はじめに
2020年の離婚件数は約19.3万件と減少傾向にありますが、まだまだ多くの夫婦が離婚しており、離婚は身近な出来事に感じられると思います。では、離婚した夫婦に子がいた場合、その子は離婚した父親の財産を相続できるでしょうか?
今日はこの相続に関する身近な問題を解説したいと思います。
まず、相続人を確認しましょう。民法887条1項は、
「被相続人の子は、相続人となる」
と規定しているので、被相続人(今回のケースでは、離婚した父)の「子」は、相続人になります。
では、「子」とは誰のことでしょうか?
ここでの「子」とは、法律上の親子関係がある者をいいます。母親と子は、分娩の事実(=母親のお腹から誕生したこと)があれば、法律上の母子関係が認められる(その赤ちゃんは母親の相続ができる「子」になる)のですが(最判昭和37・4・27)、父子関係はそうではありません。法律上の父子関係が認められるには、①婚姻関係にある女性から子が生まれるか(この場合、原則として出産した女性の夫が法律上の父になります)、②婚姻関係にない女性が出産した場合は、父親が認知をしないと法的な父子関係が認められません。離婚した父親の子は、この①に当たるので、原則として被相続人の「子」にあたり、相続人になることができます。
なお、養子縁組をした場合、養親と養子には法的親子関係が生じますので、養子は相続人になります。
では、離婚した父の子はどのくらい相続できるのでしょうか?
これは、子のほかに相続人がいるかで変わってきます。
民法890条は、
「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」
と定めています。なので、もし離婚した父が亡くなった時に配偶者(妻)がいれば、その配偶者は相続人になりますので、子は配偶者とともに相続人になります。父親が離婚した後、再婚し、再婚した妻と亡くなるまで離婚しなかった場合などがこのケースになります。
配偶者と子がともに相続人になる場合について、民法900条1号は、
「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一と する」と定めていますので、配偶者が相続財産の半分、子がもう半分を相続することなります。
離婚した父が亡くなったときに配偶者がいない場合、子が父の遺産の全部を相続することになります。たとえば、父が再婚しなかったケースや、再婚したが先に妻が亡くなってしまったケース、再婚したけどまた離婚したケースなどがこれに当たります。
では、父に子が複数いた場合はどうなるでしょうか?民法900条4号は、
「子……が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする」
と定めています。なので、子が複数いる場合、子同士は均等に相続することになります。
ここでは、子が 三人いるケースを考えてみましょう。
(ⅰ)父に配偶者がいる場合
父が亡くなった時に父に配偶者がいる場合、配偶者と子は2分の1づつ相続することになります。そして、子が相続する2分の1をさらに3人の子で均等に分けることになるから、子ひとりあたりは、遺産の6分の1を相続することになります。
(ⅱ)父に配偶者がいない場合
父に配偶者がいない場合、子が父の財産全てを相続するので、遺産の全部を3人の子で分けることになります。なので、子ひとりあたりは、遺産の3分の1を相続することになります。
離婚した父が亡くなると、直ちに、かつ、当然に父の財産を相続することになります。つまり、父が亡くなると、子は、なにもしなくても、とりあえずは相続をしている状態になります。父が亡くなったことを子が知らなくても同じです。
民法896条本文は、
「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めていますので、父親が持っていた権利だけでなく、負っていた義務も受け継ぐこ とになります。なので、父親が土地や家や預貯金などを持っていればそれらの財産を承継できますが、逆に父親に借金があると、その借金を支払う義務を承継してしまい、父親に代わって借金を返さなきゃならなくなってしまいますので注意が必要です。
もっとも、絶対に相続しなければいけないとすると、借金がある場合などには不都合を強いることになってしまいます。そこで、相続人は、①単純承認、②相続放棄、③限定承認という3つのうちのいずれかを選択するようになっています。ここでは、①単純承認と ②相続放棄を取り上げたいと思います。
民法920条は、
「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する」
と定めていますので、単純承認をすると、+の財産(たとえば、離婚した父親が持っていた土地や家、預貯金など)も-の財産(父親の借金など)も含め、全てを承継することになります。単純承認は、単純承認する旨の意思表示をしてもできますが、遺産を売ってしまったり(921条1号)、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月」(この期間を「熟慮期間」といいます)の間に相続放棄や限定承認をしなかった場合も単純承認したものとみなされ、+の財産も-の財産も承継してしまうので注意が必要です。
民法939条は、
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人にならなかったものとみなす」
と定めています。相続放棄をすると-の財産を承継しなくてもよくなりますが(たとえば、父親に借金があった場合でも返済しなくてもよいことになります)、父親に+の財産 があった場合、+の財産を承継することもできなくなってしまいます。なので、基本的には-の財産が多いときに相続放棄を検討することが多くなると思います。
相続放棄をするときは家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があります(民法938条)。
離婚した父親と疎遠になっているなどで父親が亡くなったことを知らなかった場合、どうなるでしょうか?
