「相続財産の預金が思いのほか少ない」「他の相続人が使い込んだのではないか」とお悩みでしょうか?
故人の預金口座からの用途がわからない引き出しは「使途不明金」と呼ばれます。出金が相続発生の前か後か、誰のために使ったかなどによって、使途不明金のパターンは様々です。
使途不明金があると、遺産分割協議がまとまらず、調停や訴訟での争いになり得ます。勝手に引き出した相続人からお金を取り戻すためには、証拠が不可欠です。
この記事では、
などについて解説しています。
使途不明金がある相続手続きに直面した方にとって参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
相続における使途不明金とは、亡くなる前後に被相続人(故人)の預金口座から引き出され、用途が不明な状態のお金をいいます。
相続財産をチェックしている際に他の相続人が不審な出金に気がつき、特に金額が大きいと問題になるケースが多いです。預金の管理を任されていた相続人が納得のいくように使途を説明できないと、遺産分割協議がまとまらなくなってしまいます。
被相続人が亡くなる前に、同居して預金の管理を任されていた相続人が、口座から出金しているケースはよくあります。考えられるパターンは以下の通りです。
まずは、被相続人のために使用しているケースです。被相続人本人のために使っていれば、他の相続人は返還を請求できません。具体的な用途としては、生活費、医療費などが考えられます。
たとえ本当に被相続人のために使っていたとしても、金額があまりに大きければ他の相続人が疑いを持つのはもっともです。「リフォームのために使った」「入院費用に充てた」といった説明とともに、領収書などの証拠があれば問題は大きくなりません。
「被相続人のために使った」と主張されたときには、具体的な使途を確認するようにしましょう。
引き出した相続人が、生前贈与としてお金を受け取った可能性もあります。生前贈与であれば被相続人は承諾しているため、不正出金とはいえません。
もっとも、生前贈与が特別受益にあたる可能性があります。特別受益に該当するケースでは、相続財産に持ち戻して遺産の配分を計算します。
特別受益について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:特別受益が認められるケースは?計算方法や遺産分割の流れも解説
預金の管理を任されている立場を利用して、被相続人の承諾を得ずに引き出し、自分のために使用しているケースもあります。法的な根拠がない不正出金であり、もっとも問題になりやすいです。
他の相続人は、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求により、お金を取り戻せます。原則として遺産分割調停の対象にはならず、訴訟の場で解決するケースが多いです。詳しくは後述します。
相続開始後においては、以下の可能性が考えられます。
死亡後に出金して、必要経費として使う場合もあります。たとえば、生前の入院費用を支払うようなケースです。いずれにせよ相続財産から支出する必要があるお金であれば、事実上問題にはなりません。
他の相続人としては、出金した人に対して何に使ったかを明確に確認するようにしてください。
なお、名義人が死亡すれば預貯金口座は凍結され、本来は引き出しができないはずです。とはいえ、金融機関は相続人からの申し出がなければ死亡の事実がわからないため、現実には引き出せてしまいます。出金が可能だとしても、トラブル防止の観点からは望ましくありません。
相続時の口座凍結については、以下の記事を参照してください。
参考記事:相続で預貯金口座が凍結される?解除方法や対策を弁護士が解説
相続に関係する必要経費でなければ、引き出した相続人が自分のために使ったと考えられます。被相続人は既に亡くなっている以上、「承諾を得た」との言い訳は通用しません。
相続人自身のために引き出したときには、相続前の場合と同様に、他の相続人は不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。通常は訴訟を提起しますが、引き出した本人以外の相続人が合意すれば、遺産分割の対象財産にできます(民法906条の2)。詳しくは後述します。
まずは、出金がなされた事実の証拠が必要です。預貯金通帳や取引履歴があれば、出金の事実は証明できます。
出金した相続人の手元にあって見せてくれないなど、通帳を入手できない場合はあります。通帳がなくても相続人であれば取引履歴の取得は可能なので、金融機関に問い合わせてください。取引履歴を見て、通常は考えられないような多額の出金があるかを確認しましょう。
出金の事実だけでなく、誰が引き出したかの証明も求められます。証拠になり得るものとしては、たとえば引き出し時の払戻請求書が挙げられます。
窓口に提出した払戻請求書の筆跡が相続人のものであれば、相続人が引き出しをしたとの証明が可能です。ATMでの出金については、相続人の勤務先の近くなど被相続人が行かないはずの場所でなされていれば、相続人が実行したと推定できます。
病院のカルテや介護記録も有力な証拠です。
