「相続放棄の手続きは自分でできるのか」とお悩みでしょうか?
故人に借金が多かった場合などでは、相続放棄がひとつの選択肢になります。相続放棄の手続きは自分で行うことは可能です。もっとも、弁護士などの専門家に依頼した方がよいケースもあります。
この記事では、
などについて解説しています。
親族を亡くし、相続放棄を検討している方にとって参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
「借金を引き継ぎたくない」との思いを抱えて相続放棄を考えている方は、以下の記事も参考にしてください。
参考記事:借金を絶対に背負いたくない!相続放棄のポイントを弁護士が解説
目次
相続放棄とは、プラス・マイナスを問わず、故人の財産をすべて相続しないことです。相続放棄をすれば、最初から相続人でなかったとみなされます(民法939条)。
相続放棄を検討する典型的なケースは、故人が多くの負債を抱えていた場合です。他にも、相続人同士の争いに巻き込まれたくない、遺産分割手続きの負担があまりに大きいといったケースで相続放棄が選択肢になります。
相続放棄をすれば借金を引き継がずにすむ一方で、プラスの財産も相続できません。どうしても取得したい財産があるときには限定承認も選択肢になりますので、慎重に検討してください。
相続放棄をするには家庭裁判所への申述が必要ですが、手続きは自分でもできます。
明らかに負債が多い、相続人同士の関係が良く意見が一致している、時間的余裕があるなど、問題が生じづらいケースでは自分で進めてもよいでしょう。
ただし、他の選択肢に気がつけない、他の相続人に影響が生じる、3ヶ月の期間制限が迫っているといった理由で、自分でするのにリスクがあるケースも存在します。少しでも不安があれば、弁護士に相談すると安心です。
まずは、故人の遺産を調査します。相続放棄すべきかを検討する前提として、プラス・マイナス問わず、すべての財産の内容を把握する必要があるためです。
プラスの財産としては、不動産、預貯金、株式、自動車などがあります。相続人が知っているものだけでなく、固定資産税通知書、通帳、郵便物などから、調査しなければなりません。
マイナスの財産は、通帳の定期的な引き落としなどから判明します。要する時間との兼ね合いですが、信用情報機関への照会手続きをすれば、負債の残高確認が可能です。
財産調査に漏れがあると、相続放棄をしてから後悔するリスクがあります。確実に調べるようにしましょう。
財産の全体像がわかったら、相続方法を検討してください。
方法としては、相続放棄の他に単純承認、限定承認があります。違いは以下の通りです。
負債が大きいときには、相続放棄を選択するべきです。一見メリットが大きい限定承認は、相続人全員の合意が必要で手続きが面倒であるため、現実にはあまり利用されていません。
相続放棄を選択した際には、家庭裁判所への申述が求められます。必要書類を準備しましょう。
必要書類は以下の通りです。
●申述書(書式・記入例:相続の放棄の申述書(成人)|裁判所)
●亡くなった人の住民除票または戸籍附票
●相続放棄する人の戸籍謄本
●亡くなった人が死亡した事実が記載されている戸籍謄本(相続放棄する人が配偶者や子でないときは、その人が相続人であることを示す戸籍謄本が必要)
3ヶ月の申述期間に間に合うように、早めに準備してください。
必要書類が揃ったら、家庭裁判所に提出します。
提出先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。たとえば、東京23区に住む方が亡くなった際の相続放棄は、東京家庭裁判所(本庁)に申し出ます。相続人が住んでいる場所ではないので注意してください。
参考:裁判所の管轄区域|裁判所
相続放棄の申述には費用がかかります。収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。求められる郵便切手は裁判所ごとに異なりますが、東京家庭裁判所の場合には、84円4枚、10円4枚の計376円分です。
提出後は、裁判所から届いた照会書に回答して返送しましょう。
書面では、相続放棄が本人の意思によるかなどがチェックされます。内容に間違いがないかを確認してください。
相続放棄が認められると、裁判所から申述受理通知書が送付されてきます。通知書が届けば手続きが完了したといえるのでご安心ください。
申述受理通知書によって相続放棄をした事実を故人の債権者などに示せるので、大切に保管しておきましょう。別途証明書の発行も可能ですので、必要であれば裁判所に請求してください。
特定の行為をすると単純承認をしたとみなされ、相続放棄をするつもりでもできなくなってしまいます。特に気をつけるべきなのが相続財産を「処分」したケースです(民法921条1号)。
「処分」とは、財産の現状の性質を変える行為をいいます。たとえば以下の行為です。
●不動産を売却する
●建物を取り壊す
●相続財産の預金から債務を弁済する
意識していなくても、遺産に手をつけてしまうと単純承認とみなされるリスクがあります。
最低限必要な補修などの行為は「処分」には該当しません。とはいえ、「処分」行為との区別は難しいです。思いのほか「処分」の範囲は広いため、遺産に手をつける前に、問題ないか弁護士に確認するとよいでしょう。
