遺言書を見つけたときには、基本的に裁判所において「検認」の手続きをする必要があります。
馴染みのない手続きかもしれませんが、検認をせずに勝手に遺言書を開封すると法的なペナルティがあります。忘れずに手続きを進めてください。
この記事では、
●遺言書の検認とは?
●遺言書の検認手続きの流れ
●遺言書の検認をしない法的リスク
などについて解説しています。
遺言書を保管している方や発見した方が必ず知っておくべき内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、遺言書の検認について、手続きの意味や必要なケースなどの基礎知識を解説します。
検認とは、簡単にいうと裁判所で遺言書の中身を確認してもらう手続きです(民法1004条)。
遺言書を保管していた人や発見した人は、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を請求する必要があります(同条1項)。封印してある遺言書の開封作業も裁判所で行うため、遺言書が手元にあっても勝手に開けて内容を確認してはなりません(同条3項)。
なぜ遺言書には検認手続きが必要なのでしょうか。
検認をする意味をいくつかの視点でご紹介します。
まず挙げられるのが、遺言書の存在と内容を相続人全員に知らせる点です。
遺言書が存在していると、内容によっては故人の財産について「誰が」「何を」相続するかに大きな影響を及ぼします。たとえば、遺言書に「財産はすべて妻に相続させる」と書かれていれば、基本的には記載内容にしたがって、子など他の相続人は遺留分以外の財産を受け取れなくなります。
もし遺言書の存在や内容を一部の相続人しか知らなければ、遺言書を無視して相続手続きが進んでしまうかもしれません。故人の遺志に沿った相続となるよう、遺言書の中身を相続人全員で共有するのが検認の目的のひとつです。
遺言書の偽造・変造・破棄を防止することも、検認をする重要な目的です。
故人と同居していた相続人が自宅で遺言書を発見した場合、こっそり自分に有利な内容に書き換えたり、紙を破って遺言の存在自体を隠そうとしたりする可能性が否定できません。
検認手続きでは、遺言書の内容のみならず、
●封筒や用紙の外観
●訂正箇所
●文字の色、筆記具
●署名、印影
などあらゆる点が記録されます。
検認をすれば実施日における遺言書の状態が保存されるため、発見・保管者による偽造・変造・破棄を防ぐ効果があります。
トラブル防止だけでなく、遺言書に基づいて実際に相続手続きを進めるためにも、検認は不可欠です。
たとえば、遺言書に基づいて不動産の名義変更や預貯金の解約を行うためには、検認を経なければなりません。検認をせずに放置していると、相続手続きを前に進められなくなってしまいます。
「我が家は相続トラブルとは無縁だ」と考えている方も、すみやかに検認の手続きをしましょう。
注意して欲しいのが、検認をしたからといって遺言書の法的な有効性は証明できない点です。
検認手続きでは、あくまで実施日における遺言書の状態を記録するに過ぎず、遺言が有効か無効かまでは判断されません。遺言書の有効性をめぐってトラブルになった場合には、改めて遺言無効確認訴訟などにより決着をつけます。
検認の目的は有効性の判断ではないため、認知症が進んだ人が作成したなど、無効と考えられる遺言書であっても検認手続きは必要になります。
検認はすべてのケースで必要なわけではありません。検認手続きが必要な遺言書の種類を解説します。
遺言書の種類について詳しく知りたい方は、以下も参考にしてください。
遺言の種類とメリットデメリット
自筆証書遺言の場合には、検認が必要です。
自筆証書遺言は、遺言をする人が全文を手書きで作成する遺言をいいます。法改正により添付する財産目録はパソコンでの作成が可能になりましたが、それ以外の本文、日付、氏名などは手書きでなければなりません。作成方法を間違えて無効とされてしまうケースも多いです。
自筆証書遺言は、ひとりで手書きで作成するため偽造・変造されるリスクが高いといえ、検認手続きが要求されています。
ただし、2020年7月10日に始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局に保管されていた場合には、偽造・変造を防げるため検認は不要です。
秘密証書遺言についても検認が必要とされます。
秘密証書遺言は、中身を自分で作成した後に、封をした遺言書を公証役場に提出して自分の遺言書であることを証明したものです。内容は秘密にできますが、遺言書の存在自体は明らかになります。
秘密証書遺言では、中身が法律に沿って作成されている保証はなく、裁判所での検認手続きが要求されます。
公正証書遺言の場合には検認が不要です(民法1004条2項)。
公正証書遺言とは、遺言をする人が内容を公証人に口頭で伝え、公証人がそれを文面にする形で作成した遺言です。公証人は法律の専門家から選任される公務員であり、形式に法的な問題がない遺言を作成できます。
公正証書遺言は偽造・変造のおそれがなく、形式面も問題がないため、検認が不要とされています。
検認が必要な種類の遺言書の場合、手続きはどのように進むのでしょうか。
検認手続きの流れを解説します。
検認手続きは申立てまでが大変です。以下の内容を確認して、間違いのないようにしてください。
検認を申立てるのは次の人です。
●遺言書の保管者
●遺言書を発見した相続人
保管者とは、故人から遺言書の保管を任されていた人で、相続人以外にも友人や介護者などのケースがあります。
保管者がいない場合には、遺言書を自宅などで発見した相続人が申立人となります。
申立てに必要な書類は以下のとおりです。
●申立書
裁判所のホームページから書式を入手できます。記入例を参考にして作成してください。
●遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
