相続で預貯金口座が凍結される?解除方法や対策を弁護士が解説

相続

相続の発生で預貯金口座が凍結されてしまい、必要なお金を引き出せずに困ってしまう方は少なくありません。口座凍結を解除するには、基本的に遺産分割協議が必要で時間を要します。
亡くなった直後に必要になる金銭は、預貯金仮払い制度の利用や、生前の対策により用意しましょう。
この記事では、
●相続により預貯金口座が凍結されるタイミング・理由・影響
●相続による口座凍結の解除方法
●口座凍結への対策
などについて解説しています。
相続に際して預貯金口座が既に凍結されている、あるいは凍結されると困る方はぜひ最後までお読みください。

相続が発生すると預貯金口座は凍結される!


人が亡くなると相続が開始され、故人名義の金融機関の預貯金口座は凍結されて入出金ができなくなります。
まずは、いつから凍結されるか、なぜ凍結するかといった、口座凍結に関する基礎知識を解説します。

相続人の申し出により凍結される

口座が凍結されるタイミングは、基本的に亡くなった方の法定相続人が申し出たときです。相続人の申し出により、金融機関は死亡と相続開始の事実を知ります。例外的に、申告する前に新聞などのメディアで死亡の事実が金融機関に判明し、相続人に確認がなされるケースもあるようです。

勘違いされている方もいますが、死亡により自動的に口座が凍結されるのではありません。役所に死亡届を提出しても金融機関には伝わりませんし、ある銀行に申し出ても他の銀行に連絡は入りません。
死亡による口座凍結は勝手にはなされず、相続人の申し出た時点でなされるのが通常の流れです。

金融機関が口座を凍結する理由

金融機関が口座を凍結するのは、相続財産が移動するのを防ぐためです。
相続財産になるのは、故人が亡くなった時点で存在する財産です。死亡したのに口座をそのままにしておくと、相続人が勝手に引き出すなどして相続財産の行方がわからなくなる可能性があります。
結果として遺産分割や相続税納税などに支障をきたし、最悪の場合、相続人間でトラブルが発生する可能性も否定できません。
金融機関としては、相続人同士のトラブルには巻き込まれたくないのが本音です。「なんで勝手に引き出させたんだ」などと相続人から言われないために、死亡の事実を認識したら口座を凍結します。

相続時の口座凍結による影響


預貯金口座が凍結されると、入出金が一切できません。以下の影響が想定されます。

必要なお金を引き出せない

まず、必要な金銭を引き出せなくなってしまいます。
死亡後には、葬儀費用、入院費用など、すぐにまとまったお金が必要になるケースが多いです。相続人が別に用意していない場合には遺産の預貯金に頼りたくなりますが、凍結されていると使えません。
また、亡くなった方が生計を支えていた場合、生活費も引き出せなくなります。不可欠な金銭が足りなくなってしまうと、相続人とっては大変な不都合です。

自動引き落としができない

ATMや窓口での出金だけでなく、口座の自動引き落としもできなくなります。
水道光熱費、電話代、住宅ローンなどで自動引き落としが設定されているケースがあります。引き落としができないと、最悪の場合サービスが停止されてしまう可能性も否めません。亡くなったらすぐに、引き落とし口座を変更する手続きが必要です。
口座から直接引き落とされる場合だけでなく、クレジットカードでの定期的な支払いにも注意してください。

収入も振り込まれない

口座が凍結されると、入金もできなくなります。定期的な収入があった場合には対応が必要です。
たとえば、故人が所有不動産を貸し出していたときには、そのままでは家賃を受け取れなくなります。借主に連絡して、代わりの方法を伝えましょう。

口座凍結せずに引き出すリスク


故人の口座が凍結されると不都合が生じるため「銀行に黙って引き出してしまおう」と考える方もおられるでしょう。
たしかに、金融機関が死亡の事実を知らない段階では、キャッシュカードが手元にあって暗証番号がわかっていれば引き出しは可能です。
しかし、口座凍結をせずに預貯金を引き出す行為には以下のリスクがあります。

