民事信託(家族信託)で障害者の親亡き後の生活に備える方法

信託

障害を抱えたお子さんについて、次のような不安をお持ちではないですか?
「親が認知症になったら、子どものためにお金を使えなくなる」
「自分の死後に財産をだまし取られないか心配」
「子どもが亡くなった後に、残った財産が国のものになってしまう」
こうした悩みを解決できる方法が、民事信託(家族信託)の活用です。あらかじめ民事信託を設定しておけば、障害を持った子どもの将来の生活への不安に備えられます。
この記事では、
●民事信託を障害者のために利用するメリット
●民事信託を障害を持つ子どものために活用する事例
●民事信託を利用する際の注意点
などについて解説しています。
障害を抱えたお子さんがいらして、ご自身が亡くなった後の子どもの生活に不安をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。

民事信託(家族信託)は子どもが障害者のケースにも有効


まずは、障害者の「親亡き後」の問題や、それを解決するための民事信託に関する基礎知識を解説します。

障害を抱えている子には「親亡き後」の問題がある

子が身体・精神上の障害により自立した生活が難しくても、親が元気なうちは面倒を見られます。
しかし、親が高齢になったり亡くなったりすると、子が従来の生活を続けるのは容易ではありません。たとえば、以下の問題が生じ得ます。
●親が認知症になって預金が凍結される
●親の死後に生活費を出す人がいない
●子どもが遺産をだまし取られる
「親亡き後」の問題にお悩みの方は、少なくないでしょう。
問題を解決する方法のひとつとして、成年後見人の選任があります。しかし、成年後見制度は使い勝手が悪く、親の思いを実現できるとは限りません。

そもそも民事信託とは?

「親亡き後」の問題への有効な対策が、民事信託での備えです。
民事信託とは、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、少なくとも以下の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」が有していた財産の所有権は、信託がなされると形式的に「受託者」に移ります。ただし「受託者」は「受益者」のために財産を管理・処分することを義務づけられ、財産から自由に利益を享受することはできません(信託法8条)。
民事信託を設定する際は、当初は「委託者=受益者」とするのが一般的です。「委託者=受益者」で設定することで、財産の所有権が受託者に移ったとしても贈与税がかかりません。

参考記事:民事信託とは?活用法やメリット・デメリットを弁護士が解説

親亡き後の子の生活保障に活用できる

民事信託の典型的な活用事例としては、高齢者の認知症対策が知られています。たとえば、高齢の親を「委託者兼受益者」、子を「受託者」として、子が親のために財産管理を行うものです。
他にも、民事信託には様々な活用方法があります。親の財産管理を信頼できる人に任せ、障害を持つ子のために財産を利用させるようにすれば、「親亡き後」問題の対策が可能です。
収益不動産の管理や生活費の支出など、契約で定めた内容に沿った管理・処分を受託者に任せられます。

民事信託(家族信託)を障害者のために利用するメリット


民事信託を障害を持つ子のために設定すると、以下のメリットがあります。

親が認知症になっても生活費を支出できる

認知症になると、預貯金口座が凍結されるなど、財産の利用ができなくなってしまいます。認知症になった段階で親に成年後見人をつけたとしても、財産の用途には制限が生じ、思い通りには使えません。
事前に民事信託を設定しておけば、認知症になった後にも受託者が親の財産を契約内容にしたがって活用できます。障害を持つ子のために、信託された財産から生活費を支出することが可能です。

参考記事:認知症になると口座凍結される!民事信託や任意後見による対策を解説

死亡時の財産承継が楽になる

親が死亡すると、通常は相続により財産承継をします。遺言書がなければ、相続人全員が参加する遺産分割協議が必要です。障害により法律的な判断能力がない子がいるとしても、他の相続人が勝手に分け方を決めることはできません。
障害を持つ子に成年後見人をつければ手続きは可能ですが、分割方法に制限が生じ、後見人への報酬が一生続くデメリットがあります。
生前に信託していた財産については、親の死後に別途面倒な手続きを経る必要がありません。障害を持つ子に成年後見人をつけずにすみ、余計な相続トラブルも回避できます。

参考記事:成年後見人が含まれる相続手続きの流れ|必要なケースや注意点を解説

親亡き後もサポートが継続する

親から財産を引き継いだとしても、障害の影響で子の自立した生活が難しければ、うまく活用できません。生活費を適切に支出できなかったり、財産をだまし取られたりする危険が大きいです。
民事信託で備えておけば、親が存命中に認知症になった場合だけでなく、死亡した後も信託財産の管理を続けられ、障害を持つ子へのサポートが継続します。日常的な支出だけでなく、収益不動産の管理など、より高度な行為も受益者に任せることが可能です。
親亡き後も障害を持つ子が問題なく生活できるのは、民事信託を利用する大きなメリットです。

