殺したら相続できない!?相続欠格や相続廃除とは?

相続

 わが国では、毎年約1000件と決して少なくない数の殺人事件が発生しています。最近「ジョーカー」という名の通り魔が大きな話題になりましたが、殺人は顔見知りによる犯行の多い犯罪です。なかでも、親族、つまり、夫が妻を、妻が夫を、子が親を、親が子を、または兄弟姉妹を殺してしまった事件をニュースで見ることも多いのではないでしょうか。
 それでは、親族を殺した場合、相続はどうなるのでしょうか?
 今日はこの問題について解説したいと思います。

1 相続人は誰?

そもそも誰が相続人でしょうか?
民法の規定をみてみましょう。

民法

民法887条 被相続人の子は、相続人となる。
 民法889条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定(※子が相続人になることを定めた規定です)により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順位に従って相続人となる。
 一 被相続人の直系尊属。
 二 被相続人の兄弟姉妹。
 (※一号後段省略)
 民法890条 被相続人の配偶者は、常に相続人になる。この場合において、第八百八十七条(※子が相続人になるという規定です)又は前条の規定(※直系尊属や兄弟姉妹が相続人になるという規定です)により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする

 以上の民法の規定から、基本的に相続人になれるのは、被相続人(亡くなって相続される人のことを「被相続人」といいます)の子、直系尊属(相続される人の父親や母親などのことです)、兄弟姉妹と配偶者になります。

 配偶者は常に相続人になりますが(民法890条)、子、直系親族、兄弟姉妹には順位があります。優先順位は、子→直系尊属→兄弟姉妹です(889条柱書)。被相続人に子がいれば子が相続人になり、被相続人の直系尊属や兄弟姉妹は相続人になれません。被相続人に子がいない場合には、子の次の順位である直系尊属が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になれません。被相続人に子も直系尊属もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。配偶者は常に相続人になるので、配偶者がいるときは、子、直系尊属、兄弟姉妹は配偶者とともに、配偶者がいないときは子、直系尊属、兄弟姉妹で相続することになります(民法890条後段)。

 では、これらの者を殺した場合、殺した者は相続人になれるでしょうか?

2 殺したらどうなるか?―相続欠格

 被相続人や被相続人の配偶者、子、親、兄弟姉妹を殺したらどうなるで
しょうか?

 民法891条は、柱書で、
 次に掲げる者は、相続人になることができない。
 と定め、その1号に、

 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又 は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 と定められています。

 したがって、被相続人や自分より先順位者(順位は子→直系尊属→兄弟姉妹なので、直系尊属が子を殺した場合や、兄弟姉妹が子や直系尊属を殺した場合です)、または自分と同順位者(配偶者は他の子や直系尊属や兄弟姉妹と同順位なので、それらの者が被相続人の配偶者を殺した場合などです)を殺したり、殺そうとした場合には、その者は相続人になることができません。このことを、相続欠格といいます。

3 相続欠格の効果

 では、相続欠格になったらいったいどうなるでしょうか?
ケースごとにみてみましょう。

(1)相続欠格の効果ー相続人でなくなる

 相続欠格になると、当然に相続人になることができなくなります。つまり、誰もなにもしなくても、勝手に相続欠格の効果が発生し、欠格者は初めから相続人ではなかったことになってしまいます。

 ここで、相続欠格が問題になるケースを検討してみましょう。

 A子はB男と結婚しており、C男という子がいます。A子の両親D男とE子は健在で、A子にはF男という兄弟がいます。

 以上の家族関係を前提に、ケースをいくつか考えてみたいと思います。

(2)夫が妻を殺したケース

 夫であるB男が妻A子を殺してしまったケースです。A子が殺されて死んでしまったので、

 A子が被相続人になります。

 夫であるB男は、被相続人を殺したので、初めから相続人でなかったことになります。そうすると、配偶者がいない場合になるので、A子の子であるC男だけが相続人になります。