相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という期間制限があります(民法915条1項本文)。期間を過ぎると単純承認とみなされ、相続放棄はできません(民法921条2号)。
亡くなってからは、葬儀や法要、各種手続きなどで、思いのほか早く時間が過ぎます。大変な時期かと思いますが、相続放棄の可能性があるときには、特に早めに行動するようにしてください。
3ヶ月以内に相続放棄するか判断するのが難しいときには、裁判所に期間の延長を求められます(民法915条1項ただし書)。迷ったときにはひとまず延長しておくとよいでしょう。延長すれば、追加で数ヶ月の猶予ができます。
いずれにしても、3ヶ月以内という期限がある点は必ず頭に入れておいてください。
ひとたび相続放棄をすれば、原則として撤回はできません(民法919条1項)。
後からプラスの財産が見つかっても、放棄した後では相続できないので注意が必要です。単純承認や限定承認への変更もできません。
3ヶ月という期間制限があるものの、本当に相続放棄をしてよいかは慎重に検討しなければなりません。財産調査は早めに、漏れなく進めるようにしましょう。
相続放棄をしても、相続財産の管理義務が生じるケースがあります。義務があるのは「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」です(民法940条1項)。
たとえば、親と同居していた子は、親の死後に相続放棄をしたとしても、住んでいた家を管理しなければなりません。管理を怠れば、ブロック塀が倒れて通行人が負傷するなど第三者に損害を与えてしまい、賠償責任を負うリスクがあります。
義務があるときには、「相続放棄したから関係ない」とはいえないので注意しましょう。
相続放棄後の管理義務について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:相続放棄しても管理義務がある!対処法や法改正について解説
放棄した後でも、他の相続人への配慮を欠かさないようにしましょう。
自分だけが相続放棄した際には、他の相続人が借金の取り立てを受けてしまいます。連絡をとったうえで、全員で相続放棄する選択肢も含めて話し合うのが望ましいです。
加えて、次順位の人に相続権が移るケースもあります。思いがけず相続権を得た親族が困らないように、相続放棄した旨を通知しておくのが望ましいでしょう。
親族間のトラブルを防止するためには、「自分が放棄したから後は知らない」という態度をとらない方が良いです。
そもそも手続き関係に苦手意識をお持ちの方は、専門家に依頼して負担を減らすとよいでしょう。
相続放棄は法的な手続きであり、多少なりとも知識をつけて進める必要があります。身近な方が亡くなり、ただでさえ大変な状況ですし、失敗すると損失が大きいです。ご自身で進めようと無理をせずに、弁護士にご相談ください。
特段手続きが苦手ではなくても、仕事やプライベートで忙しい方は多いでしょう。時間がない方は、専門家に手続きを任せてしまう方が良いです。
特に、3ヶ月の期限が迫っている場合には注意が必要です。日々忙しくしていると手が回らず、気がついたときには期限が過ぎて相続放棄ができなくなってしまうリスクがあります。
また、疎遠な親族が亡くなった場合で、死後3か月以上経ってから被相続人が亡くなったことを知った場合は、弁護士にご相談いただくのが良いです。
これらのケースでは、早めに専門家に相談して、すぐに動いてもらうのがよいでしょう。
相続放棄をすべきか迷っている方もいらっしゃるでしょう。
遺産(特に不動産)が多く複雑なケース、どうしても欲しい財産があり限定承認も考えているケースなどでは、一度弁護士に相談すると方針が定まりやすいです。アドバイスの結果、見落としていたポイントがわかるかもしれません。自分だけで悩まずに、専門家の知見を積極的に活用しましょう。
自分だけで手続きを進めると、思わぬ不備が生じるおそれがあります。また、他の相続人と仲が悪ければ、やりとりするのも気が重いかもしれません。
相続放棄に関するトラブルを避けるには、弁護士への依頼がオススメです。現に大きな問題が発生していないとしても、お気軽にご相談ください。
ここまで、相続放棄の手続きを自分でする方法や注意点、弁護士に依頼すべきケースなどについて解説してきました。
相続放棄は自分でもできます。遺産調査をして相続放棄するかを検討したうえで、必要書類を裁判所に提出しましょう。事前に遺産に手をつけない点と、3ヶ月以内に行う点には特に注意してください。
相続放棄に関して少しでも不安・悩みがある方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は相続問題に力を入れており、相続放棄の手続きも承っております。ご相談いただければ、手続きそのものはもちろん、相続全般についてアドバイスが可能です。
「相続放棄の手続きを自分でできるか不安」「そもそも相続放棄すべきかわからない」といった方は、まずはお気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。