遺留分侵害額請求とは?請求金額・請求方法や時効期間を弁護士が解説

相続

「遺言により遺産を受け取れなくなった」
「生前贈与のせいで取り分が減った」
などとお悩みでしょうか?
遺言や生前贈与の影響で法定相続分に比べて遺産の取り分が大きく減った場合には、遺留分侵害額請求により最低限の金銭を取り戻せます。
ただし、自動的に戻ってくるわけではなく、請求が必要です。時効による期間制限もあるため、早めに行動しなければなりません。
この記事では、
●遺留分侵害額請求で取り戻せる金額の計算方法
●遺留分侵害額請求の進め方
●遺留分侵害額請求権の時効期間
などについて解説しています。
遺言や生前贈与により遺産の取り分が減ってしまった方が知っておくべき内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

遺留分侵害額請求とは?


まずは、遺留分侵害額請求(民法1046条)についての基礎知識を解説します。

最低限の遺産を要求できる

遺留分侵害額請求とは、遺留分(民法1042条)よりも少ない遺産しか受け取れない相続人が、遺贈・生前贈与を受けた人にする金銭請求です。
遺留分とは、相続人に最低限保障された遺産の取り分を意味します。最低限の遺産すら受け取れていない相続人は、遺留分侵害額請求により金銭を要求できます。
たとえば、妻子ある男性が「妻に全財産を相続させる」との遺言を残して亡くなったケースを考えましょう。
遺言により財産の配分を決めるのは自由であるため、遺言は有効であり、このままでは子は一切遺産を受け取れません。
しかし、この遺言は子が有する遺留分を侵害しています。子が母(故人の妻)に対して遺留分侵害額請求をすれば、金銭の支払いを受けることが可能です。
遺留分侵害額請求により、相続人に最低限の遺産を保障した遺留分制度の目的が実現されるといえます。

請求権を有する人

遺留分侵害額請求をする権利を「遺留分侵害額請求権」と呼びます。
遺留分侵害額請求権を有するのは、法律上遺留分が認められている相続人です。
具体的には、
●配偶者(夫や妻)
●子(死亡しているときは孫)
●両親(死亡しているときは祖父母)
が遺留分侵害額請求権を有します。
ただし、両親は子がいないときに限り相続人となり、遺留分侵害額請求権が認められます。
相続人になる可能性がある人の中で、兄弟姉妹には遺留分侵害額請求権がありません。兄弟姉妹は、他の相続人に比べて一般的に故人との関係が薄いと考えられているためです。
もっとも、兄弟姉妹が遺産を獲得できるケースもあります。詳しくは以下の記事を参照してください。
遺留分が兄弟に認められていない理由と遺産を受け取れる4つのケース

遺留分「減殺」請求からの改正点


従来、遺留分を取り戻す権利は「遺留分減殺請求権」と呼ばれてきました。近年の法改正により、遺留分侵害額請求権に名称が変更され、権利の内容も多少変わっています。
2019年7月1日以降に発生した相続から改正法が適用されています。2019年6月30日以前に亡くなった人の相続については、従来の遺留分減殺請求が適用される点には注意してください。
以下で、法改正のポイントを簡単にご紹介します。

金銭請求権になった

大きな変更点は、直接金銭を請求できる権利になったことです。
従来の遺留分減殺請求権は、基本的に遺贈・贈与された財産そのものの返還を請求する権利でした。
不動産が贈与されていた場合には、土地や建物自体を取り戻す請求がなされ、結果的に共有状態になるケースも多かったのが実情です。しかし共有となってしまうと、処分がしづらくなるなど面倒な問題が生じます。
そこで法改正により、シンプルに金銭の支払いで解決することとされました。共有が生じなくなり、事後的なトラブルを未然に防止できます。
また、遺留分侵害額請求を受けた側がすぐに金銭を用意できないケースを想定して、裁判所に支払いの猶予を求められる制度も新設されました。
法改正により金銭請求権となったことで、遺留分侵害額請求は利用しやすい制度になったといえます。

対象となる生前贈与の期間を10年に限定

法改正により、対象となる生前贈与に期間制限が設けられました。
従来、相続人に対する生前贈与は、なされた時期にかかわらず遺留分計算の対象となっていました。しかし、あまりに前に行われた生前贈与を計算に含めると、相続人以外で遺贈を受けた第三者などにとっては予想外の事態になり、トラブルが生じかねません。
そこで、相続人に対する生前贈与は、死亡から10年以内になされ特別受益にあたるものに限り、遺留分計算の対象にするとされました(民法1044条3項)。改正により、相続人に対する生前贈与が遺留分計算の対象になるケースが減少します。
遺留分侵害額請求の計算方法については、次の項目で詳しく解説します。