被相続人が入院している、あるいは動き回れない身体状態であったとわかれば、本人が引き出していない、すなわち相続人が引き出した事実の証拠になります。また、認知症の事実が明らかになれば、被相続人が引き出しを承諾できないことになり、相続人が勝手に引き出したと証明できます。
出金した相続人がお金を何に使ったかの証拠もあると理想的です。出金日時に近い時点で高額な買い物をしたとわかる写真やSNSの投稿などがあれば、証拠になります。収入や通常の生活費に照らして不自然な出費がないかを確認してみましょう。
まずは、遺産分割協議の中で使途不明金について話し合うのが通常です。使い込みの疑いがある相続人に対して、使途不明金の使い道について確認しましょう。
不正な使い込みを認めた場合には、お金を返還する、あるいは遺産の取り分を調整する形で解決を図ります。
もっとも、現実には使い込みを認めないケースも多いです。証拠を示しても認めてくれなければ、相続人同士の話し合いでは解決が困難といえます。
次に、遺産分割調停の中で使途不明金についても話し合う方法が考えられます。
調停は裁判所における話し合いです。第三者である調停委員を介して話し合いが進むため、直接交渉する場合に比べて双方が冷静になりやすいといえます。
ただし、調停はあくまで話し合いであるため、裁判所が結論を決めてくれるわけではありません。合意ができた場合には調停調書が作成され、訴訟の判決と同様の効力が生じます。
調停の際に問題になるのが、使途不明金を遺産分割の対象にできるかです。
相続開始前に引き出しがなされた場合には、基本的に遺産分割調停の対象とはなりません。合意できればまとめて解決できますが、使い込み自体を認めていないときには困難です。ただし、生前贈与として特別受益の問題になるときには、調停で解決できます。
相続開始後の引き出しについては、使い込みの事実が明らかであれば、他の相続人全員の同意により遺産分割の対象にできます(民法906条の2)。ただし、客観的な証拠が不十分で使い込みを認めない場合には、遺産分割調停では解決できません。別途訴訟を提起する必要があります。
調停で解決できない場合には、訴訟を提起するほかありません。
請求の根拠としては、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求になります。後述する通り時効期間などに違いがありますが、どちらを選んでも構いません。
訴訟の際には証拠が特に重要です。十分な証拠がなければ、使い込みの事実は認めてもらえません。
使途不明金があるからといって、使い込みだと決めつけて相手を責めないようにしてください。証拠がない限り、不正な使い込みであるかはわかりません。被相続人自身が引き出した、あるいは相続人が正当な用途で使ったといった可能性は十分にあります。始めから不正出金だと決めつけてしまうと、不要な争いが生じ、話し合いができなくなってしまいます。
たとえ不正な行為であるとしても、使い込んだ側にも言い分があるはずです。同居して老いた親の面倒を見ていた、まして介護までしていたのであれば、何らかの不満を抱えているでしょう。相手の事情に理解を示せば、スムーズに解決に向かうかもしれません。
相続の場では、どうしても感情的になりがちです。最初から対決姿勢をとらず、冷静に用途を確認するようにしてください。
不正に使い込んだとの証拠がなければ、引き出した相続人の責任を追及できません。証拠がなければ話し合いで認めてくれませんし、裁判でも請求が棄却されます。法的な主張をするには証拠が不可欠です。
とはいえ、使途不明金に関する証拠を集めるのは容易ではありません。自力で集めるのが難しいときには、弁護士に依頼して証拠収集をしてもらうのが有効です。
時効にも注意してください。請求権の消滅時効期間を経過してしまうと、請求が認められません。
時効期間は、不当利得については「権利を行使できることを知った時から5年」あるいは「権利を行使できる時から10年」です(民法166条1項)。不法行為の場合には「損害及び加害者を知った時から3年」あるいは「行為の時から20年」です(民法724条)。
時間が経つと、時効にかかるおそれがあるほか、証拠が消えていく問題もあります。早めに準備するようにしてください。
ここまで、使途不明金がある相続について、パターンや証拠、解決方法などについて解説してきました。
出金が相続開始前か後かによって、法的に生じる問題が変わります。取引履歴、医療・介護記録などの証拠を集めたうえで、場合によっては裁判所を利用した手続きも必要です。
相続における使途不明金問題にお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は相続問題に力を入れており、使途不明金についても数多くの解決事例がございます。証拠収集や相手との交渉、裁判所を利用した手続きまでお任せいただけます。
「遺産の預金が思ったより少ない」「不正に引き出しているのではないか」など、使途不明金に関してお悩みの方は、まずはお気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所へお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。