遺言者の本籍地から取り寄せてください。本籍地が遠方の場合など、戸籍謄本の取得に時間がかかる場合があります。早めの準備を心がけましょう。
●相続人全員の戸籍謄本
子が既に死亡している場合など、相続人以外の戸籍謄本も必要になるケースがあります。
検認の申立てには次の費用がかかります。
●遺言書1通につき800円(収入印紙)
●連絡用の郵便切手(数百円分、金額・必要枚数は裁判所によって異なる)
申立て先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄を知りたい方は裁判所のホームページをご確認ください。たとえば、東京23区に住んでいた人が作成した遺言書の検認は、東京家庭裁判所(本庁)に申立てます。
申立て方法は、書類を直接裁判所に持参しても、郵送しても構いません。
条文上は「遅滞なく」とされており、明確な期限の定めはありません。
とはいえ、検認をしている最中にも相続放棄の期限(3ヶ月)や相続税申告の期限(10ヶ月)は近づいてきます。検認は早めに済ませ、相続関係の他の手続きに余裕を持って取り組むのが望ましいでしょう。
複数の遺言書がある場合は、基本的には最も新しいものが有効になります。とはいえ、最新の遺言書の有効性が後から否定される可能性もあるため、すべての遺言書について検認手続きをしておかなければなりません。
申立てが受理されると、日程が調整されます。実施する日時が決まると、裁判所から相続人全員に、検認期日の通知が郵送でなされます。
期日当日になったら、裁判所に出向いてください。遺言書や印鑑など、裁判所から指定された持ち物を忘れないようにしましょう。
期日では、相続人立ち会いのもと、職員が遺言書を開封して内容などを確認し、記録します。
検認期日に出席するかは、各相続人の判断に任されており、全員がそろっていなくても手続きは行われます。欠席したからといって相続で不利に扱われることもありません。
ただし、申立人は必ず出席しなければならないとされています。遺言書などを持って必ず参加してください。
検認手続きが終わったら、検認済証明書を申請してください。検認済証明書がないと、金融機関などで相続関係の手続きができなくなってしまいます。遺言書1通につき150円分の収入印紙が必要です。
検認手続きには、申立てをしてから1ヶ月程度は要するのが一般的です。加えて書類の準備にも時間がかかるため、余裕を持って準備するようにしてください。
遺言書を見つけても、忙しかったり面倒だったりして検認をしない方がいます。しかし、検認をしないことには法的なリスクがあります。リスクを知り、早めに手続きするようにしてください。
検認をしないで遺言を執行したり、勝手に遺言書を開封したりすると、5万円以下の過料に処される可能性があります(民法1005条)。過料は厳密にいうと刑罰にはあたりませんが、罰金に似た制度です。
また、間違えて開封したからといって遺言の効力が失われるわけではないものの、他の相続人から改ざんを疑われかねません。
法的なペナルティを避けるためにも、無用なトラブルを防ぐためにも、遺言書は絶対に開封してはいけません。
遺言書の検認をしていない間にも、相続に関係する他の手続きの期限は近づいてきます。
特に、相続放棄や限定承認は3ヶ月以内に申立てが必要であり、緊急性が高いです。相続放棄をすると故人の遺産を一切相続せずにすみ、限定承認をすればプラスの範囲内で財産を引き継げます。いずれも、故人が負債を多く抱えている場合に検討する方法です。
現実には、遺言の内容により財産が判明するケースもあるでしょう。遺言書の検認を怠っていると、判断材料が不十分なまま相続放棄や限定承認の期限を迎えてしまうリスクが想定されます。
他にも、10ヶ月以内とされる相続税の申告など、期限がある手続きが存在します。他の手続きに余裕を持って取り組むために、検認手続きは早めに進めましょう。
検認をしないと、実際の相続手続きも進められなくなってしまいます。
たとえば、以下の手続きの前提として遺言書の検認が必要です。
●不動産の名義変更
●預貯金の解約、名義変更
●有価証券(株式など)の名義変更
検認をしていないと関係機関は手続きをしてくれません。遺言に基づいて相続をするためにも、検認は不可欠な手続きです。
検認が終わったらその先はどうなるのでしょうか。遺言書を検認した後の流れを解説します。
検認が終わったら、基本的には判明した遺言書の内容にしたがって遺産を分けます。遺言書と検認済証明書を利用して、名義変更などの手続きを進めてください。
ただし、相続人全員が合意するなど条件を満たせば、遺言書の内容と異なる分け方も可能です。遺言に沿って遺産を分けるとかえって不都合な場合に検討するとよいでしょう。
「遺言書は偽造されている」「認知症で遺言をする能力がなかった」などと遺言の有効性が争いになるケースがあります。遺言書が法的に有効か無効かは、遺言無効確認訴訟など検認以外の場で争われます。
検認は、遺言書が法的に有効か無効かを判断する手続きではありません。「検認をしたから裁判所が有効と認めている」とは考えないでください。
ここまで、遺言書の検認について、意味や流れ、しなかった場合の法的リスクなどを解説してきました。
自宅で遺言書を発見した場合には、検認手続きにより遺言書の存在と内容を相続人全員に示す必要があります。相続を進めるためにも検認は不可欠であるため、早めに申立てを行ってください。
もしご自身で手続きを進めるのに不安があったり、時間がなかったりする場合には、弁護士へご相談ください。弁護士は必要書類の収集や作成など、検認手続きを代わりに行えます。また、検認後の相続手続きのアドバイスや、遺言書の有効性が争いになった場合の対応など、アフターフォローも万全です。
遺言書の検認に関して何かお困りの方は、ぜひダーウィン法律事務所までご相談ください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。