「法定相続人の中に失踪者がいるが、遺産分割を進めたい」とお悩みでしょうか?
法定相続人の中に行方不明の人がいても、その相続人を無視した遺産分割手続きはできません。
失踪者がいる相続手続きを行うには、不在者財産管理人を選任する、失踪宣告を申立てるといった、裁判所を利用した手続きが必要です。
この記事では、
●法定相続人の中に失踪者がいるときに遺産分割をする方法
●不在者財産管理人の選任手続きと注意点
●失踪宣告の申立て手続きと注意点
などについて解説しています。
法定相続人の中に失踪者がいてお困りの方にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
故人が遺言書を残さずに亡くなった場合、遺産分割協議をして財産の分配方法を決めなければなりません。
まずは、法定相続人の中に失踪者がいるケースにおいて、遺産分割協議を進めるために採り得る方法をご紹介します。
遺産分割協議には、法定相続人全員が参加しなければなりません。
そもそも、法定相続人の範囲は以下の通りです。
上記のルールによって相続人になるのであれば、どんなに関係が疎遠であっても、行方がわからなくても、遺産分割協議から排除できません。
「行方不明の失踪者は除いて話し合いをしてもいいはずだ」と考える方もいるでしょう。しかし、行方不明であっても、生きていれば相続権を有します。相続人の一部を除いた遺産分割協議をすれば、合意内容は無効とされます。行方不明者を無視して遺産分割をすることはできないのです。
遺産分割手続きが進まないと、故人の預金口座からお金を引き出せない、不動産を売却できないといった不都合が生じます。
では、法定相続人の中に行方不明者がいるときには、どう対処すればよいのでしょうか?
まずは、様々な方法で連絡を試みましょう。
「住所すらわからない」という場合でも、戸籍附票を取得することにより、住所を特定できます。住所を特定できたら、手紙を郵送してみてください。
手紙には、
●故人が亡くなって相続手続きが必要であること
●相続関係図
●遺産分割協議のために連絡して欲しいこと
●ご自身の連絡先
などを記載するとよいでしょう。
一方的に決めた遺産分割内容を送りつけると相手が不快に感じ、トラブルが生じやすくなるので避けてください。
手紙を送っても返信がなければ、
●直接住所を訪問して状況を確認する
●SNS(Twitter、Facebookなど)のアカウントを探して連絡を試みる
といった方法も考えられます。
連絡をとって話がつけば、裁判所を利用する必要がなくなります。できる範囲で接触を試みてください。
連絡がつかないときには、家庭裁判所に請求して「不在者財産管理人」を選任する方法があります。
不在者財産管理人とは、行方不明者の財産を代わりに管理する役割を担う人です。
民法25条以下に定めが置かれています。
民法25条1項
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
家庭裁判所の許可を得れば、不在者財産管理人が失踪者に代わって遺産分割手続きに参加できます。
不在者財産管理人をつけるのに適しているのは、
●生きている事実はわかっているが、居場所がわからない
●失踪してから年月が短いため、後述する失踪宣告が利用できない
といったケースです。
場合によっては「失踪宣告」を申立てることもできます。
失踪宣告とは、生死不明のまま一定期間が経過した人について、法律上死亡したとみなす制度です。不在者財産管理人をつけたときは行方不明者が生きているのを前提にするのに対し、失踪宣告がなされると死亡を前提にして法律関係を決定します。したがって、失踪宣告がなされた人自身についても相続が始まります。
失踪宣告については、民法30条以下に定めが置かれています。
民法30条
1項
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2項
戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
民法31条
前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。
普通失踪は、不在者の生死が7年間明らかでないケースに適用され、7年の期間が満了した時点で死亡したとみなされます。
特別失踪は、戦争、海難事故、自然災害などのケースを想定した制度です。1年間生死が明らかでないときは、それぞれ戦争終結、船の沈没、災害発生の時に死亡したとみなされます。
いずれかの条件を満たすケースでは利用が可能ですが、利用する義務はなく、上述した不在者財産管理人を選任しても構いません。
なお、実際は生存していたことが判明した場合には、失踪者本人や利害関係人の請求により、失踪宣告の取り消しができます(民法32条)。
不在者財産管理人や失踪宣告の手続きには、時間や手間がかかるデメリットがあります。そこで考えられるのが、遺産分割審判を申立てたうえで、不在者に公示送達をしてもらう方法です。
公示送達とは、裁判所からの書類を届けられない人について、裁判所に掲示して一定期間経過したことで書類を送達したものと扱う制度です(民事訴訟法110条以下)。
ただし、公示送達は不在者が意見を述べる機会を失わせる方法であるため、裁判所が認めない可能性があります。遺産分割において前提となる問題がなく、法定相続分通りに分けるケースなどでは、公示送達の利用を検討するとよいでしょう。
不在財産管理人を選任するには、家庭裁判所への請求が必要です。不在財産管理人の選任手続きや注意点について解説します。
選任手続きのポイントは以下の通りになります。裁判所によって多少異なる可能性があるため、詳しい点は事前に管轄の裁判所や専門家に確認しておくと確実です。
