受益者とは?誰がなれる?受益者連続信託や受益者代理人についても解説

信託

民事信託(家族信託)における受益者とは、信託財産から生じる利益を受ける人です。
受益者には誰でもなれます。実際には、民事信託においては委託者自身が受益者になるケースが多いです。受益者が死亡した場合に、次に受益者になる人について定めておくこともでき、これを「受益者連続信託」と呼ばれます。
受託者(財産を預かる人)が職務を適切に行うよう、受益者は様々な権限を有しています。もっとも、高齢などの理由で、受益者による監督が難しいケースも少なくありません。その場合には、受益者代理人や信託監督人の利用が考えられます。
この記事では、

などについて解説しています。
民事信託の利用を検討している方にとって参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

受益者とは?


弁護士
野俣 智裕
民事信託における受益者とは、信託財産から発生した利益を享受する人です。受益者は、信託財産から給付を受ける権利だけでなく、確実に利益を受けるために様々な権限を有しています。
まずは、受益者がいかなる立場の人なのかをご説明します。

信託財産から生じる利益を受ける人

法律上の定義によると、受益者とは「受益権を有する者」とされています(信託法2条6項)。「受益権」は、主として信託財産から一定の給付を受ける権利です。簡単にいえば、受益者は、信託財産から生じる経済的な利益を受ける立場にある人を指します。
そもそも民事信託は、委託者が自身の財産を受託者に預け、受託者が受益者のために管理する仕組みです。たとえば、父が収益用不動産の管理を子に任せ、得た収益を父の介護費用のために用いるケースが考えられます。このとき、不動産から得た収入は父のために使用されており、受益者は父です。
民事信託は、信託財産から生じる利益を得る受益者のために存在しているといえます。
後述する通り、実務上、設定時は委託者が受益者を兼ねているケースが多いです。民事信託の仕組みについて詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説

受益者が有する権利

受益者は「受益権」という名称の権利を有します。受益権の中身は大きく以下の2つに分けられます(信託法2条7項)。
信託財産から給付を受ける権利(受益債権)
給付を確保するために受託者に一定の行為を求める権利
順に詳しく解説します。

信託財産から給付を受ける権利

「信託財産から給付を受ける権利(受益債権)」とは、信託財産から生じる経済的な利益を受ける権利です。
たとえば不動産から得られる賃料を受益者の生活費に充てるとされていたときには、受益者は受託者に対して、賃料から給付をするように求める権利を有します。
受益債権は信託行為(主に信託契約)において定める権利です。不動産を処分した際の対価から給付を受ける権利など、事情に応じて様々な内容を規定できます。

給付を確保するための権利

「給付を確保するために受託者に一定の行為を求める権利」は、信託財産から生じる利益を確実に得られるよう、受託者を監督する権利です。内容は信託法に規定されています。
例としては以下が挙げられます。
・受託者の権限違反行為の取消権(27条1項、2項
・受託者による利益相反行為の取消権(31条6項、7項
・信託事務の処理状況についての報告請求権(36条
・信託帳簿の閲覧・謄写請求権(38条1項
・損失てん補・原状回復請求権(40条1項
・受託者の行為の差止請求権(44条
・裁判所に対する受託者解任申立権(58条4項
これらは、信託から生じる利益を確実に得るために重要な権利です。したがって、信託契約によっても制限できません92条)。
受益者が高齢、障害を抱えているなどの理由で、権利を行使するのが難しいケースも多いです。詳しくは後述しますが、受託者を監督するために「受益者代理人」や「信託監督人」をおく方法もあります。

受益者になれる人


弁護士
野俣 智裕
受益者になるための条件は特にありません。誰でも受益者になれますが、実際には民事信託においては委託者が受益者にもなるケースが多いです。ここでは、複数人が受益者になる場合も含めて様々なパターンをご紹介します。

委託者自身が受益者になるケースが多い

民事信託においては、委託者自身が受益者になるケースが多いです。すなわち、財産を預ける人が利益を受ける形になります。
「委託者=受益者」とするのは、設定時に贈与税の課税を避けるためです。贈与税は一般的に税率が高いため、設定時の課税を回避できるのは大きなメリットになります。
よくあるのは、親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」となるケースです。特に認知症対策として親が子に財産の管理・処分を任せるのは、民事信託の典型例といえます。
「委託者=受益者」とする信託は「自益信託」と呼ばれます。自益信託の意義や活用例については、以下の記事を参照してください。
参考記事:自益信託とは?他益信託との違いやメリット・活用例を解説

委託者以外もなれる

受益者になるのに特に資格は必要ありません。委託者以外でも受益者になれます。委託者以外が受益者になる信託は「他益信託」と呼ばれます。
たとえば、委託者が父、受託者が子のときに、母が受益者になることが可能です。今いる家族はもちろん、まだ生まれていない子を受益者とする信託も設定できます。また、個人に限らず法人も受益者になれます。
他益信託においては、設定時に贈与税が課税される点が大きなデメリットです。そのため、開始時に他益信託とする例はほとんどありません。当初は自益信託であったものの、途中で受益者が変わって他益信託に移行するケースはよくあります。

