「相続財産の中に共有名義の不動産があった」とお困りでしょうか?
共有名義の不動産は利用・処分に際して不都合が生じるため、厄介な存在です。相続をきっかけに、できるだけ共有状態を解消して単独所有にするのが望ましいといえます。
この記事では、
●共有不動産の問題点
●共有不動産を相続する流れ
●不動産の共有状態を解消する方法
などについて解説しています。
遺産の中に共有名義の不動産があったときに役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、そもそも共有とは何か、いかなる点が問題なのかといった、共有名義の不動産に関する基礎知識を解説します。
共有とは、ひとつの財産を複数人で所有している状態をいいます。
共有が生じる例としては、不動産を夫婦や親子で共同購入した場合のほか、相続によって共有になっているケースも多いです。
共有財産については、各共有者が持分を有します。持分とは所有権の割合のことです。「夫:1/2、妻:1/2」などと表されます。
不動産が共有状態にあると、様々な問題が生じます。
各共有者は、持分に応じて不動産の全部を使用できます(民法249条1項)。持分が1/2であっても、不動産の半分しか使用できないわけではなく、不動産全体の使用が可能です。
そのため、ある共有者が不動産を独り占めにしていても、他の共有者が強制的に使用を止めることはできません。使用の対価は請求できるものの(民法249条2項)、スムーズに支払ってくれるとは限りません。
また、不動産を所有していると、修繕費用や固定資産税などの管理費用がかかります。
共有物に関して生じた費用は、各共有者が持分に応じて負担するのが法律上のルールです(民法253条1項)。しかし、自分は利用していないなどの理由で、負担を拒む共有者がいる可能性も否めません。
このように、不動産を共有していると、使用方法や費用負担をめぐってトラブルが生じるリスクがあります。
共有状態にある不動産に関する重大な処分は、ひとりではできません。
共有物に対して可能な行為について、法律上は以下の通り定められています。
行為の種類 | 条文 | 要件 | 具体例 |
---|---|---|---|
変更(軽微なものを除く) | 251条1項 | 全員の同意 | 売却、長期賃貸借 |
管理(軽微な変更含む) | 252条1項 | 持分の過半数 | 外壁防水工事、短期賃貸借 |
保存 | 252条5項 | 単独で可能 | 修繕、不法占有者の排除 |
共有不動産の保存行為であればひとりの共有者の判断でできますが、管理行為には持分の過半数の同意、変更行為には全員の同意が必要です。全員の同意がないと売却できないなど、共有状態にあると不動産の利用・処分に大きな制限がかかります。
共有者の一部が亡くなって相続が生じると、さらに共有者が増えてしまいます。たとえば、不動産が兄弟で共有状態にあるときに長男が亡くなると、長男の妻や子に権利が引き継がれます。
関係の遠い親戚が共有者に加われば加わるほど、共有者間の合意は形成しづらくなるでしょう。共有状態を放置していると、問題が次の世代に持ち越され、収拾がつかなくなってしまうのです。
不動産の共有名義人が亡くなったときに想定される相続のパターンは、共有名義人同士の関係や、相続人の有無・人数などによって様々です。
まずは、亡くなった人と、その唯一の相続人が不動産を共有していたケースがあります。
そもそも、相続人の範囲は以下のルールで決まります。
たとえば、子なし夫婦が不動産を共有している状態で夫が死亡し、夫が一人っ子で両親もすでに他界していれば、相続人は妻だけです。
このときは夫の共有持分を妻が相続し、不動産は妻の単独所有になります。共有は自動的に解消されるため、問題はありません。
もっとも、夫に隠し子がいるなど、他に相続権を持つ人がいる可能性もあります。相続人が他にいないと確認できれば、唯一の相続人である妻の単独所有にできます。
亡くなった人と、複数いる相続人のうちのひとりが不動産を共有していて、共有者以外の相続人がいるケースもあります。
たとえば、不動産を共有する夫婦に子どもひとりがいたケースです。夫が死亡すると、妻と子が共同相続人になります。現実にもよくあるケースでしょう。
このときは、夫の持分はいったん相続人全員の共有状態になります。すなわち、夫の持分が1/2であれば、その1/2(全体の1/4)が妻に、残りの1/2(全体の1/4)が子に帰属します。したがって以下の通り、妻が元々持っていた持分と合わせて全体の3/4、子が残りの1/4を共有する形になり、共有問題が解消されません。
相続前の共有持分 | 相続する共有持分 | 相続後の共有持分 | |
---|---|---|---|
夫 | 1/2 | (死亡) | なし |
妻 | 1/2 | 1/4 | 3/4 |
子 | なし | 1/4 | 1/4 |
