ではないことや、親族間の扶養義務が一部含まれることを考慮して裁量割合(調整率)を掛けます。一般的には0.5〜0.8の範囲で、実務上は0.7が中央値として採用されることが多いです。
●介護のために離職した場合:0.8前後まで上がる可能性あり
●被相続人の資産で生活していた場合:0.5以下に下がることもあり
実際に自宅で介護を行った日数を積算します。以下の期間は原則として除外されます。
●被相続人が入院していた期間
●老人ホーム等の施設に入所していた期間
●デイサービスや訪問介護サービスを受けていた時間
遺産5,000万円、相続人は長男・長女(各1/2)のケースで、長女が父を3年間(1,095日)、要介護3の状態で自宅介護した場合。
寄与分額 = 7,000円 × 1,095日 × 0.7 = 約536万円
●みなし相続財産:5,000万円 − 536万円 = 4,464万円
●長男の相続分:4,464万円 × 1/2 = 2,232万円
●長女の相続分:(4,464万円 × 1/2)+ 536万円 = 2,768万円
長女は長男より536万円多く受け取ることができます。
実務では、寄与分を主張しても認められないケースが少なくありません。代表的なパターンは以下のとおりです。
●週1回程度の買い物や通院付き添い
●入院中の洗濯物交換やお見舞い
●遠方からの電話による安否確認
●被相続人の所有不動産に家賃無料で同居していた
●生活費のほぼすべてを被相続人の年金に依存していた
●介護に対して毎月相応の謝礼を受け取っていた
●訪問介護や施設入所が主で、相続人の役割が補助的であった
2019年(令和元年)7月施行の改正民法により、相続人以外の親族(例:長男の妻、孫など)が被相続人の療養看護等に貢献した場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できる制度が新設されました(民法1050条)。
●対象者 寄与分:法定相続人のみ/特別寄与料:相続人以外の親族(6親等内血族・配偶者・3親等内姻族)
●根拠 寄与分:相続人間の合意または家裁の審判/特別寄与料:相続人への金銭請求権
●優先順位 寄与分:遺贈(遺言)が優先/特別寄与料:遺産から遺贈を控除した残額が限度
●期限 寄与分:遺産分割時まで/特別寄与料:相続開始等を知って6ヶ月・開始から1年(除斥期間)
特別寄与料には、相続の開始および相続人を知った時から6ヶ月以内という極めて短い期限があります(除斥期間であり、時効のような中断は認められません)。遺産分割協議が長引いている間に期限が切れてしまうケースも実務上散見されるため、早急に弁護士に相談することが重要です。
また、最高裁令和5年10月26日決定は、遺言によって相続分がゼロと指定された相続人は、たとえ遺留分侵害額請求を行使して財産を得たとしても特別寄与料の支払義務を負わないとの判断を示しました。これにより、請求先となる相続人の選定が一層重要となっています。
まず相続人全員による遺産分割協議の場で寄与分を主張します。他の相続人が認めれば、遺産分割協議書に反映して解決します。
協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停委員を交えた話し合いで解決を目指します。
調停でも解決しない場合は審判に移行し、家庭裁判所が「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」寄与分を決定します(民法904条の2第2項)。
寄与分の請求には専門的な法律知識と立証力が必要です。弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
要介護認定資料(認定調査票・主治医意見書)の開示請求、ケアプランの収集など、専門的な証拠収集をサポートします。介護日誌などの記録が残っていない場合でも、公的記録から介護実態を再構成する立証が可能です。
相手方から「扶養義務の範囲内」「対価を受け取っていた」などの反論が来た場合、裁判例を踏まえた効果的な再反論が可能です。
調停や審判の場で、相続人の貢献を正確かつ説得力をもって主張できます。また、話し合いによる早期解決(和解)を目指した交渉術も活用します。
被相続人が存命であれば、介護の功績を認める内容の遺言を作成してもらうことが最も確実な解決策です。弁護士は遺言書の作成もサポートします。
寄与分の認定には高いハードルがありますが、適切な証拠を収集し、法的な要件を満たした主張を行うことで認められる可能性は十分あります。介護によって「多くもらえるはず」とお悩みの方は、早めにご相談ください。
寄与分についてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。