複数人も可能

複数人が受益者になっても構いません
たとえば、委託者が父、受託者が子のときに、受益者を父と母の2人にすることが可能です。ただし、委託者ではない母が受益者になると、設定時に贈与税の問題が生じてしまいます。
他に、後述する「受益者連続信託」においては、最初の受益者が死亡した後に複数人が受益者になる場合がよくあります。たとえば、当初の受益者である親の死亡後に、子全員が受益者になるケースです。
いずれにしても、受益者が複数いるときには、受益者の意思決定方法について定めておくのがよいでしょう。
法律上の原則では、すべての受益者の一致によって決めるとされています(信託法105条1項本文)。しかし、意見が一致せずに意思決定ができなくなる可能性が否定できません。意見が食い違う事態を想定して、信託契約において多数決の定めを置くなどの対策をとるのが望ましいです。

「受託者=受益者」だと1年で終了

受託者が受益者を兼ねるのは、基本的に認められません。受益者は受託者を監督する役割も担っており、同一人物になると監督が効かなくなるためです。
法律上は「受託者=受益者」となる信託も想定されています。ただし「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき」には信託そのものが終了します(信託法163条2号)。複数の受益者のうちひとりが受託者になることは可能です。

受益者連続信託とは?


弁護士
野俣 智裕
受益者が亡くなった場合に備えて、次の受益者を決めておくことも可能です。当初受益者が亡くなった場合に次の受益者を定めておく信託を「受益者連続信託」と呼びます。
受益者連続信託を利用すれば、遺言では難しい財産の引き継ぎ方法を実現できます。民事信託の威力が発揮される場面ですので、知っておきましょう。

財産の引継ぎを定められる

受益者連続信託とは、受益者が死亡する事態を想定して、新たに受益権を得る人をあらかじめ定めている信託です。
受益者連続信託を利用すれば「父→長男→次男」のように、信託の対象にした財産を引き継ぐ方法を決められます。本来であれば相続対象になり、意図しない人に渡る可能性のある財産でも、思い通りに引き継がせられます。
たとえ遺言を使ったとしても、原則として指定できるのは自分の死亡時の財産の帰属先だけです。受益者連続信託を利用すれば、より先の財産承継についても定めておけます。

受益者連続信託の活用場面

受益者連続信託は様々な場面で活用できます。
例として、以下のケースを考えてみましょう。

・関係者:父、長男、長男の妻(嫁)、次男、次男の子(孫)
・父は自分の家系に先祖代々の財産を引き継がせたいと願っている。
・長男夫婦には子がおらず、長男の死後に嫁、その後は嫁の家系に財産が渡るおそれがある。

父が遺言を利用したとしても、決めておけるのは自分の死亡時の財産承継についてだけであり、長男の死亡時については定められません。そこで受益者連続信託を利用すれば「父→長男→次男の子(孫)」の順に、先祖代々の財産を確実に引き継げます。
他にも、たとえば以下の場面で受益者連続信託を活用できます。

あまりに先の代までは定められないなど注意点もありますが、思い通りに財産を引き継がせるために、受益者連続信託は非常に有効な手段です。
受益者連続信託の活用例や注意点について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:後継ぎ遺贈はできる?「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」について解説

信託監督人等の選任も可能


弁護士
野俣 智裕
受益者には、受託者を監督する役目もあります。しかし実際には、高齢などの理由で十分な監督が難しいケースも多いでしょう。そこで「受益者代理人」や「信託監督人」を選任する方法があります。

信託監督人をおくべきケース

信託監督人は、受益者自身が適切に受託者の監督をすることが期待できない場合に、受益者のために、自己の名をもって、受託者の信託事務処理を監督するための権限を行使する人です。
民事信託では、受益者は高齢で受託者の監督が期待できない場合も多いため、信託監督人をつけることも有益です。信託監督人に弁護士が就任することもできます。

受益者代理人をおくべきケース

受益者代理人は、受益者が有する権利を代わりに行使する人です。受益者が有する権利のほぼすべてを行使する権限があります(信託法139条1項)。
受益者代理人をおくべきケースとしては、以下が挙げられます。
・受益者が複数おり意思決定がスムーズにできないおそれがある
受益者の判断能力に問題がある(高齢者、未成年、障害者など)
こうしたケースでは、信託契約において受益者代理人を選任しておくのが選択肢になります。

本人の権利が制限される点に注意

受益者代理人をつける際に注意すべきなのは、受益者本人の権利が制限される点です。受益者代理人がいると、受益者自身の権利行使が制限されます(信託法139条4項)。
受益者に現時点で判断能力がある場合には、
能力が低下した段階で受益者代理人を選任するように定める
・受益者にも権利が残る信託監督人を利用する
といった方法をご検討ください。

民事信託(家族信託)を検討している方は弁護士にご相談ください


弁護士
野俣 智裕
民事信託は効果的ですが仕組みや開始方法が難しいです。ぜひ弁護士にご相談ください。

ここまで、民事信託における受益者に関して、権利内容やなれる人に加えて、受益者連続信託や信託監督人等についても解説してきました。
受益者とは、信託財産から生じる利益を受ける人です。誰でも受益者になれますが、「委託者=受益者」のケースが多いです。
受益者連続信託を活用すれば、遺言ではできない財産の引継ぎ方法を実現できます。受益者の能力に不安があるときには、受益者代理人等の選任も選択肢になります。いずれにせよ、事前に十分な検討が不可欠です。

民事信託の利用を考えている方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みが複雑であるため、精通した専門家が少ないのが実情です。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。信託契約書の作成はもちろん、信託監督人等への就任も可能です。
「民事信託が気になっているが、仕組みや方法がわからない」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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