遺言書が無効になるケースは?争い方や遺産分割の流れも解説

相続

「遺言書の内容が不自然だ」
「遺言を作成したときに認知症だったはずだ」
「筆跡が別人のものだ」
といったケースでは、遺言書が無効になる可能性があります。
遺言書が無効だと考える場合には、遺言無効確認訴訟などを通じた主張が必要です。無効と認められた後には、遺産分割手続きが待っています。
したがって、遺言書が無効かどうかを判断する基準だけでなく、想定される手続きの流れも知っておかなければなりません。
この記事では、
●遺言書が無効になるケース
●遺言書の無効を争う方法
●遺言書が無効となった場合の遺産分割の流れ
などについて解説しています。
遺言書の効力を争いたい方が必ず知っておきたい内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

遺言書が無効になるケース


まずは、どんなケースで遺言書が無効になるかを解説します。

法律で定められた形式を満たしていない

遺言書は、法律で定められた形式を満たしていなければ無効です。
形式面は主に自筆証書遺言で問題になります。公正証書遺言の場合には、公証人が確認しているため形式違反により無効となる可能性は低いです。

遺言書の種類について詳しく知りたい方は、以下も参考にしてください。
遺言の種類とメリットデメリット

自筆証書遺言が形式違反で無効になるケースとしては、以下が挙げられます。

手書きでない

遺言書は基本的に手書きで書かなければなりません(民法968条1項)。手書きでないと、誰が書いたものか判別が難しくなり、本人の意思にもとづく遺言書と確かめられなくなるためです。
したがって、パソコンで作成した遺言書や、録音による遺言は無効になります。
もっとも、すべてを手書きで書くのは、遺産が多い場合などに負担が大きいでしょう。そこで近年の法改正により、財産目録についてはパソコンなどによる作成が可能になりました。ただしこの場合でも、各ページに署名・押印しなければなりません(民法968条2項)。
改正法が適用されるのは、2019年1月13日以降に作成された遺言書に限られます。それ以前に作られた遺言書は、財産目録も含めてすべて手書きでなければ無効です。

作成日がない

遺言書には作成日を記載しなければなりません(民法968条1項)。遺言書が複数ある場合の前後関係や、遺言したときの判断能力が問題になるケースにおいて、作成日が重要になるためです。
作成日は年月日まで完全に特定しなければなりません。
日付が書かれていない場合だけでなく、「○年○月吉日」という記載は日付を特定できないため無効です。「○年○月末日」「遺言者の80歳の誕生日」は日付を特定できるため有効と判断されます。

署名押印がない

本人が作成したことを担保するために、署名や押印も要求されます。
署名は、通常は戸籍上の氏名をフルネームで記載しますが、特定できればよいので姓・名のいずれかでも有効になるケースはあります。通称やペンネームも可能です。
押印は実印である必要はなく、認印や指印でも構いません。押印の場所は、署名の下でなくてもよく、遺言書が入った封筒の封じ目にされた押印でも有効とされたケースがあります。

訂正方法が誤っている

遺言書の内容を訂正する場合にも、法律上のルールが守られていなければなりません。
具体的には、
変更箇所を示して変更したことを付記する
付記したところに署名する
変更箇所に訂正印を押す
という条件を満たしていなければ無効です。
塗りつぶしや修正液・修正テープによる訂正はもちろん無効となります。

共同で遺言書を作成した

複数人による遺言書の共同作成は認められていません(民法975条)。複数人で作成すると、個々の意思が反映されない可能性があるためです。
したがって、夫婦共同で子どもたちのために作成された遺言書は無効になります。

偽造された


遺言書が本人以外によって偽造された場合には、本人の意思を反映していないため無効とされます。偽造の有無も自筆証書遺言について問題になります。
偽造されたか否かを判断するひとつの要素が筆跡です。
筆跡を判断するために、生前の日記、手紙、メモなどを用意し、遺言書と比べます。場合によっては筆跡鑑定も実施されます。
もっとも、筆跡は加齢や体調によって変化するうえ、鑑定は行う人によって変わるケースもあり、結果は絶対ではありません。
実際には、筆跡だけでなく、
●作成当時文字を書ける状態にあったか
●遺言書の体裁
●遺言に至る経緯と内容の整合性
●遺言書の保管場所、発見に至る経緯
などを総合的に考慮して偽造の有無が判断されます。

遺言能力がない

遺言能力がない状態で作成した遺言書も無効となります(民法963条参照)。遺言能力とは、遺言の内容や遺言によりもたらされる結果を理解する能力です。
遺言能力は15歳以上でないと認められません(民法961条)。15歳未満の子どもがした遺言は、親が代わりに作成しても無効です。15歳以上であれば、未成年であっても親の同意なく遺言書を作成できます。
ただし、15歳以上であっても、認知症などで遺言能力がないとされる可能性があります。認知症には様々な状態があるため、遺言能力が認められるかはケースバイケースです。
遺言能力の判断にあたっては、以下の要素を考慮します。
●遺言当時の症状(認知症の有無・程度など)
●遺言内容の複雑さ(例えば「すべて妻に相続させる」など簡単な内容であれば、理解している可能性が高まる)
●経緯に不自然・不合理な点がないか

認知症でした遺言の効力について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
認知症で遺言書を作ると無効?有効に作成するポイントを弁護士が解説

遺言能力の有無は、自筆証書遺言はもちろん、公正証書遺言であっても問題になる可能性があります。公正証書遺言においては、公証人が遺言者の状態を確認するものの、医師と違い遺言能力を確実に判断できるとは限らないためです。