相続人間でトラブルになる

まず考えられるのが、勝手に引き出しをして他の相続人との間でトラブルになる可能性です。
預貯金の無断使用をめぐるトラブルは非常に多いです。預貯金の引き出しについて「勝手に使い込んでいたのではないか」と追及され、遺産分割がスムーズに進まなくなるリスクがあります。争いが深刻化すると、裁判所での調停になるなどして時間と手間をとられてしまいます。
たとえ故人の葬儀費用や医療費、死後の生活費といった理由で引き出したとしても、疑いの目を向けられるかもしれません。
隠していたとしても、引き出しの事実はいずれ他の相続人に明らかになります。勝手に引き出さないようにしてください。

相続放棄できなくなる

故人名義の預貯金の引き出しにより、相続放棄ができなくなる可能性もあります。
相続放棄とは、プラスマイナスを問わず、故人の遺産を一切相続しないことです。故人が多額の借金を抱えていたケースなどで、相続放棄を検討します。

しかし、故人名義の預貯金を凍結せずに引き出すと、用途によっては相続財産の「処分」として「単純承認」とみなされるケースがあります(民法921条1号)。単純承認とみなされると、相続放棄はできません。負債が大きくても相続を強いられてしまいます。
他の相続人の同意を得ていたとしても、単純承認の事実は覆りません。相続放棄の選択肢があるときには、口座凍結をせずに引き出しをする行為のリスクは高いといえます。

相続による口座凍結の解除方法


口座凍結されてお困りの方は、一刻も早く凍結を解除したいでしょう。ここでは凍結の解除方法を解説します。
凍結解除のためには、遺言書あるいは遺産分割協議によって、相続財産の分け方が決まっていなければなりません。
遺言書があるかないかによって解除までの流れが変わります。

遺言書があるとき

遺言書があって預貯金の分け方が記載されていれば、遺産分割協議は必要ありません。遺言書を利用して口座凍結を解除できます。

検認手続きをする

遺言書が見つかったときには、裁判所で検認の手続きをしなければなりません。検認とは、遺言書の中身を確認してもらう手続きです。裁判所に申立てを行ってください。
公正証書遺言や法務局で保管されていた自筆証書遺言の場合には、検認は不要です。

検認について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説

必要書類

検認が済んだら、以下の書類を準備して金融機関に提出してください。
●遺言書
●検認調書または検認済証明書(検認が必要な遺言書の場合。裁判所で受け取る)
●戸籍謄本(故人の死亡の事実と法定相続人を確認できるもの)
●預貯金を相続する人または遺言執行者の印鑑証明書
●通帳、キャッシュカード
以上は一般的な必要書類であり、金融機関によって異なるケースがあります。実際に手続きをする前に、金融機関に直接確認してください。

遺産分割協議が必要なとき


遺言書がないときは、遺産の分け方を決めるために法定相続人全員による遺産分割協議を行わなければなりません。全員が参加していないと協議内容は無効です。

遺産分割協議書を作成する

遺産分割の話し合いがまとまったら、内容を遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名・押印が必要です。
遺産分割協議が難航すれば、裁判所での調停などに進み、凍結解除まで長い時間がかかってしまいます。

必要書類

遺産分割協議を行ったケースでは、凍結解除には以下の書類が必要です。
●遺産分割協議書
●戸籍謄本(故人の出生からの死亡までのもの、法定相続人を確認できるもの)
●相続人全員の印鑑証明書
●通帳、キャッシュカード
遺産分割協議書がなくても凍結を解除できるケースもあります。詳しくは金融機関にお問い合わせください。

遺産分割前の預貯金仮払い制度


遺言書がない場合、遺産分割協議が整わないと口座凍結は解除できず、預貯金の引き出しはできません。
とはいえ、どうしてもすぐに金銭が必要なケースはあるでしょう。そこで用意されているのが、仮に預貯金の払い戻しを求める制度です。
この制度を利用すれば、遺産分割前であっても、一部の預貯金を引き出せます。金融機関に直接請求する方法と、家庭裁判所を利用する手続きがあります。

