遺言の種類とメリットデメリット

相続・遺言

動画で解説:遺言書の書類 ~公正証書遺言をお勧めする理由を弁護士が解説~

大切な方を失った悲しみの中、故人の財産を整理しなければなりません。
あなたが遺産整理の最中に故人の「遺言書」を見つけたとします。その内容をみて、愕然とすることもあるかもしれません。

亡くなった人の気持ちがわずか数枚の紙切れとなるのが、遺言書です。そんなわずかな紙ペラで故人の生前の遺志も理解できないまま、相続の争いが勃発してしまします。一方で、故人も相続人同士が争うことは望んでいないはずです。
そこで、本コラムでは、遺言について解説いたします。

1 遺言書の書類

民法という法律で遺言書の種類は、普通方式遺言(3種類)と特別方式遺言(2種類)の合計5種類に分類されています。以下、それぞれについて解説いたします。

2 普通方式遺言(民法967条~)

普通方式遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。

(1)①自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺言のすべての文章を手書きで記入し、日付と氏名を自署した上で、押印を行う事により作成する遺言書の種類です。これまで、遺す財産についても手書きでの記載が必要でしたが、法改正により、財産の目録については、自署ではなくパソコンなどで作成した文書を添付することができるようになりました。

(2)②公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人という公務員の面前で遺言したい内容を口頭で伝えて、公証人が聴取した内容を書面にする方式の遺言です。公正証書遺言の作成には、証人2人以上の立会が必要となりますが、通常、公証人が手配してくれますが謝礼が数万円程度かかることが一般的です。

(3)③秘密証書遺言

秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の間をとったような遺言です。具体的には、遺言書自体は、自ら作成するのですが、作成したあとに署名押印して封筒にいれて公証役場に持ち込んで保管を依頼することが必要となります。公証人にもその内容がわからないという点で、「秘密」証書遺言と言われております。

3 特別方式遺言(民法976条~)

特別方式遺言には、④危急時遺言と⑤隔絶地遺言の2種類があります。

(1)④危急時遺言

危急時遺言は、病気や、その他の事情で身に危険が迫っている状況などでは書面を作成することができないため、口頭で遺言を遺すことができる遺言です。利用にあたっては、証人3人以上の立会が必要となり、口頭で遺言を受けた者が内容を筆記して本人に確認させることが必要となり、その後、証人や利害関係人から遺言の日から20日以内に家庭裁判所に遺言内容の報告が必要になるなど、極めて例外的な場合に利用されるものです。
そのほか、船舶が遭難した場合にも同様に緊急的に遺言を遺すことができるとされています。

(2)⑤隔絶地遺言

隔絶地遺言は、伝染病で隔離されている場合や遠洋航海中など、日常生活から隔絶されている場所にいる場合に遺すことができる遺言の種類です。

4 普通方式遺言のメリット・デメリット

以上の通り、特別方式遺言は極めて例外な場合に用いられるため、以下では普通方式遺言のメリット・デメリットを解説いたします。

 

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成の方法 遺言者自らが全文自署し、署名押印が必要となる。 遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝え、公証人が書類にまとめる 遺言者自らが遺言書を作成し、その後封筒に入れて封印と押印し、公証役場に報告する。
作成の費用 無料 有料 有料
証人の要否 不要 証人2人以上 証人2人以上
家庭裁判所の検認の要否 要する 不要
※法務局への保管制度を利用の場合には不要
要する
メリット ・いつでも作成できる。
・費用が掛からない。
・自筆のため思いが伝わる
・公証人という公務員の立ち会いのもとで作成されるため、紛失のリスクがない。
・公証人が立ち会い本人の意思を確認しているため、遺言書の効力が否定されるのは例外的である。
・きちんとした書面で残る。
・発見時に家庭裁判所に遺言書の検認手続きが不要である
・遺言の内容の秘密が守られる
・遺言の紛失リスクを防ぐことができる
デメリット ・作成方法が難しいため、効力が生じなくなる可能性がある。
・作成した遺言書が見つからなくなる可能性がある。
・一部の相続人に破棄される可能性がある。
・故人が認知症などを患っている場合には遺言書の効力が否定されることが多くある。
・発見時に遺言書の検認手続きが必要となる。
・作成する際に費用や時間がかかる。
・自らの財産を公務員とはえ第三者に伝えなければならないこと
・作成方法が難しいため、効力が生じなくなる可能性がある。
・発見時に遺言書の検認手続きが必要となる

※公正証書遺言の作成の費用としては、資産3億円で9万5000円とされていますので、おそろしく高額になるものはありません。

【コラム】 自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言の最大のデメリットは、紛失の可能性と発見後の検認手続きの2点です。令和2年7月から新しく始まった制度として、法務局で自筆証書遺言を預けて保管できる制度が発足しました。手続きの手数料も数千円程度で、公正証書と同じく相続人は故人の自筆証書遺言の有無を照会することができますし、もし見つかった場合には検認手続きが不要とされている点で、活用が期待されていますが、実際に法務局に出向いて手続きが必要であるなど手続きの煩わしさがある点がデメリットといえます。

