胎児は相続人になれる?胎児が遺産相続する際のポイント

相続

胎児が母親のお腹の中にいるときに父親が亡くなってしまった場合でも、胎児は相続人になります。
ただし、実際に相続権を持つのは、無事に生まれた時です。権利が未確定の状態で遺産相続に関して様々なことを決定すると、トラブルの原因になりかねません。出生までは遺産分割手続きは避けた方がよいでしょう。
もっとも、相続税の申告手続きは進めておかなければなりません。
他にも、胎児が相続人になるケースでは、遺産相続において通常と異なる点があります。
この記事では、
●胎児は相続人になれるのか?
●胎児が相続人になる遺産相続のポイント
●胎児が相続人になったときの相続税申告
などについて解説しています。
妊娠中に旦那様を亡くされた方や、その親族の方に知っておいていただきたい内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

胎児は相続人になれる?


まずは、胎児は相続人になれるのか、死産だった場合はどうなるのかなど、胎児と相続に関する基礎知識を解説します。

法定相続人の範囲に影響がある

胎児が相続人になるかは、相続の行方に大きな影響を与えます。というのも、胎児が相続人になるか否かで、相続人の範囲が大きく変わるためです。

前提として、相続人は以下のルールで決まります。

●配偶者(夫や妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫)
2.直系尊属(両親。死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

亡くなった男性に妻子がいれば、相続人は妻と子です。
男性に子がいないと、ルールにしたがって、妻の他に
●両親
●両親が死亡していれば祖父母
●祖父母も死亡していれば兄弟姉妹
●兄弟姉妹も死亡していれば甥・姪
の順で相続人になります。

ルール上、相続人の範囲の決定にあたって、胎児が相続権を持つか否かは重要な分かれ目です。
具体的には、胎児の相続権の有無によって、相続人の範囲は次のように変わります。

 

胎児以外に子がいない胎児以外に子がいる
胎児に相続権あり妻、子(胎児)妻、子(胎児、他の子)
胎児に相続権なし妻、両親※妻、子(胎児以外の子)

※両親が死亡していれば、祖父母、兄弟姉妹、甥・姪の順で相続人になる

特に夫に他の子がいないケースでは、胎児に相続権がなければ、妻の他に夫の両親が相続人になる点に注目してください。胎児に相続権があれば、両親は相続できないのとは対照的です。
胎児の相続権の有無が、相続において大きな影響を及ぼすとおわかりいただけるでしょう。

胎児も相続権がある


法律上は、胎児にも相続権が認められています。根拠は民法886条1項です。

民法886条1項
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

「私権の享受は、出生に始まる」(民法3条1項)というルールから、生まれる前の胎児は基本的に法律上の権利を有することはできません。また、相続においては「相続人は故人が死亡した時に生存している必要がある」という同時存在の原則が存在しています。
しかし、少し生まれるタイミングが遅かっただけで相続人になれないのでは、胎児にとって酷です。他の相続人との間の不公平感も強いといえます。
そこで、例外的に相続の場面においては、民法886条1項により胎児は既に生まれたものとみなされ、相続権が認められています。

生まれてこなければ相続権はない

胎児に相続権があるとはいっても、無事に生まれてこなければ相続はできません。
民法886条2項で以下のルールが定められています。

民法886条2項
前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

「前項」すなわち886条1項で認められている胎児の相続権は、死体で生まれた場合には適用されないとの定めです。
したがって、父が亡くなった後に胎児も流産・死産によって亡くなってしまった場合には、胎児は相続権を有しません。このとき、父の遺産は他の相続人で分けられます。いったん父の遺産を胎児が引き継ぎ、改めて胎児の遺産として相続がなされることもありません。
ただし、胎児の身体が母体から全部出た状態で少しでも生きていれば、その後に死亡しても出生したものと扱われ、相続権が認められます。

いつから相続権が生じる?