共有を避けるためには、遺産分割協議によって夫の持分はすべて妻に相続させることとして、妻の単独所有にする方法があります。
相続人の中に共有者がいるからといって、自動的に共有持分が引き継がれて単独所有になるわけではありません。遺産分割協議において、故人の持分すべてを共有者に相続させるように決める必要があります。
亡くなった共有名義人に相続人がいるものの、相続人は共有者ではなかったケースもあります。
たとえば、父と長男で不動産を共有しているときに長男が先に亡くなり、長男には妻子がいたケースです。長男の相続人は妻と子になりますが、妻と子はいずれも不動産の共有者ではありません。
このときは、長男の持分は妻子に相続され、長男の父と妻子の共有状態になります。相続後も共有状態が続いてしまうのです。
単独所有にするには、持分の買取等の方法を別途とらなければなりません。
亡くなった共有名義人に相続人がいないケースもあります。元から身寄りがなかったケースの他に、相続人がいても全員が相続放棄したケースです。
相続する人がいないとしても、ただちに存命の共有者の単独所有になるわけではありません。故人に債権者や特別縁故者がいるときには、優先して分配を受けられるためです。特別縁故者とは、故人と特別の関係があった人で、内縁の配偶者などが該当する可能性があります(民法958条の2)。
法律上、共有者のひとりが死亡して相続人がないときには、持分は他の共有者に帰属するとの定めがあります(民法255条)。もっとも、特別縁故者がいるときには、共有者より優先して分与を受けられるとするのが、判例上の考えです(最高裁平成元年11月24日判決)。
したがって、他の共有名義人は相続財産清算人の選任申し立てをして、他に分配される人がいないと確認されてから、故人の共有持分を得られます。自動的に単独所有になるわけではない点に注意してください。
特別縁故者や相続財産清算人については、以下の記事を参考にしてください。
特別縁故者の要件や手続き|献身的に介護した人が相続するには?
相続財産管理人とは?選任すべきケースや手続きを弁護士が解説
※2023年4月1日施行の民法改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。参考記事は改正前のものですが、内容として大きくは変わりません。
共有不動産を相続する際には、以下の流れで進めてください。
不動産の共有名義人が亡くなったら、遺言書の有無を確認します。遺言書があれば内容通りに相続でき、遺産の行方が大きく変わるためです。
他の共有名義人に持分をすべて相続させるなど、共有状態を解消できるように遺言書が作成されているケースもあります。
遺言書が自筆証書遺言(法務局で保管されているものを除く)であれば、検認手続きを行ってください。
参考記事:遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説
相続人の範囲も確定させなければなりません。戸籍を取り寄せて、故人の相続人を確認してください。
他の共有名義人が単独相続して共有状態を解消できると思っていても、前妻との間の子など、思わぬ相続人が判明する可能性もあります。
遺言書がなく、相続人が複数いるときには、共有不動産以外も含めて、遺産の分け方を決めるために相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
共同相続人の中に共有名義人がいる場合には、その人に共有持分を相続させて共有を解消するのが一般的です。自動的に単独所有になるわけではないので、必ず遺産分割協議を経て決定しましょう。
遺産分割協議をしたら、決定事項を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の署名・押印をとりつけてください。
不動産の共有持分の相続方法が決まったら、その内容に沿って法務局で相続登記を行います。
遺産分割協議をした場合の必要書類は、以下の通りです。
●故人の出生から死亡までの戸籍謄本
●故人の住民票除票(または戸籍附票)
●相続人全員の戸籍謄本
●不動産を取得する人の住民票
●遺産分割協議書
●相続人全員の印鑑証明書
●固定資産評価証明書
●登記申請書(様式は法務局サイトよりダウンロード可能)
故人の共有持分について法定相続分にしたがって相続登記することも可能ですが、共有状態が長引く原因になります。極力避けるようにしましょう。
遺産が多い場合には、相続税の納付が必要になる可能性があります。共有不動産を含めた遺産総額が、基礎控除の「3000万円+法定相続人の数×600万円」を超えているか否かが、ひとつのポイントです。
共有不動産については、不動産全体ではなく、共有持分だけの評価で計算してください。
また、相続税は個々の財産ではなく遺産全体に対して課税されます。預貯金など共有不動産以外の遺産も含めて合計評価額を算定し、相続税の有無や金額を判断してください。