遺留分侵害額請求できる金額の計算方法


遺留分侵害額請求の金額は、以下の手順で計算します。

1.遺留分計算の対象になる財産を確定する
2.遺留分の割合を掛け合わせる
3.請求者が受け取ったものがあれば差し引く

それぞれの手順について詳しく解説します。
対象財産の確定
まずは、計算の対象となる財産を確定させなければなりません。
対象財産は次の式で求めます。

遺留分計算の対象となる財産=相続開始時の積極財産+生前贈与-債務
積極財産

積極財産とは、プラスの財産のことです。不動産、預貯金、株式などが考えられます。
遺留分侵害額を算定する前提として、故人が亡くなったときの財産を調査し、金銭的に評価しなければなりません。不動産の評価には考え方がいくつかあり、相続人の間で評価額をめぐって争いが生じるケースも多いです。
なお、遺言によって贈与した財産は、相続開始時の積極財産に含めて考えます。

生前贈与

故人が生前にした以下の贈与は、遺留分計算の際には遺産に戻して考えます。
死亡前1年以内に第三者にした贈与
遺留分権利者に損害を加えると知ってした贈与
死亡前10年以内の相続人の特別受益
生前贈与でも遺留分計算の対象外になるものがある点には注意してください。

債務

故人にマイナスの財産があった場合には、その金額分だけ遺留分計算の対象財産は減少します。マイナスの財産には、借金はもちろん、未払いの税金や罰金も含まれます。

遺留分割合を掛け合わせる


計算の対象財産を確定させたら、その金額に法律上決まっている遺留分割合を掛け合わせてください。
相続のパターンに応じた遺留分割合は以下の通りになります。

法定相続人 総体的遺留分 法定相続分 個別的遺留分
配偶者のみ 1/2 配偶者:1 1/2(=1/2×1)
配偶者+子 1/2 配偶者:1/2 1/4(=1/2×1/2)
子:1/2 1/4(=1/2×1/2)※
配偶者+両親 1/2 配偶者:2/3 1/3(=1/2×2/3)
両親:1/3 1/6(=1/2×1/3)※
配偶者+兄弟姉妹 1/2 配偶者:3/4 1/2
兄弟姉妹:1/4 なし
子のみ 1/2 子:1 1/2(=1/2×1)※
両親のみ 1/3 両親:1 1/3(=1/3×1)※
兄弟姉妹のみ なし 兄弟姉妹:1 なし

※子や親が複数人いる場合には、人数に応じて均等に分けます。

計算に用いるのは、一番右の「個別的遺留分」です。
対象財産に個別的遺留分を掛けることで、個々の相続人が有する遺留分の金額がわかります。

請求者が受け取ったものは差し引く

ここまでで遺留分の金額は計算できていますが、実際に遺留分侵害額請求ができる金額は異なる可能性があります。
たとえば、請求する人も故人から生前贈与や遺贈を受けているケースでは、その金額を除かなければなりません。遺産分割の対象になり取得する財産がある場合も差し引きます。
反対にマイナスの財産を引き継ぐ際には、その金額分だけ遺留分侵害額は増加します。

計算の具体例


では、具体的な計算例をお示しします。
以下のケースを考えましょう。

●男性が死亡し、相続人は妻、長男、次男の3人
●「妻に全財産を相続させる」との遺言あり
●相続時の積極財産は1億1000万円、債務はなし
●死亡の1年前に長男に自宅購入資金1000万円を贈与していた

長男と次男が、遺贈により全財産を受け取る母(故人の妻)に対して遺留分侵害額請求をするケースです。
1~3の手順にしたがって計算します。
1.遺留分計算の対象になる財産を確定させる
対象財産は、死亡時の財産に、長男にした生前贈与(特別受益)を加えます。
したがって、
1億1000万円+1000万円=1億2000万円
になります。

2.遺留分の割合を掛け合わせる
このケースでは、長男と次男の遺留分の割合は、
1/2×1/2×1/2=1/8
ずつです。
したがって、1で求めた対象財産と掛け合わせて、
1億2000万円×1/8=1500万円
が長男と次男が有する遺留分権利額です。

3.請求者が受け取ったものがあれば差し引く
長男は生前贈与を受けているため、請求できる金額から差し引きます。
したがって、長男の遺留分侵害額は、
1500万円-1000万円=500万円
です。
次男は故人から何も受け取っていないため、1500万円をそのまま請求できます。

遺留分侵害額請求の進め方


では、実際の請求はどういった流れで進むのでしょうか?
遺留分侵害額請求の進め方を解説します。

協議

まずは、話し合いの中で請求するのが通常です。相手が納得して適正額を支払ってくれるのであれば穏便にすませられます。
相手に支払う気がないようであれば、内容証明郵便を送付して、遺留分侵害額請求の意思表示を示しておきましょう。後述する時効の定めにより、遺留分侵害額請求権が消滅するのを防ぐためです。