子の死後の財産承継について定められる

親の死亡後に子も亡くなったときは、子に相続人がいなければ財産は国のものになります(民法959条)。子に特別な貢献をした人がいれば「特別縁故者」として財産の分与を受けられますが、面倒な法的手続きが別途必要です(民法958条の2)。
遺言書で子が自ら財産の行方を決めることはできますが、親の思い通りになるわけではありません。そもそも障害の影響で遺言をする法的な能力がなく、遺言を残せないケースも多いでしょう。
民事信託では、親が死亡したときだけでなく、先々の財産承継についても定められます。子の死亡後、最終的に受託者に財産を引き継がせたり、お世話になった親族や施設に渡したりすることが可能です。
親の死亡時だけでなく、子の死亡後の財産の行方を決められるのは、遺言書にはない民事信託のメリットになります。

民事信託(家族信託)を障害を持つ子どものために活用する事例


障害を持つ子のために民事信託を活用する例としては、以下が挙げられます。

兄弟がいるケース

長男が障害者であるとき、障害を抱えていない兄弟(次男)がいれば、次のように民事信託を設定できます。
●委託者・第1受益者 :親
●受託者 :次男
●第2受益者 :長男
障害のない次男がいるときには、次男を受託者にする方法が有効です。委託者である親の財産の管理を次男に託し、次男が契約の内容にしたがって管理します。勝手に次男自身のためには使えません。
設定当初の受益者(第1受益者)を、委託者である親自身にしておくことで、贈与税の課税を避けられます。
親が亡くなった後は第2受益者である長男に受益権がうつり、次男は長男のために財産の管理を続けます。次男に任せることで、親の死後に長男が生活に困ったり、財産をだまし取られたりする事態を回避できるのです。
さらに次男を最終的な帰属権利者にしておけば、長男の死後に、財産に対する権利を面倒を見た次男に引き継がせられます。

一人っ子のケース

上記のケースで兄弟がいないときでも、別の親族などを受託者にして民事信託の設定が可能です。たとえば、親の甥(子から見ると従兄弟)を受託者にする場合、以下の方法が考えられます。
●委託者・第1受益者 :親
●受託者 :甥
●第2受益者 :子
基本的な枠組みとしては、兄弟を受託者にしたケースと同様です。親が亡くなった後は、甥が第2受益者である子のために財産を管理します。
子が亡くなった後の財産の帰属も定められます。受託者である甥を帰属権利者とするのはもちろん、お世話になった施設など他の個人・団体に帰属させても構いません。

民事信託(家族信託)を障害者のために利用する際の注意点


民事信託は障害を持つ子の生活保障のために有効な仕組みですが、問題が一切ないわけではありません。利用する際は、以下の点に注意してください。

受託者が見つからないケースがある

民事信託においては、財産を預かって管理する受託者の存在が必須です。しかし、受託者になってくれる人が見つかるとは限りません。
障害を持つ子が一人っ子である場合だけでなく、兄弟がいても希望しない、信頼できないなどで任せられないケースがあります。

長年続く可能性を考慮する

子のために民事信託を設定する場合、子が長生きする可能性を頭に入れておかなければなりません。長年続いても対応できる人を受託者にした方がよいでしょう。
父が委託者になるときに、妻あるいは父の兄弟といった同世代の親族を受託者にすると、障害を持つ子よりも先に亡くなる可能性が高くなります。子の兄弟や従兄弟など、子と同世代で長年続けられる人を受託者にするのが望ましいです。万が一の場合に備えて、後継受託者を定めておく方法もあります。

不正のリスクに備える

家族を受託者にしていると、財産に手をつけるなど不正をするリスクが否定できません。親の死後に受益者となった障害者が不正に気がつくのは困難であり、大きな不利益を受けてしまいます。
そこで、弁護士などの専門家を信託監督人や受益者代理人につけておき、不正がないように監督する方法が有効です。適切な運用のために対策をしておきましょう。

詳しい弁護士に依頼する

民事信託で親の希望を確実に実現するためには、注意深く契約書を作成しなければなりません。法律に詳しくない方が自力で進めるのは困難であるため、専門家への依頼が必要です。
もっとも、民事信託は比較的新しい制度であり、かつ仕組みが複雑であるため、弁護士であっても十分な理解ができているとは限りません。豊富な実務経験があり、民事信託に精通した弁護士を探して依頼するようにしてください。

民事信託(家族信託)で障害者の親亡き後の問題に備えたい方は弁護士にご相談を


ここまで、障害を持つ子のために民事信託を利用する方法について、メリット、活用事例、注意点などを解説してきました。
「親亡き後」の障害者の生活を守るために、民事信託は有効な手段です。兄弟やその他の親族を受託者にして、障害を持つ子のために親の財産管理を任せられます。もっとも、長年続く可能性や不正のリスクへの備えは怠らないようにしてください。

民事信託は仕組みが複雑であり、すぐに理解するのは難しいでしょう。また、財産承継のために、民事信託以外の方法を利用すべきケースもあります。まずは弁護士にご相談いただいて、自分の実現したいビジョンが叶いそうかを確認するとよいでしょう。
民事信託は制度ができてから歴史が浅く、弁護士であっても十分に対応できない場合が少なくありません。当事務所は民事信託について積極的に取り扱っており、障害を抱える方のための信託設定についても多くの経験がございます。あなたの状況やご希望に応じて、最適な提案をいたします。
「親亡き後」のお子さんの生活に不安を感じている方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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