故人を献身的に介護していた方は、相続人でなくても「特別縁故者」として遺産を受け取れるケースがあります。
介護をされていた方以外にも、内縁の配偶者など関係が深ければ特別縁故者に該当します。
もっとも、自動的に遺産を受け取れるわけではなく、特別縁故者の要件を確認したうえで、ご自身で裁判所に申立て手続きをしなければなりません。
この記事では、
●特別縁故者と認められるための要件
●特別縁故者が遺産を受け取る手続きの流れ
●介護で特別縁故者と認められるには?
といった点について解説しています。
「介護をしていたが相続人ではないから遺産を受け取れない」などとお悩みの方にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
「特別縁故者」という言葉は、一般的に馴染みが薄いでしょう。
特別縁故者とは、簡単にいえば「故人と特別な関係があった人」のことです。
故人に相続人がいない場合、残った財産は原則として国庫に帰属します(民法959条)。しかし、故人に関係の深い人がいるのであれば、その人が遺産を受け取った方が国のものにするよりも好ましいでしょう。
そこで、特別縁故者と認められる人は遺産を受け取れると法律で定められています(民法958条の3)。
たとえば、以下の方が特別縁故者に該当する可能性があります。
●献身的に介護していた方
●内縁の配偶者
●相続人ではないが関係の深い親族(いとこなど)
相続人でなくても故人と深い関係があった方は、特別縁故者の制度を利用して遺産を引き継げないか検討してみるとよいでしょう。
特別縁故者と認められるための要件は、民法958条の3第1項に定められています。
民法958条の3第1項
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
以下で、条文に規定されている特別縁故者の要件について解説します。
条文にいう「前条の場合」とは、相続人がいなかったことを意味します。
法律上、相続人になれるのは以下の人に限られます。
●配偶者(夫や妻)
●子(既に死亡していれば孫、孫も死亡していればひ孫)
●直系尊属(両親。既に死亡していれば祖父母、祖父母も死亡していれば曾祖父母)
●兄弟姉妹(死亡していれば甥・姪)
これらの人が存在しないことが、特別縁故者が遺産を引き継ぐ前提です。相続人がそもそも存在しなかった場合に加えて、相続人全員が相続放棄をしたケースも含まれます。
相続人がいないことを前提にした場合、条文上、特別縁故者と認められるのは以下の要件のいずれかを満たしたケースです。
故人と同居するなどして同一の生計であったのであれば、特別縁故者に該当します。単身赴任で生活費を送金していたなどの事情が認められれば、同居していなくても構いません。
故人の内縁の配偶者、事実上の養子などであれば、生計を同じくしていたとして特別縁故者だと認められます。
故人の療養看護に努めていれば、特別縁故者にあたります。義理の両親やいとこを献身的に介護していたケースが典型例です。
必ずしも親族である必要はないですが、介護ヘルパー・看護師・家政婦が報酬を受け取って身の回りの世話をしていた場合には、原則として特別縁故者とは認められません。
上記2つの要件にあてはまらなくても、故人と特別な関係があったといえれば特別縁故者と認められる可能性があります。
「死んだら財産を譲る」と言われていたケースや、師匠と弟子で親子同然の関係があったケースなどが想定されます。
関係が深い親族でも認められる可能性がありますが、ときどき電話やお見舞いをする程度で一般的な親族としての交際関係にとどまるのであれば、特別縁故者には該当しません。死後に葬儀を執り行っていても、生前に深い関係がなければ特別縁故者にはあたらないと考えられます。
特別縁故者に該当するとしても、自動的に遺産を受け取れるわけではありません。裁判所での手続きが必要になります。
特別縁故者が遺産を受け取るまでの流れは以下の通りです。
まずは「相続財産管理人」の選任を申立てなければなりません。
相続財産管理人とは、相続人がいない遺産について管理・清算をする人です。通常は弁護士などの専門家が選任されます。
法律上、特別縁故者が財産を受け取る前提として、相続財産管理人の存在が必要になります。特別縁故者は相続財産管理人の選任を請求できる「利害関係人」(民法952条1項)に該当するため、申立てが可能です。家庭裁判所に申立書と必要な添付書類を提出してください。100万円程度の予納金の用意が必要なケースもあるため、事前に裁判所に確認しましょう。
相続財産管理人の概要や選任手続きについては、以下の記事もあわせてご参照ください。
相続財産管理人とは?選任すべきケースや手続きを弁護士が解説
相続財産管理人は、故人に対して権利を有する債権者や、遺言により財産を受け取れる受遺者がいないかを確認します。判明した債権者や受遺者に対しては、遺産の中から支払いを行います。
債権者・受遺者への支払いで遺産がなくなってしまった場合には、特別縁故者は財産を受け取れません。
債権者や受遺者に請求させた後に、相続人がいれば名乗り出るように公告がなされます。判明していない相続人がいないかを確認するための手続きです。
公告の期間を満了しても相続人が名乗り出なければ、相続人がいないことが確定します。
相続人がいないと確定すると、特別縁故者が自らへの財産分与を請求できます。
