民事信託(家族信託)は長期に及ぶため、途中で内容を変更したくなる場合もあるでしょう。信託内容の変更は可能です。
原則として、委託者・受託者・受益者の三者の合意により変更できます。ただし、当事者が認知症になるリスクなどを考えると、当初の信託契約において変更のルールを決めておくのがベストです。
この記事では、信託の変更について、法律上のルールや注意点などを解説しています。現在信託内容の変更を検討している方や、これから信託を始めようとしている方は、ぜひ最後までお読みください。
信託財産の追加については、以下の記事で説明しています。
参考記事:信託財産を追加(追加信託)する方法|必要なケースや注意点も解説
目次
信託の変更とは、いったん契約等で決めた信託の内容を、事後的に変えることです。信託目的や財産の管理方法、受益者への給付内容などの変更が考えられます。
民事信託は長期に及ぶと想定され、状況の変化によって当初は想定できなかった問題が生じるケースもあります。変更が認められているのは、予想外の事態に対応し、当事者が信託を有効に活用できるようにするためです。
たとえば、賃貸用不動産であっても、急にお金が必要になり売却したい場合もあるでしょう。しかし、信託契約において受託者の権限に含まれていないと、不動産売却はできません。当初の契約内容を変更して不動産売却が可能になれば、当事者にとっては望ましいです。そこで、法律や信託契約の定めに従って、信託内容の変更が認められています。
受託者の権限や信託財産の活用方法などを変えたいときには、信託内容の変更を検討しましょう。
1つの信託の内容を変更するほか、信託の併合や分割も認められています。
信託の併合とは、受託者が同一である2つ以上の信託における信託財産のすべてを、1つの新たな信託の信託財産とすることです(信託法2条10項)。簡単にいえば、複数の信託をひとつにまとめる行為です。
信託の分割には、「吸収信託分割」と「新規信託分割」があります(信託法2条11項)。
吸収信託分割とは、ある信託の信託財産の一部を、受託者を同一とする他の信託の信託財産にすることです。信託財産の一部を切り離して、既に存在する他の信託に移すものになります。
新規信託分割とは、ある信託の信託財産の一部を、受託者が同一である新たな信託の信託財産にすることです。1つの信託を、新たな複数の信託に分けるようなイメージになります。
信託の併合や分割についても、変更とほぼ同様のルールで認められています。いずれにしても、受託者が同じ信託の間でのみ可能です。
信託の変更は、原則としては委託者・受託者・受益者の三者の合意によって決定します(信託法149条1項)。民事信託における主要な登場人物全員の合意が必要ということです。
実際には、民事信託では設定時は「委託者=受益者」の自益信託となっているケースがほとんどです。したがって、「委託者兼受益者」と受託者の合意によって信託の変更を決められます。
委託者・受託者・受益者の意味については、それぞれ以下の記事を参照してください。
・委託者とは?なれる人や権利、死亡するとどうなるかを解説
・民事信託(家族信託)の受託者に資格は必要?なれる人や選び方を解説
・受益者とは?誰がなれる?受益者連続信託や受益者代理人についても解説
三者全員の合意がなくても、法律上変更が可能とされる場合もあります。
まず、委託者の関与が不要となるケースがあります。
信託の目的に反しないと明らかであるときは、受託者と受益者の合意で変更できます(信託法149条2項1号)。
信託の目的に反しないことに加えて受益者の利益に適合することも明らかであれば、受益者と事前に合意せずとも、受託者が書面等でする意思表示によって変更が可能です(信託法149条2項2号)。
いずれについても、関与していない委託者や受益者に対する変更内容の通知が要求されます。
受託者との合意なしに変更が認められているケースもあります。
具体的には、受託者の利益を害しないと明らかであるときは、委託者と受益者が受託者に対して意思表示をすれば変更できます(信託法149条3項1号)。委託者と受益者が同一人物であれば、「委託者兼受益者」が受託者に意思を示せばいいということです。
委託者と受益者が異なるとしても、受託者の利益を害しないことに加えて信託の目的に反しないことも明らかであれば、受益者単独で受託者に対し意思表示すれば変更できます(信託法149条3項2号)。このときは、受託者は委託者に対して変更後の内容を通知しなければなりません。
以上は、信託法149条に明示されているルールです。これらのルールにかかわらず、信託契約において別のルールを定められます(信託法149条4項)。特定の当事者の合意で決められる旨だけでなく、第三者の関与を求める旨の規定も可能です。
たとえば、「受託者と受益者の合意で変更できる」「受託者と受益者代理人の合意で変更できる」といったルールを定められます。
ただし、元々の信託法の定めも合わせて適用されるのか、信託契約のルールだけにするのかは、明確にしなければなりません。契約書の文言で、信託法上のルールとの関係がはっきりとわかるようにしておきましょう。
信託法や信託契約に基づく変更のほか、裁判による変更も可能です。
信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、受益者の利益に適合しなくなるに至ったときは、裁判所が信託の変更を命じることができます(信託法150条)。裁判所への申立てができるのは、委託者・受託者・受益者です。
信託の変更は、通常は信託変更契約によって行います。
不動産の登記事項に変更がある場合には、変更登記も必要です。信託の登記については、以下の記事を参照してください。
参考記事:信託で登記は必要?記載内容や必要な場面、注意点を解説
当事者が認知症になって法的判断能力を失っていると、変更に必要な合意ができません。特に委託者は高齢の場合が多く、認知症により意思を示せなくなって信託を変更できなくなるリスクが高いといえます。
当事者の認知症により事後的な変更が不可能になる事態を避けるためには、契約書を作成する段階で別の変更方法を決めておくべきです。
民事信託と認知症には深い関係があります。民事信託による認知症対策については、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説
委託者・受託者・受益者といった当事者の変更は可能です。ただし、信託法149条は適用されず、他の規定が適用されます(委託者:146条以下、受託者:56条以下、受益者:89条以下)。
参考記事:民事信託(家族信託)で受託者が死亡したら?すべきことを解説
ここまで、信託の変更について、変更する際のルールを中心に解説してきました。
信託内容の事後的な変更は可能です。原則として委託者・受託者・受益者の合意が必要とされますが、様々な事態を想定して信託契約でルールを決めておくのがよいでしょう。
信託の変更についてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度が比較的新しく、仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が限られています。弁護士であっても対応できない場合が少なくありません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在変更の必要が生じている方はもちろん、これから信託を始める方に対しても、変更に関するアドバイス・サポートが可能です。
「信託内容を変更したい」「様々な状況に備えておきたい」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。