法定相続情報証明制度とは、相続関係を一覧図で証明できる制度です。2017年に制度が開始されました。
相続手続きにおいて、通常は戸籍謄本の束を各機関に提出する必要があります。預貯金の払い戻しや相続登記などを多数行う場合には、戸籍謄本の返却を待つ、あらかじめ複数用意しておくなど、相続人の手間が大きくなってしまいます。
法定相続情報証明制度を利用すれば、戸籍謄本がなくても「法定相続情報一覧図」だけで相続関係の証明が可能です。各種手続きが簡略化され、要する時間や費用を抑えられます。
この記事では、
●法定相続情報証明制度とは?
●法定相続情報証明制度のメリット・デメリット
●法定相続情報証明制度の利用方法
などについて解説しています。
法定相続情報証明制度は、故人の遺産が多岐にわたる場合に特に有効な制度です。多数の遺産を引き継ぐ相続人の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、法定相続情報証明制度の概要や目的について解説します。
法定相続情報証明制度は、被相続人(故人)と相続人との身分関係を「法定相続情報一覧図」だけで証明できる制度です。
通常の相続手続きにおいては、相続人の範囲を示すために、故人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を収集し、手続きごとに戸籍の束を提出しなければなりません。
窓口ごとに戸籍の原本を提出するため、1部ずつしかないと、返却されるまで他の手続きができなくなります。同時に進めるために戸籍を余分に取っておくにしても、取得費用の負担が余計にかかってしまいます。特に兄弟姉妹が相続人になるケースでは、集めるべき戸籍が多いため負担が大きいです。
法定相続情報証明制度を利用すれば、戸籍の束の代わりに「法定相続情報一覧図」1枚だけで相続関係を証明できます。戸籍の束を各機関に提出する必要がなくなるため、相続手続きが簡略化されます。制度は2017年5月29日から開始されました。
法定相続情報証明制度の元々の目的は、相続登記の推進にあります。
故人が不動産を所有していたときには、登記の変更が必要です。しかし、手続きが面倒であるため放置されるケースも多く、時の経過により所有者が不明になる問題が発生してきました。
法定相続情報証明制度により戸籍の束が不要になれば、相続登記の手続きがしやすくなり、問題解決につながると考えられています。
なお、法定相続情報証明制度を利用すれば相続登記以外の手続きも楽になるため、遺産に不動産がないケースでもメリットを享受できます。
法定相続情報証明制度には、以下のメリットがあります。
最大のメリットは、戸籍の束を何度も提出せずにすむ点です。
法定相続情報証明制度では、相続人が戸籍を集めて「法定相続情報一覧図」を作成し、法務局に提出します。法務局は、法定相続情報一覧図に認証文を付けた写しを発行します。この法定相続情報一覧図の写し1枚があれば、戸籍の束に代わって相続関係の証明が可能です。
したがって、戸籍の束を各窓口に提出する必要はなくなり、戸籍の返却を待ったり、戸籍を余分に用意しておいたりする手間が省けます。
法定相続情報証明制度は、手続き費用の節約にもつながります。
法定相続情報一覧図の写しは、無料で何枚でも発行してもらえます。5年間は再発行も可能です。したがって、始めに必要な戸籍を1部ずつ揃えるだけで、その後は戸籍に関して余計な費用をかけずに相続手続きを進められます。
費用だけでなく時間も削減できます。
法定相続情報一覧図の写しを必要枚数だけ発行してもらえば、各手続きを同時に進めることが可能です。戸籍謄本の束に比べて確認が楽であるため、受付側の作業時間も短縮できます。
また、代理申請や郵送申請もできるため、平日の昼間に時間を確保するのが難しい相続人にも便利な制度です。
ただでさえ忙しい相続人にとっては、法定相続情報証明制度は大きな味方といえるでしょう。
相続人の範囲を確実に把握できる点もメリットです。
古い戸籍謄本はわかりづらく、読み間違いをする可能性がゼロとはいえません。万が一他に相続人がいれば、後から面倒な事態になります。
法定相続情報証明制度を利用する際には、法務局の職員に戸籍謄本を確認してもらえます。もしミスがあったとしてもプロの職員が教えてくれるため、相続人の正確な把握が可能です。
元々は相続登記の推進を目的とした制度ですが、それ以外の場面でも利用できます。
たとえば以下の場面です。
●預貯金の解約、名義変更
●有価証券(株、投資信託)の移管
●自動車の名義変更
●保険金請求
●相続税申告
多数の金融機関に口座があるなど必要な手続きが多い場合には、時間や手間を大きく削減でき、メリットがより大きくなります。
法定相続情報証明制度には数多くのメリットがあるものの、十分にメリットを享受できないケースもあります。
法定相続情報証明制度を利用するにしても、法務局に戸籍一式を提出する必要があります。