金融機関に直接請求できる

預貯金仮払い制度では、相続人のひとりが必要書類を準備して請求するだけで、金融機関から直接預貯金の引き出しが可能です(民法909条の2)。
ただし、上限額が定められており、1つの金融機関につき、以下のうち低い方になります。
●預貯金額×1/3×請求する相続人の法定相続分
●150万円
どれだけ預貯金があっても、1つの金融機関から引き出せるのは最高で150万円までです。複数の金融機関に預金がある場合には、引き出せる合計金額は大きくなります。

預貯金仮払い制度は、比較的簡単な手続きで預貯金を引き出せるため、葬儀費用など当面必要な資金を得るには有効な方法です。
とはいえ、他の相続人に黙って勝手に払い戻しをすると、トラブルになるおそれも否定できません。また、相続の単純承認と判断される可能性もあり、注意が必要です。

家庭裁判所に仮分割を申立てる方法も

より大きな額を引き出したい場合には、家庭裁判所に預貯金の仮分割を求める方法もあります(家事事件手続法200条3項)。
家庭裁判所が認めれば、金融機関に直接仮払い請求をする際の上限額を超える引き出しも可能です。
もっとも、裁判所を利用する手続きであるため、時間や手間がかかります。専門家の力を借りずに行うのはハードルが高いでしょう。

預貯金の仮払い制度について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
遺産相続における預貯金仮払い制度とは?上限額や払戻し方法を解説

相続前にできる口座凍結への対策


これまで解説してきたように、相続が発生してから口座凍結に対処すると、程度の差こそあれ面倒な事態になってしまいます。
可能であれば、口座凍結されることを見すえて生前に対策しておくのがベストです。
具体的には、以下の対策が考えられます。

銀行口座を整理する

まずは、保有している口座を把握し、不要なものは解約するなど整理しておくとよいでしょう。
口座が少なくなれば、相続人が手続きをする手間が省けます。また、口座の一覧表を残しておけば、相続財産に漏れが生じるのを防げます。よりスムーズに進めるために、通帳や印鑑の場所も相続人に伝えておくとよいです。

必要な金銭を準備しておく

死後すぐに必要になる金銭を事前に準備しておけば安心です。
たとえば、事前に口座から引き出して現金として置いておく、生命保険に加入しておく等の方法があります。生命保険金は受取人が自由に使える財産になるとともに、相続税対策になる点もメリットです。
手元に自由に利用できる資金が十分あれば、葬儀費用、入院費、生活費など当面必要な出費をまかなえるでしょう。

民事信託(家族信託)を設定しておく

信頼できるご家族の方に、生活必要資金以外の余剰資金の管理を託しておくことで、相続開始後の口座凍結の問題への対処はもちろん、生きている間に認知症になってしまうことで口座が凍結されてしまう場合のリスクにも備えることができます。民事信託(家族信託)の設定は口座凍結に備える有効な対策です。

遺言書を作成する

遺言書の作成も有力な対策です。遺言書があれば遺産分割協議が必要ないため、預貯金の口座凍結までの時間を短縮できます。
それだけでなく、遺産の漏れや相続人間のトラブルを防止できるメリットがあります。公正証書遺言にするなど、法律上有効な遺言書になるようにしましょう。

預貯金口座の凍結でお困りの方は弁護士にご相談を


ここまで、相続による口座凍結について、相続により預貯金口座が凍結されるタイミング・理由・影響、解除方法、生前にできる対策などについて解説してきました。
死亡の事実を金融機関に伝えると、預貯金口座は凍結されます。入出金ができずに不都合が生じるものの、勝手に引き出すと問題が生じかねません。遺産分割協議を進め、早めに凍結を解除できればよいですが、難しければ仮払い制度の利用もご検討ください。可能であれば、生前に対策しておくのが理想的です。

預貯金凍結でお悩みの方は、弁護士までご相談ください。遺産分割協議の進め方や仮払い制度の利用法などについてアドバイスいたします。既にトラブルが生じている場合はもちろん、生前に対策をお考えの方もサポートが可能です。
「口座凍結を早く解除したい」「死後に家族が困らないように対策できないか」などとお困りの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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