不在者財産管理人の選任を申立てられるのは「利害関係人」と「検察官」です(民法25条1項)。共同相続人になる関係にある人は「利害関係人」に該当します。
申立ての必要書類は以下の通りです。
●申立書(書式や記載例は裁判所サイトをご参照ください)
●不在者の戸籍謄本・戸籍附票
●財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
●不在の事実を証明する資料
●不在者の財産に関する資料
●利害関係を証明する資料
上記の他にも、裁判所から求められた書類があれば提出してください。
申立て先は「不在者の従来の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
管轄は裁判所のサイトからご確認ください。たとえば、従来の住所が東京23区にあれば、東京家庭裁判所(本庁)が管轄となります。
申立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙800円分
●連絡用郵便切手(裁判所により異なる。東京家庭裁判所の場合、100円5枚、84円15枚、10円20枚、2円10枚、1円20枚の合計2000円分)
他に、不在者財産管理人の報酬などのために数十万円の予納金が必要なケースもあります。
不在者財産管理人になるのに、特別な資格は必要ありません。利害関係のない親族などを候補者として請求し、認められるケースもあります。ただし、弁護士などの専門職が選任される可能性もあります。
不在者財産管理人を選任する方法をとる際には、以下の点に注意してください。
不在者財産管理人の権限は、通常は財産の保存行為に限られます。遺産分割協議では財産の処分等が必要になるため、不在者財産管理人が家庭裁判所に別途許可を得なければなりません(民法28条)。
不在者財産管理人を選任すると、管理に必要な費用や管理人の報酬が追加で必要になってしまいます。特に専門家が不在者財産管理人に選任されたケースでは、数十万円を要するケースもあります。
なお、不在者財産管理人の職務は、遺産分割後も続くのが通常です。後に不在者を相続することが想定される場合、費用がかさんで財産が減るおそれがある点は知っておきましょう。
遺産分割の際には、基本的に不在者にも法定相続分は確保する必要があります。不在者財産管理人は不在者の利益のために行動するため、最低限の財産は得るように活動しなければなりません。
不在者の法定相続分を下回る遺産分割をする場合には「帰来時弁済型」になるケースが多いです。帰来時弁済型とは、他の相続人が多くもらっていた分を、不在者が戻ってきたときに代償金として渡す方法です。代償金の金額、帰ってくる可能性、他の相続人の資力などにより、帰来時弁済型の遺産分割が認められるかが左右されます。
失踪宣告を利用する場合にも、家庭裁判所への請求が必要です。失踪宣告の申立て手続きや注意点について解説します。
選任手続きのポイントは以下の通りになります。裁判所によって多少異なる可能性があるため、詳しい点は事前に管轄の裁判所や専門家に確認しておくと確実です。
申立てができるのは「利害関係人」となっています(民法30条1項)。共同相続人になる関係にある人は「利害関係人」に該当します。なお、不在者財産管理人の場合とは異なり、検察官は申立人に含まれません。
申立ての必要書類は以下の通りです。
●申立書(書式や記載例は裁判所サイトをご参照ください)
●不在者の戸籍謄本・戸籍附票
●失踪を証明する資料
●利害関係を証明する資料
上記の他にも、裁判所から求められた書類があれば提出してください。
申立て先は「不在者の従来の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
管轄は裁判所のサイトからご確認ください。たとえば、従来の住所が東京23区にあれば、東京家庭裁判所(本庁)が管轄となります。
申立てには以下の費用が必要です。
●収入印紙800円分
●連絡用郵便切手(裁判所により異なる。東京家庭裁判所の場合、500円2枚、100円5枚、84円20枚、10円5枚、5円5枚、2円5枚、1円5枚の合計3270円分)
●官報公告料4816円(裁判所の指示があってから納める)
失踪宣告を申立てる方法をとる際には、以下の点に注意してください。
申立てから失踪宣告がなされるまでは、ある程度の時間がかかります。調査や官報公告などに期間を要するためです。ケースによりますが、半年以上かかるとお考えください。
相続税申告の期限が10ヶ月であることを考えると、スケジュールが厳しくなる可能性もあります。
失踪宣告により行方不明者が死亡したとみなされても、自分の思い通りに遺産分割ができるとは限りません。
失踪宣告により失踪者自身の相続も始まるため、子など相続人がいれば失踪者の権利を引き継ぎます。したがって、失踪者の相続人との協議が必要です。関係者が増えることで、争いが生じる可能性も否定できません。
ここまで、法定相続人の中に失踪者がいる場合の遺産相続について解説してきました。
遺産分割においては、行方不明の人も無視できません。連絡がどうしてもとれなければ、状況に応じて「不在者財産管理人」「失踪宣告」「遺産分割審判+公示送達」のいずれかから適切な方法を選ぶ必要があります。
法定相続人の中に失踪者がいる遺産相続は、弁護士にご相談ください。行方不明者への連絡、適切な方法のご提案、裁判所における手続きなど、徹底的にサポートいたします。
「行方不明の人がいて相続が進まない」「どういった手続きをすればいいかわからない」といったお悩みを抱えている方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。