後継ぎ遺贈はできる?「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」について解説

信託

後継ぎ遺贈とは「自分の死後は妻に、妻の死後は長男に」といった形で、遺言により先々の財産承継まで定めておくことです。残念ながら、一般的に後継ぎ遺贈は無効となる可能性があると考えられています。
民事信託(家族信託)によって、後継ぎ遺贈と同様の結果を実現できるのが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です。後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用すれば、円滑な事業承継、障害者の「親亡き後」への備えなど、様々な希望を叶えられます。
この記事では、
●後継ぎ遺贈はできるか?
●後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用できる場面
●後継ぎ遺贈型受益者連続信託の注意点
などについて解説しています。
自分の望み通りに先々の財産承継まで決めておきたい方は、ぜひ最後までお読みください。

後継ぎ遺贈とは?


後継ぎ遺贈とは、遺言によって財産を譲るだけでなく、遺言者から財産を譲り受けた人が亡くなった際にも、特定の人に財産を取得させるよう事前に定める遺言です。自身の死亡時だけでなく、さらに先の財産承継についても決めておく意味があります。

たとえば、子どもがいない夫婦の夫が「自分の死後に財産を妻に渡したいが、妻の死後に妻の兄弟姉妹に財産が流れてしまうのではなく、妻の死後は自分の家系の甥に残したい」と考えていたとしましょう。
遺言で「妻に相続させる」旨を定めれば、夫の死亡時には希望通り妻に財産を引き継がせられます。しかし、子がいなければ、妻が亡くなった際の相続人は妻の兄弟姉妹などです。何も対策をしないと、元々は夫の財産であったものが妻の家系に渡ってしまいます。先祖代々引き継いできた財産であっても関係ありません。
そこで「自分の死後は妻に、妻の死後は甥に」との内容の遺言をして、先祖からの財産を自分の家系に引き継ぎたいと考える方がいます。仮にこうした後継ぎ遺贈が認められるのであれば、先々の財産承継まで定められ、遺言者の希望を実現できます。

後継ぎ遺贈は有効?無効?


後継ぎ遺贈は、先の相続まで決めておくために効果的な方法といえます。では、後継ぎ遺贈は法律上有効でしょうか?

遺言ではできない

遺言による後継ぎ遺贈は、一般的には無効となる可能性があると考えられています。
遺言により遺産を譲り受けた人(受贈者)は、譲り受けた財産について所有権を有します。所有権がある以上、財産をどう処分しようが本来自由のはずです(民法206条)。
民法では、法律に定めのない物権は創設できないとする「物権法定主義」が規定されています(民法175条)。後継ぎ遺贈で遺言者が財産の行方を先々まで決められるとすると、受贈者が生きている間に自由に処分できなくなり、所有権が制限されてしまいます。遺言者の意思によって勝手に所有権を制限するのは、制限付所有権を創設するようなものですので、物権法定主義に反するため認められません。
たとえば、夫が遺言によって「自宅は妻に、妻の死後は長男に」と定めても、妻の所有権を勝手に制限しているため無効となる可能性があります。遺言によっては、先々の相続までは決めておけないのです。

受贈者が約束を果たすとは限らない

遺言により決められるのは、自分が死亡した際の財産承継についてだけです。そこで「あらかじめ受贈者にお願いしておけばよい」と考えるかもしれません。
たしかに、望み通りに受贈者が遺言を書いてくれれば、遺言者の希望を実現できます。
しかし、確実な方法ではありません。受贈者の考えが元々別であった場合はもちろん、遺言者の死後に気が変わる場合もあります。遺言者の生存中に受贈者があらかじめ遺言を書いていたとしても、いつでも撤回が可能です(民法1022条)。

たとえば夫が「財産は自分の死後は後妻に、後妻の死後は前妻の子に」と望んでいたとしても、後妻が夫の望み通りにする保証はありません。
前妻の子との仲が疎遠であれば、後妻は自分の親族に財産を渡したいと考えるのが自然といえます。夫が生きている間、後妻が「あなたの意思を尊重する」と言っていたとしても、亡くなった後に態度を変える可能性はあるでしょう。
受贈者にお願いしたとしても、約束を守るとは限らないため確実ではありません。

民事信託(家族信託)を利用すれば実現できる


民事信託を利用すれば、後継ぎ遺贈と同じ効果を実現できます。民事信託における受益権は物権ではなく債権であり、当事者が自由に権利の内容を決められるためです。
信託法において、受益者が死亡したときに他の人が受益権を取得する信託について規定があります(信託法91条)。これが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です。