相続税が発生するケースでは「相続の開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告しましょう。期限を過ぎると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課せられてしまいます。
他の共有者が相続人でなかったなど、相続を経ても共有状態が続いてしまうケースもあります。共有状態が続くのは望ましくないため、可能であれば解消するようにしてください。
相続後に不動産の共有状態を解消する方法としては、以下が挙げられます。
共有不動産が土地であれば、共有持分にしたがって分筆が可能です。物理的に分けてしまい、共有状態を解消する方法です。
もっとも、建物や狭い土地は分割できません。分割後も価値がある程の広大な土地であれば、検討に値します。
相続した自分の共有持分を、他の共有名義人に買い取ってもらう方法もあります。他の共有者の持分が多く、単独所有を望んでいる場合には、受け入れてもらいやすい方法です。
交渉により金額を決めて買い取ってもらう形になりますが、金額によっては譲渡所得税が発生する可能性があります。
反対に、他の共有者の持分を買い取ることも考えられます。相続した持分が多いときには、有効な手段のひとつです。
他の共有者と交渉して買い取り金額を決定しますが、低すぎると贈与と扱われてしまうおそれもあります。
共有持分を放棄することも可能です。放棄した持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。
持分の放棄そのものに、他の共有者の同意は必要ありません。ただし、登記には共有者の協力が必要です。また、税法上は贈与とみなされて、共有者に贈与税が課税される点にも注意してください。
共有者以外の第三者に売却するのも、ひとつの方法です。
共有者全員で合意できれば、不動産全体を売却し、第三者の単独所有にできます。
全員の合意が難しければ、自分の持分だけを第三者に売却することも可能です。もっとも、共有状態の不動産の持分を取得してくれる相手が見つかるとは限りません。もし売却できたとしても、共有である事実に変わりはありません。
話し合いで共有状態を解消するのが難しいのであれば、裁判所の手続きを利用する方法もあります。利用できる手続きは、場合によって変わります。
一般的に共有状態を解消する手続きは、共有物分割請求です(民法258条)。共有物分割調停で話し合う方法と、共有物分割訴訟により裁判所の判断を仰ぐ方法があります。
共有物分割訴訟における分け方としては、不動産をそのまま分ける「現物分割」や、金銭と引き換えに持分を特定の共有者に取得させる「代償分割」が基本になります(民法258条2項)。これらが困難であれば、競売にかけて代金を分けることも可能です(民法258条3項)。
遺産分割協議を経て共有持分の分け方を決めているときは、他の共有名義人との関係では共有物分割請求を行いましょう。
ただし場合によっては不動産所有者の死亡後に、遺産分割協議を経ずに共有状態が生じているケースがあります。これを遺産共有と呼びます。遺産共有は、基本的に遺産分割協議により解消しなければなりません(民法258条の2第1項)。したがって、遺産共有状態は遺産分割調停や審判により解決されます。
ただし「(契約などによる)通常の共有」と「遺産共有」が併存しているケースでは、相続開始から10年を経過していれば共有物分割請求による解決も可能です(民法258条の2第2項)。
たとえば、元々の共有が契約により生じた後に、共有者の一方が死亡して共有持分が遺産共有となり、遺産分割協議をしないまま10年経過したケースが想定されます。この場合には、共有物分割請求訴訟により一元的な解決が可能です。
ここまで、共有不動産の相続に関して、問題点、流れ、解消方法などについて解説してきました。
不動産が共有状態にあると、利用処分に制限が出るなどトラブルの原因になります。なるべく共有が生じないように、相続手続きを進めるのが重要です。相続後にも共有状態が残っているときには、交渉による持分の譲渡や裁判所での手続きなどで解消するようにしてください。
共有不動産の相続でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。共有不動産に関する法律関係は非常に複雑です。遺産分割協議の後に共有物分割請求が必要になるなど、解消の手続きが面倒なケースも少なくありません。わずらわしい共有関係から早く逃れるためにも、交渉や裁判所での手続きを弁護士にお任せください。
「遺産の中に不動産の共有持分があった」「共有不動産をどう相続すればいいかわからない」などとお困りの方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。