すでに述べたように、離婚した父親の子は、父親の死を知らなくてもとりあえずは相続することになります。そして、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選ばなければいけません。しかし、これは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」(熟慮期間。民法915条1項)にすると定められています。離婚した父親の子が、父が亡くなったことを知らなかったときは、「自己のために相続の開始があったことを知った」とはいえないので、熟慮期間は進行しません。なので、父親の死を知ってから3カ月の間に、単純承認をするか、相続放棄をするか、限定承認をするかを決めればよいことになります。
相続人が1人の場合(離婚した父が亡くなったときに配偶者がおらず、子もほかにいない場合)、唯一の相続人である子が遺産の全てを相続することになります。
しかし、他に相続人がいるときは、相続人たちで遺産を分けることになります。このことを遺産分割といいます。たとえば、離婚した父に子が2人いる場合は、相続人になる2人の子で遺産を分けることになります。
遺産は、まずは協議(話合い)で分けることになります(遺産分割協議。民法907条1項)。しかし、協議ができないときや、協議で決着がつかないときには、家庭裁判所に決めてもらうことになります(分割審判。民法907条2項)。
たとえば、父に土地(1000万円)、家(1500万円)、預貯金2500万円の財産があり、父の子であるA郎とB子がいた場合、A郎とB子が協議して、A郎が土地と家を取得し、B子が預貯金を取得すると決めれば、A郎とB子は取得すると決めた財産をそれぞれ取得することになります。もし、A郎とB子の話し合いで決着がつかなければ、家庭裁判所に決めてもらうことになります。
では、離婚した父と子が疎遠になっていて子が父の死を知らなかった場合など、離婚した父の子が遺産分割に参加していなかったらどうなるでしょうか?
相続人であるにもかかわらず、遺産分割に参加しなかったものがいる場合、その遺産分割は無効になり、遺産分割をやり直さなければならなくなる可能性があります。もし離婚した父親の子が遺産分割協議に参加しないまま遺産分割がされてしまうと、その遺産分割は無効になり、遺産分割をやり直すことになりかねません。なので、確実に有効な遺産分割をするためには、離婚した父と前妻との間に子がいないかなどきちんと調査することが大切になります。もし、離婚した父の子が遺産分割に参加していなかった場合は、遺産分割の無効を主張して遺産分割のやり直しを求めることになります。
被相続人は、原則として、遺言によって自分の財産を自由に処分することができます(遺言自由の原則)。たとえば、離婚した父に子が3名(A子、B郎、C子)いた場合、遺言がなければ、A子、B郎、C子それぞれ3分の1ずつ相続することになりますが(法定相続分といいます)、遺言を残すことによって、A子に遺産の2分の1を、B郎、C子にそれぞれ4分の1ずつを相続させることともできるし、A子に相続財産の全部を相続させて、B郎やC子に全く相続させないということもできます。また、自分の子に相続させないで、友達のD郎に財産の全てをあげてしまうこと(遺言で財産をあげることを遺贈といいます)もできます。
ただし、このような場合、離婚した父の子であるA子、B郎、C子は、遺留分というものを持っているので(民法1042条1項)、遺留分よりも少ない財産しか受け取れなかった子は、多く相続した子や遺贈を受けた者などに対し、遺留分に足りない額の金銭の返還を求めることができます(民法1046条1項)。遺留分についてはまた別のコラムで詳しく解説します。
離婚した父の子が相続人になるとき、弁護士はなにができるでしょうか?
弁護士は離婚した父に子がいないかを調査します。離婚した父親に子がいたことがあとで分かると遺産分割が無効になるなどの不都合が生じてしまうので、子の有無など誰が相続人に なるかを確実に把握することが大切になります。
また、子と離婚した父親が疎遠になっている場合などでは、どんな遺産があるか分からないこともよくあるケースです。どんな財産を持っているかや借金の有無などが分からないと、相続放棄をすべきかどうかの判断ができません。このような場合、弁護士は、被相続人にどんな財産があるかを調査し、間違いのない選択ができるようにサポートします。
また、離婚した子が相続人になるときに、再婚した家族(再婚した配偶者や再婚相手との間の子)と共同で相続人になることが考えられますが、相続人同士に親密な関係にないために遺産分割の話し合いが難しくなってしまうことがあります。このような場合には、弁護士が代理人を務めることによって、的確な遺産分割の話し合いが期待できます。もし話し合いで決着がつかない場合には、遺産分割審判の申立てをすることなどによって確実に遺産分割を進めるサポートをすることもできます。
このように、弁護士は、様々な形で離婚した父に子がいる場合の相続をサポートすることができます。
いかがでしたでしょうか?
離婚した父の子が相続人になるというケースは珍しいことではありません。そして、離婚した父に子がいた場合の相続には様々な問題が出てきてしまいます。もしなにか問題に直面してしまったら、お気軽にダーウィン法律事務所ご相談くださいませ。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。