勝手に開封しても無効にはならない

自筆証書遺言を発見した場合、遺言書の状態を保存するために裁判所での検認手続きが必要です。勝手に開封すると「5万円以下の過料」というペナルティが与えられる可能性があります(民法1005条参照)。
もっとも、検認の有無と遺言書の効力とは無関係です。勝手に開封したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。反対に、検認を経たからといって有効性は証明されません。

検認手続きについて詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
遺言書の検認とは?手続きの流れと検認しない法的リスクを解説

遺言書の無効を争う方法


遺言書が無効と考えられるケースであっても、他の相続人との話し合いがまとまらなければ、無効を前提として相続手続きを進めるのは困難です。相続人同士で話し合いがうまくいかない場合を想定して、裁判所で遺言書の無効を争う方法を知っておく必要があります。

調停

まずは、家庭裁判所における調停を利用して遺言書の無効を主張する方法があります。
調停とは、簡単にいえば裁判所における話し合いです。2名の調停委員が間に入って話し合いをするため、相続人だけの場合に比べて冷静な話し合いが可能です。
もっとも、あくまで話し合いであるため、全員が合意できなければ結論は出せません。

訴訟

調停で話がつかない場合には、遺言無効確認訴訟を提起します。提起先は家庭裁判所ではなく、「相手方の住所地」あるいは「故人が死亡したときの住所地」を管轄する地方裁判所(または簡易裁判所)です。
法律上の原則としては、訴訟よりも先に調停をすることとされています。しかし、争いが激しく調停での解決が見込めない場合には、いきなり訴訟を提起することも可能です。
調停とは異なり、訴訟では裁判官が遺言が無効か否かの結論を出します。結論に納得がいかない当事者は、控訴して上のレベルの裁判所に判断を求めることもできます。争いがもつれて、年単位の時間を要するケースも珍しくありません。
訴訟で裁判官に遺言書を無効と認めてもらうには、証拠が重要です。無効となる理由に応じて、筆跡を示す書類、認知症の程度がわかる記録などを提出してください。
遺言無効確認訴訟を提起できる期間に定めはありません。ただし、証拠がなくなるおそれや、後述する遺留分侵害額請求の時効期間が経過するリスクを考慮すると、できるだけ早めに提起するべきです。

遺言書が無効となった場合の遺産分割の流れ


裁判所を利用して「遺言書は無効」との結論を得たとしても、すぐに遺産を得られるわけではありません。
遺言書が無効となった後の遺産分割の流れを解説します。

遺産分割協議

遺言書の無効が確定しても、具体的な遺産の分け方は決定していません。したがって、遺言書がないものとして、改めて相続人の間で遺産分割協議が必要です。
原則としては法定相続分通りに分けますが、介護をしていた相続人が寄与分を主張するなどして、取り分の変更を求める可能性もあります。全員が納得できれば、法定相続分と異なる分配にしても構いません。
合意できた場合には、遺産分割協議書を作成してください。遺産分割協議書の内容をもとに、実際に不動産登記の変更や預貯金の解約などを進めます。

調停

遺言書の有効性をめぐって対立が生じた後なので、相続人だけで話し合いをするのは難しいかもしれません。協議でまとまらなければ、一般的には遺産分割のための調停を家庭裁判所に申立てます。
調停の場で全員が納得すれば、合意内容が調停調書にまとめられ、判決と同様の強制力を持ちます。

審判

調停で合意できなければ、審判により最終的な判断がくだされます。審判では、裁判所が遺産分割の方法を決めます。納得できない場合には、不服申し立ても可能です。

遺言書が有効な場合はどうなる?


では、もともと遺言書に無効となりそうな事情がなかったり、裁判所により有効だと判断されたりした場合はどうなるのでしょうか?
遺言書が有効なケースの対応を解説します。

遺言書通りに遺産を分ける

遺言書が有効である場合には、基本的に遺言書通りに遺産を分けます。自分以外の人が遺産を獲得する内容であっても、故人の意思に従わざるを得ません。
有効な遺言書があっても、合意できれば別の分け方をすることは可能です。もっとも、争いがあった後にもかかわらず他の相続人が妥協してくれる可能性は高くないでしょう。

遺留分侵害額請求をする

遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害するものだった場合には、遺留分侵害額請求が可能です。
遺留分とは、最低限保障される遺産の取り分です。兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。たとえば「妻にすべての財産を相続させる」という内容の遺言があっても、遺留分権利者である子は遺留分侵害額請求をして、一定の金銭を受け取れます。
遺留分侵害額請求をする場合に注意して欲しいのが、時効期間です。
遺留分侵害額請求権は
●相続の開始(死亡)
●遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと
の両方を知った時から1年間行使しないと時効にかかり、権利が消滅します。
期間が非常に短いため、遺言書の無効を争っているうちに、遺留分侵害額請求権が時効にかかるおそれがあります。
そのため、遺言書が無効だと考えていても、有効と判断されるケースを想定して動かなければなりません。内容証明郵便で意思表示をする、遺言無効確認訴訟において予備的に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくなどの対策を検討してください。

遺留分について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説

遺言書が無効だと思われる場合は弁護士に相談を


ここまで、遺言書が無効になるケース、争い方、遺産の分け方などを解説してきました。
特に自筆証書遺言の場合、形式違反や偽造などで無効とされる可能性があります。無効になりそうな場合には裁判所での争いも想定されるため、証拠の準備なども必要です。加えて、無効かどうかの結論が出ても相続手続きは終わりではなく、争いの長期化も覚悟しておかなければなりません。
遺言書の無効を疑っている方は、ぜひ弁護士までご相談ください。
弁護士は、有効性に関する見通しをつけ、必要に応じて証拠の収集をサポートします。裁判所での争いになっても手続きはお任せください。
「遺言の内容がおかしい」「他の人が偽造した遺言書かもしれない」などとお考えの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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