民事信託(家族信託)を設定する際には、終わりも見すえておかなければなりません。法律上定められたケースのほか、信託契約に記載した事由や、委託者と受益者の合意によっても信託は終了します。
信託が終了すると、残った信託財産は、あらかじめ指定した「残余財産受益者」や「帰属権利者」のものになるのが通常です。不動産があるときには登記も必要になります。
この記事では、信託の終了事由や残余財産の行方、終了時に必要になる登記などについて解説しています。民事信託の利用を検討している方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
信託の目的を達成したとき、あるいは達成できなくなったときは信託が終了します(信託法163条1号)。
たとえば、信託の目的が不動産の処分であれば、売却等が完了すれば目的を達成したとして終了します。目的の不達成により終了するのは、対象となっていた不動産が災害により失われてしまったようなケースです。
受託者は、財産を預かる立場の人です。受託者と受益者が同一人物だと、受託者への監督機能が働きません。
そのため、受託者が受益権の全部を固有財産で持っている状態が1年間継続すると、信託は終了します(信託法163条2号)。後述する通り当事者は信託契約において終了事由を定められますが、この1年という期間は信託契約によっても延長できません。
なお、受益者が複数いる場合には、受益者のうちひとりが受託者を兼ねていても「受託者が受益権の全部を持っている状態」には該当しません。
受益者の意味や受益権の内容について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:受益者とは?誰がなれる?受益者連続信託や受益者代理人についても解説
受託者がいなくなり、新受託者が就任しない状態が1年間継続したときも、信託は終了となります(信託法163条3号)。
受託者が死亡しても、信託そのものは直ちには終了しません。しかし、新たな受託者がいない状態が1年間続くと終了となります。
受託者の死亡について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)で受託者が死亡したら?すべきことを解説
信託行為(契約等)において定めた事由が発生したときにも信託は終了します(信託法163条9号)。個々の事情に応じて、信託契約等で終了理由を規定できるということです。
たとえば「〇年間経過」「受益者が〇歳になったとき」「受益者の死亡」といった理由で信託を終了させられます。信託の終了に関しては、契約で何らかの定めを置くのが通常です。
なお、「信託行為」の意味については、以下の記事を参照してください。
参考記事:信託行為とは?信託の3つの設定方法を弁護士が解説
委託者と受益者の合意によっても信託を終了させられます(信託法164条1項)。民事信託では設定時は委託者と受益者が同一人物であるケースが大半であり、「委託者兼受益者」の意思表示だけで終了できます。
「受託者の同意も要する」など、信託契約において別のルールを定めることも可能です(信託法164条3項)。
「委託者=受益者」とする自益信託について詳しくは、以下をご覧ください。
参考記事:自益信託とは?他益信託との違いやメリット・活用例を解説
信託行為で「残余財産受益者」や「帰属権利者」を指定していたときは、指定された人に残余財産が帰属します(信託法182条1項)。
両者の違いは、残余財産受益者が信託終了前から受益者としての権利を有するのに対して、帰属権利者は信託終了後に権利を有するに過ぎないという点です。どちらにするかは、信託行為における定め方によります。帰属権利者とするケースが多いですが、信託終了前に受託者を監督する権限を与えたいのであれば、残余財産受益者にするとよいでしょう。
残余財産受益者や帰属権利者は自由に指定できます。いずれにしても、終了後に信託財産が誰のものになるかは、事前に定めておくのが望ましいです。
事前に指定されていなければ、財産は委託者または委託者の相続人に帰属します(信託法182条2項)。
元々は委託者の財産であった以上、何も指定がないのであれば委託者に戻すべきです。委託者が死亡しているときは、委託者の相続人に財産が帰属します。
委託者の意味や死亡したらどうなるかについては、以下の記事をお読みください。
参考記事:委託者とは?なれる人や権利、死亡するとどうなるかを解説
帰属先を決めておらず、相続人もいなかったようなケースでは、信託法182条1項、2項では行方が決まりません。その場合には「清算受託者」に権利が帰属します(信託法182条3項)。清算受託者には、終了時の受託者がそのまま就任する場合が多いです。
信託では、設定時に委託者から受託者への所有権移転登記と信託登記が行われています。終了した際には、受託者から帰属権利者等への所有権移転登記と信託登記の抹消登記が必要です。
信託において必要な登記について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:信託で登記は必要?記載内容や必要な場面、注意点を解説
帰属権利者等に所有権移転登記をする際には、登録免許税が発生します。税額は、固定資産税評価額の2%です。ただし、帰属権利者が委託者の相続人であれば、相続による所有権移転登記と同様に扱われ(登録免許税法7条2項)、固定資産税評価額の0.4%となります。
信託登記抹消登記については、登録免許税は不動産1個につき1000円です。
信託における登録免許税について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:信託で登録免許税はかかる?課税される場面と金額を解説
他に、相続人以外が取得する場合は不動産取得税が発生します。相続人が取得するときは、相続時と同様に不動産取得税は非課税です(地方税法73条の7第4号ロ)。
信託の終了事由は、信託契約に明記しておきましょう。
前述の通り、法律上定められているもの以外にも、個々の事情に合わせて契約に終了事由を記載できます(信託法163条9号)。「〇年間経過」「受益者が〇歳になったとき」「受益者の死亡」など、定め方は様々です。
規定する際には、法律との関係にも注意してください。信託法の規定に追加するものか、信託法の規定を適用しないとする意味なのかをはっきりさせないと、解釈をめぐって問題が生じるおそれがあります。誰から見てもわかるよう、終了事由は明確に定めておかなければなりません。
信託終了時の財産について、権利を引き継ぐ「残余財産受益者」や「帰属権利者」を指定するようにしましょう。指定しないと、思い通りに財産を引き継がせられないばかりか、家族の中でトラブルが発生するおそれがあります。
財産の行方を決めておけるのは、民事信託の大きなメリットです。帰属権利者等を指定して、最大限活用しましょう。
参考記事:後継ぎ遺贈はできる?「後継ぎ遺贈型受益者連続型信託」について解説
ここまで、信託の終了事由や残余財産の行方、登記などについて解説してきました。
信託法に記載された理由の他に、信託契約で終了事由を規定できます。残余財産を誰に引き継がせるかについても事前に決めておくべきです。信託をうまく活用するためには、終わり方もしっかりと考えておかなければなりません。
民事信託の利用を考えている方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みが複雑であるため、精通した専門家が少ないのが実情です。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。相談・依頼いただければ、終了時をみすえた信託契約書を作成できます。
「民事信託が終わるときにどうなるか不安」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。