調停

話し合いでの解決が難しければ、一般的には家庭裁判所に対して「遺留分侵害額請求調停」を申立てます。
調停とは、裁判所でする話し合いです。調停委員が間に入って交互に話を聞いてくれるため、冷静な協議がしやすくなります。
調停で合意できれば、調停調書が作成され、判決と同様の強い効力が付与されます。
遺留分侵害額請求調停について知っておいて欲しいのは以下の点です。

申立人

遺留分侵害額請求調停を申立てられるのは、遺留分を侵害されている相続人です。
遺留分を有さない兄弟姉妹は申立てができません。遺留分を侵害された相続人本人が亡くなった場合は、その権利を引き継いだ人(「相続人の相続人」など)が申立てを行います。

申立て先

申立て先は、請求相手の住所地を管轄する家庭裁判所です。
たとえば、相手が東京23区に住んでいれば、東京家庭裁判所(本庁)になります。管轄を知りたい方は裁判所のサイトで確認できます。
また、当事者で合意して管轄裁判所を定めることも可能です。

必要書類

申立ての必要書類は以下の通りです。
●申立書(書式・記載例は裁判所のサイトを参照)
●被相続人(故人)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
●相続人全員の戸籍謄本
●遺言書または遺言書の検認調書謄本
●遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、預貯金の残高証明書など)
個々の事情によって必要書類が増えるケースもあります。詳細は申立て先の裁判所にご確認ください。

費用

調停の申し立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙1200円分
●連絡用の郵便切手代(裁判所により異なる)

訴訟

調停はあくまで話し合いであり、強制的には結論を出せません。対立が激しく合意できない場合には、地方裁判所(または簡易裁判所)に訴訟を提起します。
訴訟では最終的に裁判官が判決を出すため、決着をつけられます。判決に納得がいかなければ、上のレベルの裁判所に控訴することも可能です。

遺留分侵害額請求権の時効期間


遺留分侵害額請求権には時効の定めがあるため、いつまでも請求をしないでいると権利が消滅してしまいます。
遺留分侵害額請求権が時効にかからないよう、以下の点に注意してください。

遺留分侵害額請求には期限がある

遺留分侵害額請求には時効による期間制限があります。
時効期間は
●相続開始(被相続人の死亡)の事実
●遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと
の両方を知ったときから1年です(民法1048条)。
1年という非常に短い期間であるため、早めに請求しなければなりません。
注意して欲しいのが、遺言書の無効を争っている場合です。
もし主張が認められずに遺言書が有効とされても、遺留分侵害額請求ができる可能性はあります。しかし、効力に関する争いに気をとられて時効期間が経過していれば、請求できません。
遺言書が無効だと考えていても、有効となった場合に備えて、念のため遺留分侵害額請求の意思表示をしておきましょう。
また、相続開始の事実や遺留分を侵害されている事実を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると遺留分侵害額請求権は行使できなくなります。

内容証明郵便で請求する

時効にかからないようにするには、遺留分侵害額請求の意思表示が必要です。意思表示をした事実を後から確実に証明するために、内容証明郵便を送付して意思表示してください。
調停をする場合にも、調停の申立てだけでは不十分です。必ず内容証明郵便を用いて別途意思表示をしましょう。

請求した後にも時効がある

遺留分侵害額請求の意思表示をしたからといって、放っておいてはいけません。
遺留分侵害額請求権を行使すると、相手に対して金銭を請求する権利が発生しますが、その金銭請求権は5年で時効にかかってしまいます。金銭請求権の時効による消滅を防ぐには、裁判を起こすなどの方法があります。
遺留分侵害額請求の意思表示をしただけで安心せず、その後も金銭の請求を進めてください。

遺留分侵害額請求をしたい方は弁護士にご相談を


ここまで、遺留分侵害額請求について、金額の計算方法、請求の進め方、時効期間などについて解説してきました。
遺言書や生前贈与で多くの財産を得ている人がいる場合には、ご自身の遺留分が侵害されているかもしれません。時効にかかる前に早めに行動を起こす必要があります。
遺留分侵害額請求を考えている方は、弁護士にご相談ください。
弁護士に相談すれば、遺留分が認められるかの見通しがわかり、必要に応じて請求を任せることができます。適正な金額を請求できるのはもちろん、時効により権利が消滅するのを防ぐためにも、弁護士への依頼は有効です。
「遺留分があるのかわからない」「請求を自分でするのは大変そう」などとお悩みの方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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