国際相続の手続きはどうする?適用法や基礎知識を弁護士が解説

相続

被相続人(亡くなった人)や相続人(遺産を引き継ぐ人)が国外在住や外国籍である、または海外に相続財産がある場合には、国際相続となります。
たとえば以下のケースです。
●外国人の母が亡くなった
●相続人が海外にいる
●父の遺産が海外にあった
国際相続では、亡くなった方の国籍によって適用される法律が決まります。また、亡くなったのが日本人であっても、海外に財産がある場合には、外国のルールを確認しなければなりません。
国際相続には様々なケースが想定されますが、いずれにせよ手続きが複雑になりやすいです。グローバル化が進む現代においては、国際相続の事例が今後増加する可能性も想定されるでしょう。
この記事では、
●国際相続で適用される法律
●国際相続の手続き
●国際相続における相続税、裁判管轄、遺言
などについて基礎知識を解説しています。
外国が関係する国際相続に直面してお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

国際相続とは?


国際相続とは、被相続人(亡くなった人)や相続人(遺産を引き継ぐ人)の中に海外居住者や外国籍の方がいる、あるいは外国に相続財産が所在しているといった理由で、国境を越えて発生する相続です。
たとえば次の場合が考えられます。
●被相続人が外国籍である
●被相続人は日本人だが、相続人の中に外国人がいる
●被相続人は日本人だが、外国に住んでいる
●遺産の一部が外国にある
国際相続の場合には、そもそもどの国の法律が適用されるか、手続きはどう進めるのかといった問題が生じます。一般的に、国内で完結する相続に比べると手続きが面倒になってしまうケースが多いです。

国際相続ではどの国の法律が適用される?


国際相続で始めに考えるのは「どの国の法律が適用されるか」、すなわち「準拠法」の問題です。国際相続において、準拠法は必ず確認しておかなければなりません。
そこで、まずは準拠法の決め方について解説します。

被相続人の国籍で決まる

法律関係に複数の国が関係する場合を想定して、準拠法について定めている法律が「法の適用に関する通則法」です。
法の適用に関する通則法36条には、以下の定めがあります。

(相続)
第36条
相続は、被相続人の本国法による。

したがって、相続は被相続人(亡くなった人)の本国法にしたがって進められます。
たとえば日本人が亡くなったときには、日本の法律に沿って手続きします。海外に住んでいたり、相続人の一部や全員が外国人であったりしても同じです。

反対に、亡くなったのが外国籍の方であれば、本国である外国の法律が適用されます。日本で亡くなった、あるいは他の相続人の全員が日本人であったとしても、原則として準拠法は外国法です。
ただし、被相続人が外国人であっても、その外国の法律にしたがって判断すると日本法を適用すべき場合には、日本法が適用されます(法の適用に関する通則法41条)。

(反致)
第41条
当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。

たとえば亡くなった外国人の本国で「不動産の相続は、不動産所在地の法律にしたがう」というルールがあったとしましょう。このとき、遺産のうち日本に所在する不動産の相続に関しては、準拠法は日本法となります。
このように一部例外はありますが、基本的には「相続は亡くなった人の本国の法律で決まる」と覚えておきましょう。

海外に遺産がある場合は注意が必要


上述の通り、日本人が亡くなったときには、基本的に日本法が適用されます。
しかし、海外に相続財産があった場合には注意しなければなりません。国によっては、財産の種類によって適用される法律に違いがあるケースがあるためです。
相続財産にどこの国の法律を適用するかについては、以下の2つの考え方があります。
相続統一主義では全財産を同じ法律に沿って手続きする
相続統一主義とは、すべての相続財産について、財産の種類に関係なく統一して特定の国の法律を適用する考え方です。
相続統一主義は、どの国の法律に統一するかによって、被相続人の国籍を基準とする「本国法主義」と、被相続人の最後の住所地を基準とする「住所地法主義」とに分かれます。
●本国法主義の国 :日本、韓国、ドイツ、イタリアなど
●住所地法主義の国 :スイスなど
いずれにしても、相続統一主義を採用する国では、すべての遺産について同じ国の法律で判断されます。たとえば、日本人が日本で亡くなった場合には、韓国に所有していた不動産についても日本法にしたがって遺産分割がなされます。

相続分割主義では財産によって適用法が違う

他方で、相続分割主義をとっている国もあります。
相続分割主義とは、相続財産の種類や所在地によって異なる国の法律を適用するとの考えです。たとえば「不動産は所在地の法律、動産は居住地の法律」などと定められています。
相続分割主義を採用している国は、アメリカ、イギリス、中国などです。
たとえば、日本人が日本で亡くなった場合であっても、アメリカに不動産を持っていると、不動産に関してはアメリカの法律(各州の州法)によって相続されます。
したがって、亡くなったのが日本人であっても、海外に遺産(特に不動産)がある場合には、現地の法律も十分に調査して手続きを進めなければなりません。