法務局に戸籍の収集を手伝ってはもらえないため、結局1度は戸籍謄本を集める点に変わりはありません。むしろ、法務局での手続きをする手間が増えるだけになる可能性すらあります。
遺産が預貯金だけであるなど、財産の種類が少ないケースでは、制度のメリットを享受できません。
制度開始からある程度期間が経過しており、対応できる機関は拡大しています。
しかし、手続き先が法定相続情報一覧図に対応していない可能性もゼロではありません。未対応であれば、従来通り戸籍の束を提出する必要があります。
不安な場合は、事前に対応の有無を確認しておくとよいでしょう。
法定相続情報証明制度の利用方法をご紹介します。
参考:法定相続情報証明制度の具体的な手続きについて|法務局
まずは、必要書類を集めます。
必要書類は以下の通りです。
●被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍謄本
●被相続人の住民票の除票
●相続人全員の現在の戸籍謄本
●申出人(相続人のうち手続きをする人)の氏名・住所を確認できる公的書類(運転免許証、マイナンバーカード、住民票など)
法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には、相続人全員の住民票も必要となります。一覧図に相続人の住所を記載するかは自由ですが、記載すると各種手続きにおいて別途住民票を提出する必要がなくなるメリットがあります。
集めた戸籍謄本を元に「法定相続情報一覧図」を作成してください。
法定相続情報一覧図とは、戸籍からわかる相続人を一覧にした図です。家系図のようなものに、被相続人と相続人の続柄、氏名、住所、生年月日などを記載します。
具体的な様式については、以下を参考にしてください。
参考:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例|法務局
申出書(書式は法務局サイト)に必要事項を記載し、集めた必要書類や法定相続情報一覧図とともに、管轄する法務局に提出します。以下から都合のいい場所をお選びください。
●被相続人の死亡時の本籍地
●被相続人の最後の住所地
●申出人の住所地
●被相続人名義の不動産の所在地
管轄区域は法務局のサイトで確認できます。たとえば東京都千代田区であれば東京法務局(本庁)となります。
法務局の窓口に直接出向くほか、郵送での申請も可能です。証明書(法定相続情報一覧図に認証文を付けた写し)の交付までの期間はケースバイケースですが、数日から1週間程度が一般的です。
交付費用は何枚でも無料です。必要な枚数を請求しましょう。
法定相続情報一覧図の写しを受け取ったら、各種手続きに利用してください。
たとえば以下の手続きに使えます。
●相続登記
●預貯金の払い戻し
●相続税申告
もちろん、法定相続情報一覧図だけで手続きはできません。他の必要書類は各機関に確認してください。
紛失したなど、法定相続情報一覧図が追加で必要なときには、5年間のうちは再発行が可能です。
法定相続情報証明制度に関するよくある質問をまとめました。
相続人の範囲に関するルールは以下の通りです。
法務局は、提出された戸籍を元に相続人の範囲を証明するだけです。勘違いされる方もいますが、戸籍謄本の収集まではしてくれません。
戸籍謄本の収集は、従来通り相続人が行う必要があります。時間がかかるケースもあるので早めに取りかかるようにしましょう。
窓口での申請の他に、郵送での申請も可能です。平日の昼間に忙しい方でも利用できる制度となっています。
また、弁護士などの専門家に依頼して代理申請してもらう方法もあります。
申請から証明書の交付までの期間は、状況によります。数日から1週間程度が一般的ですが、余裕を持って準備するとよいでしょう。
制度は無料で利用できます。戸籍を余計に集めるのに比べると費用がかからずにすみます。
提出した法定相続情報一覧図は、法務局で5年間保管されます。写しが追加で必要になった場合でも、5年のうちであれば再発行が可能です。
ここまで、法定相続情報証明制度について、メリット・デメリット、利用方法などを解説してきました。
法定相続情報証明制度を利用すれば、何度も戸籍の束を提出する必要がなくなり、相続手続きが楽になります。費用もかからないため、遺産が多岐にわたる場合にはメリットが大きいといえます。利用する場合には、必要書類を用意して管轄の法務局に申請しましょう。
相続手続きにお困りの方は、弁護士までご相談ください。弁護士は法定相続情報証明制度の手続き代行が可能です。他にも、戸籍の収集・遺産の把握から遺産分割まで各種手続きをサポートいたします。もし相続人の間で争いが発生しても、安心して対応をお任せいただけます。
「法定相続情報証明制度を利用すべきか知りたい」「相続手続き全般に不安がある」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。