専門的な話になりますが、民法886条1項の「既に生まれたものとみなす」という文言の解釈を巡っては、学説上「停止条件説」と「解除条件説」の2説の争いがあります。
停止条件説とは「胎児の段階では権利を持たないが、生きて生まれてきたことにより、さかのぼって権利を取得する」との考えです。
対して解除条件説とは「胎児の段階で権利を取得する。ただし死体で生まれた場合には、さかのぼって権利を失う」との考えです。

読んだだけでは「結局何が違うのかわからない」という方がほとんどでしょう。
両説の違いは「生まれる前の段階で、法定代理人が胎児の代わりに権利を行使できるか」という点に現れます。
停止条件説によると、生まれてくる前には権利を持たないため、親が代理人として、胎児の代わりに相続の権利を行使することはできません。反対に解除条件説では、生まれてくる前から権利を有しているため、親(あるいは特別代理人)が胎児の代わりに相続権を行使できるとされます。

判例においては、停止条件説がとられました(大審院昭和7年10月6日判決)。判例によれば、胎児の段階では権利を持たないため、法定代理人が胎児の権利を代わりに行使することもできないとの結論になります。
したがって、生まれてくる前に代理人として胎児の相続権を主張して、出生を前提とした遺産分割協議をするのは避けるのが無難です。

胎児が相続人になる遺産相続のポイント


胎児は相続権を有しますが、実際に遺産相続をする際には注意すべきポイントがいくつかあります。

遺産分割は出生後に行う

遺産の分配を決めるには、相続人全員による遺産分割協議が必要です。
この遺産分割協議は、出生後に行うようにしてください。胎児が生きて生まれるか確定しない段階で遺産分割協議をしてしまうと、後に面倒な事態になってしまいます。

上述した停止条件説によれば、そもそも胎児は生まれてくるまでは権利を持ちません。たしかに、胎児が存在しない前提で、他の相続人だけで遺産分割協議をすること自体は可能です。しかし、胎児が出生すれば相続権を持つため、先にした遺産分割協議がやり直しになってしまいます。
かりに解除条件説をとれば、生まれる前の段階で胎児が相続権を持つため、理論上は代理人により遺産分割協議をすることが可能とも思えます。しかし、死産になり胎児の相続権が失われた場合には、協議が無意味になってしまいます。

いずれにせよ、胎児の権利が確定しない段階で遺産分割協議をするのは不適切です。必ず出生(あるいは死産)により相続人が確定してから、遺産分割協議を開始してください。

特別代理人の選任が必要


出生により相続権が確定したら、遺産分割協議が可能になります。とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃん本人は協議に参加できないため、代理人が必要です。
未成年の子の法定代理人になるのは、通常であれば親権者である親です。しかし、相続の場面では「利益相反」の問題が生じます。

たとえば、夫が妊娠中の妻を残して亡くなった場合、妻と生まれてきた子が相続人になります。
ここで妻が母として子を代理すると、最悪の場合、自己の利益だけを考えてすべての遺産を自分のものとし、子の取り分をゼロにするといった判断をするかもしれません。「母本人」が「母が代理する子」の利益をないがしろにする可能性が、理屈上はあるのです。これを利益相反と呼びます。

親権者と子がともに相続人となり利益相反の関係にある場合には、家庭裁判所に請求して子の「特別代理人」を選任しなければなりません(民法826条)。特別代理人をつけずにした遺産分割協議は無効になります。
特別代理人になるのは、相続人でない親族や、弁護士などの専門家です。特別代理人が選任されれば、遺産分割協議を進められます。

法定相続分は確保する

遺産分割協議では、話し合いによって自由に遺産の配分を決められます。
ただし、生まれたばかりの子については、不当に利益が損なわれないように、法定相続分は確保するのが一般的です。子の相続財産を法定相続分より少なくしたい場合には、納得できる理由を示してください。
配偶者が相続人となる場合、子の法定相続分は1/2です。子が複数いれば1/2を人数で割った割合が法定相続分になります。

胎児が相続人になったときの相続税申告


胎児がお腹の中にいる間は、遺産分割協議をするべきではありません。
他方で、相続税の申告については「相続開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10ヶ月以内」という期限があります。相続税の申告が必要なケースでは、早めに手続きを進めなければなりません。
以下で、胎児がいるときの相続税申告について解説します。

出生前は相続人にカウントしない

前提として注意して欲しいのが、相続税の申告に際しては、お腹の中にいる段階の胎児はいないものとして計算する点です。
したがって、申告期限までに出生する見込みかどうかで、対応が大きく分かれます。

