借地権の相続についてお悩みでしょうか?
借地権とは、建物を所有する目的で土地を借りる権利をいいます。借地権も相続の対象になり、相続する際には基本的に地主の承諾は不要です。
しかし、借地権の相続に際して、地主との間や相続人同士でトラブルが発生するケースも少なくありません。トラブルの予防・解決のためには、借地権の相続に関する手続きや法律上のルールを知っておくのが重要です。
この記事では、
●借地権の相続に地主の承諾は必要か?
●借地権を相続する手続きの流れ
●借地権の相続でよくあるトラブル
などについて解説しています。
借地権を相続することになった相続人の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、そもそも借地権とはどういった内容の権利なのかを解説します。
借地権の法律上の定義は「建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権」です(借地借家法2条1号)。簡単にいえば、借地権とは「建物を所有するために土地を借りる権利」をいいます。
駐車場や資材置き場など、建物所有以外の目的で土地を借りた場合には、借地権に該当しません。
借地権は「地上権」か「賃借権」のどちらかで設定されます。地上権と賃借権は、いずれも他人の土地を使用する権利です。
地上権は誰に対しても主張でき、譲渡・転貸(また貸し)が自由にできます。対して賃借権は当事者の間でしか主張できず、譲渡・転貸には土地所有者(地主)の承諾が必要です。
地上権よりも賃借権の方が地主にとっては有利であるため、個人が住宅を建てる目的で土地を借りる場合には、一般的に賃借権が利用されます。以下では、借地権は土地賃借権であることを前提として解説します。
借地権は大きく「普通借地権」と「定期借地権」に分けられます。両者の大きな違いは、更新の有無です。
普通借地権は、更新が可能な借地権です。
普通借地権の存続期間は最低30年ですが(借地借家法3条)、更新ができます。更新後の期間は、最初の更新では最低20年、以降の更新では最低10年です(借地借家法4条)。正当な理由がなければ、地主は更新の拒否ができません(借地借家法6条)。
単に「借地権」といったときには、通常は普通借地権を指します。
なお、現行の借地借家法が施行された1992年8月よりも前に設定された借地権については、旧借地法が適用されます。旧借地法が適用される借地権を「旧借地権」と呼びます。
旧借地権の存続期間は、以下の通りです。
堅固建物(コンクリート造など) | 60年(最低30年)、更新後は最低30年 |
非堅固建物(木造など) | 30年(最低20年)、更新後は最低20年 |
旧借地権の方が現行の普通借地権よりも存続期間が長く、賃借人への保護が強かったといえます。
定期借地権は、更新ができない借地権です。現行の借地借家法の制定と同時に創設されました。
定期借地権は「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付き借地権」に分けられます(借地借家法22条〜24条)。違いは以下の通りです。
一般定期借地権 | 存続期間50年以上、用途制限なし |
事業用定期借地権 | 存続期間10年以上50年未満、事業用建物所有に限る |
建物譲渡特約付き借地権 | 存続期間30年以上、契約終了後に地主が建物を買い取る |
借地権は、他の権利と同様に相続の対象になります。
そこで気になるのが、地主との関係です。借地権の相続に地主の承諾は必要なのでしょうか?
借地権の相続に、地主の承諾は不要です。借地権の相続は譲渡や転貸にあたらず、法律上地主の承諾が要求されていないためです。
「一代限りで貸した」といった理由で立ち退きを要求されたとしても、応じる必要はありません。名義書換料・承諾料も不要です。
借地権の相続に際して特別に承諾を得る必要はありませんが、地主との良好な関係を保つためには、相続があった旨を伝えておくとよいでしょう。
借地権が遺言によって法定相続人以外に遺贈されたときには、地主の承諾を得なければなりません。法定相続人以外が遺贈によって取得すると、承諾が必要な「賃借権の譲り渡し」に該当するためです(民法612条1項)。
承諾を得る際には、承諾料を支払いましょう。金額としては、借地権価格の10%程度が目安になります。
承諾を得られないときには、借地権譲渡の承諾にかわる許可を、裁判所に申し立ててください(借地借家法19条1項類推適用)。
借地権を相続する流れは、以下の通りです。
まずは、借地権の内容を確認しましょう。
契約書を見れば、契約期間や賃料がわかります。登記事項証明書も取得しておいてください。まれに借地権の登記がなされているケースもあります。
加えて地主に対しては、早めに相続があった旨を伝えておくとよいでしょう。
遺言書がないときには、他の遺産とともに遺産分割協議で分け方を決めてください。
遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。相続人の一部で協議をして決定しても無効です。借地権を含めて遺産の分け方が決定したら、全員の署名・押印をした遺産分割協議書を作成しましょう。
取得者が決まったら、借地上の建物の登記名義を変更してください。
借地権の登記がある場合には、借地権の登記変更も必要です。もっとも、一般的には借地権の登記はなされていません。借地権の登記には地主の協力が必要となるうえ、借地上の建物に登記がなされていれば第三者に対抗でき、あえて借地権の登記をする意義が薄いためです(借地借家法10条)。
したがって、通常は建物の登記名義だけを変更します。
遺産分割協議を経たケースでは、建物の名義変更に必要な書類は以下の通りです。
●故人の出生から死亡までの戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●相続人全員の戸籍謄本
●建物を取得する人の住民票
●遺産分割協議書
●相続人全員の印鑑証明書
●固定資産評価証明書
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)
上記の書類を集めたうえで、法務局に申請してください。
なお、地主に対しては、取得者が決定したことを知らせておくとよいでしょう。
相続の際に多くの方が気にされるポイントのひとつが相続税です。借地権にも相続税が課されるのでしょうか?