「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の仕組みを理解するために、次の例で説明します。

●関係者:夫A(80歳)、妻B(80歳)、長男C(55歳)、長男の妻D(55歳)、次男E(45歳)、次男の子F(20歳)
●長男夫婦に子はいない。
●Aの希望:先祖代々受け継いできた自宅不動産を、自分の死後は妻Bに、Bの死後は長男Cに、Cの死後は孫であるFに引き継ぎたい。長男の妻Dやその親族には絶対に渡したくない。

上述の通り、Aの希望を実現したくても、遺言による後継ぎ遺贈はできません。
確実に「夫A→妻B→長男C→孫F」の順に引き継ぐには、たとえば以下のスキームで信託契約を結ぶ方法があります。

●委託者 :夫A
●受託者 :次男E
●第1受益者 :夫A
●第2受益者 :妻B
●第3受益者 :長男C
●帰属権利者 :孫F

まずは、受益者を委託者であるA自身として信託を開始します。民事信託では、設定時に贈与税を課税されないために、当初は「委託者=受益者」とするケースが多いです。
Aが死亡すると、第2受益者である妻Bが財産を引き継ぎます。
続いてBが死亡した際には、第3受益者である長男Cが権利を承継します。
さらにCが死亡したときには帰属権利者とした孫Fが権利を取得し、長男の妻Dやその家系に財産が渡る心配はありません。
信託の活用によって、Aの希望通り「夫A→妻B→長男C→孫F」の順で先祖代々の財産を引き継げています。受益者が順次変わりながら後継ぎ遺贈と同様の結果を実現できるのが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の特徴です。

上記と同様の事例を知りたい方は、以下を参考にしてください。
参考記事:二次相続に民事信託(家族信託)で備える方法を弁護士が解説
そもそも民事信託の仕組みがよくわからない方は、次の記事をお読みください。
参考記事:民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説

後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用できる場面


後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、様々な場面で活用できます。

前妻との子に財産を渡したいケース

典型的な事例としては、離婚経験があり、後妻との間には子がいないものの、前妻との間に子がいるケースが挙げられます。たとえば、夫が「自分の死後に自宅は後妻に渡し、後妻の死後は前妻との子に引き継がせたい」と考えているケースです。
後妻が亡くなった際の相続人は、後妻の兄弟姉妹などです。何も対策をしないと、後妻に残した遺産は、死後に後妻の家系に渡ってしまいます。
一般的に、前妻との子と後妻の関係は疎遠である場合が多いでしょう。後妻に遺言を残すようにお願いしても確実ではありません。
そこで、後継ぎ遺贈型受益者連続信託の活用が有効です。
たとえば、以下のスキームが考えられます。

●委託者 :夫
●受託者 :信頼できる親族
●第1受益者 :夫
●第2受益者 :後妻
●帰属権利者 :前妻との子

信託の利用により「夫→後妻→前妻との子」の順で財産を承継できます。

前妻との子と後妻がいて財産の引き継ぎにお悩みの方は、以下の記事もお読みください。
参考記事:後妻の死後に前妻との子に財産を引き継がせたい!信託で実現する方法を解説

子なし夫婦で自分の家系に財産を残したいケース


子どもがいない夫婦で、自分の家系に財産を残したいケースも多いです。
たとえば、まず子なし夫婦の夫が亡くなった場合には、妻に加えて夫の兄弟姉妹などが相続人になります。妻が取得した財産は、その後に妻が亡くなった際に、妻側の兄弟姉妹などの親族に渡ってしまいます。
妻と夫側の親族との仲が疎遠であれば、妻が夫の希望する内容の遺言を書いてくれるとも限りません。夫が「最終的には自分の家系に財産を残したい」と考えている場合には対策が不可欠です。
以下のスキームで信託を組成すれば、希望を実現できます。

●委託者 :夫
●受託者 :弟など信頼できる親族
●第1受益者 :夫
●第2受益者 :妻
●帰属権利者 :甥(弟の子)など夫の家系の親族

後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用すれば、子がいない夫婦でも、「夫→妻→甥」といった形で、自分の家系に財産を引き継げます。