申告期限までに出生する場合

申告期限までに胎児が出生したときは、生まれてきた子を相続人にカウントします。

したがって、胎児の出生時点でまだ申告をしていなかった場合には、生まれてきた胎児が相続人であるとして相続税を計算します。そのうえで「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告してください。
出生より先に申告手続きをすませていて、胎児の出生により相続税が減る場合には、更正請求が必要です。更正請求により、払いすぎた相続税の還付を受けられます。胎児以外の相続人は「胎児の出生を知った日の翌日から4ヶ月以内」に更正請求を行ってください。
更正の手間を考えると、すぐに出生する見込みであれば、出生を待って手続きをした方がよいでしょう。

いずれの場合であっても、出生により相続人になった胎児自身については、法定代理人が相続税の申告をしなければなりません。胎児についての相続税申告期限は「法定代理人が出生を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。

申告期限までに出生しない場合

申告期限までに出生しない場合でも、胎児はいないものとして計算して、いったん申告をすませなければなりません。期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。
いったん申告したうえで、期限後に胎児が出生し、胎児以外の相続人の相続税が減る場合には更正請求を行います。「胎児の出生を知った日の翌日から4ヶ月以内」に手続きを行ってください。
出生により相続人になった胎児自身については「法定代理人が出生を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告を行います。

出生により相続税が不要になるときは延長可能

胎児が相続人に加われば基礎控除が増加し、相続税の申告・納税が不要になるケースがあります。
該当するケースでは、申告期限までに胎児が出生しない場合であっても、申請期限の延長が可能です。胎児以外の相続人が延長を申請してください。
延長できる範囲は2ヶ月なので、当初の10ヶ月とあわせて、相続開始を知った日の翌日から12ヶ月まで期限を延長できます。

胎児の相続についてよくある質問


胎児の相続に関して、これまでに紹介しきれなかったよくある疑問を解説します。

離婚していたら?

胎児がお腹の中にいる状態で、父にあたる男性と離婚した場合でも、出生後の胎児に相続権は発生します。離婚しても、胎児は元夫の子であることに変わりはないためです。
なお、元妻については、離婚した以上は配偶者といえず、相続人にはなりません。元妻は生まれてきた子とともに元夫の相続人になる関係にないため、利益相反にはならない点がポイントです。別途特別代理人を選任しなくても、母が子の法定代理人として遺産分割手続きに参加できます。

代襲相続はできる?

代襲相続とは、死亡した親の相続権を引き継いで相続をすることをいいます。胎児であっても代襲相続は可能です。
代襲相続が生じる例としては、父が亡くなった後で、胎児が生まれる前に父の両親(胎児から見て祖父母)が亡くなったケースが考えられます。このとき、胎児は亡くなった父の権利を引き継いで、祖父母の遺産を相続できます。

相続放棄はどうする?

相続放棄とは、プラス・マイナスを問わず、故人の遺産を一切相続しないことです。胎児であっても、出生後に相続放棄ができます。
相続放棄に必要な手続きをする人は、母も相続放棄をするかにより異なります。
母も相続放棄する場合には、母が法定代理人として、胎児の相続放棄手続きが可能です。
子だけ相続放棄をする際には、利益相反に該当すると考えられるため、特別代理人を選任しなければなりません。
胎児の相続放棄の期限は、出生から3ヶ月以内になります。

胎児名義で相続登記はできる?

生まれる前に胎児名義で相続登記をすることは、制度上は可能です。名義は「亡○○妻△△胎児」となります。
ただし、出生した後に、氏名や住所の変更手続きをしなければなりません。死産となった場合には、更正登記が必要です。
いずれにせよ、追加で手続きを要します。特別な事情がない限り、出生後に登記手続きをした方がよいでしょう。

胎児が相続人になる遺産相続は弁護士にご相談を


ここまで、胎児がいるときの遺産相続について、相続権の有無や手続きの注意点などを解説してきました。
胎児であっても相続権を有しますが、遺産分割は出生まで待つのが適切です。ただし、相続税申告については、出生前に対応が必要になる可能性があります。

胎児が相続人になる遺産相続についてお困りの方は、弁護士までご相談ください。妊娠中に大切な方を亡くされた上に、出産後も特別代理人が必要になるなど、相続手続きを進めるのは大変かと思います。手続き面をお任せいただき、少しでも心身のご負担軽減のためにお力になれますと幸いです。
「妊娠中に夫を亡くした」「生まれてきた赤ちゃんの相続手続きをどうすればよいかわからない」などとお困りの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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