借地権も含めた遺産総額が基礎控除額を超えると、相続税が課される可能性があります。
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」です。
たとえば法定相続人が2人のときは、基礎控除額は「3000万円+ 2×600万円=4200万円」となります。遺産総額が4200万円を超えていれば、相続税が課される可能性があります。
相続税は遺産全体に課税されるため、借地権単体で課税の有無や金額が決まるわけではありません。
相続税の有無や金額を判断する前提として、各財産の評価額を算出しなければなりません。
借地権(普通借地権)の相続税評価額は、以下の式で求められます。
自用地評価額は、土地に他人の権利がついていない、すなわち更地の状態の評価額です。自用地評価額は、路線価が定められている地域では路線価方式、その他の地域では倍率方式で算定します。
借地権割合は、地域によって異なり、住宅地ではおおむね60~70%程度です。路線価図や評価倍率表で確認できます(参考:路線価図・評価倍率表|国税庁)
以上は、普通借地権の評価方法です。定期借地権の評価は別の方法で算出します。詳細は国税庁のサイトを参照してください。
参考:借地権の評価|国税庁
借地権を相続した際には、利用・処分について以下の選択肢があります。
相続人が借地上の建物を利用する予定があれば、問題なく使えます。法定相続人が引き継ぐ際には、地主の承諾は不要です。立ち退きや承諾料の支払いを要求されても、従う義務はありません。
ただし、建物の増築・建て替えを検討している場合には注意してください。契約上増築・建て替えに制限がある場合には、地主の承諾を得なければなりません。承諾を得られない場合には、裁判所に許可の申し立てを行います。
相続人が借地上の建物を利用するつもりがないのであれば、借地権の売却をするのがひとつの方法です。借地権には一定の価値があるため、買い手がつく可能性があります。
もっとも、借地権の売却は譲渡にあたるため、地主の承諾をとらなければなりません。借地権価格の10%程度の承諾料も必要です。
相続人が借地上の建物を利用しない場合には、建物を賃貸するのも選択肢になります。
借地上の建物の賃貸は借地権の転貸にあたらず、地主の承諾を得る必要はありません。禁止する特約がない限り、借地上の建物を他人に貸すのは建物所有者の自由です。
借地上の建物を第三者に賃貸して収益を得るのも、有効な活用方法といえます。
建物の活用が難しければ、更地にして地主に借地権を買い取ってもらうこともできます。地主が土地を他の方法で活用したいと考えているケースでは、有効な方法です。
もっとも、地主に借地権を買い取る義務はありません。あくまで交渉になりますので、希望通りに買い取ってもらえるとは限らない点に注意してください。
借地権の相続においては、時折トラブルが発生します。典型的なトラブルと対処法をご紹介します。
地主が借地権の相続をきっかけに様々な要求をしてきて、トラブルになる場合があります。
たとえば、「一代限りのつもりだった」と主張して立ち退きや承諾料・名義書換料の支払いを求めるケースです。これまでに解説したように、法定相続人による借地権の相続には地主の承諾は不要であり、要求に応じる法的義務はありません。もっとも、承諾料が少額であれば、今後の関係を考えて支払う選択肢も考えられます。
また、借地権の売却や増築・建て替えを拒否するケースもあります。借地権の売却や特約があるときの増築・建て替えには、地主の承諾が必要です。交渉のうえ、承諾料を支払って認めてもらわなければなりません。
他にも、地代の値上げ要求や更新拒否など、地主とのトラブルは色々と想定されます。
相続人同士で、借地権を誰が相続するかをめぐって争いになる場合もあります。遺言書がなく遺産分割が必要なのに、協議がまとまらないケースです。
建物に愛着があるケースや、反対に誰も相続したくないケースなど、様々なパターンが考えられます。どうしても自分たちで話し合いがまとまらなければ、調停など裁判所の手続きを利用する方法があります。
誰が相続するかが決まっても、借地権と建物の評価額が決まらない可能性もあります。相続する人はできるだけ低い額で評価してもらいたいのに対して、その他の相続人が「もっと高いはずだ」と主張して争いになってしまうのです。
不動産業者に査定を依頼し、適正な額を算出してもらうのがひとつの対処法です。それでも評価額について意見対立が深刻であれば、調停の利用を検討しましょう。
適切な分割方法が見つからずに、共有で相続するケースもあるでしょう。
しかし、売却など共有者全員の同意が必要な場面が存在します。同意しない相続人がひとりでもいると話が進まずに、財産を有効活用できなくなってしまいます。
共有は問題の先送りに過ぎません。できるだけ避けるようにしてください。
ここまで、借地権の相続について、地主による承諾の必要性、手続きの流れ、よくあるトラブルなどについて解説してきました。
借地権を相続する際には、基本的に地主の承諾を得る必要はありません。分け方を決めたうえで、建物の名義変更を行ってください。もっとも、地主との間や相続人同士でトラブルが発生して、裁判所での争いになるケースもあります。
借地権の相続でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。弁護士は、地主との関係、必要な手続き、適切な分け方など、様々なアドバイスが可能です。トラブルが発生していても、安心して対応をお任せいただけます。
「地主から不当な要求があった」「借地権をめぐって相続人同士でもめている」などとお困りの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。