申立て先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄は裁判所のサイトからご確認ください。
たとえば、亡くなった方が東京23区に住んでいた場合には、東京家庭裁判所(本庁)が管轄になります。
申立てに必要な書類は以下の通りです。
●申立書(書式・記載例は裁判所のサイトに掲載されています。)
●申立人の住民票または戸籍附票
これらは最低限のものであり、事情に応じて追加で書類が必要な可能性があります。特別縁故者にあたることを示すには、証拠となる資料の提出をするべきです。
申立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙800円分
●連絡用の郵便切手(種類・枚数は裁判所により異なる。東京家庭裁判所の場合、500円4枚、84円8枚、10円10枚、1円20枚の計2792円分)
申立ては、相続人を探す公告の期間が終了してから3ヶ月以内にしなければなりません(民法958条の3第2項)。
期限を過ぎると遺産を受け取れなくなってしまいます。必ず期限内に請求してください。
裁判所は、提出された申立書や資料をもとに、特別縁故者に該当するかを判断します。
この判断に当たっては、被相続人と特別縁故者との縁故関係の厚薄、度合、特別縁故者の年齢、職業等や、相続財産の種類、数額、状況、所在等一切の事情を考慮して決めるべきとされています。
該当すると認められれば、残った財産を受け取ることが可能です。財産の全部ではなく、一部のみ与えると判断されるケースもあります。
特別遺言者と認められなかった場合には、残った財産は国のものになります。
特別縁故者が遺産を受け取った場合にも、相続税の課税対象となります。3000万円の基礎控除を上回る財産を受け取れば、相続税を支払わなくてはなりません。
相続税の金額は、通常の金額から2割加算されます。また、特別縁故者には適用されない控除もあり、通常の相続に比べて不利に扱われています。
献身的に介護をしていた方が故人の特別縁故者と認められるためには、特別な関係があった事実を示す証拠を裁判所に提出しなければなりません。
証拠としては、たとえば以下が挙げられます。
●医療費・介護費の領収書
●介護のために使った交通費の領収書
●介護の記録を記した日記
●(同居していた場合)住民票
●故人が残していたメモ(「財産を譲る」など)
●故人とやりとりした手紙・メールなど
多くのものが合わさると説得力が増すため、可能な範囲で集めるようにしてください。
相続人でない人が献身的に介護した場合、特別縁故者以外にも遺産を受け取る方法はあります。
口約束で「財産を譲る」と言われた場合、生前に遺言書を書いてもらうのは有力な方法です。遺言書があれば、基本的に内容通りに相続ができます。
「自筆証書遺言」でも可能ですが、形式違反などで無効になってしまうリスクがあります。公証役場で「公正証書遺言」を作成すると確実です。
遺言の種類については以下を参照してください。
遺言の種類とメリットデメリット
生前に贈与を受ける方法もあります。生きているうちに財産を受け取れるため、確実な方法のひとつです。
もっとも、場合によっては高額な贈与税がかかる可能性がある点には注意してください。
内縁の配偶者や事実上の養子である場合には、生前に婚姻や養子縁組をすることにより、正式に相続人になる方法もあります。他に相続人がいない場合には、すべての遺産を相続することが可能です。
もっとも、様々な事情で正式な婚姻が難しかったり、他の相続人がいて面倒な事態になったりするケースもあるでしょう。その場合、遺言など他の選択肢をお選びください。
上記の3つの方法には、生前の準備が必要です。準備する前に亡くなってしまい、かつ他の相続人がいる場合には「特別寄与料」を請求する方法もあります。
特別寄与料とは、故人に無償で療養看護などをして遺産の維持・増加に特別の貢献をした場合に、相続人に対して請求できる金銭です(民法1050条)。無償の介護により遺産の減少を防げば、認められる可能性があります。
特別寄与料を請求できるのは「相続人以外の親族」に限られます。法律上「親族」にあたるのは「6親等内の血族」と「3親等内の姻族」です(民法725条)。一般的に親族と言われる多くの人が含まれ、いとこや義理の両親を介護した場合も該当します。
もっとも、親族でない人は、いくら介護で貢献をしていても特別寄与料は請求できません。相続人がいれば特別縁故者にもなれないため、残念ながら死後に財産を受け取るのは難しくなってしまいます。
ここまで、特別縁故者を中心に、故人を献身的に介護をされた方が遺産を受け取る方法について解説してきました。
相続人がいない方に介護をしていた場合、特別縁故者に該当して遺産を引き継げる可能性があります。しかし、証拠を用意したうえで裁判所に申立てをしなければならず、時間や手間がかかってしまいます。遺言などの対策を生前にとれなかったケースでは、簡単には相続を受けられないのが実情です。
ご自身が特別縁故者に該当するのではないかと考えておられる方は、弁護士にご相談ください。特別縁故者にあたるかの判断はもちろん、必要な証拠の収集や請求手続きをサポートいたします。
「相続人ではないが介護をした貢献を認めてもらいたい」などとお考えの方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。