子どもがおらず民事信託の活用をお考えの方は、以下の記事も参考にしてください。
参考記事:子どもがいない夫婦が民事信託(家族信託)を活用するメリットや事例

障害者の「親亡き後」に備えたいケース

障害を抱えているお子さまの親御さんは、ご自身が亡くなった後のお子さまの生活に不安をお持ちかもしれません。「親の死後に子の生活費はどうするか」「財産をだまし取られないか」など「親亡き後」の問題にお悩みの方は多いです。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、障害を抱えた方の「親亡き後」の問題への対策にもなります。
たとえば、長男が障害者であり、次男が障害を抱えていないケースでは、以下のスキームが考えられます。

●委託者 :親
●受託者 :次男
●第1受益者 :親
●第2受益者 :長男
●帰属権利者 :次男

親が亡くなった後は長男に受益権が移り、受託者である次男が長男のために財産管理を行います。次男を帰属権利者にしておけば、長男が亡くなった際に権利を引き継がせて次男に報いることが可能です。

ご自身が亡くなった後のお子さまの生活にお悩みの方は、以下の記事もあわせてお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)で障害者の親亡き後の生活に備える方法

円滑に事業承継をしたいケース

会社を経営していて、後継者問題をはじめとする事業承継にお悩みの方も多いでしょう。後継ぎ遺贈型受益者連続信託は事業承継にも活用できます。
信託を利用すれば、他のケースと同様に、自社株や事業用財産を「父→長男→孫(長男の子)」などと望み通りに引き継がせられます。
信託開始後も自身が経営に引き続き関与したい場合には議決権の行使について指図権を設定するなど、ご希望に応じた柔軟な定め方が可能です。

事業承継に民事信託を活用する方法について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:民事信託(家族信託)で事業承継に備える方法|メリットや事例を解説

後継ぎ遺贈型受益者連続信託の注意点


後継ぎ遺贈型受益者連続信託は有効な手段ですが、万能ではありません。以下の点に注意してください。

受託者の適任者が見つかりづらい

民事信託において、受託者を誰にするかは大きなポイントになります。
財産の管理を任せる以上、信頼できる人物であるのは不可欠な要素です。そもそも信頼できる親族がいないケースも少なくありません。
加えて、受益者連続信託の場合には期間が長期になると想定されます。委託者と同世代の親族を受託者にすると、受託者が早くに亡くなってしまうリスクが高いです。最後まで任務をまっとうできるかにも注意しなければなりません。場合によっては、「第2受託者」を指定しておく、法人を受託者にするといった方法も検討する必要があります。
受託者がいなければ、民事信託を利用できません。誰を受託者にするかはよく考えておきましょう。

期間制限がある

後継ぎ遺贈型受益者連続信託にも期間制限があるため、先の代まで財産承継を定めるにしても限界があります。
具体的には、信託開始から30年を経過した後は、受益権の承継は1度しか認められません(信託法91条)。「30年経過時において受益者だった人」が亡くなったときには受益権が引き継がれますが、それで最後です。
したがって、あまりに先の代の財産承継までは決めておけません。孫の代など、遠すぎない範囲の世代までに抑える必要があります。

遺留分を侵害しないようにする

民事信託で財産を承継する場合にも、一般的には遺留分に関する規定が適用されると考えられています。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産の取り分です。民事信託に沿った財産承継により遺留分を侵害された相続人がいると、遺留分侵害額請求をされてトラブルになるおそれがあります。
特定の人に財産の大半が引き継がれ、相続人の遺留分を侵害する事態にならないかには注意してください。

遺留分について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:遺留分侵害額請求とは?請求金額・請求方法や時効期間を弁護士が解説

相続税は課税される

ときどき「信託は相続税対策になる」と考えている方がいます。
しかし、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用しても、受益者が取得した権利に応じて相続税が課税されます。直接の相続税対策にならない点には注意してください。

後継ぎ遺贈を信託で実現したい方は弁護士にご相談を


ここまで、後継ぎ遺贈の有効性や、民事信託で実現する方法などについて解説してきました。
遺言による後継ぎ遺贈はできません。しかし、民事信託を利用すれば同様の結果を実現できます。前妻との子がいる、障害を持った子がいる、円滑な事業承継をしたいといった方にとっては「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」が有効な手段です。限界を踏まえつつ、利用を検討してみるとよいでしょう。

後継ぎ遺贈を信託で実現させたい方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度ができてから歴史が浅く、弁護士であっても対応できない場合が少なくありません。当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況やご希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。場合によっては遺言も併用するなどして、最適な相続対策をサポートします。
「先々の財産承継まで希望通りに定めておきたい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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