(3)子が親を殺したケース

 C男が母親であるA子を殺したケースです。A子が殺されて死んでしまったのでA子が被相続人になります。

 C男は被相続人を殺したため初めから相続人でなくなるので、子の次の順位である直系尊属が相続人になります。なので、A子の父D男と母E子が配偶者であるB男とともに相続することになります。

 ただし、ここで注意しなければならないのは代襲相続です。

 代襲相続とは、本来は被相続人の子が相続するはずの場合に、すでに死んでいたなどの理由で子が相続できなくなるときに、子の子である者(被相続人からすると孫)が相続人となる制度のことです。民法887条2項は、

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一の規定に該当し・・・たときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。

と規定しており、第八百九十一の規定は相続欠格のことなので、被相続人の子が相続欠格になると代襲相続が生じる可能性があります。もし、C男に子がいたら(仮にG子とします。G子は被相続人のA子から見ると孫です)、G子がC男を代襲して相続人になります。この場合、配偶者B男とともにG子が相続人になってA子を相続することになります。

(4)先順位者を殺したケース

 A子が被相続人の場合に、A子の父D男がA子の子C男を殺した場合などです。

 相続の優先順位は、子→直系尊属→兄弟姉妹なので、本来であれば、A子が亡くなると、A子の配偶者のB男と子のC男が相続人となります。ここで、A子が亡くなる前にC男が亡くなっていると、直系尊属である父D男と母E子が相続人になります。しかし、D男は先順位者であるC男を殺したため相続欠格になってしまうため、相続人になれなくなります。そのため、配偶者B男と母E子が相続人になります。

 ただし、もしC男に子がいれば、その子がC男を代襲してB男とともに相続人になります。この場合、E子は先順位者であるC男の子がいるために相続できないことになります。

4 未遂ー殺そうとしたけど死ななかったケース

 891条1号は、

 ・・・死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために

 と定めているので、殺してしまった場合のほか、殺そうとしたけど、死ななかった場合(これを未遂といいます)にも相続欠格が生じることになります。

5 有罪判決

  891条1号は、

 故意に・・・死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

と定めているので、殺人罪(あるいは殺人未遂罪)の有罪判決が出たときに、相続欠格になることになります。「故意に」とあるため、殺すつもりがなく不注意で(過失といいます)死んでしまった場合は、相続欠格になりません。

6 相続欠格が問題になるときの手続

 相続欠格は法律上当然に生じるので、なにもしなくても勝手に相続欠格の効果が発生し、欠格者は相続人でなくなります。

 なので、もし相続人が複数いて遺産分割をしなければならない場合、欠格者以外の相続人で遺産分割を進めていくことになります。欠格者が相続人として行為してしまっていたら、その者の行為は無効になります。

 また、欠格者が相続人であると主張して争っている場合は、裁判で決着をつける必要があるケースもあります。

7 その他の相続欠格事由

 殺人のほかにも、民法891条はいくつかの欠格事由を定めています(同2号~5号)。

 例えば、民法891条3号は、

詐欺又は脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

と定めているので、被相続人が遺言をするのを邪魔したら、邪魔をした者は相続人になれなくなる可能性があります。

8 弁護士はなにができる?


 

 では、相続欠格が問題となる場合、弁護士はなにができるでしょう?

 相続欠格の効果は当然に生じるものなので、相続欠格かどうかの判断を(役所や裁判所などではなく)相続人などがしなければなりません。しかし、相続欠格かどうかは難しい問題で、判断は困難です。また、相続欠格が生じたとき、誰が、どれくらい相続するかなどの問題も簡単ではありません。このような問題に対処するために、弁護士のアドバイスが有効です。

 この他にも相続欠格には様々な問題が生じかねないため、相続に精通した専門家のサポートを受けることをおススメします。

9 おわりに

 いかがでしたでしょうか?

 相続欠格が生じると様々な問題に直面します。本コラムで解説しきれなかった問題も生じますので、もしお困りなことがありましたら、ぜひお気軽にダーウィン法律事務所にご相談くださいませ。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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