5 遺言書が見つかったときに相続人が行うべき手続(家庭裁判所での検認)

故人の相続手続きでは、遺言書の有無を探すことになります。自筆証書遺言の場合、どこにあるかわかりませんので、故人の机や貸金庫などを確認することになります。また、公正証書遺言が作成されている可能性がありますので、最寄りの公証役場で遺言書の死亡が確認できる書類と相続人であることがわかる戸籍謄本があると、公正証書の有無を検索できます。
そのほか、法務局に自筆証書遺言が保管されている可能性もあるので、その検索も必要となります。
自筆証書遺言書が見つかった場合には、最寄りの家庭裁判所に持ち込んで中身を確認する手続きが必要となります。この手続きを「遺言書の検認」といいます。検認の手続きは法定相続人全員に遺言書が見つかったことを知らせ、遺言書の内容を見ることができる機会を与える点にあります。そのため、相続人の調査が必要となる(戸籍の取り寄せに数ヶ月かかることも)など、手続きとして極めて煩雑です。
また、遺言書の検認はあくまで、見つかった遺言書の内容を形式的に確認するものですから、その効力を保証するものではありません。例えば、認知症がかなり進んだ遺言者が書いた遺言書で、誰がどうみても、法的な効力がないものであっても検認手続きは必要となります。
なお、公正証書遺言では、検認手続きが不要であり、この点が、公正証書遺言の大きなメリットの一つです。

6 複数の日付の異なる遺言書が見つかった場合の法的効力

遺言書は何度でも作成をすることができます。例えば、2010年1月1日に作成した遺言書と、2020年1月1日に作成した遺言書がある場合、どのような取り扱いになるでしょうか。
民法では、遺言書が複数あるときは、全ての遺言書を比較し、一番はじめに作成された遺言書を基本とします。その上で、後になって作成された遺言書と最初の遺言書を比べて、変更箇所がある場合には、変更箇所がある部分のみ、最後に作成された遺言書の内容が有効になるとされています。したがって、全てが新しい遺言書通りになるわけではなく、古い結い遺言書と抵触する部分がある範囲で後の遺言書が有効になります。

7 争いを避けるための遺言書の作成のポイント

相続トラブルの本質は、私は相続人の間での不平不満が主な原因ではないかと考えています。例えば、4人家族(父、母、2人兄弟)がいた場合、お兄さんだけ溺愛されて、弟が冷遇された場合、お父さんが生きているときはまだ家族としての輪は「お父さん」を通じて保たれているかもしれませんが、輪の架け橋となっていたお父さんが亡くなったとたんに、兄弟は「平等な関係」となるわけです。兄は、「弟なんだから言うことをきけ」と思うでしょうし、弟は「さんざん兄が優遇されていたのだから僕の分け前は多くほしい」などと思い紛争へと発展してします。そんな感情があるのに、お父さんは兄に有利な遺言書を残したら、どのような事態になるかは想像に難しくありません。

つまり遺言書を書く場合には、残された相続人同士の関係やこれまでの人生をきちんと考えてあげる必要があります。安易にうちの家族は仲がいいからと盲信するのは黄色信号といえます。

また、先程の4人家族の事例で、兄弟間は平等な立場ですので、その一つ上の立場である両親が生きている間に、可能なら、両親が遺言書を書く場合には、兄弟に遺言書の内容を伝えるべきです。兄弟間の横の関係ではなかなか納得は難しいものですが、上の立場からの話であれば、納得も可能な場合があるからです。

したがって、ポイントとしては、①相続人同士の人間関係をきちんと考えて相続財産の分配を決める必要があること、②可能なら生前に自分の死後にどのようにしてほしいか相続人に伝えておくことです。

また、遺言書が破棄や見つからない可能性もあるので、③公正証書遺言で作成すること、この3つがポイントといえます。

【コラム】  遺産分割のトラブルは金持ちの泥沼の争いなのか?

何をもってお金持ちと定義するかは難しいですが、平成30年の裁判所での遺産分割調停の争われた遺産金額は、
・1000万円以下が約3割
・5000万円以下が約4割
という統計になっております。よく遺産分割でのトラブルと聞きますと、お金持ち(資産金額数億円~など)が争っているものと想像しがちですが、約7割強のケースは、財産金額5000万円以下でのトラブルであることが統計からわかります。私の所感としては、遺産分割協議でのトラブルの本質はお金の大小ではなく、「あいつにだけは渡したくない」という感情論の対立が原因ではないかと考えております。

8 さいごに

以上、遺言書について解説いたしました。遺言書の作成は自分の人生とも向き合うことになります。向き合う中で新しい自分を発見したり、今後の人生をどのように過ごすかわかってきたという声もあります。遺言書の有無で相続のトラブルはぐっと減りますので、生前の対策が肝要です。

専門家は何をする人?

遺言書の作成にあたっては、当事者が自分で行うことも可能ですが、司法書士、弁護士といった専門家が、遺言書の文案を考えたり、作成を支援することが可能です。

この記事を書いた弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 荒川 香遥

  • ■東京弁護士会
    ■宗教法制研究会

  • 相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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