国際相続の手続き


適用法がわかったら、実際の相続手続きに進みます。ケースによって大きく異なる点はありますが、日本人が亡くなったケースを念頭に置いて解説いたします。

被相続人が海外に住んでいた場合

海外に住んでいた場合であっても、亡くなった方の国籍が日本であれば、基本的に日本法に沿って相続が進みます。
死亡した日から3ヶ月以内に滞在国の在外公館(大使館、総領事館)か本籍地の役所に、死亡届や現地の死亡診断書と和訳文など、必要書類を提出しなければなりません。詳しい手続きは、在外公館か本籍地の役所に確認するようにしてください。
その後の相続手続きは、日本法にしたがって進みます。

相続人が海外に住んでいる場合

財産を引き継ぐ相続人が海外にいる場合でも、亡くなった方が日本人であれば、日本法にしたがって相続手続きを行います。
遺産の分け方を決める遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。相続人の一部が海外に住んでいたとしても、無視して進めると無効になってしまいます。
通常、遺産分割協議書の作成には実印と印鑑証明証が利用されますが、海外に居住していると用意できません。実印・印鑑証明書の代わりに、署名が本人のものであることを証明してもらう必要があります。
実際には、遺産分割協議書を持って在外公館に行き、職員の前で署名して在外公館に証明してもらうのが一般的です。加えて、住民票に代わる在留証明書も請求します。

財産が海外にあった場合

亡くなったのが日本人であっても、財産が海外にあったケースでは手続きが面倒になってしまうので注意してください。
まず、遺産の金銭評価が容易ではありません。特に不動産は、日本の「路線価」に該当する指標が海外になく、日本の方法で評価額を計算するのが困難です。実際には、市場価格や現地の不動産業者の査定などから評価額を算出します。
さらに注意が必要なのが「プロベート」の手続きを要するケースです。
日本では、被相続人の財産は包括的に相続人に引き継がれます。
しかし、アメリカ・イギリス・シンガポールなどの英米法系の国々では、被相続人の財産は直接相続人に引き継がれません。というのも、まず裁判所の監督下で相続財産の管理清算手続きがなされ、残りが相続人に引き継がれる仕組みになっているためです。裁判所の監督下で管理清算する手続きをプロベートと呼びます。
プロベートが必要な国に遺産があると、日本で遺産分割協議をしてもただちに効力を持ちません。プロベートには年単位の時間がかかる可能性があり、最終的に手続きが終わるまでかなりの期間を要してしまいます。

国際相続についてよくある質問


国際相続について疑問を持ちやすい点をまとめました。

海外にある財産も相続税の対象になるの?

日本人が海外に所有している財産も、多くの場合で相続税の対象になります。
例外的に対象にならないのは、被相続人と相続人がともに10年を超えて日本国内に住所を持っていないなど、限られたケースです。
なお、海外の財産について外国で相続税を納税していた場合には、外国税額控除が適用されます。

争いになったときの裁判管轄は?

国際相続において争いが生じた場合、死亡時の被相続人の住所・居所が日本国内にある場合には、日本の裁判所で調停等を行えます。また、当事者の合意があった場合にも日本の裁判所への申立てが可能です(家事事件手続法3条の11第1項、4項)。
ただし、日本の裁判所で決まった内容を海外で執行できるかは別問題であり、注意が必要です。

日本では無効な遺言が有効になることもある?

遺言の方法には、国ごとに違いがあります。録音など日本で認められていない方式であっても、海外では有効なケースも想定されます。
海外でした遺言の方式に関するルールは以下の通りです。

遺言の方式の準拠法に関する法律
2条
遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

日本とのルールの違いだけで無効とされると、遺言をした人の意思を無視する結果になってしまいます。遺言者の意思を適切に反映させるため、外国の法律で認められている方式であれば、有効となります。
ただし、名義変更などの手続きがスムーズに受け付けてもらえるとは限りません。遺言の執行まで視野に入れると、財産がある国ごとに有効な方式で遺言書を作成しておくのが望ましいでしょう。

国際相続は弁護士にご相談を


ここまで、国際相続について、適用される法律、手続きなどの基礎知識を解説してきました。
原則として、亡くなった方の国籍によって適用される法律が決まります。ただし、被相続人が日本人であっても海外に財産があるときには外国で手続きが必要な可能性があり、注意が必要です。
国際相続はルールが複雑であり、特に争いがなくても進めるのが難しいといえます。お困りの際には、ぜひ弁護士までご相談ください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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